モンスターハンター×日本国召喚   作:BOMBデライオン

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5話:マタタビ採集クエスト

 次の日、新大陸調査隊のうち比較的近場の調査を一任されたA班は異常なまでの士気の高さが見受けられた。その理由は言うまでもなく、昨夜のネコである。

 

 件のネコは得体の知れないムキムキマッチョ集団が突然大声を上げた事に驚いてしまったのかすぐに逃げてしまったが、あんな癒し成分が存在すると分かっただけでも心が踊るような気分だったと隊員は後に語る。派遣先が怪物だらけの地獄のような世界かと覚悟していた矢先、初めて遭遇した生物が天使なのだから無理もなかろう。

 

 ちなみにキャンプ地の防衛を担う班は、いつでも写真を撮れるようスマホを一人一つ携帯する事となっている。ネコがいたという情報だけでは本国にいる上層部や報道局が満足しないため、その存在を証明する画像も提示する必要があったのだ。

 

 話を探索班に戻すとしよう。周囲の調査や探索を担当する探索班は3つ組織される事となった。

 1つは主に学者陣で固められたキャンプ地付近の調査を行うA班。もう2つはキャンプ地から程遠い場所を探索しつつ、付近に危険が無いか調査する完全武装の自衛隊員のみで構成されたB班とC班だ。

 何の武装も持たない学者達を、いきなり安全の確認が出来ていない奥地へと投入するより、比較的安全であろうキャンプ地付近で調査をさせた方が良いと判断された結果であった。

 

 とりあえず、彼らの動向を見ていこう。

 

 まずは探索班A。獣道すらない密林をウキウキでスキップしているのは生物学者だ。彼は同じ班の自衛隊員とは少々違う理由でテンションを爆発させていた。

 

「はぁ〜! ネコ! ニャンコですよ! 異世界なのになぜネコがいるのでしょう!」

 

 もちろん彼も動物好きである以上、ネコは大好きである。あの天使の姿をもう一度拝みたいし、出来るのであればモフモフしたいとさえ思っている。

 だがそれよりも、地球とは明らかに生態系の異なる世界に、地球の生物である「ネコ」が存在している謎を解明したい一心で、彼は道無き道をルンルンでスキップしているのだった。

 

「ふ〜む……。私が今踏んだ草も、貴方が踏んだ草も地球では見ない種ですが、どんな奇跡的な確率で地球の植物に酷似した見た目へと進化したのでしょう」

 

 やや疲れ気味の顔で隣の植物学者が呟く。するとそれを聞いた付近の学者陣は続々と集まり、大自然の懐である一種の学術会議が始まった。

 

「そもそもここは別世界だと言うのに、別世界の生物である我々が平然と生きていられる方が私は不思議だと思います」

 

「もしかしたら別世界ではなく、同宇宙の地球に似た環境の惑星かもしれません」

 

「地球と似た環境となると猿に似た生物もいるかもしれませんね。どんな神のイタズラか猫がいましたし」

 

「となると人類のような猿から進化した知的生命体がいる可能性もありそうですね。存在するとしたら彼らの文明レベルはどれくらいなのでしょうか」

 

「千葉県の怪獣のような生物にとっくに滅ぼされているかもしれないぞ。地球人類の祖先は恐竜時代を生き延びたが、この世界の恐竜は戦闘能力が高すぎる」

 

 それは概ね同意する、と満場一致で学者陣の心が決まった。映画に出てくる都市1つを容易く壊滅させるような怪獣並の脅威はないにしろ、ヒグマを捕食する巨大昆虫や平気で人間を襲う害鳥がいるのだから、生物的に見たらひ弱な人類がこの世界を生き残るのはかなり厳しいかもしれない。現に技術が進んだ日本国ですら怪獣相手の生存競争で死人を出しているのだから。

 

「でもその説だと、ネコもとっくに滅ぼされているのでは?」

 

 この一言により議論は沸騰、そのまま平行線を超越し、太陽よりも熱い舌戦が繰り広げられる事となる。この戦争に終止符が打たれるのには数十分の時間が要せられ、議会は「もっと調査を進めてから議論しよう」という結論を経て解散となった。

 

 


 

 

 一方こちらは調査B班。やや軽装ながらも完全武装の彼らは、舌戦を繰り広げた学者達のいるA班のいる場所から見て、数キロ奥へと進んだ森の中を突き進んでいた。

 

 行けども行けども森、森、森という環境。気温と湿度がそこまで高くないのは幸運だったが、万が一迷いでもしたら最後、二度と日本の地を踏むことは叶わないだろう密林が広がる。GPSが無いため現在地を知ることさえも出来ず、コンパスと測量機、キャンプ地との無線交信を頼りに地道にノートを記録する作業が続いていた。

 

 道なき道をひたすら進むだけ。これと言った成果はなく、強いて言うなら道中で見つかった空よりも青いキノコや、新世界生物らしき死体のサンプルの回収に成功した事くらいだった。だが幸いにも怪獣の襲撃や現地人との遭遇と言ったハプニングも何も起きず、探索は順調であった。

 

 しかし──

 

「うーん、退屈だな…」

 

 最初はどんな化け物が現れるかと恐々とし、どんな小動物よりも強い警戒心を漂わせていた彼らだが、人間の慣れとは何よりも怖いものである。今では彼らは石橋を渡る前に叩くことさえもせず、地中に半ば埋まる形で存在する得体の知れない岩石に腰掛けてしまう程であった。

 

「お、マタタビの木だ」

 

 岩に座る隊員が頭上を見上げる。赤みがかった暗灰色の樹皮に、表面がやや白っぽい丸みを帯びた葉。そこには地球で生えているのと全く同様の見た目をしたマタタビの木が生えていた。

 低木であるマタタビだが、その高さ2メートル以上になる場合も多い。今回見つけた木は枝が少々高い所に生えていたため、肩車をしてようやく果実や枝葉のサンプルが回収された。

 

「ん、やっぱ不味くはないが美味くもないな…」

 

「舌がピリピリする所も実家のと同じだべ」

 

「いや食べんなよ…」

 

 久しぶりに起こった出来事らしい出来事。対して美味しくもない熟れたマタタビの実に渋い顔をしつつも、彼らの気力はある程度回復された。

 

「昨日のネコと言い、妙な所で地球との共通点があるもんだな」

 

 しかし注意力が散漫になっていたためか、彼らはすぐ傍でマタタビの果実をジーッと見つめていた動物の存在に気付かなかった。

 

 〈ニャア…〉

 

 自分がここにいることを気付いて欲しいとでも言わんばかりに、聞き覚えのある鳴き声が木陰から発せられる。日本人目線ではただの猫であるが、この世界では『アイルー』と呼称されるモンスターの一種であった。

 

「あ、昨日のネコ!」

 

 ある隊員が指をさす。突然発せられた大声にネコは驚き、すぐさま木の裏からこちらを伺うように隠れてしまった。

 その一連の動作を見て、隊員達は言いようのない違和感を感じた。何も間違っていないはずなのに、何かがおかしかったのだ。

 

 その全容は木に隠されており、隊員達の方向からはネコの頭と前足しか見えていない。だが、何度見直しても目の錯覚ではないかと思うほどに、その生き物は地球のネコがするような立ち振る舞いではなかった。

 

「…猫じゃないな? このネコ」

 

「見た目はネコだけど………えッ!?」

 

 しばらくしてからその全身を現したネコを見て、隊員達は息を呑んだ。彼らの言う通り、その生物の見た目は地球の猫と酷似している。しかし2本の足で直立歩行をしつつ、前足で石器のような道具を持つその姿は、日本人にとってはまさしく未知との遭遇、疑いようのない知的生命体のそれであった。

 

 昨夜は茂みから顔を出してこちらを伺っていただけなので、手に持っている道具や身体特徴が見えなかったのだ。そのせいでネコがいると誤解されてしまったのだろう。まあ確かに、見た目はネコそのものなのだが。

 

 〈×××××××××!〉

 

 表情豊かに、目の前のアイルーは喋り始める。

 

「…なんだ? 喋ってるのか?」

 

 道具を使い、言語を操る。もはや疑う余地は無い。姿は猫でも、これは知的生命体だ。しかし当然と言えば当然だが、アイルーの言葉は日本人には通じなかった。

(そもそも同じ地球人ですら言語が通じない事が多々あるのに、別世界の住人が都合よく日本語を話している訳がないだろう?)

 

 言葉が通じない事にアイルーはガックリと項垂れる。

 やや大袈裟な感情表現が非常に可愛らしかった。

 

 だが、しばらくしてからアイルーは何かを思いついたのか、手に持った石器で地面にガリガリと絵を描き始めた。隊員達は、生まれたばかりの娘のお絵描きを見守るような気持ちで周りに集まる。

 

「知能は高いようだな。人間と同じくらいかもしれんぞ。少なくとも小学生程度はある」

 

「これは…木か? 木の上の丸いのは木の実か? 木の実を食べる?」

 

 そこそこ上手い絵に関心しつつも、その場にいる隊員達は謎解きを始める。そうこうして、このネコが「マタタビの木の実を取ってくれ」と言っている事が判明した。

 

「なんだ、お安い御用さ」

 

 まるで自分の娘の願い事を聞くような顔で、完全武装のマッチョ集団がマタタビの採集をし始める絵面はシュールのひとことに尽きる。それでもアイルーの目はキラキラと輝いており、時折待ちきれないような表情で跳ねる様子が動画として保存された。

 

 しばらくして大量の木の実が集められ、アイルーによるマタタビ採取クエストは完了される。アイルーは背筋をピント伸ばしてからキチンと一礼をし、ラグビーボールよりも巨大なドングリを隊員に手渡してから、そそくさとどこかへと走り去って行く。アイルーが去った後の森は酷く静かに見えてしまい、隊員達はまるで夢から覚めたかのような感覚を覚えていた。

 

「あ、しまった。GPS機能の付いた発信機でも付けとけば良かったなぁ」

 

「だから衛星ないんですって」

 

 後にキャンプ地に戻った彼らから伝えられた情報は、すぐさま防衛省経由でマスコミに伝えられ、夕方のニュースで報じられた猫型知的生命体の存在は全日本国民の知るところとなった。この世界にはネコの姿をした知的生命体がいるとネットは再加熱し、何故かペット用品が爆売れしたのはまた別のお話。


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