魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 レオとリアが魔核と食料を獲るため狩りを開始して早くも一週間が経つ。

 リアが作成した罠に罹った野ウサギが、矢に射抜かれ絶命している姿にレオから感嘆の息が漏れる。

 

「上手くいったか。……これで動物を追い掛けまわす必要も無くなるな」

 

 蔓を弦の様に編み込み、集めた木材と合わせて作製した弓矢は問題なく使えた。

 仕掛けた罠も問題無く作動するのだから幾ばくか楽ではある。それでも魔法一つで得られる結果の方が大きい事には変わりない。

 思い返せば、狩り初日は酷い物だった。動物に逃げられ、おちょくられ蹴り飛ばされるなど散々だった。

 

「レオはウサギに顎を蹴り上げられてたわね……魔王なのに……ふっふふふ……!」

 

「……貴様もヤギに押し倒され、身体中舐めまわされただろうに」

 

 堪え切れず笑うリアに、仮面越しからジト目を向ける。

 

「……あれは忘れてよ」

 

 ヤギに押し倒され身体中を舐めまわされた事は、彼女にとって恥ずかしい事のようだ。

 そのまま羞恥心の一つでも育んで欲しい。

 そんな考えを敵である勇者に抱くのは間違いだと理解しながらも、好敵手だからこそその辺りはしっかりしていて欲しい。

 野ウサギに駆け寄るリアに、そんな心情を浮かべては、仮面の中で苦笑が漏れる。

 この島には誰かが連れ込んだらしい動物が多数生息している。

 おかげで食料と魔核がある程度確保出来たのは、幸先が良いと言えるだろう。

 しかし魔物の魔核と違って、動物の魔核に宿る魔力は少量で現在有る二十個の魔核では初級魔法一回分しか回復しない。 

 

「一週間でこのペースか……転移魔法を扱える程の魔力には到底足りんな」

 

「魔法について詳しくは無いけど、そもそも転移魔法って動物の魔核何個分なのよ」

 

 リアは仕留めた野ウサギを片手に、あと幾つ必要なのか尋ねた。

 

「……むう」

 

 レオは言い辛そうに唸り声を上げ、

 

「その辺りは正直に話して貰わないと私も協力しようがないわよ?」

 

 答えに渋る彼に釘を刺す。

 リアの言うことは最もである。

 先の見えない方法に協力は出来ない、ならば他の道を詮索する方が有意義だと。

 ここは正直に話さなければならない。

 

「動物の魔核はあと二千万個となる」

 

「に、二千万!? そもそもこの島にはそんなに動物は居ないわよ!!」

 

 海で獲れる魚を含めても、到底二人では集め切れない数だ。

 しかし何も考え無しに動物の魔核を集めを提案した訳でない。

 

 レオは懐にしまったある物に触れながら、次の予定を話すことにした。

 

「現在手元に有る魔核で初級魔法一発分、吸収魔法ドレインが使用可能だ。後は魔物から魔力を吸収すればいい」

 

「魔物から……確かにその方が現実味が有るわ。でも魔物ってゴブリン以外に生息してたかな」

 

「ゴブリンの他に、夜行性の魔物や山岳地帯にベアバック……現在休眠中の魔物が一体生息しているらしい。……コレはログハウスの空き部屋に放置されていた物でな、読んでみるといい」

 

 そう言ってレオは、古びた手記をリアに手渡した。

 

「これは……?」

 

 古びた手記のページをめくり、そこには汚い文字で書き綴られていた。 

 

『七月八日、夏の島は日差しが強く茹だるような暑さだ。これにはゴブリンも気が滅入ったのか、巣穴から出て来る様子を見せない』

 

『七月九日、お頭が妙な魔物? を連れて来た。どうやら最近大陸で騒ぎになっている魔族という種族らしい。それにしても鳥の様な風貌はどこか食力を唆る』 

 

『七月十日、魔族は魔界に住むペンギン族だそうだ。なんでも魔王に川の水質調査の任を与えられ、運悪く足を滑らせ激流に流されたらしい。……魔族も随分間抜けなのかもしれないな』

 

「七月十ニ日、昨晩から断続的に地震が起こり、森が火災に見舞われオレ達は消化作業に追われた。なぜ地震が起こったのか? 突然火災が起きたのか。自然というヤツは気紛れだ』

 

『七月十七日……有り得ない魔物が目覚めた。ソイツは、全てを飲み込んでしまいそうな程に巨大で、海の底から這い出る様に現れやがった。巨大ってだけでも驚愕だってのに山を背負う姿は、言葉を尽くせないものだった。……幸いお頭の勇敢な指揮のおかげでどうにか撃退できたが、船の大砲が無かったらと思うと……ゾッとする……』

 

 リアは読み進める手を止め、レオに顔を向ける。

 

「あなたの部下が漂流してるんですけど」

 

「……五十年前に行方不明になったペンギン族がまさかこの島に居たとはな。捜索命令を出したにも拘らず発見できなかったが、生きているのならそれでいい。……いや、その事よりも魔物に付いてだ」

 

「……大砲って城壁とか砦の攻城用だったり防衛用の兵器よね? それを駆使して撃退ってさ、災害級の魔物なのかしら」

 

「災害級ならば大砲だけで撃退できるとは思えんよ。アレはまさに天災そのものだ、時に自然環境を変貌させ、時に世界の崩壊を招く恐ろしい魔物だからな」

 

「そっか。私のご先祖様が討伐した災害級の竜も海と大地を蒸発させたって言い伝えられてたわね。……災害級ならこの島はとっくに跡形も無く消えてるかな」

 

 こうしてわざわざレオが手記を見せた理由。

 それはこの手記に記された魔物から【ドレイン】で魔力を奪う算段のようだ。

 上手くいく保証は無い、他の魔物から魔力を奪った方が建設的な話ではある。

 しかし巨体であるが故に秘めている魔力量は凄まじいことは明らか。

 休眠中の魔物ではあるが、目覚める前に魔核を蓄え万全の準備で挑む。

 リアはレオの考えをある程度理解した上で、

 

「……それじゃあ次の狙いはこの魔物ってことね」

 

 明るい声で提案を受け入れた。

 

「察しが早くて助かる。……まあ無理そうだったら地道に魔核を集めイカダで脱出を試みるがな」

 

 レオが仮面の下で不適に笑った、その時だった──突然地鳴りが響き、あっという間に大地が激しく振動したのは。

 


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