ようこそCクラスの偽善者の居る教室へ 作:モーブラゼロ
今回割と長めです。
クラスメイトの女子たちを泣き止ませ、石崎を男子たちに頼んで保健室に連れて行ってもらった頃には一時間が過ぎていた。
「ようやく終わったよ…。入学初日から大変な学校だなぁ」
「お疲れ様です、ーー君。教室の後片付けも無事、終わりましたよ」
少し疲れ気味に私に話し掛けて来たのは椎名だ。椎名は泣いていない女子や手の空いている男子と一緒に、吹き飛んだ机や椅子を元に戻したり、龍園と石崎の喧嘩によって出たホコリや血を清掃していた。静かに教室を見やる彼女の顔は嫌悪一色である。
「…私は争いが嫌いです」
突然、僕の顔を真っ直ぐ見つめながらそう言ってきた。あまりにも純粋な目に、僕が少し気押される。
「どうして、皆さんは仲良く出来ず、お互いを尊重出来ず、上だの下だのと相手を支配する事に躍起になってしまうのでしょうか」
…人間という物は偽善と醜悪に塗り固められた、悍しく愚かな生き物だ。例えば、もはや人間だけの問題ではない地球規模の環境問題では、ただ自分達の母国の発展を優先してその処理を押し付け合う。先進国が原因の場合は確かに多いが、これ幸いとして全ての責任を先進国に丸投げする途上国。ある時は途上国、ある時は先進国と使い分ける卑怯な国。そんな国々が対立し合い、その中で着々と地球の終末時計は進んでゆく。
大人同士でさえこうなっているのに、高校生の私たちが全員仲良く、お互いを尊重し、相手を支配したいなどの野望を持たないなんて事がどうして出来ようか、いや出来ない。
「…それがただただ、私は歯痒くて悔しい」
しかし、そんな現実を知っていようとも彼女はそれを夢見ている。窓に外に目を向けながら、自らの理想を話す彼女の光景は少し幻想的でーーー
不覚にも彼女に見惚れてしまった…。
「ここがコンビニ…。まるでスーパーみたいな大きさだなぁ」
あの後、僕は椎名やクラスメイトたちより一足先に教室を後にした。計画の万全を期すなら、初日にクラスメイトと集まってショッピングや遊びに行った方が良いのだろうが、想像以上に不審な点が多いこの学校を探索する為、またなによりも龍園の宣言によって大幅に当初の計画を変更する事になった為に、誰も伴わない事とした。彼の登場は完全に予想外でイレギュラーではあったが、まぁ良い方に転がったのは間違いない。
そう思いながら私はコンビニの中へと向かう。勿論、僕の顔をしながらだ。
「あ?そりゃどういう意味だよオイ」
中に入ろうとすると、コンビニの前で赤髪の少年が上級生らしき三人と揉めていた。赤髪の彼の目からは、怒り、苛立ち、興奮。すぐに止めにも入る事は出来るが、私は少し様子を見てみる。
「可哀想なお前ら『不良品』に今日だけはここを譲ってやるよ、ほら、行こうぜ」
そう言う彼らの目からは、侮蔑、興奮、嘲笑。それにしても…不良品…?一体どういう意味なのだろうか。
「逃げんのかオラ!」
「吠えてろ吠えてろ。どうせすぐ、お前らは地獄をみるんだからよ」
そう吐き捨てると、嘲笑いながら上級生三人はコンビニの前を去っていく。
「あークソが、女といい2年といい、うぜぇ、連中ばっかりだぜ」
聞きたい事は聞けたので、彼が扉の前から離れた隙に素早くコンビニへと入る。赤髪の彼がゴミ箱を蹴飛ばしているのを横目で確認したが、私はそのまま中へと入っていった。
後ろから、一つの目線を浴びながら。
コンビニの店内の品揃えはとても充実していた。おにぎりやサンドイッチ、パンは勿論の事、様々なコンビニ弁当にカップ麺、一部には生の果物など、ちょっとしたスーパーのようだ。飲み物もお酒類を除けば十分過ぎる種類が用意されており、生活用品も相当数の在庫と種類が並べられていた。…コンドームには流石の私でも驚いたが。
店内を回りながら歯ブラシや石鹸など、最低限の生活用品を探していると、ある不可思議な点に気が付いた。
それは無料コーナーと呼ばれる場所だ。そこでは『ひと月三個』などと購入に制限がかけられながらも、全ての値段が無料になっている。普通ならただの浪費した生徒用に見えるが、それなりの数が減っている事から見るとその為だけではない事が窺える。
過剰な支給額、教室の監視カメラ、生活用品の無料コーナー…。
核心に迫るかと思われた時、前方に不審な生徒を発見した。生徒たちが頻繁に利用する為か、通常より少ない品揃えの酒コーナーのそばに紫がかった髪の女子生徒が立っている。私はこっそり端末のカメラを起動し、録画しながらゆっくりと近寄る。彼女はその場から離れる様に歩き出した。しかし、
盗った。
僕は端末をポケットに仕舞うと素早く彼女に駆け寄り、小声でこう言う。
「監視カメラに気をつけてね」
そう言ってすぐにレジへと向かい会計を頼む。彼女は最初呆気に取られたようだが、すぐに僕の後を追ってくる。しかし、会計中のために声を掛けることができない。レシートを受け取る時、いつものようにわざと手を重ねながら、レジの店員が赤くなるのも見るのもそこそこに私はコンビニの外へ出た。どうやら会計が終わった直後に女子生徒は私を呼び止めようとしていたようだが、手に商品を持っているのを思い出し、追いかけて来る事は出来なかったようだ。
コンビニの外から中を覗き込んでいた、ベレー帽を被り杖をついた銀髪の少女が此方に目を向けた。少し驚いた表情をしながらも頭を下げてくる。僕、いや私は軽く会釈をしつつ、私は急いでそこから立ち去る。
ベレー帽を被った彼女の目からは、壊れているとしか思えない感情がいくつも見えていた。
寮の自分の部屋に私は駆け込んでベッドに蹲る。暫くした後、ゆっくりとベッドから下りて荷物や生活用品の整理を始めた。キッチンに料理器具を置きながら、私は先程会った銀髪の少女について漠然と考える。
ベレー帽を被り杖をついた銀髪の少女。それは恐らく私がこの能力を使えるようになってから、最も脳内から大きな危険信号を感じた人物。もしかすると、彼女は私の最後の面まであの僅かな時間で見破ったかもしれない。
仮にそうだとしたら……。
私は今後の計画の更なる見直しについて考えを巡らせ、思わずため息を漏らした。
「こんなところに呼び出して何の用だァ?」
夜9時。私は午前中に彼の机に貼った付箋から呼び出した龍園と、校舎裏で向かい合っていた。龍園の背後には石崎が控えているのが見える。…どうやらあの後、彼に屈して仲間になったようだ。私は"僕"になって彼に話し掛ける。
「君の残虐なやり方には、僕は賛成出来ない。だから直接倒しに来た。あの場所で戦いを挑んでも良かったけど、それではさらにクラスメイトを巻き込んでしまう。だから、ここに呼び出したんだ」
「嘘だな」
彼はニヤニヤと笑いながら僕の説明を否定する。
「あの付箋はどう考えても俺が宣言をする前に貼ったヤツだ。つまり、俺が行動するのを予想してたんだろ?お前のその優男みたいな性格も嘘っぱちさ。間違いなく、おめえは戦い始めたら豹変するんだろうよ。…まぁ俺が絶対に勝つけどなぁ?」
…合格、だな。しっかりと私の行動をよく理解し、二枚目の面も認識している。これなら計画通り、安心して"彼の下に付けそう"だ。
「…ーー、俺に従え。今ならボコボコにするのは勘弁してやる。おめえは朝の質問といい、女どもをまとめる力といい、かなり優れたヤツだ。痛めつけるには勿体無い。俺に付いてくるなら右腕に迎えてやるぞ。…もう一度だけ言う。俺に従え」
一つ残念な事は、『3つ目の面』に気付かなかった事だろうか、暴力的な独裁者には必ずしも必要ないかもしれないが、彼と組むのであれば"俺"を見せておいた方が良いだろう。
「…分かった。俺はお前に従う」
自分でも悍しい程の殺気と『ラスボスっぽいオーラ』を解き放ち、彼の目を真っ直ぐと見つめる。今まで見えていた、興奮、感心、退屈という感情が、興奮、恐怖、歓喜へと変わっていく。
「っ!?それがおめえの本性か!?…中々おっかねぇモノを隠してるんじゃねえか。…なぁ、本当に従うんだな?」
龍園は今まで隠していた物を浴びたせいで疑り深くなっているようだ。それに、彼の本質は絶対に他人を信じない事だ。…さて、ここらで条件を付けさせてもらおうか。
「ああ。だが、条件がある」
「あ?条件だと?」
「そうだ、そっちの方が安心できるはずだ」
「…分かった。早く言え」
龍園は少し考えた後、了承した。恐らく俺を敵に回すリスクを考慮したのだろう。
「龍園」
これは入学前、俺がこの学校で生活していく中で建てた一つの目標。仮にそれが仮初めの姿になってしまったとしても問題ない。
何故なら、俺は、私は、僕は、
『偽善者』であるからだ。
「俺に龍園とは別の派閥を作る許可をくれ」
あの夜の翌日から約二週間、私たちCクラスは大きく二つに割れ始めた。
一つ目の勢力は入学式の日に暴力的な行動により、クラスを掌握すると宣言した龍園の率いる龍園派。
入学初日に龍園によって叩きのめされ、その後龍園の心と強さに心酔した、喧嘩慣れした石崎。
入学から暫くはもう一つの派閥に居たものの、龍園がその派閥のリーダーに暴力を振るおうとした際に庇い、その後タイマンの末に屈服して龍園に従い始めた、黒人のアルベルト。
中学時代は陰キャであったと周囲に話しながらも、今は女子にただ囲まれているだけのもう一つの派閥のリーダーの素質を疑問視し、暴力的ではあるが合理的だと考えられる龍園側へと付いた、頭脳派の金田。
この三人が龍園派の主な幹部達だ。
一方、二つ目の勢力は入学式での自己紹介の提案から主に女子からの支持が強い派閥だ。この派閥の主な幹部は三名。
派閥のリーダーと入学時から親しく、特に読書を好んでおり、争い…特に暴力に否定的な意見を持っている銀髪の美少女、椎名。
入学当初は無口で無愛想、龍園と並んであまり印象が良くなかったが、強引なナンパから山下沙希を助けた事がきっかけで、徐々に女子から慕われるようになり、また龍園の暴力的な支配に反対していた事からこの派閥に加入した、武闘派少女の伊吹。
入学初日にこの派閥のリーダーに一目惚れ。彼に認められる為、真っ先に絶妙なカリスマ性を持って、ほぼ全ての女子グループを僅か一週間で統制した、ギャル系女子の真鍋。
そして、この派閥をまとめ上げるリーダーは、
黒髪の少年、
私、義宮遼介(よしのみやりょうすけ)だ。
読んでいただきありがとうございました!
主人公特有の能力については、次回以降段々と明かされていく予定です。オリエンテーションに関しては椎名と一緒に行く事も考えていたのですが、堀北のくだりがない以上、半コピペのような状態になりそうな事からカットとしました。次回は各派閥や他クラスとの関わり、そして水泳授業までを描く予定です。
ちなみにある意味ではクラス内統一が終了しているCクラス。原作からどう改変されるのか、お楽しみに!
P.S.二次創作用のTwitterアカウントを用意しました。もし良ければフォロー下さい。
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ヒロインアンケート。※椎名と伊吹は同じクラスの為、まとめました。
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椎名ひより・伊吹澪
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一之瀬帆波
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櫛田桔梗
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その他