水着メリュジーヌが来るという電波をキャッチしたので(ソース無)
序/ 2017年 12月31日
アトランティスの海。
その空中に浮かぶのは、己のサーヴァントの危機を察して駆けつけたマスター。神霊にさえ勝利したとされる、規格外の魔術師。
キリシュタリア・ヴォーダイム。
「――――いいだろう、元Aチームの一員として君たちの質問に一つだけ答えよう」
「キリシュタリア、貴方は人類が間違っているから叛逆すると――――あの日に宣言したな」
「そうだな。人類は間違いを重ねすぎた。どのような時代、どのような文明、どのような英雄、どのような国家であれ、我々は、『正解』を選んだことは一つもない。結論として、人間には、正解を選ぶ
一見すると、それは正しい。
人間が間違っている、間違えていると、言われて否定することができるのは多くないだろう。けれど。
「俺は、そうは思わない。確かに『正解』なんてどこにもなかったかもしれない。旅をする前の俺なら、その言葉に反論はできなかったと思う」
「泥臭くとも、諦めずにあがき続ける。正解なんて無くとも、
「……そうか。確かに、君の意見も尊いものだと私も思う。だが――――それでは救えない。たとえそれが明日につながる希望であったとしても、救えぬものがあまりにも多すぎる」
意見は、交わらない。
主義が違う。経験してきたものが違う。見ている立場が違う。
互いに、悪いことを言っているわけではないとわかっている。それでも、己の意見こそが正しいとするのであれば。
「――――なら、押し通す!」
「まことにすまないが、押し通されるのは君たちの方だ。カルデアの諸君」
展開されるのは、虚空を―――宇宙を覆いつくすような巨大な魔術回路。
まさしく天体級の魔術、魔法にも思えるそれらがもたらすのは
「虚空の神よ、今人智の敗北を宣言する。眼は古く、手足は脆く、知識は淀んだ。最後の人間として、数多の決断、幾多の挫折、全ての繁栄をここに無と断じよう。この一撃をもって、神は撃ち落とされる。変革の鐘を鳴らせ!『
人の身には過ぎたる魔術。
ほとんどのサーヴァントであっても、この惑星轟の前には膝を屈するであろうと思われる圧倒的な破壊。
異聞帯の王、ゼウスさえも敗北した圧倒的な魔術に――――1人の男が、静かに前に出た。
―――――――――――――――――――――
2017年 12月 26日
藤丸立香の職務は終了した。
特異点はすべて消滅し、人類の危機は去った。
過去改竄という汎人類史への叛逆行為を可能とするレイシフトは現時刻を以て凍結。
カルデア技術局特別名誉顧問として実質的に運営管理しているレオナルド・ダ・ヴィンチを除き、サーヴァントは全て地上から消え去った。
故に、それは必然だった。
仮にも時計塔のロードであったアニムスフィアの不在。その代役になれたかもしれないキリシュタリア・ヴォーダイムはコフィンにて凍結。
所長代行は実質的に無名に等しいロマニ・アーキマン(ソロモンだけど)。
知らぬ間に人理焼却中の1年が経過し、記録でのみそれを知った外の世界の反応はすこぶる鈍いものであったが――――それでも、たとえ僻地にある旨味のなさそうなものであっても、弱り切った獲物を見逃すほど甘くはなかった。
そして、来る12月27日
『―――以上、44名。登録認証 オールクリア』
『安全審査:協会規定 特別免除により、全員のカルデア入館を許可します。正面ゲート 解放。ようこそ、ゴルドルフ・ムジーク様。並びに国連査問会の皆様。当カルデアは 皆様の入館を 歓迎いたします』
「ほ――――う! ほほ――――う!」
「いい! いいではないか! こんな地の果ての工房に期待などしていなかったが、まさか、これほど近代的な施設だったとはな! いや、むしろロンドンのどの工房よりも進んでいないか? これは素晴らしい拾い物だ!」
ゴルドルフ新所長が、割と大仰な身振りで入ってくる。
このころの新所長は割と魔術師然としていたのだったか、若干新鮮な驚きがある。
「おいでなすったか。大した胴間声だこと。―――いいかい、藤丸君。基本的には沈黙だぜ? 君なら承知しているかもだけど、あの人物はオルガマリー所長以上に怒らせたら面倒くさいタイプのようだ。あとロマニはもうちょっとしゃっきりする!」
「ええー。いや、僕これでもすでにけっこう頑張ってるんだけど…?」
「ほんとに前より気が抜けたな君は。まさかあれで張りつめてる方だったとは!」
なんというか、人をダメにするソファーの上でぐで~っと伸びてるような謎のユルさがある。結局、ドクターの燃え尽き症候群は治らなかったのである。
「ほほう。そして、そこにいるのが所長代行のアーキマンとやらか……」
「えーっと、ははは……どうも? 所長代行のロマニ・アーキマンです」
「ええい、なんだその気の抜ける顔は! 前所長オルガマリー・アニムスフィアが不慮の事故でその役職を果たせなくなったため、医療部門のトップだった貴様が代行を務めていたそうだな」
「ええ、そうなりますね」
「ご苦労、その役目もここまでだ。現時刻より、カルデアの全権は私が引き継ぐ。そして――――早速だが、キミたちを拘束させてもらおうか。私としても、まことに遺憾なのだがね」
前に出たのは、銃で武装した兵たち。
その数、およそ40。なんということはない一般の兵であり、それこそダ・ヴィンチちゃんでもなんとかなる程度ではある。――――コヤンスカヤと言峰綺礼を考えなければ、だが。
思わず前に出そうになったマシュたちを、ダ・ヴィンチちゃんが制する。
代わりに前に出たのはドクターだ。
「いや、待ってほしい。それでは話が合わない―――僕たちが拘束される謂れは無い。カルデア職員に罪があるかどうか、それを判断するための今回の査問会だったはずだ!」
「そうそう。仮にも私たちは世界を救った謎の組織だぜ? 罪状が出ているのなら本格的な制圧チームが来るはずだ。しかしキミが連れてきた兵隊はせいぜい40人。となると、これはキミの独断、魔術協会の決定とは違うんじゃないかな?」
「そうであるのなら、僕たちとしてもしかるべき場所―――魔術協会に連絡させてもらうけれど」
「いいのかな、そういう手段をとってしまっても?」
「ぬ―――」
ドクターとダ・ヴィンチちゃんの息は無駄にぴったりだった。
ドクターだけだと緩すぎる。サーヴァントであるダ・ヴィンチちゃんだけだと少々威圧的すぎる。割とほどほどにバランスが取れており――――。
「……おい、どういう事だ、コヤンスカヤ君。この男、頭が働くぞ? カルデアに残っているのは技術者と半人前のマスターだけ、私に逆らえる人間はいない、という話ではなかったか?」
「ええ。そういう触れ込みで閣下にこの商品のご紹介をさせていただきましたわ。ですが、申し訳ありません。私の報告ミスのようで♡」
「あのユルっとした人畜無害そうな男は見た目のナヨさと裏腹に、私ども魔術協会に従わない、思ったよりは骨のある人物のようですわ……」
「なんか褒めてないかね?」
「―――ともかく、万が一の為の、私どもNFFサービスです。強気でいきましょう、強気で。いざとなれば私どもで、はい。閣下の体には傷一つつけさせません。ただし特別サービスとなりますので、またちょっと、閣下の懐が痛むくらいですわ♡」
「うわおう! また私から金をふんだくろうというのかね、コヤンスカヤ君!?」
一体、新所長はいくらふんだくられたんだろうか……。
魔術は割と金食い虫なところがあるとか聞いたことがあるのだが、あのお金持ってそうな新所長があれだけ嫌がる額って。
「閣下」
「う、うむ。わかってる、私はやる男だとも」
「―――コホン。アーキマン、口が減らない男だ。言っておくが私が協会から借り受けた人員はこれだけではない、船にまだ残してあるのだよ。今もヘリを往復させているところでね、ざっと、この三倍の警備員だ。カルデアを制圧することは容易い。これは魔術協会の意向と思いたまえ」
「旧スタッフを拘束し、一か所にまとめ、カルデアを調べ上げる。その間、旧スタッフの処遇は重罪人扱いとする、とね」
「だが、うむ。私はその手の荒事は好まない。君たちの大部分は退職してもらうにしても、それは気持ちの良い退職であってほしいのだ。そういうわけで、これから君たちには4人で1組となってもらい、個室で過ごしてもらう。それぞれ査問会の取り調べに呼ばれる時までおとなしく部屋で待機、だ」
「どうかね? きわめて平和的な手順だろう? 他の名門魔術師ではこうはいかない。連中は魔術に通じない者を奴隷のように扱うが、私は違う。わっはっは、私が紳士であることに感謝したまえ! おとなしくしていれば、すぐに解放してやろう!」
………
……
…
「……まさか、カルデアの謹慎室が独房として使用される日が来るなんて……」
「まったくだねー。いやー、たまたま予算があったからベッドも空調も照明も新調しておいて良かったとも」
「この日のために冷蔵庫にお菓子も入れておいたからね」
なんということでしょう。
この日のために用意されていた固いベッドは全て排除。最新型の冷蔵庫の中には、あのソロモン王も喜んだというお菓子が用意され。
薄暗かった照明は最新のLEDに。
旧式で、ぬくもりを感じられなかった空調も魔術と科学、双方から適切な環境を保ってくれる最新型が取り付けられました。
更に、設置された本棚には――――。
とかなんとかやっていると、早くも扉が荒々しくノックされた。
「おい藤丸立香、出ろ! 査問会からの招集だ!」
「おっと。さっそく尋問が始まるらしい。真っ先に藤丸君とはね」
「いいかい、まずは相手の出方を見るんだ。サーヴァント相手に慣れている君なら大丈夫だとは思うケド、慎重にね」
外に出ると、どう見ても不審者か特殊部隊な見た目の男。
殺気が無いだけ優しいものだが、やはり高圧的な態度というのはなかなか慣れるものでもない。
「よし、お前は三号室だ。そこに担当官が待っている。素直に、真実だけを話せばすぐに解放される。つまらない反抗心は捨てることだな」
……仕方がない、長期戦になるだろうなあ。
…………
……
…
つかれた。
結局のところ、現場(人理修復)を知らない人間の質問というのは小難しい理論ばかりでさっぱりわからないのであった。レイシフトの仕組みがどうたら、なんたら。こちとらサーヴァントの楔であり、魔力の中継点であるだけ。コミュニケーション担当でしかないわけで。必要なのは根性、コミュ力、クソ度胸くらいのものである。
6時間の果てしない質問攻めの果て、ようやく査問官も「あっ、こいつ何も知らねぇわ」と察してくれたらしい。サーヴァントの好物とか宝具のことなら聞いてくれば答えるのだが、残念ながら興味はなさそうだった。
「お疲れ様。顔色が悪いわね、ボク」
で。待ち構えていたのはコヤンスカヤ。
割とバレンタインとかでひどい目に遭わされた気がしなくはないが、顔を見ると思い出すのは素材のための周回だったりはする。
「ふぅん、意外と余裕はあるみたいだけれど――――私からも一つ、聞いておきたいことがあるのよね」
「本来、君に代わって世界を救うはずだった7人――――“キミにチャンスを横取りされた7人”のこと、キミはどれだけ知っているのかしら?」
どれだけ、と言われても。
カドックはけっこうお人よしでツッコミが鋭くて……とかそういうどうでもいい、ただし自分が知るはずのない情報はあったりするのだが。
「――――へぇ。何か、知ってるんだ?」
――――あ、これはまずい。とてもまずい。
大したことはないのだが、何か言えない情報があると察したコヤンスカヤは肉食獣のような気配を漂わせ―――表情だけは優し気だが―――手を伸ばしてくる。
「ボク、一緒に来てくれるかしら。その代わりにお姉さんがイイコト、してあげる―――」
どう考えてもハニトラってやつですねありがとうございます。
逃げたい。すごく逃げたいが逃げ切れる気がしない。
この後のカルデア襲撃しかり、異星の神しかり、割と知っていてはまずい情報が多すぎる。
こんなことなら神代の魔術師に頼んでバレない暗示でもかけて貰えば良かっただろうか、などと考えても後の祭り。
すでに此処は肉食獣の口の中だったのだと、今更ながらに気づいた――――。
「そのくらいにしてもらえます? ソレ、私の玩具ですので♡」
が。その手を掴んで止めたのは、コヤンスカヤの手であった。
分かりやすくいうと、突然現れたコヤンスカヤ/光がコヤンスカヤの手を掴んで止めていた。
「……はぁ。なんでいるのか、一応聞かせてくださいます?」
「それはもちろん事業ですわ。せっかく育てている最中なのに、横から収穫なんてあんまりだとは思いません? そちらは、すでにいいカモがいるみたいですのに」
カモ……やっぱり新所長はカモ扱い…。
「Aチームの個人情報、ちょっとくらい分けてくれても良いのでは?」
「キリシュタリア・ヴォーダイムは実はリンゴ農家を兼業している、とかどうですか?」
妙な電波を受信してしまった猫みたいな顔になったコヤンスカヤは、
いたって真面目な顔のコヤンスカヤ/光に何を感じ取ったのか、ため息を吐くとハニートラップには気をつけろとの捨て台詞? を残して去っていった。
「何はともあれ、ありがとう」
「いえいえ。単独顕現はこういうときにも便利ですから。どこぞのトカゲ妖精の悔しそうな顔が見られるだけでもその価値はあるかと」
ところで、と向けられるのは妖艶な笑み。
「――――ムリアン様のこと、分かっていますよね?」
「べ、ベストを尽くさせていただきます……」
ソロモン救ったんだし、ムリアンもいけるよなぁ? と脅してくるその姿は、さっきのコヤンスカヤの方がよっぽど優し気だったのであった。
―――――――――――――
12月31日
ダ・ヴィンチちゃんがAチームのコフィン解凍のために協力しはじめてから12時間ほどが経過し――――館内放送にてその終了が告げられる。
それは、旧カルデアの終了を告げるものにもなるはずであった―――殺戮猟兵さえ来なければ、の話だが。
瞬く間に殺されていくゴルドルフの私兵。
占拠されるゲート。脱出も不可能となったカルデア職員は――――。
「―――こんなこともあろうかと! ってやつだね、藤丸君!」
「ドクター、緊張感」
「――――よし、じゃあ作戦決行と行こうか。藤丸君」
「緊張感」
そんな、ちゃんと言い直したのに!?
なんておどけるドクターだが、やっぱりユルい。
こんなこともあろうかと設置された、本棚のギミック。
脱出路に早変わりしたそれは、カルデア職員の押し込められた謹慎室全てにセットされている。この違法改造にはメディア女史以下、キャスター達も頭を抱えていたが―――幸いにも今回の事件を以てカルデアを脱出することを決めていた以上、後先考えない改修でなんとかなった。
地下のシェルターまでなら、スロープでいいな! とばかりに滑り落ちていく仕組みである。
真っ暗なトンネルを抜ければ、いつもより緊張した――――しかし、数々の特異点を乗り越えてきた歴戦の、見慣れたスタッフたち。
問題なく旧カルデア職員たち“全員”が集結して無事を喜びあい――――。
『誰か! 誰かいないのか―――!? 誰でもいい、誰か、誰か―――!』
ダ・ヴィンチちゃん、ドクター、あとホームズと顔を見合わせる。
旧カルデアスタッフはみな、この緊急脱出通路を使って集まったはず。……あ。
なんとなく、とっくに仲間な印象のあった新所長。
しかして彼はまだ味方じゃなくて、それどころかコヤンスカヤを雇っていた。ので、特に情報を伝えるわけにもいかず、誰かが迎えに行く必要があった。
「あれ、ダヴィンチちゃん。誰が新所長を迎えに行くんだっけ」
「え、ホームズとかじゃなかった?」
「いや、私は何もしていないが」
「「「………」」」
『……なぜだ。なぜなんだ。なんでいつも、最後になって裏切られるんだ! ああ、いつもこうだ! 私だって努力はしたんだ! 私なりに最善を尽くしてきたんだよ! ああ……いたい、いたーい! やめろ、やめてくれ――ぃ!』
「「「まずーい!」」」