魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 市街地解放作戦が決行される中、アークは市街地外周の空を走る。

 

「あ、あれは……!? 連中が動き出したぞぉぉ!!」

 

 それを目撃したルシファー勢力が声高らかに叫ぶと、市街地に潜んでいた天使兵が一斉に空へと飛翔する。

 車内の窓から様子を見ていたレオは息を吐く。

 

「まさかたかが列車一つに警戒も無く、接近戦を試みるつもりか?」

 

 幾ら天使兵と言えども、空を走るアークには追い付けないだろう。移動速度がそもそも違い過ぎる。

 

「ええっと……敵兵力は市街地を離れ、アークの背後に着いたッスけど……どんどん引き離されてるッスね」

 

 市街地に部隊を降ろし挟撃する作戦だったが、これでは逆に神殿の天使兵と挟み込まれるだろう。

 そして気掛かりなのが、あの中に大天使の姿が無かったこと。つまり市街地内か、神殿内には確実に居ることになる。

 

「しかしまあ、アークは速いねぇ。これだと南市街地を通り越すんじゃないの?」

「あっ、途中下車はこの紙の転移魔法を使うッス。途中で停車させたら不自然だからね」

 

 紙を取り出し、呟いたサドリナは頬を引き攣らせながら紙を受け取る。

 まだ風を切る音を奏でながら走るアークから飛び降りないだけマシ。ザドリナ達はそう心に言い聞かせていた。

 

「そろそろ南市街地に差し掛かる。……準備は良いな?」

 

 ヴァルナの言葉にザドリナ隊とブリア隊は頷き、紙に記された転移魔法で出陣して行く。

 そしてアークは走り続ける中、東市街へと向かう。そこでまたグース隊とファルキン隊が転移魔法で出陣して行く。

 

 

 中央市街地に停車したアークにナナ達を残し、レオ達は降り立つ。

 此処も廃墟と化した様子に、移動しながらリアは呟く。

 

「復興も大変そうね。……ルシファー勢力に組みした天使はどうなるの?」

 

 復興作業には労働者が必要となる。決して少なくない天使がルシファー派に回っている以上は、全員を処断はできないだろう。

 

「……全て女神様の御心次第。天使の半数が消える事態になろうとも、魔法一つで都市は再建できるからな。だが、失った生命は──」

 

 ヴァルナは"戻らない"と言いかけた言葉を呑み込んだ。それも自然の摂理だ、死亡した者が蘇る事は決して有り得ない。それは神々も同じことだ、でなければ神は一柱を遺して滅びたりはしない。

 と、廃墟を駆け抜ける中、ルシファー勢力の旗を基点に設けられた駐屯地を見付ける。

 意外とあっさり見つかった駐屯地にレオは落胆気味に肩を竦めた。

 

「中央をしばらく走らさせると思っていたが……案外近くに有ったな」

「みんなアークに釣られたんッスかね? 全然姿が見えない」

 

 此処に至るまで天使兵の姿が一人も見掛ける事は無かった。市街地にはルシファー勢力が集結しつつあるという話だった。

 まさか、セリナの言う通りアークに全部隊が釣られた。とは到底考えられない。

 すると、この場に居る全員を安心させるかのように、駐屯地のテント内から天使兵が続々と姿を現した。

 

「何でだろう? 敵が居なくて安心するべきなのに、敵が居て安心するのは何でだろう?」

「俺達は人知れずに敵の罠に嵌った可能性が低くなるからじゃないか」

 

 隊列を作り、レオ達に向けて武器を構える勇ましい天使兵。そしてその先頭に大柄の大天使がにやりと口元を吊り上げ嗤う。

 

「バラキエル……っ」

 

 苦虫を噛み潰した表情でセリナが囁く中、バラキエルは大槍を構え、

 

「さあ! 楽しい時間だ! 全員狂気に躍り狂えぇぇぇ!!」

 

 雄叫びを轟かせ天使兵が一斉に駆け出す。

 レオ達は迎え撃つべく武器を構える中、市街地の至る所で爆音が鳴り響いた──

 

 バラキエルの大槍を魔剣で受け止めながら、左掌を天使兵に向け、

 

「『フレア』」

 

 天使兵の足下に亀裂が走り、蒼炎の爆発が天使兵を呑み込んだ。

 バラキエルはその様子に愉しげな笑みを浮かべ、大槍を強引に薙ぎ払う。

 レオは力強い薙を魔剣フェルグランドで斬り返し、大槍の先端を大きく弾き返した。

 そのまま攻勢を緩めず、彼の腹部に鋭い刺突を繰り出す。鈍い音が周囲に響き渡る。

 

「おっと……危ねぇなっ!」

 

 腹部に展開された防護壁に魔剣の刃が阻まれる。だが、レオは口角を吊り上げ、

 

「甘い」

 

 魔剣の剣先から闇の波動を放つ。防護壁ごと身体が大きく弾き飛ばされたバラキエルは、宙で体勢を整えたのも束の間。

 既にレオがバラキエルの目の前に現れ、掌に闇の炎が集っていた。

 

「チッぃぃ! 流石に速えし強い……っ!」

 

 闇の炎が解き放たれる刹那の一瞬、バラキエルは無言詠唱からの高速転移魔法を駆使し、闇の炎から逃れる。

 闇の炎は地上に降り注ぎ、駐屯施設を呑み込んで行った。

 

「……レオって優しい魔王って聴いたけど……全然優しく無いッスよ!?」

「うーん、敵には慈悲も無しかなぁ」

 

 天使兵を迎え討ちながら、そんな事を話すリアとセリナにレオはため息を吐く。

 緊張感の無い戦場だ。そう思った瞬間、背後の空間から現れたバラキエルに、彼は鋭い笑みを浮かべた。

 背後から迫る突きを、振り向き様に魔剣の刃で受け流す。金属音を鳴らしながら弾かれる槍、だがバラキエルはそのまま勢いで大槍を強引に引き戻し、魔力を込めながらまた鋭い突きを放つ。

 レオは魔剣に闇を宿しながら、鋭い一閃を放った。

 バラキエルの縦に走った斬撃に彼は戦慄を浮かべる。

 

(一瞬で切り裂かれた、だと!?)

 

 大槍は砕け散り、真っ二つに切り裂かれたバラキエルが地面に落ちて行く。

 その様子を見ていた天使兵が、次々にと武器を落としていく。

 恐怖だ。この場に居るルシファー勢力の天使兵に有るのは恐怖一色だけ。あの戦闘狂で知られる大天使バラキエルが成す術もなく討ち取られた。

 そう理解した天使兵達は、震えから歯を鳴らしながら、

 

「こ、降伏する……! た、たのむ! 殺さないでください……っ!」

 

 レオに向けて命乞いした。

 

「……だそうだセリナよ。お前達は戦意を失ったこの者達を殺せるか?」

 

 レオの静かな問い掛けにセリナは首を横に振った。

 

「……拘束して()()に放り込むッス。後の事は女神様とミカエル様の判断に任せるッスよ」

 

 その言葉にセリナ隊は敵兵力を一カ所に集め、拘束した後、鳥籠と呼ばれる牢を召喚して彼等を閉じ込めるのだった。

 鳥籠は【メトロ】の無人地帯に転送され、レオ達はそのままの足で北市街地へと転戦することに──

 

 


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