CROSS ROAD   作:メルヘンに気ままに

1 / 5
完全見切り発車かつありきたりな展開ですが、御容赦ください。
よろしくお願いいたします。


第1話

空虚、というのだろうか。

 

目の前の景色を見て俺の頭に浮かんだのは、悲しみでも、怒りでもなく、虚しさという感情だった。

 

六十の席が用意された円卓には、今や俺一人を残し、誰一人もいない。その景色に俺は一人机に項垂れる。

 

DMMO-RPG『ユグドラシル』

 

2126年に発売されて以降、熱狂的な人気を博し、多くのゲーム好きを虜にしたDMMO-RPG。体験型ゲームである。数多存在するDMMO-RPGの中でも燦然と輝くタイトルとして知られているゲームで、日本国内においてDMMO-RPGといえばユグドラシルを指すとまで言われる評価を受けていた。

 

人間種、亜人種、異形種と実に700種類にもなる豊富な種族。基本や上級職業等を合わせて2000を超える職業クラスによる無数の組み合わせで、意図的を除いて同じキャラクターはほぼ作れないだけのデータ量。6000を超える魔法の数々。

 

これを聞いて心躍らぬゲーム好きがいないわけもなく、例に漏れず自身も死ぬ程ハマったこのゲーム。

 

しかし、盛者必衰の理をあらわす。と、いうか、なんというか。熱狂的な人気を博したこのゲームも、12年の月日を経て、今日でサービス終了となる。

 

CROSS ROAD。

 

異形種の中でも、天使か悪魔だけで集まり作られたギルドであり、過去にはユグドラシルのギルドランク6位まで名を連ねたこのギルドも、最盛期60人いたギルドメンバーは今や5人にまで減っており、最終日である今日に限って、ログイン出来たのは俺だけだったようだ。

 

ふと辺りを見渡し、げんなりとした思いで自身の席に着く。

 

一瞬ログアウトすることも考えたが、どうせやることも無いし、12年も遊び続けたゲームを最後まで続けたいという気持ちもあった。

 

時計を見ると時刻は20時12分を刻んでおり、残り数時間でこのゲームも終わってしまうことを示していた。

 

「…どうせ、最後だしな」

 

自然と口から洩れたその言葉に、どこか他人事のように立ち上がる。最後に円卓を見渡し、1つ、ため息をついてからなんとか意識を切り替える。

 

最後だし、俺らが必死こいて作ったギルドの中でも探索してみるかな。それに、途中で誰か来るかもしれないし。

 

無理やり気持ちを明るく切り替え、俺は部屋を出た。

 

ーーーーー

ーーー

 

やはり、というべきか、最終日であるにも関わらず過去に仲間と作り上げた思い出の数々や、必死に作り上げたNPCを見ている間に想像以上の時間を喰ってしまったようで、ふと時計を見ると既に23時48分だ。少し焦りながら装備を選択する。

 

「やっぱこれだよな」

 

視界に入った装備の中でも1番目を引く白と黒のツートンカラーの装備を装備する。

 

俺が、ヴァナヘイムでワールドチャンピオンになった頃に貰ったこの装備、ザ・ベスト・ギフト。ワールドチャンピオンの名に相応しいスペックを持つこの装備は、そんじょそこらの神器級装備を遥かに超越した防御力とテキストを読むだけで頭がバグりそうになるほどの能力を有しているのだが。

 

如何せん見た目がな…

 

俺がバッチリ厨二病を拗らせている頃に選んだ装備で、周りの仲間には散々バカにされたものだ。

 

 

『ワールドチャンピオン様々ですわ…w』

 

『よwくw似w合wっwてwるwんwじwゃwなwいw』

 

 

「…クッソ」

 

蘇る苦い記憶。今でも少しカッコ良いとは思っているのだが…確かに少し痛い気がする。

 

時を超えた名作であるFF7に出てくるキャラクターのセフィロスの服装にちょこちょこアーマーを付け足した様な装備。絶妙なバランスで白と黒の調和が取れており、当時の俺は他の装備に目もくれず、一瞬でこの装備を選んだのだが、その結果が仲間からのアレである。それ以降、滅多に着なかったこの装備。折角だし、最後にそれを装着する。

 

「…やっぱ強いよな…これ」

 

普段着ている装備も一応神器級装備だが、それを遥かに上回るステータスを表示するコンソールに頷きながら、俺専用更衣室。通称厨二病の夢から出る。いや、俺が名付けた訳じゃありませんからね?

 

次はどこに向かうか…そう考える内に自然と足が向かっていたのは、«審判の間»…俺らのギルドの最奥部に位置する部屋だった。

 

静かな音を立て、自動で開いたドア。その先には1つの玉座があり、その両サイドには一体ずつNPCがいる。

 

「うわ、懐かし」

 

天使長のセラと悪魔長のルシフェルだったか。

 

ギルドのコンセプト通り、天使と悪魔で構成されているこのギルドは勿論NPCも天使と悪魔で創られており、設定からビジュアルまで多大なる時間と金と愛情をもって制作した自慢のNPC達、その中でも天使側、悪魔側の頂点に立つNPCがこの2体だ。

 

片や金髪の絶世の美女で、その頭上には円状の輪っかが浮かんでおり、その背からは三対六枚の白翼が生えており、その顔と併せてまさに天使って感じの天使だ。白のワンピースに緻密な金の刺繍が施されており、その手には一見場違いとも思える黒の邪悪なガントレットが装備されている。が、見慣れているからか、はたまた意外と似合っているからか、特に違和感はない。

 

片や銀髪の絶世の美男で、その頭からは禍々しい角が生えており、その背からは天使長同じく三対六枚の黒翼が生えており、いかにもって感じの堕天使だ。その衣装はこれまたいかにもって感じの紫色のアーマーであり、所々に赤黒い宝石が組み込まれている。そして、同じくこちらにも一見場違いにも見える白銀色に輝くガントレットが装備されているが、天使長と同じく違和感は特になかったりするのだ。

 

俺の美的感覚がおかしいだけなのかな。フッ、と小さく笑いながら玉座へと歩いていくと、その2体は右手を胸の辺りに添え、ペコリ、と頭を下げた。ギルドメンバー達と汗水垂らして作り上げたNPCだ。このようにプログラムを組み、一定の動作を取らせるくらい誰もが時間を惜しまずやるだろう。

 

「よいしょ…」

 

そんなどうでも良いことを考えながら、その2体の間にある玉座に腰掛ける。頭に過ぎるのは仲間たちと必死こいてようやくクリアしたこの«マルクデュー神殿»の記憶。神殿とは名ばかりに多くの悪魔も出てきたこの神殿は、エリア毎にカルマ値によってバフやデバフが付与されるシステムがあるのだが、これがまた厄介で、エリアに適したカルマ値でなければそこのエリアに出てくるボス他POPモンスター達ともまともに戦闘出来なくなる程弱体化してしまうのだ。

 

例えば、最も入口に近い«審議の間»では、エリアボスとして«至高天の熾天使»が出て来たのだが、ただでさえ厄介な敵であるのにも関わらず、これがまたバフで強さ爆上げ、カルマ値が極善クラスではないとまともに戦える相手では無いほど強化されてしまうのだ。

 

当然、カルマ値が極悪のプレイヤーが受けるデバフは半端なものではなく、例えレベル100のプレイヤーであろうとレベル60クラスの主天使相手に敗れることもザラであった。

 

例に漏れず、当時からワールドチャンピオンであった俺も持ち前の極悪のカルマ値が災いし、«威光の主天使»相手に敗北したのだが…これが長らくギルドの間でも話の種になる〜ワールドチャンピオン、主天使風情に負ける〜を産み、ギルドの内外共に俺が嘗められる原因になるわけだが…この辺りは自分で思い出すのも悲しいので割愛させて頂く。いや、だって«善の極撃»くらい耐えられると思うじゃん…そんなことよりボス削りたいじゃん…

 

と、まぁ、苦い記憶を思い出しながら、俺は背後にある1つ…否、2つの武器を眺める。

 

そこには光り輝く剣の柄と、禍々しく歪み不気味なオーラを放つ剣の柄が置かれている。

 

ギルド武器«善と悪»。ギルドメンバーの全員が、主天使風情に負ける情けないギルドマスターへの贈り物と俺にサプライズで作られた雌雄二振のこの剣は、所有者である俺が触れぬ限りその刀身は表れない、という完全に俺専用の武器なのだが、ギルドメンバー達は『どうせ、最後までここに残るのお前だしいいんじゃね?』と、快く?俺にこの武器を委ねてくれたのだった。

 

「ま、本当に最後まで残ったんだけどさ」

 

ここ暫くは、ギルドの運営費用を稼ぐためにちまちまと小銭稼ぎをしていたせいで、落ち着いてギルド内にいることなんてなかったし、どうせ最終日だしな…と玉座から立ち上がり、その武器を手に取る。

 

曰く、厨二病なお前に相応しい厨二な見た目と厨二な名前にしといたその武器は、色んな意味で俺専用と言われただけあり、手にした瞬間に凄まじいバフが掛かったことが視界の隅に表示される。

 

ギルド武器ということで、基本は最も安全な位置に鎮座しているのだが、どうせ最終日だ。今更この時間になってギルドを攻めてくる奴もいないだろうし、最後の数分くらい構わないだろう。

 

「なんなら今から俺がどっか行ってやろうか…?」

 

パッと頭に思い浮かぶのは、1500人の猛攻にも耐えきった最凶PKギルド、アインズ・ウール・ゴウン。最後の最後まで誰一人として最後の階層まで通さなかったと言われる化物ギルドであり、個人的にも思い入れがなくはないギルドだ。

 

何度か上がったワールドチャンピオンだけのギルドを作るって話になった際に仲良くなったたっち・みーさんのギルドだし、それに、俺も異形種狩りで狩られてた身だ。あの異形種のみで作られた悪名高いギルドが本当にただPKばかりしているギルドじゃない事くらいなんとなく察せる。

 

思い付きにしては中々名案だな。ちらりと時計を見ると時刻は23時54分。攻め落とすのは無理だとしても最後の最後くらい無謀な挑戦をしてみても良いのではないだろうか。

 

それに、今の自分の装備を確認する。

 

ワールドチャンピオンの証であるギルド武器に匹敵するアーマーに、正真正銘のギルド武器。それに、腕前は全盛期よりかは落ちたものの、未だにワールドチャンピオンの名に恥じないプレイスキルは持っているつもりだ。5分間でどこまで行けるか…と、ここまで考えて自分の思考に違和感を覚える。

 

あれ、俺の時計って…

 

バッ、と時計を確認する。23時54分も残り12秒となっている。

 

俺の時計って確か5分ずれてたんじゃなかったっけ!?

 

ここ最近は全く気にすることは無かったが、以前ギルドメンバーの内1人に『お前は早く来すぎだから5分時計を遅くセットします』、と言われたことを思い出す。結局それで直すの忘れてて…ってことは残り8秒!?

 

パニックになる脳。待てよ、最後くらい落ち着いて終わらせてくれよ!俺の12年の最後だぞ!?もう少しカッコつけさせてくれよ!!

 

そんな俺の気持ちを置き去りに時計の針は進んでいく。時間が過ぎたら恐らく強制シャットダウンされるのだろう。残り3秒。

 

最後の最後に俺はーーー

 

「クソッタレぇぇぇええぇぇえぇ!!!」

 

どこに向けてのものでもない慟哭をあげた。

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□

 

「クソッタレぇぇぇええぇぇえぇ!!!」

 

天をも割る慟哭というべきか。

 

耳に入る主のどうしようも無いほどに悲痛なその叫びは、我が主の心をそのまま表しているかのようであった。

 

リアス=フォーミュラ=コースト様。最後まで我らが神殿に残って下さった慈悲深き御身のその叫びに割れそうになるのは私の心だけではないはずだ。

 

移した目線の先にいる堕ちた熾天使も、どこか苦しげな表情を浮かべている。普段は人の不幸を蜜の味と喜ぶ穢れた悪魔とは思えないほどその表情は主の身を案じているようだ。

 

その後、ドサ、と地に膝を着いた主に、気が付くと私は駆け出していた。

 

「大丈夫ですか…?」

 

「……は?」

 

少しの間を開け、私の発言にどこか驚いたように返した主の顔は、普段の涼し気な微笑ではなく、信じられないものを見たような顔であった。




次回からオリジナルキャラクター爆増でございます。ここまでお読み頂きありがとうございました。次回も是非よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。