CROSS ROAD   作:メルヘンに気ままに

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感想頂いたので嬉しくなり書いちゃいました。
よろしくお願いします。


第3話

そこには地獄が広がっていた。

 

見渡す限りの死、死、死。どす黒く染まった視界には、漆黒に彩られた骸が無数に存在し、そのどれもが愉しそうにケタケタと笑い、お前もこっちに来いと手を招いている。

 

「どうした?顔色が優れないようだが、何かあったなら聞くぞ」

 

背後から掛けられたその声に息も絶え絶えになりながら振り向く。

 

そこには我らがバハルス帝国白金級冒険者チーム【フェミー】のリーダであるジョソン・ダンヒの心配そうな目と私達が本来歩いてきたはずののどかな森が広がっている。

 

「こ、この先はっ…!ダメです!」

 

今更になって滝のように流れ出す汗、声は自然と裏返ってしまうがそんな事は気にしていられなかった。一刻も早くこの場を立ち去りたい、それ以外の思考は全てシャットアウトされていく。

 

「…何を言う、今回の依頼はただの薬草回収だぞ?こんな簡単な依頼もこなせないなんて言ってしまったらまた世の男達に馬鹿にされてしまうではないか」

 

どこか窘めるような物言いに目の前の光景が見えているのは私だけなのか、と再び視線を向かうべき目的地の方角へと向ける。

 

先程リーダーの背後に見えたのどかな森、本来それと変わらないはずの風景が広がっているであろうそこにはやはり、というべきか先程と変わらない地獄が広がっている。

 

その光景に絶望するのもつかの間、それを更に上回る絶望が小さな音を立てこちらに飛んでくるのを見た。

 

「ん、蝿か?こんな季節に珍しいものだな」

 

地獄を突っ切るように飛んできた数匹の蝿は、先程から見えていた死の光景をさらに深く、黒く塗り潰し、そのまま私の足元まで広がってくる。

 

「ひ、ゃ、ひゃああぁ!!」

 

「む?なんだ、蝿が怖くて進めないと言っていたのか。ははは、そんな様子では男共に笑われてしまうぞ。どれ」

 

私の姿を見て何を勘違いしたのか、弓を取り出しこちらへと向かってきていた蝿を見事な腕で撃ち落としたリーダーは私の肩を叩くと笑った。

 

「よし、これで進めるな!」

 

「…は、はは…」

 

その顔がどこか髑髏のように見えたのはきっと私がおかしいからではない。

 

気が付くと、辺り一面が死に包まれていたのだから。

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

「〜〜〜♪」

 

平和だ。平和も平和、大平和。口笛だけが響くのどかな森の中、俺は辺りを見渡しながら俺の前後を歩く2人のことを考えていた。

 

「楽しそうですわね…羨ましいですわ、ベルちゃんは主様の役に立てて」

 

「堪忍してやヨエル。ウチかてアンタに仕事させたくないわけやないんやから。探索はウチに任せてアンタはなんかあった時のこと考えときぃ」

 

どこか拗ねたように俺の右前を歩くメタトロンは、楽しそうに左後ろを歩きながら口笛を吹いていたベルゼブブと穏やかな会話をしていた。

 

ちゃんと設定通りなんだなぁ。と少し感心しながら2人の対角線上にいる俺は脳内の奥にしまい込まれていた2人の設定を思い出す。

 

セラの率いるLv100熾天使のNPCのみで構成された班«セラフィム»の第二席であるメタトロン。170センチ程の身長にスラッとしたスレンダーな体型。透き通るような白い肌、美しい金髪を肩の辺りで揃え、翡翠のように美しく輝く切れ長の瞳に儚げな表情を浮かべていることもありその様子は深窓の令嬢といったようだ。セラに負けず劣らずな美貌を誇り、典型的なお嬢様言葉を使うこの天使は攻撃的なNPCが多い俺らのギルドの中では珍しくタンク役でありヒーラー役でもあるサポーター的なNPCである。言葉遣いこそ高飛車のようであるが、基本的に気遣いの出来る子であり、滅多なことがなければ自分よりも他人の事を考えられる子、という設定で作成されたNPCである。作成したプレイヤーである«ピュアランド・ビーチ»とよく似たその性格はどことなく懐かしさを覚える…ような、ないような。

 

ルシフェル率いるLv100最上位悪魔のNPCのみで構成された«七罪»の暴食担当であるベルゼブブ。140センチほどの身長とは裏腹にボンキュッボンとしか表現出来ないグラマラスな体型、褐色の肌に腰の辺りまで流されている絹のような銀髪、タレ目がちな金色の瞳にどことなく妖艶な雰囲気を纏う彼女は正しくこの世のモノとは思えない独特な妖しさと美しさがある。エセ関西弁を使うこの蝿の王は眷属を用いた探索と、超攻撃特化の魔法を扱い、短期決戦を得意とする。根本的に自己中心的であり、興味のないことには全く興味がなく、好きなことには異様なほどの執着をみせるという設定で作成されたNPCだ。こういう所に作成した«りゅーせんどー»の極端な所がよく出ているような気がする。

 

この色々と正反対なところが多い2人だが、その実、設定では2人きりの時は非常に仲が良いように創られている。基本的に天使と悪魔で仲が悪いというロールのもとで創られているウチのNPCでは珍しいと言えるだろう。まぁ、だから今回はこの2人を選んだ訳だ。設定通りかどうかを確かめるためにも。

 

「…にしても平和だなぁ」

 

「お、旦那はんが現実逃避しはじめたで」

 

「コ、コラ!主様になんて口を!」

 

「せやかてなぁ…ここいらには旦那はん含めウチらに害及ぼせるような生命体はおらんみたいやけど…帰ったら怖いで?」

 

「…確かに」

 

コソコソと俺を挟んで会話をしている2人に俺は先程から他のことを考えようにも脳裏を離れてくれない円卓のことを思い出す。

 

 

 

『バランス的にもそうだな、ベルゼブブとメタトロン。君たちに決めた。メタトロンが前衛で、ベルゼブブが後衛、俺はTPOで遊撃的な』

 

『…え?』

 

『おい、外には何があるか分からないんだろ?俺が適任だと言ったのが聞こえなかったのか』

 

『よし!!このどクソ悪魔と一緒なのは気に入りませんが、喜んでお供させていただきますわ!!』

 

『ウチかてこんな下品な天使願い下げや…けど、旦那はんが選んだ言うんやったらしゃあないわ。ホンマやったらウチ1人で十分なんやけど』

 

 

 

その後も、異議申し立てを唱え続ける天使と悪魔に、徐々に飛び交う罵詈雑言、掴み合いにまで発展しそうな状況にまで…普段ならこの場を纏めてくれるセラは硬直しており、ルシフェルもやたらと語気強く詰め寄ってくる始末。とりあえず待機するよう指示だけ出して飛び出すように円卓から逃げ出し、今に至るわけだが…

 

「まぁ、なんとかなるでしょ」

 

そこは面倒は後回しの精神で思考を放棄し、辺りの自然溢れる景色を堪能する。どの絵で見るよりも生き生きとした緑、青く澄み渡る空、太陽なんて見ているだけで憎々しいくらいだ。

 

「なんて寛容な御心をお持ちなのでしょうか!流石ですわ!」

 

「楽観的すぎるやろ…お?」

 

現代では見られない景色に年甲斐もなくはしゃぎながら歩いていると、背後を歩いていたベルゼブブが立ち止まった。振り返るとそこにはニタァ、と愉しげに口角を歪める暴食の悪魔の姿が目に映る。

 

「どうした」

 

「あっちの方角に放ってた眷属がな、なんやオモチャ見つけたみたいやで?」

 

口が裂けるのではないかと思ってしまうほどに歪む口角に、なんとなく何を言いたいのかを察した俺はベルゼブブが指差す方角に目を向ける。

 

「…ベルちゃん、人間はオモチャじゃありませんわ」

 

「なにいうてんねん。悪魔からしたら人間はオモチャ、天使からしたら人間は養分…やろ?ほな、遊び行きましょ旦那はん」

 

「待て待て、敵対的な相手だったらどうすんのさ。人数は?構成は?」

 

「旦那はんは心配性やなぁ。下等の魔鬼と変わらんくらい貧弱な人間3人、構成は雑魚すぎてよう分からへんけど、多分野伏と射手と魔術師やない?知らんけど…その程度やったらなんてことないやろ?」

 

笑顔と言うには悍まし過ぎる表情を浮かべるベルゼブブ。まぁ、実際に下等の魔鬼程度だったら問題は無いし、現地の人間だったら情報収集にはちょうど良いか、と思考を切り替えて、俺はベルゼブブの指差す方向に歩き出した。

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

「くっ、一体どうなっているんだ!?」

 

状況は混沌としていた。凄まじい量の蝿が周囲を覆い尽くすかのように突如現れただけではなく、我がパーティ【フェミー】の野伏であるツイ・フェミが最初に現れた数匹の蝿をたたき落とした時点で突然座り込んでしまったのだ。

 

「リーダー!殺しても殺してもキリないよ!!撤退した方が良いかも!!」

 

「たかが虫けら相手になにを戸惑う!フルェル!«火球»で全て焼き払え!!」

 

「任せて!」

 

我々を囲むように飛ぶ蝿に対し、万が一に備えて保存しておきたかったが、パーティの主砲である魔術師のイカリデ=フルェルに«火球»の使用を命じる。たかが虫けら風情ならばこれである程度は減らすことが出来る、詠唱を始めたフルェルの杖が光りーーー

 

「«火球»」

 

世界が爆ぜた。

 

明らかに我々がいる箇所とは別の所から放たれた«火球»は、有り得ない程の熱量を放ち、悍ましい程いたはずのハエの死骸を1つも残さずに消し飛ばしていた。あまりの威力のせいか周囲を漂う砂埃のせいでよくは見えないが、奥から何者かが歩いてきているようだ。

 

「…なんやおもろないな。折角助けてやったんやから少しは良いリアクションしてぇや」

 

鈴を転がしたような愛らしい声と共にシルエットがようやく見えてくる。小柄な…本来人には付いていない聖職者が召喚する天使と似たような翼が6枚生えていなければ普通そのものの人影らしきもの。

 

「ひぃいいいぃい!!!」

 

「お、それやそれ。堪らんなぁ」

 

そのナニかを見た途端、先程まで座り込んでいたフェミが死人でも見たかのような金切り声をあげ、どこかへと走り出す。

 

「あ、おい!フルェル、フェミを捕まえてこい!うちの者が申し訳ない、助けて頂き感謝の極みだ。さぞ高名な魔法使いとお見受けした…が…」

 

逃げ出したフェミを追いかけるように指示を飛ばし、手を貸してくれたナニかの方へと頭を下げる。これほどの威力の«火球»を扱うのだ、かの三重魔法詠唱者程ではないにしろ高名な魔法使いには違いない。ここで伝手をつくっておけば後々に繋がるだろう、そんな思いを込め、下げた頭を上げた…瞬間、私の脳は瞬時に停止した。

 

「ええて、こんなん消費にもならんわ。旦那はんに無駄な殺生はせぇへんよう言われたさかいその感謝受けたるわ、とは言ってもぎょうさん眷属殺してもうたけど…」

 

全てを見透かすような金色の瞳、太陽の輝きを受け輝く白銀の髪、同性であるはずの私ですら呼吸を忘れるような倒錯的な美貌は嘲笑めいた笑みを浮かべている。日に焼かれた物とは明らかに違う褐色の肌、そして小柄な割には妖艶すぎる体つき、なによりも背後にある世界中の光を呑み込んでしまいそうな漆黒の6枚の翼のようなもの、そのどれもが目の前の存在がこの世のものではないと教えてくる。

 

「…あ、なた、は…」

 

カタン、と杖の落ちた音でハッと目が覚める。背後から聞こえてきたその声は先程私がフェミを追いかけるように指示を飛ばしたはずのフルェルのものであり、その顔は歓喜と畏怖が混ざった複雑な表情を浮かべている。

 

「ウチになんか聴く前にアンタお仲間追いかけなアカンとちゃう?アンタらのお仲間さん人をエサにする悪〜いのに食われてまうかもしれへんよ?」

 

クスクスと、可愛らしく声を上げ笑うソレは、ほれ、と声を上げ私達の更に背後を指差す。

 

その先には光が差していた。輝かしい黄金の髪は太陽の光を反射し神々しいほどに輝き、深緑を彷彿とさせる翡翠の瞳は人類の想像につかないような壮大なものを感じさせ、背中に生えている純白の6枚の翼を含め、それらは透き通るような白い肌と凛としながらもどこか儚げな表情と相俟って人の触れてはいけないような神秘的な美しさを放っている。

 

そして、それは先程逃げ出したフェミを英雄譚の一幕のように抱きかかえ私達のすぐ隣へと降ろした。つい先程まで喚いていたフェミは嘘のように大人しくなっており、その顔には安堵のようなものが浮かんでいる。

 

「人聞きの悪い。倒れそうになっていたから救けただけですわ。一体なにをしましたの?」

 

「なんもしてへんて。来る前から具合悪そうにしとったし、端から調子悪かったんとちゃう?知らんけど」

 

が、それも瞬時に凍り付く。フェミを降ろしてからというもの、互いに表情を険悪なものにすると、近寄り、鼻と鼻がくっつくのではないかと思われる程の距離でガンを飛ばし合い始めたのだ。

 

「にしてはとてつもない怯えようでしたけれど…主様に言われたこと覚えておいで?」

 

「…は?なんなん?喧嘩売っとんのかいな。ウチが旦那はんの言う事忘れるわけないやろ。しばくぞガキ」

 

「まぁ、下品な言葉遣いだこと…虫けらの分際であまり生意気言ってると消しますわよチビ」

 

「黙れや三下、その目ん玉くり抜いて中身グチャグチャにしたろか」

 

「三流がほざかないでいただけるかしら。腸引きずりだしますわよ」

 

実際に空間が凍りついたと錯覚してしまう程の迫力でドスの効いた声を出し互いに罵声を浴びせ合う2人に、私達も何も出来ずに凍りついてしまう。

 

「なんや、やるんか?ウチはかまへんで、ほな死ぬ覚悟しときや」

 

「私のセリフですわ。脳天かち割って腐った中身入れ替えてさしあげます」

 

止まることなく益々ボルテージを上げたその2人は、気が付けばそれぞれに得物を手にしている。片や毒々しい色の光沢を放つ短剣と捻じ曲がり禍々しい形状をした長杖、片や神々しく純白に輝く直剣と、光で構成されたかのように輝く円盾。

 

後者はさておき、前者はあれ程の魔法を放つ魔法使いだ。この距離で戦われたら私達も巻き込まれることは間違いない。そんなことはもちろん、分かっており止めようとはしているが、如何せん先程から瞬きも出来ず、足が動こうとしない。直感的に死を悟り、下衣が生温かいもので濡れたその時のことだった。

 

「ちょっと、いつも通りって言ったでしょ。なんで喧嘩してんのさ」

 

上空から子供の喧嘩を仲裁するかのような穏やかな声が響いた。途端に止んだ殺気に、へたりと地面に座り込むと同時に軽やかな着地音が耳に入る。

 

「勘弁してよ、第一印象って大事なんだよ?目の前で喧嘩なんてされたら与える印象悪いって、巻き返すの難しいんだからね?」

 

なんとかその声の方へと視線を向ける。そこには長身の男性がこちらに背を向けて立っていた。半分が白、残り半分が黒のロングコートにアーマーを着けたような不思議な衣装に身を包んでおり、またというべきかその背には翼が生えている。先の2人と違うところといえばその翼の色と数だろうか。12枚の翼は左右で色が別れており衣装と同じく右側の6枚の翼は純白に輝いており、左側の6枚の翼は正反対に漆黒に染まっている。

 

「…あー、すみません。ほな、死にます」

 

「はぁ?」

 

「申し訳ございません、私が先に挑発しました。私が自刃いたします」

 

「…えぇ?」

 

「…気にすんなや、ウチも売り言葉に買い言葉やったわ」

 

「ベルちゃん、私が先に言ったんだから」

 

「いや、死ぬとかじゃなくてさ…とりあえず一旦帳消し!今回のはとりあえず許すから死ななくてよし。OK?」

 

パンパンと手を叩き、先程まで争っていた2人に一頻り言いたいことを言い終えたのか、こちらを振り向いた。

 

その瞬間私を含め3つの息を呑む音が聞こえた。

 

不健康かと思えるほどに白い肌、微かにくすみボサボサにも見える灰色の短髪、それらの不健康な所を持って余るほどに目鼻立ちはハッキリとしており、薄紫に光る瞳はクールな印象を与えると同時に優しげな笑顔によって暖かさを湛えている。統計して言うと、今まで見たことの無いレベルの美男だ。

 

「すみませんね、変なとこ見せちゃって、私、CROSS ROADのギルドリーダーやらせてもらってますリアス=フォーミュラ=コーストと申します。この子達は当ギルドのエリアボスやらせてるベルゼブブとメタトロンです。ほら、ご挨拶しなさい」

 

「ベルゼブブや、よろしゅう」

 

「メタトロンと申します。以後お見知りおきを」

 

面倒くさそうにこちらを一切見ず挨拶をするベルゼブブと名乗る黒い翼の魔法使いとペコリと礼儀正しく頭を下げるメタトロンと名乗った白い翼の剣士、と思われる女性。

 

その姿に一瞬惚けていた意識を取り戻し、急ぎ立ち上がり頭を下げる。

 

「い、いえ!窮地の所を救っていただき助かりました。ハバルス帝国で冒険者をやっております白金冒険者チーム【フェミー】のリーダー、ジョソン・ダンヒです。こちらは魔法使いのイカリデ=フルェル、野伏のツイ・フェミです」

 

「…あ、イ、イカリデ=フルェルです…!魔法使いです!第3位階まで使えます!」

 

「…ツイ・フェミ、です」

 

私に続いてようやく声を出した2人に安堵しつつ、チラリと様子を覗く。フルェルは小声で第3位階て…ザッコ、と呟いたベルゼブブの方を爛々とした目で見つめ、フェミはこちらを見て微笑みを浮かべているメタトロンをどこかうっとりとした目で見ている。

 

かく言う私は、その2人の真ん中に立つリアス=フォーミュラ=コーストと名乗った男から目が離せないでいた。

 

「ハバルス帝国…冒険者…か、ご丁寧にどうも」

 

「い、いえ…こちらこそ…その、なんとお呼びすればよろしいか」

 

「リアスで結構ですよ」

 

「…で、では、リアス殿と呼ばせていた」

 

ニコリ、と人の良い笑顔を浮かべたリアスに顔が熱くなる。これは一体なんだと今まで体感したことのない妙な気持ちに戸惑いながらもなんとか声を絞り出すことに成功する、その瞬間だった。

 

「あ?なんや小娘、誰の名ぁ略して呼んでんねん。殺すぞ?」

 

「全くですわ。それと、さっきから主様に穢らわしい目線向けないでくださるかしら、身の程知らずにも程がありますわよ」

 

全身を脂汗が伝う。未知の恐怖、否、先程まであの2人が言い争っていた時にも似たようなものは感じていた、が、密度があまりにも違う。あまりの恐怖から逃げるように地面を見つめるが、その絶望的な視線がこちらへと向けられていることだけは分かる。

 

自然と浅くなる呼吸に目眩がし始めた時、ピタリとその視線が止んだ。それ以上に激しい圧が、その2人の間にいた存在から吹き荒れるように広がったからだ。

 

猛々しいそのオーラに驚いたのは私だけではないようで、先程まで私に視線を向けていた2人もその表情を恐怖に染めていた。

 

「…ちゃ、ちゃうねん…旦那はんの御名を略すなんて、不敬やろ…?たかが人間の分際でこれはあまりにも…いたっ!」

 

「反省!」

 

「っ、主様!お言葉ですがベルちゃんは何も間違えたことは言ってませんわ!!天上の存在であらせられる貴方様を下界のものが名前呼びだなんて、痛い!」

 

「メタトロンも反省!」

 

ゴツン、ゴツンと鈍い拳骨の音が響き、2人が蹲る。先程までの恐ろしい雰囲気はすっかり消え、親に怒られた子供のようにシュンとした2人は恐る恐ると言った様子でリアス殿の様子を伺っている。

 

「いいか?俺らはこっちじゃ新人も新人なんだぞ?強い弱いとかの問題じゃないんだよ…ベルゼブブ!」

 

「は、はい!」

 

「…俺がベルゼブブより弱かったら君は俺を殺すのか?」

 

「め、滅相もない!御身に危害を加えるくらいやったら他の天使悪魔全員敵に回した方が何億倍もマシや!」

 

「…メタトロンはどうなんだ?」

 

「…ぅ、うぅ…そんな…私が主様を裏切るように見えるのですか?私は例え主様がいかような矮小な存在になられたとしても頭から爪先まで尽くしますわ!それが天命故に!!」

 

「…そ、そっか……まぁ、つまりそういうことだから。この人達は俺らの知らないことを知ってる…言わばこの世界における俺の先輩であるってことだ。ねぇ、ジョソンさん?」

 

部下なのだろうか、大人しく正座をしている2人に説教をしていたリアス殿は突然私の方へ振り向くと同意を求められる。

 

「は、はい」

 

何を言っているのかはほとんど理解が追い付かなかったが、先程の殺気を振りまく2名を圧だけで子供のようにしてしまう御仁の言うことに反論をするつもりは無かったし、なにより、リアス殿に話しかけられると否定などしようとも思えない。

 

「分かった?2人ともその辺よく反省すること。以上」

 

「…すみませんでした」

 

「魂に刻み込んでおきますわ…」

 

「…すみませんでした。お見苦しいところをお見せしてしまい、先程ウチのを説教している時に口にしたのですが、我々どうやら何かしらの方法で突然ここへ転移されてしまったようでして…よろしければフェミーの皆様方からお話をお伺いさせていただければと思うのですが…よろしいでしょうか?」

 

少し申し訳なさそうに口角を上げて喋るリアス殿。当然断る意志のない私には…

 

「は、はい!私でよろしければいくらでも!」

 

という返事しか用意されていなかった。




セラ・リリーフ・マヌス

属性:極善ーーーカルマ値500

種族:«熾天使»ーーー5Lv
ほか

職業:パラディンーーー10Lv
ワルキューレ/ソードーーー5Lv
など

種族レベル20Lv + 職業レベル80Lv =100Lv

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

マルクデュー神殿を拠点として作られた«CROSS ROAD»。そのNPCの中でも天使のみで構成されている拠点防衛の要であるセラフィムのリーダーを務めるNPC。

信仰系剣士として結構ガチめに作成されたNPCであり、マルクデュー神殿のエリアによってカルマ値の善悪にバフ/デバフが掛かるという特性から本来配置されているエリア《深奥部:天使の裁き》においては鬼神の如き強さを得る。

ワルキューレ\ソードの職業Lvを得ていることから剣の扱いにおいてはNPCの中ではトップレベルであり、また信仰系の職業も持つことから自己へのバフ、デバフ解除、HP回復も熟してしまうなんでもござれ天使。

また、キャラ設定から悪魔を憎んではいるものの、本心ではそのように決められているからそうしているだけで、同ギルドの悪魔達はそこまで嫌いでは無いし、ギルドに所属するプレイヤー達は悪魔であろうと心の底から敬い、慕っている。

御覧じろ、かの艶やかな黒翼を。天を包み込むような黒ではないか。
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