翌朝にアークは浮上し神殿へと走り出す。
まだ神殿内部には多数の敵兵力が居ると予想されている。そのためアークで神殿へと向かい、一気に内部に突入するという作戦だ。
今回は市街地解放作戦とは違って、大天使ミカエルが直接指揮を執る。
「女神様の解放で……やっと内戦が終わるっ!」
「市街地の復興だとかやる事は多いけどよ……ここが正念場か……っ!」
気合い充分に拳を握る天使。アザゼルを倒し女神の解放。そして天竜の解放阻止で漸く終わる天界の内戦。たからこそ気合が入るのだろう。
ザガーンは神殿の方向から魔力の流れを感じ取り、外に視線を移し神殿に鋭い眼差しを向ける。まだ距離はあるものの、神殿の周辺の地面から姿を見せる砲台が映り込む。
砲身が照準をアークに合わせる中。
「如何やら神殿には迎撃装備が有る様子」
竜の視力を持って得た情報を呟くと、ミカエルが微笑む。
「ええ、魔物が時折り侵入しますからね。そのための迎撃設備ですわ」
このままではアークは砲門による集中砲火を浴びることになるだろう。
だが、アークの強度は先日の戦闘で保証済みだ。自分達邪竜族が竜化し、全力を振るっても傷一つ付かない程に頑丈だった。
「ただ……衝撃によって激しく揺れるでしょうね」
ミカエルがそう口にした時だった。
全砲門の砲身から圧縮された魔砲が一斉掃射が開始されたのは。
神殿から放たれた無数とも思える魔砲の集中砲火が、アークを迎撃し始めたのだ。加えてまだ僅かに距離が有る中、正確に標的を狙い撃つ精度と弾速にザガーンとレオを唸らせた。
(天界の魔法技術はここまでとは……!)
窓一面に広がる魔砲。アークが無ければ近付くことすらままならない防衛網だ。加えて神殿周辺に転移封印領域まで展開されている始末。
「ふむ、この為のアークだったか」
魔砲の直撃を受け車体が激しく揺れる中、彼は冷静に呟いた。流石は魔王レオだ、とザガーンは感心を寄せながら今にも倒れそうなナナを支える。
レオはアークの堅牢さに舌を巻き、その隣でリアが魔砲に息を呑む。
「アークが無かったら陸路であの集中砲火を……? ちょっと無理ね」
魔砲集中砲火を受けながら、アークはそのままの勢いで、
「ちょっ!? ぶ、ブレーキ! ブレーキ!! このままじゃ衝突するッス……っ!!」
神殿との距離が近付く中、衝突を察したセリナが叫ぶ。
「何言ってるのよ……衝突させるに決まってるじゃない!」
ミカエルの言葉にザガーン達は度肝を抜き、冷や汗が頬を伝う。
だが、幾ら覚悟を決めようともアークは止まらない。それどころか速度を上げ、魔砲の集中砲火を突っ切り神殿へと──
耳をつん裂く激しい轟音、全身を絶え間なく揺らす衝撃。
悲鳴をあげる暇も無く、訪れた衝撃に誰もしもが備えられず、アークの床に倒れ伏していた。
その様子を窓から覗き込む天使兵とザガーンは目が合う。
「お、おい! 中の天使が全滅してるぞ……!」
「……物凄い衝撃だったものね。でも! これで我々は戦わずにして勝利したってことよ! ざまぁみなさい!」
外で湧き上がる歓声に、魔王レオと勇者リアがふらりと立ち上がる。
ザガーンとナナも立ち上がり、それに続くように邪竜隊と天使達も立ち上がった。
「……っ!? い、生きてる! 連中は生きてた……っ!!」
異常な速度と衝突による衝撃は、どう考えても死ぬレベルだった。
だが、それでも無傷なのはアークの材質が物理衝撃を外へと逃した影響が大きい。特に御老人が乗車している中での突撃の実行は、アークへの信頼度の高さが起因しているのだろう。
驚愕し怯える天使兵を他所にザガーンは、そんな事を考えながら拳を握る。
「さあ! ルシファー派を蹴散らしこの内戦に終止符を!」
ミカエルの号令にレオ達は一斉に出撃する。
白い内装の神殿に響く金属音。ザガーンは拳を繰り出し天使兵の槍を砕き、そのまま勢いで顎に強い衝撃を与える。床に倒れ気を失う天使兵に目もくれず戦場を見渡す。
ルシファー勢力の拠点なだけあり、敵兵力の数も数千を超える規模だ。
レオとリアが雑兵に時間と魔力を消費させる訳にはいかない。
「邪竜隊! レオ様と勇者に道を作れ!」
自分の部隊に指示を投げると、彼らは一斉に掌に業火を創り出し、
「「「「「『バーン・フレイム』ッッ!!」」」」
敵戦力の防衛に業火の爆炎が飛ぶ。
だが、天使兵もタダでやれるほど柔ではない。
晴れる爆炎から現れた防壁に、ザガーンは歩術魔法技──【縮地】で一気に敵部隊の真ん中に移動し、
「竜の拳を受けよ!」
白い床に拳を叩き付ける。魔法技──【竜波衝】が衝撃を生じさせ天使兵を薙ぎ倒す。
穴の空いた防衛網を一気にレオとリアが駆け、
「ザガーンよ、そちらは任せたぞ」
「ナナのこと頼んだわよ!」
すれ違い様にそんな言葉を遺して行く。
二人はあっという間に戦域を抜け地下へと駆ける。魔力が全結した二人ならばもう何も心配は要らない。
二人を見送ったザガーンは戦場に眼を向ける。
女神派の天使が奮戦し徐々に戦線を押し返す様子に、思わず頬が緩む。
「ザガーンさん、一人で突っ込まないくださいよ」
隣から聴こえた声にザガーンは息を吐いた。いつ間にか隣に移動していたナナが側に居る。
「ああ、背中は任せる」
「はい! 怪我の治療も援護も任せてください!」
微笑むナナを背に、ザガーンは拳を構える。
この場を制圧し、女神の下へ向かうためにも。
ザガーンは拳を振り抜く。天使兵を殴る感触、鋼鉄を砕く感触が拳に伝わる。
「《我らに護りを》」
ナナが掌を向け、戦場に居る味方全員に支援魔法──【プロテクト】を一度に施す。
その直後、刃が弾かれた天使兵が、
「く、くそっ! 人間の支援魔法なんぞに防がれるとは……!」
「落ち着きなさい! 解除! 解除すれば良いの!」
罵声と共に飛び交う言葉に、セリナは旗を振るう。
「みんな! ここが気合の入れどころッス!!」
魔力を宿した声が戦場に拡がり、ザガーンは身体が身軽になる事を実感し拳を握り直す。
鼓舞により女神派の天使は、徐々に勢いを増して行く。
それでもこの場を突破するには突進力が足りない。
そこでザガーンは、先んじて天使を女神の下へ向かわせる事を優先した。
「ミカエルよ、邪竜隊がこの場を受け持つ!」
「感謝しますわ! さあ、天使達よ行きますわよ!」
ミカエルが放った光弾が敵兵力を薙ぎ倒し、穴の空いた敵陣にセリナ達が駆けて行く。
階段を駆け上がる彼女達を背に、ザガーン達は敵陣営の前に立ちはだかる。
「さあ! 後を追いたくば我々を倒して行くが良い!」
拳を叩き合わせ、空気が震撼する様子に恐れ慄く天使兵にザガーン達は前へと出る。
この場の制圧はそう時間は掛からないだろう──