モンスターハンター×日本国召喚   作:BOMBデライオン

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14話:不意遭遇!鎧竜!!

 遭遇戦。それは進行中の部隊が敵部隊と遭遇し、行われる戦闘のこと。特にジャングル等の視界の悪い地形では、そのような戦闘形態が主となり、当然ながら接敵距離は非常に小さい。

 

 だからまあ、「それ」と目が合った時には本気で死を覚悟した。

 

 ビル4階分はありそうな体高。サイのような角、巨体に比して小さい目と翼。岩を連想させるゴツゴツとした体は、戦車砲さえも弾き返してしまいそうだ。このモンスターの名前は確か──

 

「グラビモス…」

 

 そうだ、鎧竜グラビモス。アイルーの絵とそっくりな風貌だ。全身が岩に覆われているように見えるが、あれは外骨格なのだと言う。そのせいか、これだけ近付いていても獣臭がしない。

 大型モンスターは制止していても目立つと言われている。それは単に大きいのもあるが、近くにいるだけでむせ返るような異臭がする方が理由としては適当なのだろう。動物園の比較的清潔なペットですら臭いと感じるのだから、野生の獣から異臭がしない訳がないのだ。

 

「ああ、くそっ。斥候は何やってたんだ…?」

 

「熟練のハンターでもミスはあるものさ。ババコンガも木から落ちるってね」

 

 ガイアが背中の大剣を抜きながらボヤく。その隣には、すでに双剣を構えたマルコさんが立っていた。

 

「さあ、来るぞ! 総員、耳を塞げ!」

 

 マルコさんが叫ぶ。反射的に耳と目を手で覆い、口を半開きにする。敵の砲撃下における対策だ。こんな危機的状況でも自衛隊精神は生きている様だ。

 

 いや、こんな時だからこそか。

 

 直後に、内臓ごと揺さぶられるような音の波がゴッと押し寄せた。もはや爆轟と言って良いレベルの音圧で頭が割れそうで、視界が霞むような気さえした。そんな中、辛うじて見えたのはガイアがグラビモスの脳天に一撃を喰らわそうとしているシーンだった。

 重厚そうな鎧を着たモンスターでも、あの超大剣で殴られるのはさぞかし痛かろう。文字通りグラビモスの顔面に火花が散り、並大抵の攻撃ではビクともしなさそうな巨体が大きく揺れ動いた。

 

「煙幕を張れ!! 散開! 散開!」

 

 その隙に煙幕が張られ、俺達は事前に打ち合わせた通りに散開した。日本人は日本人で、現地組は現地組で…という訳にはいかない。モンスターとの戦闘に慣れていない異世界人がいるんだぞ。一班6人前後の混成部隊が3つ、それぞれ分散した。

 

 ちなみに俺はガイアと一緒の班らしい。全力疾走している俺達に、いつの間にか追いついていた。

 

「ガイア、戦わないのか?」

 

「元G級ハンターと言えど、あんな化け物と真正面から戦えるか! 一瞬でひき肉にされるぜ!?」

 

「ああ、異世界でもゲームみたいにはならないのか…」

 

 異世界の狩人もモンスターとの正面戦闘は基本やらないらしい。するとしても、戦闘経験の少ない若い個体が相手の時だけとのことだ。そういう個体はその種に特有の動きをする場合が圧倒的に多く、攻撃パターンが読みやすいかららしい。それでも攻撃を喰らい、それが致命傷となるハンターも少なくないらしいが。

 ちなみに強い個体の条件は、肉体的な強度は元よりハンターとの読み合いに勝てたり、罠を見抜いたりする個体だそうだ。やはり賢さは力に勝るらしい。

 

「で、俺達は何をすべきなんだ? このままずっと逃げ続けるのか?」

 

「やつが追うのを諦めなかったら討伐するしかねえ! しくじった斥候が落とし穴を設置しているはずだ! そこまで誘引する!」

 

「こんな短い時間にアレがハマる大きさの落とし穴なんて掘れるのか!?」

 

「そういえばお前は異世界人だったな。掘れるさ! こいつがあればな!」

 

 そう言ってガイアは背嚢から2Lペットボトル大の道具を出して見せた。スチームパンク風な見た目の道具の側面には「落とし穴」を意味する異世界語が書かれている。何やら凄そうな雰囲気だ。

 

「こいつは地面に置くだけで巨大な落とし穴を作れるアイテムだ! 地面に置くだけ…と言ったら簡単そうに聞こえるが、そんな易しい代物じゃねえ。

 ここみたいに木の根が多い場所では十分に機能しねえから、障害物の少ない柔らかい地面を探し出して設置する必要がある」

 

 なんだその超技術の塊は…と聞いてて思ったが、彼がそう言うのなら間違いないのだろう。話を聞く限り、この世界の技術発展度はチグハグだ。なんせ、地球で言う古代〜近代レベルにバラついた技術が主なのに対し、一部は現代並、極一部はオーパーツとでも呼称すべき超技術がまかり通っている世界である。とことん異世界だ。

 ただまあ、向こうからしたら日本も「とことん異世界」なのだろう。惑星の裏側の人間とリアルタイムで会話できる光る小さな箱。地揺れに何度も耐える超高層建築物。何トンもの荷物を高速空輸可能な飛行船。どれもこれも超技術の塊だ。なのに、こんなに便利な落とし穴製造器がないと来た。チグハグだ。

 

 そうしているうちにもグラビモスは正気を取り戻し、大木のような脚部で大地を蹴り出した。爆発でも起きたかのような量の土が宙に放り出され、生い茂る林の木々が次々となぎ倒される。それらの木はどう見ても、こちらの方向へと倒れているようであった。

 

「あのグラビ、俺達を追ってきてないか…?」

 

「そうっぽいな! ほうら走れ走れ!!」

 

 ──最悪だ!! 入隊してからかれこれ何年も経つが、最悪の事態は常に胸の内にあった。だがこんな事態(モンスターに追われる)は想定していない!! 

 

 もはや冷や汗が垂れるどころの話ではない。これほどの距離を全力疾走したのはいつぶりだろうか。つい最近のようでもあるし、遠い過去のような気もする。

 

 背中をドンと押された感触はハッキリと覚えている。気付いたら前を走っていた近衛兵らしき3人がいなくなっており、後ろを走るガイアが「やめろ」とか「戻れ」を意味する単語を叫んでいた。

 

 だが今はもう、何かを感じる余裕さえない。

 

 

 酸素が不足し口から吐く息が苦い。心臓が破裂しそうだ。

 

 

 視野は狭くなり、何も考えられなくなる。

 

 

 

 正面以外にどこも見れない。

 

 

 

 

 もはや走っているのかすら分からない。

 

 

 

 

 

 地響きがすぐ後ろで──────

 

 

 

 

 

「間に合った! そのまま突っ走れ!」

 

 離れつつあった意識を虚空から引き戻したのは、木の上に立つ女性であった。彼女の顔は見覚えがある。筆頭ハンター隊の1人だ。

 ということは…と思い、すでに感覚のない足の下の地面を見ると、そこには大地ではなく薄い布が敷かれてあった。網目が非常に細かい半透明な布だ。

 

 これがこの世界の〝落とし穴〟か! 

 

 …と感激したのも束の間、軽自動車がスッポリと入りそうな程度の小さな穴はすぐさま視界から消え去り、次にやって来た感情は〝不安〟であった。

 

「あんな小さな穴にグラビモスがハマるのか!?」

 

 後ろにいるガイアに向かってそう叫んだ。そのさらに奥にはグラビモスの恐ろしい顔が見えており、不安は絶望へと切り替わる。しかし、彼はすでに勝ちを確信していたらしい。

 

「まあ見てなって」

 

 追われる対象と同様に全力疾走をしていたグラビモス。その右足のみがスッポリと穴に落ち、巨大な岩石の体が地面を擦る。鉄骨が折れるとも形容できる鈍い音と共に、グラビモスは金切り声を一帯に木霊させた。

 

「…ああ! なるほど! 走ってる時に片足だけ深い穴に突っ込ませて…足を折ったのか! なるほど! これならもう追って来れない!」

 

「──それだけじゃないぜ?」

 

 木から吊るされた複数の樽がグラビモスに直撃し、直後に大爆発を引き起こした。噂のタル爆弾だ! すげぇ! 

 

()()は古来、悠久の時からハンターの狩り庭。先の狩人達が遺した物品、設備が至る所に存在するフィールドだ。ちと火薬が湿気てたっぽいが、大タル爆弾G…。なかなかの威力だ」

 

 ガイアも決めゼリフが決まってご満悦の様子だ。

 

「ああ…、すげーよ。ハンターってのは…」

 

 大剣、鎧を含めて300キロ以上もある装備で以て怪獣の頭部を殴りつけ、ドンピシャの位置に絶妙な大きさの落とし穴を掘り、目標が倒れる場所さえも完璧に把握していた。筆頭ハンターという全ハンターの頂点に君臨する彼らの勇猛さ、経験値、知略の全てを存分に見せつけられた。

 

 これが〝モンスターハンター〟…!! 

 

 思わず身震いをしてしまう。ああ、もう何で日本に生まれてしまったんだろう。出来ることならば、この世界に生まれ落ちたかった。そして俺も彼らのようなモンスターハンターになりたかった。今の俺は、大リーガーのプレイを間近に見た少年だ。

 

「転職……。考えようかな」

 

「おいバカ、それはオススメできないぜ。それで命ごと破産したやつはごまんといるんだ」

 

「もちろん冗談だ。冗談だけどまあ、もし機会があるなら…?」

 

「やめろ…。絶対にやめとけ…」

 

 ──そんな風に冗談を飛ばして笑ったのも束の間。俺はこれから起きる出来事でこの世界の厳しさを思い知ることになった。死をもたらす存在が身近でない国で生きてきた俺達は、この世界ではぬるま湯に浸かる赤ん坊に等しい。俺は、フェンス外で目を輝かせる少年のままでよかった。

 

「おい、様子が変だぞ…」

 

 息絶えたように思われたグラビモスから、地を這うように黒い煙が漂う。

 

 それは、世界が大きく変わる狼煙だった。

 

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