ようこそCクラスの偽善者の居る教室へ 作:モーブラゼロ
僕は櫛田と共に雑談をしながら校舎へと向かうことにした。クラス分けがどうなるかは分からないが、今のうちに交流を深めていく事は今後の学校生活において、必要だ。
「そういえばーー君ってすっごくイケメンじゃない?中学校とかすんごくモテたんじゃないかな?…もしかして王子様とか言われたりして!」
「そんな事無いよー。僕は昔は隠キャだったからあんまりモテなかったし、中三でイメチェンしてようやく少しモテたかな?って感じだよ。…それよりも櫛田さんの方が、よりモテたんじゃないかな?なんだか、クラス1の人気者って感じがするし」
「も〜ーー君、揶揄ってるでしょ!ぜったい!」
彼女のコミュニケーション能力は高く、話の引き出しに困らない。中学校でさぞかし人気者だったんじゃないかと考えてしまうのも仕方ないと思う。…しかし彼女の目を見つめていればそれは否だ。『中学校』や『人気者』というワードにだけ、偽りの顔が少しばかり解けかけている。その目に見えるのは、不安、憎悪、殺意、承認欲求、無垢…。殆どが暗黒で混沌な『負』の感情だ。"私"はその感情を詳細に記憶していく。
「あ、あそこにクラス表があるよ!見に行こっ!」
…まぁ仮に彼女がどれだけの闇を抱えていても、私は"僕"の偽善で一瞬にして覆い尽くす事が出来る。……何故か私は、この仮面を被った美少女との穏やかな時間をもう少し楽しみたいと、そう願った。
「あ、私Dクラスだ」
先に櫛田が自分の名前をDクラスの欄で発見する。
「あー僕はCクラスだね」
僕は残念そうにがっくりと肩を落としながらそう彼女に言う。
「えぇ〜!?凄く残念……」
櫛田もまた僕と同じようにがっくりと肩を落とした。…うん。可愛いな。外面は、凄く可愛い。隣でクラス表を確認している男子や女子が僕たちを見て、顔を赤くしている。
「むーなんか嫌な感じがしたんだけど…一体何を考えていたの…?」
「なんでもないよ!」
流石に意図して仮面を被っているだけあって、案外勘は鋭いようだ。悪感情には尚更。…まぁ、あの金髪の男と同じで皮の一枚目しかめくる事は出来ないだろうが。
櫛田とは携帯の配布後に連絡先を交換する事を約束し、Dクラスの前で別れた。僕に向かってぶんぶんっと手を振っていたのが印象的かな。
Cクラスに入ると、其処には中々個性的なメンツが揃っていた。私はその一人一人に一瞬だけ目を合わせて記憶し、分析する。その中で目に止まったのは6人。意外に見どころのある人間が多くて、私はこのクラスを早くも気に入った。…まぁ、見どころが必ずしもプラスとは限らないが。
私の名前が書かれたプレートの付いている席を探すと、思わず眼を疑った。それはバスで出会ったOLや、その後に話した櫛田を消し飛ばすくらいの衝撃だった。
見る人の目を引き付けて止まない美しい銀色の髪を持った、何処か眠たげな美少女が其処には居た。よく目を凝らせば、男子生徒の視線をほぼ全て集めている。彼女は6人のうちの一人。
そんな美少女の横に私?いや僕?の席はあった。
僕はそんな美少女の横に静かに座る。彼女は読書中らしく気付かなかったようだ。…座ってすぐに、嫉妬めいた視線を見なくても背中に何本も感じる。一方、どうやら美少女側にも視線を送っている人がいるみたいだ。流石に鬱陶しい為、そんな視線を僕は少しばかり『リーダー格っぽい風格』を出して吹き飛ばした。殆どの男子が視線を逸らす中、視界の隅で長髪の厳つい男子生徒がニヤついたのが気になった。先程記憶した6人の中に居たその生徒の目を私は分析する。興奮、蔑み、興奮、蔑み……こんな熱血タイプも初めてだ。この学校はどうやらまだまだ面白いものを見せてくれるらしい。私は少し微笑を浮かべると、読書の海へと沈んで行った…。
「皆さん、席に着いて下さい」
『そして誰もいなくなった』を読んでいると、眼鏡を掛けた真面目そうな男が教室に入ってきた。素早く目を合わせて記憶し、分析する。期待、興奮、緊張。それなりに優秀な教師なのか、そんな感情が渦巻いていても、神経質そうな雰囲気で教室の喧騒を収めた。
「…全員揃っているようですね。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。私はこのCクラスを担当することになりました、坂上数馬です。普段の授業では数学を担当しています」
坂上数馬。数学をする為に産まれてきたような名前だ。個人的にこのタイプの教師は、偽善者生活の中で支えになってくれると確信している。またこのような真面目な教師ながら、少しばかり狡猾さを滲ませるような人間は私の好みだ。
「この学校には学年ごとのクラス替えは存在しません。卒業までの三年間、私が担任として皆さんと学ぶことになります。改めて、よろしくお願いします。さて、今から一時間後に体育館にて入学式が行われますが、その前にこの学校における特殊なルールについて説明します。今から資料を配布するので、一部ずつ受け取って下さい」
資料を受け取り読み進めてみると、この学校にある様々な独自システムや実績などが書かれている。パンフレットの要約を素早くメモ用紙へと書いていく。横の美少女がその眠そうな目を見開いているのが見えるが、私は気にせず進める。
東京都高度育成高等学校
日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成する、それを目標とした全寮制の学校。就職率、進学率ともに100%という実績を持ち、入学金、授業料、そして寮費、全て無料という学校だ。外部との一切の連絡、接触を禁じており、三年間、外に出る事は基本的に出来ない。その代わりにありとあらゆる娯楽施設などが完備されている学校で、莫大な税金が投入されているだろう。この学校開校当時の国の一般会計予算を記憶してきたが、ただの教育予算ではありえない為、特別会計予算からだと思われる。学校内では現金では無く、Sシステムの管理下にある仮想通貨、Sポイントを使って金銭の授受を行う模様。
ここまで書いたとき、坂上先生が言葉を発した。
「今から、全員に学生証端末を配布します。この端末には校内全ての施設を利用したり、売店などで商品を購入するためのクレジットカードのようなものが内蔵されているのです。つまり、ポイントを現金のように使うという事になります。ちなみに、この学校内で買えないものはありません。学校にあるものなら、なんでも購入が可能です」
なんでも購入出来る。それはどの範囲で『なんでも』なのか。メモに書き加えながら、私は考え込み、思考に沈む。
「ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっています。今君たちには全員平等に10万ポイントが支給されている筈です。このポイントには、1ポイントにつき1円の価値があります」
教室が喧騒に包まれていく。高校生に10万円は紛れもない大金。独特な言い回しといい、大金といい、不審に思いながら坂上先生の目を分析する。そうすると…。
失望、嘲り、諦め、かすかな期待。
…どうやら、支給額に喜ぶ生徒達に『負』の感情を抱いているようだ。一方で、反応を見せなかった僕や長髪の男子生徒、横の銀髪の美少女には期待感を滲ませている。
「額の大きさに驚きましたか?ここは全て実力で生徒を測る学校です。学校側から、入学した君たちにはそれだけの価値がある、と判断されたという訳です。ちなみに卒業時に現金化はできないので、無理に貯めておいてもあまり意味はないので注意してください。ですが、カツアゲなどの行為だけは絶対にやめてください。この学校はいじめに対しては、敏感です」
先程の目から、支給額ははったりである可能性が高い。来月になると、成績が悪い生徒がポイントを罰として減らされる、なんて事があるかもしれない。いじめに関してはおそらく学校まで来るときに見た沢山の監視カメラ。もしかするとこの教室にも……あった。
「何か質問がある人は居ますか?」
素早く用意を整えて、"僕"は手を上げた。
「この学校は国の運営する学校です。ただの国立高校とは違って、お金が凄くかかっているのが分かります」
「…何が言いたいのだね?」
長ったらしいのが嫌だったのか、今までの丁寧口調が消え、素の話し方になる。周りの生徒が混乱しているが、私はそっちの方が好みだ。
「つまり、成績が悪かったり態度が悪かったりしたら、何かペナルティーはあるのか、という事です」
「…その質問には私は答えられない。とだけ言っておこう」
その低い声での返答に反して、坂上先生の目から明らかな喜色が窺える。期待。期待。期待。それだけが渦巻いていた。…一方、他の生徒のほとんどはその質問の真意が分からなかったようだ。相変わらず長髪の男子生徒はニヤけたり、銀髪の美少女はこちらをじっと見つめてきているが。
「他に質問は……ないな。それでは良い学生生活を送ってくれ」
そう言って先生は教室を去る。
その直後、再び教室は騒がしくなっていった。
10万円を突然手に入れたCクラスの生徒たち。その反応は、驚愕、興奮、喜びと、非常につまらない物だった。私が分析する価値もない。
長髪の厳つい男子生徒が動き出そうとしているのが見える。すく横では銀髪の美少女が声を張り上げようとしている。……でも、その役目は偽善者たる、"僕"の仕事だ。
「みんな!ちょっと聞いてくれないかな!」
読んでいただきありがとうございました!明日からは『ようこそ実力至上主義の奉仕部へ』の執筆に戻ります。ではまた。
ヒロインアンケート。※椎名と伊吹は同じクラスの為、まとめました。
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椎名ひより・伊吹澪
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坂柳有栖
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一之瀬帆波
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櫛田桔梗
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その他