『これから起こるはずのことを―――――なんて言っていいのか…。カルデアに入館する時に夢で見た?』
その子はまだ大人になりきれていないような青年で。未来を見た、なんて言ってしまう彼に全く疑いを抱かなかったわけではない。それを解決してくれたのが、一人のサーヴァントであり。
『サーヴァント、ライダー。色々あって二代目になったダ・ヴィンチちゃんだ』
――――未来から召喚されたサーヴァント。
ダ・ヴィンチちゃんが秘密裏に製造していた、『未完の馬』ことグラン・カヴァッロを基にした人工サーヴァント。彼女の話す『色々』の部分は納得のいく部分が多く―――太鼓判を押したレオナルドを信じるのならば、彼も信じられるということになる。
『要は、未来の君を夢を通じて“こちら”に叩き込んだってことだろうね。東洋風に言うと胡蝶の夢ってやつかな。もしかすると死んだら目が覚めて元の世界にいるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ほぼ第二魔法の域のようにも思えるけど、レイシフトにも酷似している。――――多分、君の異常なレイシフト適性に起因してるね』
レイシフト適性、驚きの百パーセント。
レイシフトしようが世界に全く気づかれない、単独顕現に匹敵するような希少性は即座にカルデアがスカウトを決めるだけのことはあったようだ。
『というか、私も妙にはっきりと未来のことを覚えている。君に引っ張られて君に縁のあるサーヴァントが引きずり込まれているのか、アビゲイル女史が何かしたのか。ここからでは推測だけになってしまうね。こういう時に限ってあの名探偵はいないし』
『ふーん。とりあえずなんで私が死んだか聞いてもいい? 一応備えはしっかりしていたつもりなんだけど、強化したほうがいいかもだ』
『えー。それだと私の出番が無くなっちゃうだろう? まあ人理修復して一年後に査問だからまだ時間はあるよ』
『うわ、聞きたくない。人理修復して終わりじゃないのかい?』
レオナルドと小さいレオナルドが熱心に話し込み始め、ひどく懐かしいものを見たような顔をした彼に、小さく覚悟を決めて。
ああ、そうか。でも――――僕は。後に続くものを残せたのか。
その目には、隠しきれない信頼があった。
こんな、誰も信じられない。信じていないような男に。命を預けあった戦友に向けるような、なんてことのない話のできる友に向けるような。
レオナルド以外に、そんな相手ができるとは全く期待していなかった。
『―――――さしあたって、何か欲しい物はあるかい?』
『とりあえず例のマギ☆マリってどんな感じなの? ちゃんと見る機会なくて』
『見るかい!? いやぁ前回のは特に良くってね―――――』
『こ、これは―――――』
―――――――――――――――――――――
ソロモン王に人間性はなかった。
彼は生まれた時から神の声を聞く王として扱われた。彼に自分の意思は一秒もなかった。
人として世界に関わることなく没した彼に、『人間』という自由は与えられなかったのだから。
だから、だろう。『人間になりたい』という願いを、聖杯によって叶えたのは。
ロマニ・アーキマンになってからの時間は素晴らしいものだった。
魔術回路もなくなって、千里眼もなくなって、本当に自由に、自分の意思で生きることができた。
浪漫という言葉、未来を夢見る自由。より善い明日を求める心。そういうものが我々の後にできたのだと実際に体感できて嬉しかった。
―――――十年かぁ。あっという間だったなあ。
けれど、藤丸君がいる。
彼が立派なマスターになってくれれば、ボクのいた意味がある。
それはボクが人間として得られる、最大の存在意義だ。これまで過ごした自由に、酬いるに余りある。そう、思っていた。
「キミの十年。人間になってしまった時に見てしまった『人類の終わり』を回避するため、逃げるように、悲鳴を上げながら走り続けた」
「浪漫なんてどこにもない。その地獄のような
「「―――――ドクター!」」
聖杯を用い、神代の魔術を使えるサーヴァントたちの全面協力により実施されたマシュの延命。それが終わり、駆け込んでくる青年と少女。
それを出迎えようとした男は、口を開こうとして、何の言葉も出てこず困ったような笑みを浮かべて後ろを振り返った。
「さあ、それが自由だよロマニ・アーキマン。何をしてもいいし、しなくてもいい。どうせキミのことなんて、私たちはよく知っている! 今更失望するところなんて有りはしないさ! さあ、キミのしたいことを伝えてくれたまえ! この万能の天才と――――」
「人類最後のマスターと」
「不肖、マシュ・キリエライトも全力でサポートいたします!」
「フォウ、フォーウ!」
「――――ああ。そうだね。じゃあ、空を見に行こうか。マシュ、君が見たいと言っていた青空が、今ならきっと見える気がするんだ」
「……ドクター、それ千里眼?」
「ああっ、さっきソロモンに戻ったせいで若干千里眼が――――あるようなないような!? どうしよう、レオナルド!」
「いやはや全く、締まらないものだねぇ」
――――――さあ、新しい
手にした自由は、掴みどころがなくて頼りなくて。
転んでしまいそうで不安になるし、どちらに進めばいいのかもよく分からない。
けれど、その代わりに。
手を握って共に歩いてくれる仲間がいる。
万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
デミ・サーヴァント、マシュ・キリエライト
人類最後のマスター、藤丸立香。
カルデア司令官代理、ロマニ・アーキマン。
そして、フォウ君も。
皆の手を握っているかぎり、ボクたちはあらゆる困難を乗り越えるだろう。
全能は、人の手には遠すぎるけれど。
例えこの先に、どんな嵐が待っていても。どんな未来が待っていても。
「だって、わたしたちの旅は続きます。とりあえずは、あの地平線の彼方へ! それが叶ったら、もっと先へ。更に先へ。それが私たちの、いえ、人間の基本
「未来への不安も、悲嘆も、すべては希望の裏返しでした。だからまた、きっと多くの冒険が待っています」
「行きましょう、マイ・マスター。何が待っているか分からない、あなたが取り戻した、新しい年に向かって―――――」
ああ、空がこんなにも青かったなんて。
こんなにも、世界が広く感じるなんて。
さあ、冒険を始めよう。前人未到でなくてもいい。ボクの知らない世界へ、一歩踏み出す。
――――――――――――――――――――――――
「――――というわけで、約束の令呪なんですけど」
……カーマさんや、もうちょっとだけ待てなかったのだろうか。
「なんですか、その不満そうな顔は。―――はいはい、どうせわたしは空気が読めない愛の神ですよーだ。……というわけで、マスターさんが今一番私にしてほしいことを正直に教えて下さい」
…………なんでもいいの?
「ええまあ、私なりに貴方の献身に酬いてあげようかなー、なんて気まぐれです。どんな
………絶対嫌がると思うんだけど、本当にいいの?
「――――!? ……へ、へぇー! マスターさんにして気が利いて―――じゃなくて、そんな厭らしーい願いを考えちゃったんですかぁ…? ま、まあ世界を救った仲ですし、一応真面目に叶えてあげますから言ってみて下さい」
………じゃあ、こういう感じでよろしく。
「……………というかそれ、どうかと思うというか……無駄な労力というか……赤兎馬に蹴られて地獄に落ちて下さいマスター」
よし、作戦名・オペレーション『ドクターとダ・ヴィンチちゃんをくっつけるキューピット作戦』開始!
「って何回“作戦”ってくっつけてるんですか!? というか百歩譲って愛の矢とか…」
それじゃ駄目だ。
いやあの二人絶対できてるというか夫婦じゃないかと思うんだけど、強制するものじゃない。ただ、そっと手伝いをしたい―――――そんな気持ちなんだ。
そして、それを叶えられるのは多分愛の神のカーマしかいない!
「(言えない…っ! この依代の私に恋愛経験ゼロとか口が裂けても言えない……っ! 愛の矢頼りの神とか事実だけど思われたくない……!)」
さあ、魔術王ソロモンを攻略しに行こう――――!
後書き
長い旅路、私にとって未知の旅路である人理修復にお付き合いくださり本当にありがとうございました。
彼らの人理修復はこれで終了となります。
いつかまたお会いできることを願って、此処に筆を置かせていただきます。
どうか皆様の旅路にも幸福があらんことを。