日本と新世界人の初の接触、そしてその直後に行われた会談は、結論から言うと日本国にとっては、即座には何の意味も成さなかった。…とは言っても、収穫が全くなかった訳ではない。
マルコを含む新世界人らの情報提供は、日本国にとっては千金に値する価値があった。これにより新世界の情勢は明るみになり、田舎育ちのアイルーらでは知りえない数々の貴重な情報はすぐさま本国へと伝えられた。
また、自衛隊基地から最も近い国家との会談も約1ヶ月後に約束され──マルコら調査隊と、それに随伴する自衛隊の部隊がそこへ到着するのには1ヶ月近くかかるが、日本国内の惨状を伝えたところ、時期を早めてくれた──、おまけに、急いでいるなら他の人員は「飛行船」で来訪しろとの言質も頂いた。
日本国民が必要とする食糧はまだまだ余裕があるが、石油の備蓄はどれだけ節約をしようと、1ヶ月と半月分程度しか残っていない。経済も破綻寸前であり、ここが正念場であった。
場所は変わって、外交官専用の宿舎の中──
「ご主人様、どうかしたかニャ?」
新世界人との会談を終えた朝田は、机の横にいる彼のオトモ、ニャン太郎に心配そうに話しかけられた。ニャン太郎は、そのモフモフとした前足で代用コーヒーが並々と入ったカップを、机にコトリと置く。
文字通りの意味で
そのおかげで、朝田の仕事の効率は日本にいる頃より格段に上昇しているのもあって、なかなか「どっか行け」だの「他の人のオトモになれ」とは言い出せない状況であった。
「ああ、ありがとう。いや…、今日の話し合いの時に、ガイアさんが激昂したのを思い出して…」
「ああ! ディアブロ防具に大剣の、やたらとイライラしていたマッチョのことかニャ?」
「ディアブロ…? ああ、
価値観の違いと言ってしまえば、話はそれで終わる。だが、妙に彼の言葉が心に引っかかるのだ。
『お前らにとっては
SNS等で稀に見る狂気的菜食主義者の言葉とは違う。ガイアさんはその手で生き物を狩り、その命を頂いている、どちらかと言えば菜食主義者とは真反対の人間ではあるが、激昂しつつも泣きそうな、その言葉には強い説得力があった。
そして、彼が言い放った単語を私は聞き逃さなかった。
『〝古代文明〟の二の舞になりたいのか!?』
『……古代文明?』
オカルト好きな人でも、そうでない人も一度は聞いた事があるだろう。私もこの手の話は好きである。その名前はムーだったり、アトランティスだったりするが、先史時代に存在したとされる高度に発達した文明のことを。超古代文明、とロマン溢れる名前で総称されているオカルト話だ。
その全ては何らかの理由で滅亡しているが、ほとんどが進み過ぎた文明故に自滅しているというオチである。自然を反故にすると、それらは己に返ってくるという寓話にも似たこのオカルト話だが、ガイアさんに聞いた限りでは、この世界では単なるオカルトと捨て置くことができないようだ。
曰く〝古代文明〟は〝竜大戦〟なるもので滅んだのだ、と。
ガイアさんやマルコさん、その他の新世界人もこの話を知っていたことから、この話は新世界では一般常識であるらしい。彼らによると、古代文明は〝禁忌〟に触れ、それがキッカケで龍達は一斉に人類に牙を剥いたのだと言う。しかし、人類側も黙って滅ぼされるわけもなく、文明の力をもって龍に反撃し、結果、天変地異並みの大戦争へと発展、やがて両者が滅亡寸前になったところでこの大戦は終結し、古代文明はそのまま崩壊したとのこと。
だが、その〝禁忌〟が具体的に何なのかは、誰も知らないようであった。その内容は学者によって様々な説が唱えられているらしく、中でも、特に有力な説はいくつか教えてもらえたが、正体がハッキリしない以上、危険な行為は慎むべきだろう。
とにかく、日本もこの世界の水準からは隔絶した文明を有する。古代文明のような愚行はしないとだけ伝えたが、ガイアさんは最後まで納得していないようだった。
──そういえば、マルコさんらの調査隊は案内役の
ひとまず、我々は『未知の勢力』との接触を平和裏に終えられた。彼らの目的も総戦力もわからないうちに、こちらから姿を現すのは不安ではあったが、『未知の勢力』もとい『ニホン』もしくは『ジエイタイ』と名乗る彼らが、平和主義であったのは幸運であった。
危険地帯のド真ん中で盛大に演奏をするというのは、普通ならば危険極まりない愚行である。だが、朝田さんの隣に立っていた男によると、付近の警戒はバッチリとのこと。我々が接近していることにも気付いていたようであるし、よほど信頼のおけるカラクリでもあるのだろう。
何よりも驚いたのは、彼らは別世界から、土地丸ごとこの世界に転移したということだ。ユクモ村の伝説を思い出す話だが、国家丸ごとというのは、流石に聞いたことがない規模だ。これなら価値観の相違も仕方がない話なのだろう。
歴戦とは言え、イャンクックは所詮イャンクックだ。なのに、彼らが
この世界に住む我々にとって、モンスターは「自然の脅威」であると同時に「自然の恵み」でもある。それ故に、我々は人類も「自然の一部」だと認識しているが、日本人は文明が進歩しすぎている弊害か、「人間≠自然」と錯覚しているようだった。そうなると、危険なモンスターは全て「
どこぞの古代文明を思い出すような国だ。それとも、ひょっとして彼ら自身が古代文明そのものなのではないか?
真意がどうであれ、彼らには古代文明の二の舞にならぬように働きかけていかねばならない。我々は
この世界でも極小数の人間しか知らない「古代文明が犯した禁忌」の話をしよう。これは歴史の影に葬られた闇の技術であると共に、今となっては、そこそこ地位の高い筆頭ハンターにすら知らされていない真実の話だ。
その名は〝造竜技術〟──
高度に発達した機械技術と生物学を応用し、人間の手で新たな命を造りだすという、素晴らしくも恐ろしい「禁断の技術」である。我々の調査により、ニホンなる国がいた世界では〝クローン技術〟という、使い方次第では十分に禁忌足り得る技術が存在したようだが、
機械技術と素材を用いて新しい命を造る…というのが造竜技術なのだが、つまり、新しい命を造るために別の命を糧とする必要があるのだ。具体的にどれだけおぞましいかと言うと、新しい命を作るために、別の命が30匹分も必要とされていたんだ。
な? おぞましいだろ?
更に追い討ちをかけるような事実として、まず1つ目が、この技術によって造り出されていた命というのが『
実は竜大戦が起きたのは他でもない、古代文明が竜機兵を量産するためにモンスターを乱獲したのが、古龍様を始めとしたモンスターの逆鱗に触れたのが原因だ。
「そのような悲劇が二度と繰り返されないように、モンスターを乱獲する者を
マルコら調査隊が去った自衛隊基地からほど近い場所で、燕尾服に身を包んだ老齢の男は呟いた。