魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 レオとリアは気が付くと、そこは神殿の外だった。

 辺りを見渡すとミカエルを始めとした天使、ザガーンとその部隊、そして神官ナナの姿がそこには有った。

 そして空に眼を見上げると一面に広がる雷雲と、神殿の上空に佇む天竜アルビオンの姿が映り込む。

 

「……目覚めたようじゃな」

 

 背後から聴き慣れない声に振り返ると、レオとリアはその人物を見上げた。

 

「……お前は……女神ウテナか?」

「えっ? 女神って巨人だったの?」

「これはその様に姿を取っているだけじゃよ。……アルビオンは解き放たれようじゃが、戦う意志は有るか?」

 

 女神ウテナは真っ直ぐだアルビオンを見据え、そんな事を問うた。

 アルビオンが解放されたならまた再封してやれば良い。レオは魔剣を握り締め立ち上がる。

 

「無論だ、解放の隙を招いた償いが俺には有る」

「当然私も戦うわよ! 責めてアルビオンを再封印してルシファーの出鼻を挫きたいもの!」

 

 そうでもしなければ天界の内戦に意味が無くなる。

 アルビオンを見上げると、背の天輪を輝かせ竜は女神を鋭い眼光で睨んだ。

 封印された明確な殺気とアルビオンの周辺を渦巻く魔力が向けられる。

 

「邪竜隊、至急竜化せよ」

 

 レオの指示にザガーンを始めとした邪竜族が、

 

「「「「《我が真の姿を顕現させよ》」」」」

 

 五十一名にも及ぶ邪竜族が一斉に竜へと変貌する。

 レオは近場の邪竜族の背に飛び乗り、

 

「リアとナナはザガーンの背に乗れ! 天使達よ、急ぎこの場を離れるぞ!」

 

 アルビオンに集う魔力が此処に居ては破滅を齎す。そう察したレオが鋭く指示を飛ばす中、リアとナナはザガーンの背に飛び乗った。

 雷雲を飛翔する邪竜の群れと天使の軍勢。しかしウテナはその場から動かない。

 アルビオンの狙いはウテナ並みに集中している。つまり彼女は自ら囮を選んだのだ。

 

「女神よ、吹き飛べぇぇぇぇ!!」

 

 アルビオンは大口を開け、膨大な魔力が閃光となりウテナへと放たれる。

 迫り来る閃光を、ウテナが神殿ごと呑み込まれていく様をレオ達は目の当たりにした。

 閃光が弾け、神殿が在った土地は灼熱に晒され溶解していく。やがて閃光が収まると、神殿は溶け大地は溶岩地帯へと変わり果てていた。

 神殿は無くなってしまったが女神は生きている。寧ろ閃光に呑まれる刹那の一瞬で彼女は逃れていた。

 

「女神は何処だ……隠れるつもりか? ならば貴様のかわいい子らを喰らい尽くしてやろう」

 

 殺気を振り撒き漸くこちらに視線を向けたアルビオンに、レオは口角を吊り上げた。

 

「丁度いい、これも魔狼スコルを討伐するための糧にさて貰おう」

 

 その言葉を合図に、ザガーンは口からアルビオンに灼熱の業火を放つ。それに続く様に邪竜隊が息吹を放った。

 アルビオンは迫り来る業火を前に、十二枚の翼を羽ばたかせ息吹を掻き消す。だが、ザガーンの放った灼熱の業火だけは消せず、アルビオンの翼に火傷を負わせた。

 

「小賢しい」

 

 アルビオンは上空に向けて光を放った。放たれた光が弾け、レオ達に向かって降り注ぐ。

 

「させませんよ! 『プロテクトフォース』ッッッ!!」

「皆んなを守るッス! 『ガーディアン』!」

 

 ナナとセリナが唱えた防御魔法が戦場全域を包み込む。

 降り注ぐ光と雷雲から落ちる雷を防ぐ。しかしアルビオンがザガーンに向けて飛び、前脚を振りかざした。

 

 アルビオンの前脚をザガーンは身体を大きく捻らせ、迫る前脚を避けた。

 レオは戦況を冷静に見つめ、アルビオンに掌を向ける。

 

「《闇の彼方より来たりし災害よ》」

 

 珍しくレオが詠唱を唱える姿に、邪竜隊は冷や汗を流す。

 雷雲よりも遥か上空から轟く音に、ミカエルは頬を引き攣らせる。

 

「れ、レオ? 貴方……まさか!?」

「《流星となり降り注げ》!!」

 

 雷雲を切り裂き、アルビオンの頭上に降り注ぐ隕石群にミカエルは悲鳴をあげた。

 

「誰が天界に『メテオ』を唱えて良いと言いましたか!?」

「天界の強度ならば『メテオ』の十発は耐えられるだろ」

 

 そもそも狙いはアルビオン一頭のみ。レオは再び魔力を解き放ち魔法の詠唱に入る。

 隕石群を前にしたアルビオンは、十二枚の翼を羽ばたかせ飛ぶ。軽やかな旋回と飛行を駆使して隕石群を避ける中、

 

「避けは悪手だ!」

 

 アルビオンの背中に転移魔法を展開させ、竜が避けた隕石群が転移によって現れる。

 

「ぐぬぉぉぉぉ!!?」

 

 背に絶え間なく直撃する隕石群の爆発と衝撃にアルビオンは悲鳴を上げた。

 そこに畳み掛ける様に、

 

「「「「『セイントアロー』」」」」」

 

 光の矢がアルビオンの翼を射る。

 貫かれた翼が崩れ始めるが、それでもアルビオンから飛行能力を奪うことは叶わない。

 

「みんな! 頑張るッス! 災害を乗り越えて明日を迎えるために!」

 

 魔力を乗せて旗を振り、味方全員を鼓舞するセリナにレオは改めて感心を寄せる。

 

「ふむ、やはりあの手合いはウチにも欲しいな」

「スカウトはダメですわよ?」

 

 釘を刺すミカエルにレオは舌打ちし、浮遊魔法を駆使しながら空を駆ける。

 狙うはアルビオンの首。魔剣フェルグランドに闇を纏わせ接近すると、邪竜族の背を足場に跳ぶリアの姿が視界に映り込む。

 無防備なアルビオンの首に、二人の全体重を乗せた魔剣と聖剣の刃が交差する。

 

「ぐぬわぁぁぁぁ!!」

 

 首を切り裂かれ悲鳴が轟く。それでもアルビオンは未だに倒れない──


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