―――――その話を聞いたのは、半ば偶然のようだった。
海賊公女、ダユーが君臨するアガルタ三大勢力の一つイース。
残るエルドラドと不夜城には“女王”が存在するのに対して、イースはやや状況が異なる。“欲しいものは奪う”のみをルールとするイースに秩序はなく、統率もない。強いて言うならダユーがそうだが、彼女は例えるのなら“王”特攻が通らない程度の長だ。
彼ら女海賊たちは男たちから精を絞ることもあれば、賭けの対象にすることもあり、無残に殺すこともある。屈辱を与えることに悦びを感じるものがいれば、苦痛を与えることを好むものも、単純に肉体の快楽を愉しむものもいる。
そんな、基本的に無策で無計画なのが女海賊たち。
故に、海賊たちは散発的にキャメロットを発見しては喜び勇んで無策で突っ込み、逃げ帰ることもできずに妖精騎士ガウェインことバーゲストとキングプロテアによって排除されていた。
わざわざ情報を持ち帰らせる利点もない故に、徹底的な排除。
単純極まりなく、刹那的な海賊たちはそれだけで見事に封殺されていた。巨体に見合わぬ敏捷を持つキングプロテアから逃げるのはサーヴァントであっても苦労することもあり、バーゲストの持つガラティーンが範囲攻撃の宝具であることも大きい。
その一方でエルドラドは女王に迅速な報告が入ったし、不夜城は静観を保っているように見えて動向を伺っていた。
だが、未知というのは人間の想像力を掻き立てる。
“何時の間にか”イースにある噂が広がった。曰く、『白亜の城塞にはこのアガルタで一番のお宝がある。奪え! この世の全てはそこにある』と。
世はまさに、大キャメロット時代。
競うようにキャメロットに向かおうとする海賊たち。そのその中には、ダユーの姿もあった。
「――――見事なものね。癪だけれど、これなら面白みのない他の二人のところより楽しめそう」
しきりにこの白亜の城塞の話で自分の気を引こうとした男のことを思い出す。
なんとかなると無邪気に信じる男から精を搾り取った後、一転して絶望した顔を見ながら殺すのは最高の気分だったのだが――――『最高の宝がある』など。下らない法螺だろうと思いつつも引っかかるものを感じてしまった。
結果としては、あながち法螺というわけでもなさそうな雰囲気だが。
とはいえこれがどこかの勢力の“仕込み”だったとしても、やることは変わらない。奪う、犯す。愉しむ。
「さあ、奪いに行きましょう」
歓声が上がる。
ダユーと同じ、ひたすらに奪うという刹那の享楽に身を任せる女海賊たち。そんな彼らの前、キャメロットの城門に立ちはだかるのは一人の騎士。
―――――はちきれんばかりの肉体を包む白銀の鎧、黄金の髪。手にするは太陽の聖剣。
かつて、異聞帯のブリテンの正門を任されながらも裏切り。今再び、同じ役に任ぜられたその心境は如何ほどのものか。
(――――太陽の騎士、ガウェイン卿。汎人類史において、ブリテンが滅びるまでその忠義を貫き通した忠節の騎士)
大災厄で民を、大切な人を守れないのなら。裏切るのもやむを得ないと思った。騎士としてどちらが正しい行いであるのかは分からない。異聞帯だったブリテンとは状況も違う。ただ、裏切ってしまった自分にとっては、太陽の騎士の有り様はひどく眩しい。
裏切ってもなお変わらぬ陛下の信頼が重い。厄災に成り果てたにも関わらず、自分を信じて騎士として扱ってくれるマスターの信頼が重い。
だが――――ガラティーンの切っ先はむしろ軽くなったようで。
生きるために剣を振るうのは変わらない。
カルデアが揺るぎない正義であったのは人理焼却までの間であり、亜種特異点はまだしも異聞帯に入れば生存競争が始まる。
――――それでも。
(――――私は、輝かしいものを見たのだ)
愛するものを食べてしまう獣、結局は領主として弱者を守ることもできていなかった、妖精という悪魔のような生き物を滅ぼすと誓った獣の厄災。
必ずしもカルデアがそれを倒す必要はなかったのだと、後に知った。
ただ、バーゲストという一人の騎士のために立った、円卓の騎士がいた。その声に応えた二人の先輩騎士がいた。それを支えた、一人のマスターがいた。
彼女を止めるために。
命を懸けた。誇りを胸に、救うために決死の戦いに赴き、勝利した。その彼らのために、陛下とともに戦うことができるのであれば。
(私は、もう絶対に厄災に負けない。負けてなるものか。――――私は、誇り高き円卓の騎士の銘を借り受けた妖精騎士ガウェイン。この
理性の楔である角に手をかける。戻れなくなることを恐れる想いはある。
愛するものを■■したいという、昏い炎は変わらずに己の中にある。
だが同時に、信頼に、恩義に報いたいという想いこそが何よりも強く猛っている。
この世界での
邪悪な生き物をのさばらせてはおけないと誓い、厄災と堕ちた時の怒りと悲しみを忘れてはいない。
バーゲストの中にある
「――――この剣は法の立証。あらゆる不正を糺す地熱の城壁。跪け!
巨大化――――否、本来の姿となったバーゲストが、ガラティーンを海賊たちのド真ん中に叩きつける。その一撃で、元となったドレイクと異なり確たる宝具を持たないダユーは本来の力である海賊たちを強化したり増やしたりする間もなく消滅。
灼熱の炎は周囲の海賊たちもろとも焼却し。続けて横薙ぎに振るわれた一撃が残る残党達を薙ぎ払う。
「―――――グッ、アァァ………フゥ――――」
焼き払われ、無人の荒野となった光景を見ても、今の心に浮かぶのは虚しさだけではない。
(見ていてくださったかしら――――)
決して力が強いわけでもない。
ただ、その心根の尊いもの。かつて守れなかったそれを、今度こそは守ってみせると――――。
「――――あっつ! ちょっと焦げたではないか! わらわごと燃やそうなど不届き千万じゃ!」
「何者だ…!」
バーゲストからすれば残心を思いっきり邪魔してくる謎の幼女の方が不届き千万だったのだが。隠れていた幼女の方からすればせっかくの計画が邪魔されたどころか焦げたのでお互い様だろうか。
ガラティーンによって焼け野原となったその端っこ。
単純に強さとかではなく、射程ギリギリにいたこと、そして女海賊よりは丈夫だったために生き残れたと思われる漢服っぽいものを着た幼女がいた。
本来の流れであってもダユーが持つ水門の鍵を狙っていた不夜城のアサシンである。
「にっしっしー、わらわこそ不夜城を統べる王! 名乗るのであれば不夜城のアサシン! 相手をしてやる故、不夜城まで来るがよい――――ってなんじゃお主は――――!」
不意に日が陰り(太陽ないけど)、見上げたアサシンの目に飛び込んできたのはキングプロテアの巨体。Aランクの敏捷を持ち、実は大きさの割に機敏な彼女の一撃を、同じく敏捷Aランクであるアサシンは小柄さも活かして、あるいはスキル皇帝特権も使ってか辛うじて回避する。
「がおー、たーべちゃうぞー!」
「とかいいながら思い切りプチっとやろうとしてるではないかー!? やめんか! わらわにこの仕打ち、とびきりキツイ拷問じゃぞ!」
「……ごちゃごちゃうるさいです。えーいっ!」
「ぬわーっ!?」
バチーン、と至近距離の地面に叩きつけられた手のひらの衝撃でアサシンが吹き飛び、それすらも活かして必死で逃げ出す。
ある意味彼女の国のとある王の伝承にもある見事な逃げっぷりで、しかし気配遮断がDランクしかないのでその気になれば追えなくもないのだが。
あらかじめ言っておいた通り、逃げられたのでほどほどで追撃を切り上げたプロテアは小型犬か何かのように褒めてほしそうにしているのでとりあえず目いっぱい褒めておき。
その後、一応ロンゴミニアドを用意していたモルガンの下に戻ってきた。
「我が夫、どうやら彼女も“物語”に組み込まれているようです。倒せば回収され、厄介なことになるかと」
「言うなれば黒幕は聖杯戦争で聖杯を既に持ってるような状態だからなぁ」
そう、モルガンに改めて言われるまで半分忘れていたが、この亜種特異点においては3つの国はそれぞれ女王の望み通りの国になっており、そこの女性たちは特殊な使い魔のような存在。男たちは外界から拉致されており、倒されたサーヴァントは聖杯戦争におけるそれと同様に願いを叶える燃料として扱われる。
ただ、その願いが『ラピュタを浮上・大都市に墜落させて人理泡沫を引き起こす』というもので既に決定されているという聖杯戦争以上のクソゲーなのだが。
が、悪徳の限りを尽くす女王たちを放置するわけにもいかない。ので倒すしかない。浮上させたら勝ちだと安心してくれていればいいのだが。
「ふふふ。空中都市キャメロットを新たな別荘としてブリテンに接続する……悪くはありません」
なんかヤバい願いを抱いている女王様はこちらにもおられるが。
とりあえず不夜城に殴り込んで拷問と密告を推奨する女王から開放するという方向でいいだろうか。
「いいでしょう。ところで我が夫。我らの別荘ですが――――ハベトロット似の妖精だけが闊歩する癒やしの楽園というのはどうでしょうか」
それならバーヴァン・シーも……と何やら気合を入れているモルガン陛下には悪いのだが、アッセイするならこちらも手を打たなくといけなくなる――――。
ん?
というか異聞帯のことを考えると、モルガン陛下は民を信頼していないわけで。勝手に理想の民が出てくるはずのこの特異点で何も出てこないのは、根本的に民を欲してないのかもしれない。もちろん考えすぎで、神域の魔術でうまいこと保留にしてるのかもしれないのだが。
「問題ありません、野心も貴方も、どちらも取りこぼさない法律を作ります」
「ハベトロット似なら、あんまり法律とかいらないんじゃないかな……バーヴァン・シーはともかく」
「………確かに。盲点でした。ですが、そうですね。しかしウッドワスのようなモフモフも捨てがたい」
『経済を作るなら、ムリアンさんとかどうでしょう? NFFサービス的に取引相手は欲しいんですけど。今なら私も単独顕現しちゃいますよ?』
わざわざ通信繋げてきたコヤンスカヤには悪いが牙と翅の氏族は噛み合わせ最悪じゃなかろうか。
オーロラは!? とか言い出しそうなメリュジーヌに目を向けると、ちょっと寂しそうな顔で首を横に振られたのだが。
「ううん、マスター。彼女は此処では
「そっか…」
「あ、でも。陛下、その良ければ鏡の氏族は入れてほしいんだけれど……」
「構いません。あと雨の氏族も入れましょう」
ぶっちゃけそのあたりはブリテンの良心(なおカルデア突入時にはどちらも絶滅している)と思われるので特に問題はないだろう。
――――が、そんな風に楽しい建国計画を話し合った結果ある事実が発覚した。
現状、聖杯の持ち主の認識が影響しているのかどんな住人を出そうとしても男を虐げる女になってしまうのである。
雨の氏族が再現できず、モルガンは静かにキレた。
「―――――我らがキャメロットの総力を上げて、黒幕を叩き潰します」
「「「おーっ!」」」
――――――――――――――
一方その頃。
ダユーを失ったイースでは、とある髭面の男を中心とした組織が歓声を上げていた。
「―――――やったぞ、こいつらもう抜け殻みたいに動かねぇ!」
「くそっ、よくも今まで好き放題してくれやがったな!」
「クックック………ハーッハッハハァ! こいつは幸先がいい、ツイてきやがったぜぇ!」
イースに間諜を放ち、白亜の城塞の噂を流す。あわよくば勢力を削って、その隙にイース攻略を、と思っていたが丸ごと手に入るとは!
捕らえられていた男たち、支配者ヅラしていた女ども、食料、拠点!
一人の女騎士によって海賊共が焼き払われた、という情報は不気味だが、恐らくはサーヴァントだろう。間違いなく強力な宝具だろうが、エルドラドのアマゾネスどもと削り合わせれば丁度いい塩梅にできるかもしれない。いや、なるように行動すればいい。
「なあ、進み続ければ必ず夢は叶うんだからよォ!」
すみません、公式からの供給が無さすぎて干からびてました。仕事が忙しかったとも。
妖精国のサーヴァントで聖杯大戦に殴り込む小説が面白かったのでモチベがちょっと回復しました。
ところで今回の亜種特異点の語り部は不夜城のキャスターなわけですが、伝承も語り手によって最速の英霊が複数いたりしますよね。結局誰が一番速いんですかねー。
最速の英霊は誰だと思いますか?
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アキレウス(宝具で英雄の中なら最速)
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メリュジーヌ(物理法則無視の冠位竜)
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ボイジャー(最高速は第三宇宙速度?)
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ディオスクロイ(光速?)
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AUO(次元の果てまで飛べる光の船)