モンスターハンター×日本国召喚   作:BOMBデライオン

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7話:折れた太刀

 例え大航海時代に行われたような数多の冒険の記録を知らなくとも、未知の場へと赴く旅に危険は付き物であるというのは誰もが知っているだろう。

 主に自衛隊で編成された調査隊の前途も、困難な道のりであることは想像に容易い。未知の怪獣に支配された土地、乏しい補給品。存在は是非は不明だが、現地住民との対立などなど…。

 

 だが実際に調査隊に降りかかった危険の度合いは、成熟した科学文明時代の真っ只中かつ超平和な生活しか経験したことのない日本人の想像を遥かに上回っていた。大船に乗り、雄々しく出港して行った自衛隊の姿を見送った時点で、いったいどれだけの日本人が想像できたであろうか。

 

 まさか新米ハンターの訓練にも使用される、初心者向けのモンスター相手にこれほどの負傷者が出るとは……

 

 


 

 

「道を開けろッ! 野外手術システムへの搬入を急げ!」

 

 基地にあるヘリポートに着陸した機体から耳をつんざくような男の絶叫が響いた。次にその場に姿を現したのは、駆け足で担架を運ぶ2名の隊員。担架の白いシーツは一部が赤く染まっており、それに乗せられた迷彩服の男は苦悶の表情を顔に出していた。

 

「たっちゃん! 目を閉じるなや!」

 

「手術室まで少しだ! 絶対に死ぬなよ!」

 

 横を並走する隊員らは目に涙を浮かべて担架の男の手を握る。その時点で基地を防衛する大多数の隊員らに前線の状況は知らされていなかったが、誰もが次々と搬送される怪我人の姿を目にして劣勢の状況を連想し、銃を握る手を強張らせた。

 このような惨劇にもある程度は慣れたはずの戦場カメラマンも、見慣れた迷彩服の男らが血に包まれているのを見て酷く動揺したと後に語る。刺繍された日本国旗が赤く染まっているのを見て、胸がざわめくような気持ちを覚えた、と。

 

「負傷兵が18、無事な隊員は77名…」

 

 一方、やや血の臭いがする騒々しいヘリポートとは反対に、指揮司令所が置かれた緑色のテントでは調査隊の最高指揮官が必死に頭を捻っていた。アイルー達でも狩れない事はないが、緊急時でない限り戦うような相手ではないジャギィの群れ。そんないわゆる雑魚モンスター相手にこれだけの被害が出た原因を彼は必死に考えていたのだった。

 

「…ダメだな、手付かずの大自然が邪魔すぎる」

 

 降参するように両手を軽く上げ、本土から送られてきた代用コーヒーのカップに手をつける。分散せざるを得ない前線部隊をどうにか支援できないものかと彼は考えていたが、場所が場所だけに、航空機からの物資投下くらいしか有効な手立てが無いのが現実であったのだ。

 空爆、砲撃は明確な目標があればこそ効果は絶大だが、どこに居るかもわからない敵に対してその効力は皆無。ベトナム戦争での米軍のように、質を量で補うような作戦を自衛隊が出来れば良いのだが、攻略目標付近にはアイルーらの集落もあるのだ。闇雲に爆撃をする訳にもいかない。

 

「いっそのこと森を焼き払いたいくらいですね。人体に無害な枯葉剤でもあれば是非とも使いたいくらいです」

 

「侮っていた訳ではないのだがな。大型犬よりも多少デカいってだけの恐竜モドキがまさか、密林ではこんなにも脅威になるもんなのかとビックリしているよ」

 

「学者以外に猟師でも連れて来るべきでしたかね?」

 

「それは悪くないな。ちょうどいい、知り合いの祖父に元マタギがいるんだ」

 

 そんな冗談を言いつつも指揮を取っていると、遂に転機が訪れた。現場にいる部隊から『攻略目標を見つけました』との無線が入ったのだ。指揮官はすぐさま無線通信員に諸々の事情を尋ねさせ、それと同時に基地で待機している『AH-1S コブラ』数機に即発進の報を入れる。

 

「でかしたぞ! ドスジャギィの大きさなら空からでも狙いやすい! まだ手を出すなよ、すぐに攻撃ヘリを現地に──」

 

『いえ、それが……』

 

 直後に無線器から発せられた言葉には、誰もが大きな困惑を持って聞き迎えた。

 

『ドスジャギィは…長刀? と矢が至る所に刺さっていて、かなり出血しているようです。刀は途中で折れてますが、我々の姿を見ても唸るだけで何もしてきません』

 

「は?」

 

 その無線を聞いていた誰もが素っ頓狂な声を出した。それが本当ならば、自分達以外にもドスジャギィを狩ろうとしていた人達がいると言うことになるのだ。

 無線を介しても困惑しているのが容易にわかるほど、現場も意味不明な状況に陥っているらしい。何せ、日本人以外にはアイルーぐらいしか知的生命体はいないはずなのに、それとは別の第三勢力が現れたのだから。

 

『どうやら我々日本人とアイルー以外の知的生命体と戦って重傷を負い、命からがら逃げてきた先で怪我が悪化したようです。もう立ち上がれないくらい足が壊死しています』

 

 戦えない群れのボスを守ろうとしているのか、それとも単に自暴自棄になっただけか、ドスジャギィの周りにいたジャギィとジャギィノスは自衛隊員の存在に気付いた直後に騒がしく喚きながら特攻をし始め、次々と銃撃の前に倒れて行った。

 

「刀と…矢が刺さっていると言ったか? 見間違いではないのか?」

 

「いえ、何度も確認したらしいのですが間違いないとの事です。刀はかなりの長さらしく、1.2m以上はあるそうで…」

 

「折れてて120cm以上もあるのか? 日本のどんな大太刀よりも長いではないか!?」

 

「どんな筋骨隆々の男が使ってたのでしょうか…」

 

 自衛隊基地と交流があるアイルー村のネコたちは、滅多にしないが弱い獣なら狩るらしい。その時に使う武器は全てが原始的な石器で、他所の大きめの村に行けば鉄製の武器を使うアイルーも見かけることができるらしいのだが、こんな巨大な──人類最大級の大男が使うにしても大きすぎる──長刀をとてもではないがアイルーらが使うとは思えない。

 

「しかも矢だと? アイルーは弓矢を使わないぞ!」

 

 アイルーの遠距離攻撃の手段はブーメランだけであると聞いた。その小さすぎる体では弓を用意したとしても引けないからだ。

 余談だが、そんな弱点を補うかのようにアイルーは全員がブーメランの扱いに熟達しており、その腕前は百発百中。自分の体並みに大きいブーメランを全身を使って巧みに扱いこなし、以前に調査の一環でそこそこの厚さがあるベニヤ板を遠距離から割った時は、大勢の隊員から大きな拍手とカメラのフラッシュが向けられたものである。

 

「こうも証拠が出揃っていると、例の〝新世界人類不在説〟はほぼ否定されたようなものです」

 

 やや紅潮した顔で部下がこちらを向いた。

 

「この世界にも人類は存在します…!」

 

 アイルーとの接触以後、現地でも本土でも唱えられていた〝新世界にはヒト型知的生命体が存在する〟という説。この説が唱えられ始める事となったのは現地の隊員がアイルーとの接触を果たした後であったが、それ以前にも新世界人類の存在を裏付けるような証拠は少なからず出ていたのだ。

 例えば旧日本海側の海岸に漂着した〝緑色の液体が入った瓶〟。恐らく植物や菌類由来の滋養強壮成分と、ハチミツらしき物で構成されたこの怪しげな液体は、後にアイルーとの交流で文字の大部分が解読された事により〝回復薬グレート〟と書かれていることが判明した。

 

 他にも、初めて日本人と接触したであろうアイルーの態度からも新世界に人類がいる可能性は指摘されていた。友好的か敵対的かはさておき、こんな怪物だらけの森で未知の生物に会った時、いきなり接触を図るような愚行を生き残る事に関してプロであるアイルーがするはずがないのだ。

 そして、遂にその説を強力に裏付ける証拠がほぼ同時期に現れた。アイルーによる依頼書に書かれていた〝ヒトさん〟という単語と、例のドスジャギィに突き刺さっていた長刀と矢である。

 

「なぜ我々の他にも人類がいる事を今まで黙っていたんだい? 我々が一番知りたかったのはそれについてだったんだが」

 

 アイルー同士でしか使われないアイルー語の他に存在するもう一つの言語──一般的に新世界言語と呼ばれる──を用いて、ある程度の会話はできるようになった日本の外交官、朝田は優しく語りかける。

 

「申し訳ないニャ…。緑のヒトさん達が一番知りたがっている情報こそが、最も強い交渉カードになるって村のリーダーさんが言ってたんだニャア…」

 

 ドスジャギィ狩猟依頼が受理されて以来、自衛隊基地に常在するようになった所謂(いわゆる)アイルー村全権委任大使〝ニャン太郎〟は頭をポリポリとかきながら弁明した。

 

「それよりもだニャ! ドスジャギィの群れから村を救ってくれて本当にありがとうだニャ! 依頼書にあった通り、ボクたち村のみんなは緑のヒトさんのオトモになるニャ!」

 

 それを聞いた外交官は何やら肩透かしを食らった気分だったが、今は真っ先に調べる事があるため、彼は抱いた疑問を無理やり押し込める。

 

「オトモという未知のワードは後で質問するとして……ニャン太郎くん、君も知っているように日本人は最近、食料が取れなくてすごく困っているんだ。一刻も早くこの世界に住む人間さんと話し合いがしたい。どうか協力してくれないか?」

 

「お安い御用ニャ! ボクはもう朝田さんのオトモだニャ! ボクが知ってることなら全部教えるニャ!!」

 

 ようやく光明が見えてきた、と朝田を含めその場にいる全日本人は安堵した。自分達と同じような人間がいるなら、食料やその他の資源も貿易可能かもしれない。

 

「よし、じゃあ早速その場所に連れて行ってくれ! もはや一刻の猶予もないんだ!」

 

 だが早速出かけようとする朝田に、ニャン太郎は待ったをかけた。

 

「まあまあ、少し待つニャ旦那さん。急がば寝て待てって言うニャ」

 

「旦那さ…? それを言うなら急がば回れだろう」

 

「そうとも言うニャ」

 

「それよりも、待つって何をだい?」

 

 朝田がそう尋ねると、直後にニャン太郎は腰の部分に両の手を置き、ドヤ顔をしてみせた。

 

「緑のヒトさんが海の向こうからやって来た日に、大慌てで村を出たアイルーが一人いたニャ。もうそろそろハンターさんか誰かを連れて、ここに来るはずだニャ」

 

「「なっ──⁉︎」」

 

 この時期を境に、日本を取り巻く環境はますます激化していく──

 

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