ようこそCクラスの偽善者の居る教室へ   作:モーブラゼロ

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始まりました、新シリーズです!こちらはクオリティーを重視しながら不定期で投稿していきます!


入学編
プロローグ「桜舞う春麗なるある朝にて」


 

 

 

 

人は偽善者であるか否か。

 

 

 

 

 

今、現実社会では『偽善者は去れ』、又は『やらない善よりやる偽善』などと叫ばれている。男性が女性に少し優しくすると、下心があるに違いないと同性からも異性からも叫ばれ、『気遣いが出来る』という人間としての差を無くそうと躍起になっている。一方では、女性の雇用率をあげよう、専用車両を作ろう、ポスターが性的だ、時には名簿の順番にまでケチをつけ、フェミニズムから逸脱した過激なミソジニストに媚びる男性が居る。『障害者』という名称ですらも、本人らは必ずしも望んではいない場合もあるのにも関わらず、差別するべきではないとして勝手に『障がい者』と名称を改めるように一部の団体が世論へと働きかけ、結果的には強制される。アメリカの先住民族の名称が、本人達以外の声によって『インディアン』から『ネイティブアメリカン』に変わったのもその一例だろう。そしてそんな世の中で今の子供たちは、人は皆が平等であり善であると教え込まれる。

 

それは本当に正しいことなんだろうか。と、そんな風に私は疑問を抱いた。男と女は能力も違えば役割も違う。障がい者はどれだけ丁重に表現しようとも障がい者であることに変わりはないのだ。中途半端な偽善によって手を変え品を変え、そこから目を背けても何の意味もない。

 

 

 

 

 

つまり答えは応。人は偽善という偽善に塗り固められた存在であり、善しか無い人間など存在しない。

 

 

 

 

 

かつて、フィレンツェ共和国の外交官であり、ルネサンス期の代表的な思想家であったニッコロ=マキャヴェッリはこう言った。

 

 

 

 

 

『人間というのは、むらっ気なばかりでなく偽善者で、しかも欲得には目のない偽善者だ』

 

 

 

 

 

この言葉の通り、少なくとも2021年を迎えた現代においても、何一つ事実として変わっていない。もっとも、事態は男女の問題や人権問題から、より複雑かつ深刻化しているが。

 

私たち人間は考えることの出来る生き物だ。善など存在しないからと言って本能のまま、他人に構わず生きていくことが正しいことだとは思えない。つまり、偽善は紛れもない真実だが、本当の善という物もまた受け入れがたい事実であるということ。私は今、人類にとって永遠の課題に新たな答えを見出だそうとしていた。

 

 

 

 

 

『偽善者について知るためには、偽善者になる必要がある』

 

 

 

 

 

ロックバンド、『ビートルズ』で一世を風靡したイギリスのミュージシャン、ジョン=レノンはこう言葉を紡いだ。中学校3年生の時、ロックにハマっていた私はこの簡潔ながら優れた考えに共鳴した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから私は実践する。

偽善とは、偽善者とはなんなのか。

それを知る為に、

この取り外せない仮面を着け続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月。入学式に向かうバスに私は揺られていた。窓の外を見れば桜並木が立ち並んで、花びらが静かに散っている。バスの中を見渡せば、少しばかりのサラリーマンやOLと多くの新入生とみられる生徒たちで、ほぼ席は埋まっていた。家族に会いに来たのだろうか、老婆が席に座れずに時々転びそうになりながら立っていた。皆が気まずそうな空気を漂わせてはいるが、誰も席を譲る事は無かった。

 

今日は東京都高度育成高等学校の入学式、学校内外の施設で働く為に、普段の通勤で利用している社会人に加えて、この春から新しく入学する生徒がギュウギュウ詰めで乗っているのだ。新入生を迎える為にいつもに比べて増発されているとはいえ、この時間は混むらしいこの専用バス。きっと、東京港に着く前に更に人で溢れるのだろう。…早く学校に着いて欲しい。

 

 

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

 

 

まだ着かないのかと再びうとうとしていると、スーツに身を包んだOLの凛とした声が聞こえて来た。その女性に声をかけられたのは優先席に座っている一人の若者。体格の良い金髪の男だった。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

OLはもう一度そう言う。彼女の声はよく通り、乗客たちの視線が一斉に集まる。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

少年は無視するのかと私が思ったところで、不敵に笑いながら足を組みなおした。そして、彼の反論が始まる。

 

「何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

 

「君が座ってる席は優先席よ。お年寄りに席を譲るのは当然でしょう?」

 

「理解できないね。優先席はあくまで優先席であって法的な義務はどこにも存在しない。この席を譲るか否か。それは今現在この席を有している私が判断することなのだよ。若者だから席を譲る? 実にナンセンスな考え方だ」

 

そんな口論が続く中、私は分析する。まず、OLの女性。彼女の目には、自分への絶対の自信、苛立ち、少しばかりの心配が見える。そして時間が経つにつれて、『心配』という感情が段々と消え去っている。恐らく生意気な反論をされた事で自尊心を傷つけられ、老婆への心配という感情が抜けていっているのだろう。そう私は感じた。

 

次に、優先席に座る新入生。此方の目には自分への自信しか見えない。いくら目を凝らしてもそれしか見えてこなかった。まさかそれだけであれだけの反論を出来るとは、と私は彼を評価する。

 

「私は健全な若者だ。確かに立つことに何の不自由も感じない。しかし、座っているときよりも体力を消耗することは明らかだ。意味も無く無益なことをするつもりにはなれないねぇ。それとも、チップを恵んでくれるとでも言うのかな?」

 

「そ、それが目上の人に対する態度!?」

 

「目上? 君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。そこに疑問を挟む余地も無い。だが、目上とは立場が上の人間を指して用いる言葉だ。それに君にも問題がある。歳の差があるとしても生意気極まりない実にふてぶてしい態度ではないかな?」

 

「なっ……! あなたは高校生でしょう!? 大人の言うことを素直に聞きなさい!」

 

この瞬間、彼女から心配の感情と、一切の『善』が消えた。これ以上は『偽善』ですらない、ただの、自己満足だ。

 

その後も口論は続いたが、やがて老婆がもう大丈夫だと伝えた。

 

「どうやら君よりも老婆の方が物分りがいいようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものではないな。老婆よ、残りの余生を存分に謳歌するといい」

 

そう言って金髪の男は寛ぎ始めた。OLは必死に涙をこらえながらも老婆に対して小さく謝罪する。バスの車内の空気は最悪だ。立っている人は皆視線をそらし、席に座っている人も巻き込まれたくないといった様子で皆俯くか、窓の外を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

面倒くさいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

"僕"は席を立ち上がった。皆の視線が一気に此方を向く。僕は手で自分の席を指して言う。

 

「僕のココ、空いてますよ」

 

何人かが噴き出すのが見える。ブルブル震えている人も多い。…かなり古いネタの筈だったんだけどなぁ。

 

お礼を言ってきたおばあさんをエスコートしながら席に座らせると、僕はさっきまで涙ぐんでいたOLに近づく。さっきのネタで少し笑ったのか、笑みを浮かべているが、僕が近づくと顔を固まらせた。

 

「な、なに?」

 

「…お姉さん。よく頑張りましたね」

 

「…えっ?」

 

「だってそうでしょう? 貴女はおばあさんの為に勇気を振り絞って声を掛けた。周りのお客さんに威圧してしまった事とか、最後あたりに怒鳴ってしまった事は良くないけど、貴女の想いはちゃんと届きましたから。…ただ、次はこうやって大声をあげてはダメですよ…?」

 

「うん…うんっ…!」

 

OLの頭をゆっくりと撫でながらそう諭すと、彼女は身を委ねながら子供のように頷く。…このOL可愛いな。

ふと周りを見ると、先程まで口論をしていた女性が急に大人しくなった事に驚いている人や、ナチュラルに頭を撫でた事に対して歯軋りしている人などがいた。だけど、ほとんどは感心したり、または感動したりして僕の行動を支持しているみたいだ。

ちなみに先程の金髪の男は僕の方をじっくりと見ると、嘲笑うかのような顔を一瞬した後、音楽に再び浸り始めていた。

 

 

 

恐らくバレてはいないだろう。愚かな彼は、一枚の皮をめくっただけで満足したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それよりも、後方に座っている無表情な男の方が、

私は、何倍も興味をそそった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…出来れば此処に…入学式で携帯を貰ったら…れ、連絡して欲しいんだけど…」

 

穏やかな時間が過ぎ、バスが『東京都高度育成高等学校前』に到着したところ、先程のOLがメモ用紙を渡しながらそう話しかけてきた。僕はにこやかに、しかし恥ずかしがりながら答える。

 

「…はい、良いですよ!…お姉さんみたいな綺麗な人にそう言われると恥ずかしいんですけどね」

 

僕への好感度はMAXを超えたようだ。僕はわざと手が触れるようにメモ用紙を受け取ると、バスを降りながら笑顔で彼女と別れる。彼女はおどおどとしながらも僕を見送ってくれた。…どうやら学校内で勤務している人には別の停留所があるようだ。

 

 

 

 

 

こうして私は校門を目指し始めた。

 

 

 

 

 

「あ、ねぇ君!」

 

歩き出し始めたその時、誰かが声を掛けてきた。振り向くとそこにいたのは、OLと金髪の男が口論していた時、何かを呼びかけようとしていた少女だった。少女は僕が気づいたのをみると、嬉しそうにトテトテと歩み寄ってくる。

 

「何かな?……あ、さっき僕と一緒のバスに乗ってた…」

 

「うん、さっきは本当にありがとう!ギャグは面白かったし、お婆さんも喜んでたと思うよ!」

 

「本当はもっと早く譲ればよかったかなって思ってたりするんだけど…」

 

「ううん、気にしないで!えっと……」

 

少女はそこで言葉を切ると、困ったように笑みを浮かべる。僕はすぐにその理由に行き着いた。

 

「同じバスに乗ってたってことは同じ一年生だよね。僕の名前はーーーー」

 

「私は櫛田桔梗、よろしくねーー君っ!」

 

名前を聞くと、少女はこれまた嬉しそうに自身の名を名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽りの笑顔を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました!出来れば一週間毎には投稿したいですねー。
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