俺たちのカルデアは最強なんだ!   作:アマシロ

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悪性隔絶魔境新宿Ⅱ

 

 

――――バレルタワー。

 

 

 

 この悪性隔絶魔境新宿の“中心”にして、終着点。

 弾丸を撃ち出すのではなく、魔弾を呼び込む塔。本来であれば七発目――――所有者の大切なものに命中してしまうそれを利用し、隕石をカルデアのマスターにぶつけるという大掛かりな罠。

 

 

 それが早くも破れたことを察した“教授”はしかし、動揺することなく“仲間”を見渡した。

 

 

 

「ライダー。アーチャー。そしてアサシン」

 

 

「先程結界に反応があった。どうやら、予想通り人理修復のためにカルデアがマスターを派遣したらしい。……レイシフトの座標をクラッキング、修正して落下するように調整してみたが、上手く行かなかったようだ――――さて、どうする?」

 

 

 

 

 その言葉に唸り声を上げたかと思えば、巨体に見合わぬ俊敏性で飛び出したのはライダー。

 

 

 

 それを見送るサーヴァントたちだが、誰も驚きはない。

 

 

 

 

「ふむ。猛っているなライダーは。無理もないが」

「ははははは、それはまあ行くだろうなあ。ライダーにとっては、我らも含めて全てが敵。大っぴらに殺せる敵が現れれば、それはまさしく意気軒昂! ――――そも、あれにカルデアのことを伝えればああなっちゃうってことは読み取れたんじゃない?」

 

 

 

 淡々と事実を確認するようにつぶやく教授に、黒い影のような男―――アサシンが笑いながら言う。黒い影のようというが、事実、その姿はまるで定まりきっていないかのように、とらえどころがない。

 

 

 

「まあ、大方はね。それで―――“同盟”としてはどう動くつもりかな?」

「いやもう、さっさと潰しちゃえばいいんじゃないのーって気はするけど! するの? やるの? だったら俺ァやりますよ!!」

 

 

 

「もう一人のアーチャーよ。君はどう思う?」

「オレが口を出す必要はあるのか、教授? アンタの中ではすでに意見も対策も組み上がっている。なら指示をしろ。適切に殺してやる」

 

 

 

「なるほど、確かにそうだ。友や同胞に意見を求めて己の意見を翻すような私ではないな」

「―――――ンンンン、成程。成程。では、拙僧にも指示を頂けますかな?」

 

 

 

 不意に響いた声に、教授がわずかに眉を顰める。

 先程までライダーがいた付近に忽然と姿を現したのはあまりにも派手な袈裟らしきものを羽織った偉丈夫。邪気を纏い、明らかに尋常のサーヴァントではないその様子にアーチャーが銃を構え、教授も警戒した様子を見せつつ口を開く。

 

 

 

 

「貴様……何者かね? 呼び出した覚えも、招いた覚えもない客人に渡すものなど魔弾くらいのものだが」

 

「何者、とな。これは異なこと。“憐憫の獣”の残滓でありながら、“異星の神”の使徒をご存じないなど―――――夢にも思わず、これはとんだ失礼を。拙僧はキャスター・リンボ。異星の神の使徒として召喚されたサーヴァント。以後お見知りおきを」

 

 

 

 その言葉に、初めて教授の顔が歪む。

 

 

 

「獣――――異星の神――――貴様ッ!」

 

 

 

 いや、顔だけではない。

 姿そのものが変わる。教授の姿から、憐憫の獣―――ゲーティアに近しい姿に。

 

 カルデアを欺くため、己の記憶を消していた魔神柱、バアル。その偽装工作をあっさりと看破され、記憶を取り戻してしまった以上は姿を偽る意味もない。

 

 

 

 そもそも、ゲーティアが人理焼却の期間を定めた原因――――未来に待つ破滅、人理白紙化の原因たる異星の神、その使徒を名乗るサーヴァントに戦闘態勢に入るバアルだが、それに対してリンボはまるで気にした様子もなく肩を竦めて見せた。

 

 

 

「おや、これはこれは。貴公はカルデアへの、その最後のマスターへの復讐のために働いていると思いましたが――――たかが“以前の敵”に出会った程度で“意見を翻す”など。ンンンン、拙僧としては誠に遺憾ではありまするが。望みとあらばお相手いたしましょう」

 

 

 

 

 それは、先程『友や同胞の意見では自分の意見を翻さない』と言ったバアルへの皮肉であり、同時にその目的を把握しているという脅しでもあった。

 そもそもの潜在的な仮想敵か、実際に煮え湯を飲まされた怨敵か。僅かな逡巡の末にバアルは口を開く。

 

 

 

 

 

「―――――貴様。貴様の目的は何だ」

「それはもちろん、拙僧の(マスター)に勝利を献上することにございますれば」

 

 

 

 

「拙僧、これでも宮中に近しかった身なれば、多少は陰陽術などに心得がありまする。ささ、お任せなされ。お任せなされ……」

 

「………良いだろう」

 

 

 

 

 あまりにも邪悪な気配を漂わせるコレを、バアルは当然ながら信用はしない。

 だが。魔神柱として“異星の神”が間違いなく人理の敵であることは知っており。敵の敵、毒を以て毒を制する気持ちであった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――――マスター! 凄いね、この街! グロスターよりも明るくて……活気は、ないけれど」

「本当は活気もある街なんだけどね。特異点だから……」

 

 

 

 先程不審なアラフィフを湖の聖剣で着地狩りしたビルの屋上を降り。

 興味深そうに周囲を見渡すメリュジーヌだったが、ふと何かに気づいたように右手を上げ。アロンダイト――――をしっかりと精製せず、あえて半端にすることで魔力弾として発射する。

 

 

 散弾のように撒き散らされるアロンダイトの概念を纏った竜の妖精の精製物は、飛んできたネットを一瞬で粉微塵に粉砕する。

 

 

 

「くそ、外れた!」

『こりゃ、ワイヤーネットか何かか?』

『捕獲用ネットかぁ。さっきやってた狩りゲームを思い出すね、藤丸君』

 

 

 と、さっそく解説してくれるのはダ・ヴィンチちゃん。

 どうやらメリュジーヌの早業に負けずに解析してくれていたらしい。あとドクター、もうゲーティアがいないからと気が緩みすぎでは?

 

 

 

「なんか気が抜けるんだけど、ドクター…」

『ええっ、そう!? 藤丸君にまで所長みたいなことを……』

『いやロマニ、君完全に燃え尽き症候群か何かだから。マシュに代わってもらえば?』

『お任せ下さい。マシュ・キリエライト、ドクターよりもしっかりと、堅実にマスターをサポートしてみせます!』

『わわわ、ちょっと待って! ここは僕の役目だから!』

 

 

 

 

 そんな風にわちゃわちゃしている間に、メリュジーヌが戦闘態勢で前に立ち。

 

 

 

「見つけたぜ…! おい、おまえらこっちだ!」

「うお、なんつー上玉だ。嬲り甲斐がありそうじゃねえか!」

 

 

 

 妖精のような――――というか妖精だし、なんならブリテンで最も美しいと言われる妖精であるメリュジーヌに興奮した声を出すチンピラたちに、当のメリュジーヌは呆れ顔で呟いた。

 

 

 

「……弱い。実力差も分からないなんて」

『これは……普通のチンピラじゃないな。魔術的な付与を掛けている!?』

『1999年の人間にですか!?』

 

 

 

 そう、ここの住人―――生き残りは、すべからく邪悪な魔術使い。

 壁面で隔絶された、悪のみが蔓延る魔都。

 

 

 

 

「やれ! たっぷり楽しんだ後、死体は死霊魔術師に高値で売れるだろうよ!」

「マスター、いい?」

 

 

「まあ一応、一般人?だし、……できれば峰打ちで」

「……うん。君のそういう優しさ、私は好きだな」

 

 

 

 鉄パイプで殴りかかってくるその見た目に反して、敏捷性も威力も特異点のエネミー、魔獣たちと比べて遜色ない。

 たった一騎のサーヴァントでは処理しきれないその集団に対して――――メリュジーヌは真正面から突っ込んだ。

 

 

 ゼロから1、ではなく10へ。

 物理法則を無視した加速に、肉体ではなく思考が追いつかない。先頭にいたチンピラが腹部に拳を叩き込まれて吹き飛び、複数のチンピラが地面を転がる。

 

 

 

「――――ふっ! 遅い――――!」

「ば―――――」

「やべぇ、こいつ――――」

 

 

 

 集団の利点を活かす前に、圧倒的な速さで一対一を強要する。

 それこそチリでも払うように、ブリテンで無数のモースを切り払った妖精騎士の剣に些かの陰りもないと証明するように。

 

 

 

「くそ、ならあっちの男を――――」

「――――ッ、バンカー!」

 

 

 

 

 一瞬、こちらに足を向けようとした男がいたものの。瞬間移動並の速度で移動したメリュジーヌが、腹部にパイルバンカー的な一撃をブチかましたことで吐瀉物を噴射しつつ飛翔した。

 

 

 

 

 猛る魔力と共に鎧を纏ったメリュジーヌがアロンダイトを精製――――過剰な魔力でビームソードさながらになったそれを構える。

 

 

 

「―――――どうやら死にたいらしいね…」

「いや、殺さないであげてね…」

 

 

 

 

 ちらり、と振り返ったメリュジーヌの顔が「だめ?」と問いかけてきたが、可愛い顔をしても言ってる内容が可愛くないので駄目です。

 仕方なくアロンダイトを霧散させたメリュジーヌは、近くに落ちた鉄パイプを握って――――熱された飴を丸めるように、ぐしゃりと。小さな鉄の塊に圧縮して放り投げた。

 

 

 

「―――――死よりも苦しみたいのなら、止めはしない」

「「「「う、うわああああ、助けてくれ! 化け物だあああああ!」」」」

 

 

 

「ふん、逃げるなら最初からそうすればいいのに」

 

 

 

 

 興味のなさそうな言葉と裏腹に、少し寂しそうな――――化け物呼ばわりされたのを気にしているかもしれないメリュジーヌに声をかけた。

 

 

 

「――――ありがとう、メリュジーヌ。頼りにしてる」

「………っ。マスター、その、少し……冷えてきた、かも。夜だし、その、竜なので」

 

 

 

 鎧を解除し、遠慮がちに手を出してきたメリュジーヌ。やんわりと握ると、その手は確かに冷たい。それこそ宝物でも握るようにそっと握り返されるのはすごく、こそばゆいけれど。

 途端に太陽のような笑みになったメリュジーヌと路地を進む。

 

 ルンルン気分のメリュジーヌの足取りは軽く、何なら鼻歌でも歌い出しそうなくらいの雰囲気である。

 

 

 

 

 

 が、仮にも悪性隔絶魔境。

 なんの問題もなく通りを歩けるはずもなく。聞こえてくるのは赤子の泣き声で。

 

 

 

 

「……? マスター、何の生き物の声?」

「あー、その、人間の赤ん坊?」

 

 

 

 確かろくでもないトラップだったな、と思い出しつつも一応メリュジーヌが引っかからないように手を強めに握る。

 

 

 

「赤ん坊……? ああ、サーヴァントとして知識はあるかな。ブリテンには居なかったけれど、そっか。本来、人間はつがいと交尾して増えるんだもんね」

「言い方ァ!」

 

 

 

汎人類史(こっち)のメリュジーヌも人間と交わって子どもが十人できたとか――――…ちょっと待って。違うから! 私はマスター一筋だから! というかメリュジーヌも本当の名前じゃないから! ランスロットしてないから!」

「いや、うん。知ってるから大丈夫」

 

 

 

 

 と、その赤子の泣き声がするベビーカーに、野良犬が近づく。

 身構えるメリュジーヌに、ふと気づいて声をかけた。

 

 

 

「“野良犬を”助けてあげてくれ!」

「――――っ、うん!」

 

 

 

 青い閃光になって飛ぶメリュジーヌが、ベビーカーに触れてしまった野良犬を引き離し――――次の瞬間、ベビーカーが爆発する。

 

 

 

 

 

 ベビーカーに乗っていたのは人形であり――――すぐにそのトラップを仕掛けた人形たち、コロラトゥーラが集まりだす。

 手当たり次第に住人を襲い、死体も残さない殺戮機構。襲われる住人を片手間にメリュジーヌが救出すると、それは現れた。

 

 

 

 偶然、あるいは必然か。それこそはコロラトゥーラの親玉と、その忠実な奴隷であり。

 

 

 ファントム・オブ・ジ・オペラと、金髪の女らしき人形。

 

 

 

「ああ……クリスティーヌ、クリスティーヌ……。我が宝石、我が愛しき光……君は何を望み、何を欲する?」

「私は正気です私は正気です私は狂気です私は狂気です。私は人間です私は人類です私は人形です私は依代です。――――そう。命を欲します生命を欲します血を欲します鮮血を欲します。世界を救いしカルデアのマスターよ! 私を救うために、貴方の命を、私に下さい」

 

 

 

 

 明らかにバーサーカーらしき狂気。

 無限とも思えるコロラトゥーラがそこかしこから湧き出し始め、管制塔からの通信も焦った声に変わる。

 

 

 

『まずいぞ、藤丸君! ものすごい勢いで反応が増え続けてる! ダ・ヴィンチ、敵の分析は!? マシュ、逃走経路の確保を!』

『サーヴァント、だろうけど妙な反応がある! というかこの反応、まさか』

 

 

 

「――――っ、この感じ――――マスター、撤退を!」

 

 

 

 飛び込んでくるコロラトゥーラ――――人形を、メリュジーヌが蹴り飛ばす。

 “先程と同様に”手加減した一撃。それに何を言うでもなく、踵を返す。メリュジーヌが手加減した意味は、問いかけるまでもない。先程自分が言ったからだ。『一般人は、できるだけ殺さないで』と。

 

 

 例えそれが、人形に作り変えられた元一般人でも。

 メリュジーヌはその生まれで生物を差別しない。

 

 

 

 藤丸を抱えあげ、野良犬を引っ掴んだメリュジーヌはまたたく間にビルの合間を飛翔し。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――瞬間、バレルタワーから一条の流星のように弾丸が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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