―――――ロンドン。
ニコラ・テスラにアーサー王。そこまではいい。極端な話、現地のサーヴァントだけでも解決できるレベルである。
だが、そのあと。
『みんな気をつけて! 地下空間の一部が歪んでいる……!』
ドクターの声に、緊張が走る。
そう、俺はこれから何が起こるのかを知っている。だが、ここで生き残れるのかははっきりと未知数だった。
『“何か”がそこへ出現するぞ! サーヴァントの現界とも異なる不明の現象だ! ――――いや、これはむしろレイシフトに似ている…!?』
現れるのは、どこかの誰かの面影を残した男。
通常の霊基とは一線を画す、人類悪を討つべき冠位のサーヴァント――――!
「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国真祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。多少は使えるかと思ったが――――小間使いすらできぬとは興醒めだ」
肌が粟立つ。それは、この存在が冠位という規格外の存在であることを知っているから――――だけではない。魔術師としてはもぐり以下でしかない自分でも分かる、圧倒的なまでの魔力の奔流。
通常のサーヴァントが瀑布であるとするのなら、このサーヴァントは星だ。距離感すらつかめず、ただ遥かな高みにあることだけは察せられる。
「だが所詮は無の大海に漂う哀れな船、それがお前達カルデアだ。燃え尽きた人類史に残った染み。私の事業に唯一残った、私に逆らう愚者の名前」
このソロモンは、相対する者によってその性質を変える――――そんなことを、聞いた覚えがある。元々は使役される魔であった残滓なのだろうか。
人理修復における最大の障害――――此処で、その力を一端を測る!
「染みとは言い得て妙だけど――――そのおかげで、人類史はまだ燃え尽ききっていない。だから、英霊がいる。燃やされようとしている人類の歴史が、編み上げられた物語が、お前を止める」
「無駄なことだ。既にその積み上げる土台すらも消え失せているというのに。だが、いいだろう――――私が、人間に使役されるサーヴァントなどとは一線を画するものだということを教えてやる」
そうだろう。
確かにお前はサーヴァントとは規格の違う怪物――――マトモに戦うのはF1カーとゴーカートで競争するようなものだ。
「なら――――――こちらにも考えがあるぞ!」
「まあ、なんという―――――人理の全てを焼き尽くすなんて。一体どれほどの熱さであるのか」
楚々とした雰囲気を纏い、尼の装束でありながら淫靡に微笑むその女こそは―――――出したくなかった最終兵器、殺生院キアラ。
「な・ん・で! よりにもよってこの女と一緒なんですか!?」
幼い少女の姿ながら全人類に愛を、堕落をもたらす第六天魔王(真)ことカーマ。
「―――――…ごごごごごごごご」
S・イシュタルこと原始宇宙の女神、アシュタレト・オリジン。
ソロモンが冠位の霊基を持つのならば。
こちらも規格外のサーヴァントをぶつけて対抗する!
「ふむ。ならば、“4本”程度にしてやろう」
ソロモンが呟くとともに、空間を裂いて現れる魔神柱―――――それが、キアラの豊満な肢体を容赦なく貫き。
「くっ―――――ああ、そんな――――なんと、乱暴な。――――少し、懐かしくなってしまうではありませんか」
――――そして、呑まれた。
人外の悲鳴が、無情にも大空洞に響き渡る。
「……なに?」
魔神柱が、食われる。
そんなありえないはずの光景に、ソロモンが硬直する。
その隙に放たれるのは、サトウキビの弓。
「どうなっても知りませんから。………
およそ感情というものが分かりにくいソロモンだが、宝具による魅了を受けて流石に硬直する。そして、それだけの隙があれば“銀河”を叩き込むのにも十分だ。
「神代回帰、臨界――――始まりの領域。花開く命の音。全て一時の夢のように――――
アシュタレト・オリジンの指先に従うように放たれるのは銀河そのものと言っていいだけの熱量。
ソロモンが地球の、人類史全ての熱量を持つのなら――――こちらは銀河をぶつける。
地球の性感帯になるだけの超級の変態(受け盾)、
宇宙全てを堕落させるだけのスペックはある愛の神(デバフ)、
別の銀河をぶつけられるサーヴァント?(アタッカー)がいる!
「――――冠位は、七騎で獣を討つという。なら、こっちは二騎の獣と銀河一個で勝負だ!」
「獣であっても、1対1だと言うのに――――なんと野蛮な」
「なんでそこでそっちに繋げるんですか!? 今一応真面目なところでしょう!?」
「……温情はない」
およそ、大抵のエネミーなら塵すら残さないだけの攻撃それに無防備に直撃を受けたのだ。無傷ではない――――そのはずなのに。
爆炎の中から、無傷にしか見えないソロモンが現れる。
『いや、無傷じゃない! 若干だが、霊基に綻びが生まれた! 藤丸君、そのまま攻め続けるんだ!』
「オッケー、ドクター!」
「―――――やれやれ、人理を救うとのたまいながら獣に力を借りるだと? 醜悪を通り越して滑稽だな。その見境の無さ、死への恐怖こそが人間を狂わせる。どこまでも無意味で、無価値な存在だ」
「ええ、そのとおり。人の欲望とは醜いもの――――溢れ出る六欲に溺れ、貪る獣の如き有様。ですがそれが無価値というのは。まあ、なんと―――――初心で、いらっしゃるのですね?」
経験ないんですねぇ、と憐れむように微笑むキアラに、ソロモンは無言で呼び出した魔神柱から光線を放ってキアラを爆撃した。
「―――――あら」
が、キアラは先程“喰った”魔神柱を盾として召喚。
魔神柱の光線を魔神柱が受け止めるという意味不明な光景を作り出しつつ、さらにそこから果敢にソロモンに殴りかかる。
「……はぁ。なんであんなに生き生きしてるんですか、アレ。まあわたしも愛する
「え、キアラくらいできなさそう? 同じビーストなのに?」
「―――――だから、アレと一緒にしないでほしいんですけど!?」
瞬間、カーマが“増えた”。
幼いカーマ、成長しつつあるカーマ、成熟したカーマ。無数のカーマがあちこちに出現し、周囲を淫靡な香りが包み込む――――!
「ですが、いいでしょう。今のカルデアは私が言うのもなんですが、愛と退廃の領域――――そうです、私の
水着カーマ、サンタカーマ、謎のヒロインカーマ、カーマオルタ、カーマ・オルタ・サンタ・リリィ、S・カーマ、カーマ・ブライド、カーマ・リリィ、謎のヒロインカーマオルタ、水着カーマオルタ。
あらゆる藤丸の需要に応えるあらゆるカーマが、次々とソロモンに愛の矢を打ち込んでいく。
「ぐ、おおおおっ!? 巫山戯るな!」
錯乱したように攻撃を乱射するソロモンは、その愛の矢を絶対に受けまいとするかのように薙ぎ払おうとし―――――眼前に飛び込み、蹴りを放ってきたアシュタレトにより、吹き飛ばされる。
―――――キアラのところまで。
「それでは皆々様、済度の日取りで御座います。――――大悟も解脱も、我が指ひとつで随喜自在。行き着く先は殺生院。顎の如き天上楽土。うっふふふ………天上解脱、なさいませ?」
そして、ソロモンはキアラの胎内へ。
彼女の体内は最早一つの宇宙であり、極楽浄土。自我が消え、理性は溶け落ちるという意味では言葉の通り――――単独顕現は魅了耐性を含むが、これは魅了というよりも全ての知性体に対する特攻。
知性ある限り抗えぬそれに飲み込まれたソロモン。死因はテクノブレイクであった。
『や、やったのか……?』
「ドクターそれフラグって言うんだよ」
その言葉に応えるかのように、声が響く。
『……なんという、醜悪さだ。人が覚えた無意味な感情は、恐怖だけではなかった―――。醜い。醜悪だ。嫌悪すべき性だ』
「まあ、生娘のような事をおっしゃいますのね」
「あれ? まだ余裕ありそうですね」
「……女神げないかしら?」
ぺろり、と妖艶にキアラが舌を舐め。
カーマ軍団がそれぞれの獲物である弓やら杵やらを構え。
アシュタレトが底知れないパワーをみなぎらせる。
『――――――貴様たちなど、私が相手をする必要がなく――――したいとも思わん。七つの特異点、その全てを解決したその時は。私が手を下す必要性を認めよう』
「………逃げた?」
『逃げちゃったね』
「えっと、いいんでしょうか…?」
まあ、相手にしたくないと思ってくれればそれでいい。
実際、このメンバーでもティアマトを“殺す”のは不可能なわけであるし、ソロモンがそう考えるのは当然だっただろう。
なんだかよく分かっていなそうなマシュだけが癒やしだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「――――無限に生まれるケルト兵。美しい私。そしてクーちゃん! もう負ける理由がないわ!」
アメリカ合衆国――――その広大な領地を、2つに分裂しての内戦。
無数に量産される、西側。エジソンと機械化歩兵。
無限に生産される、東側。メイヴとケルト兵。
およそ、軍勢召喚系の宝具よりも大規模に展開されるその戦いは、一騎や二騎のサーヴァントで覆せるものではない。――――だが、カルデアには例外が存在する。
地響きとともに、ケルト兵が消滅する。
押しつぶすように天から飛来したのは巨大な、雲を貫く柱であり――――。
冗談のようなそれが、二本目。
隕石が落下したかのようなすさまじい衝撃とともに大地を陥没させ、巨大な窪地すらも作り出す。
「――――何よ。一体何なの!? 私の可愛いケルト兵が! クーちゃん!」
「……アレは、脚……か?」
「……悪いけど、今すぐ立ち退いてもらえますか?」
それこそは、アメリカを開拓したと伝えられる英雄。
ポール・バニヤン。
通常であれば、ただそれなりに大きいだけのサーヴァントだが―――――アメリカでは話が違う。彼女は、アメリカを開拓するサーヴァントだ。
森を切り拓き、神秘を消滅させるというふうにも解釈できるその特性は、神秘の時代を生きたケルト兵たちにとっては天敵にも等しい。それこそ蟻を踏み潰すくらいの気軽さでケルト兵が踏み潰され。雑草を刈り取るくらいの軽快さで軍勢が消滅する。
「ウッソぉ」
「チィ、少し遠いか」
クーフーリンの必殺の宝具は、そこまで射程が長いわけではない。投擲すれば届かないことはないが、“必ず心臓に命中する”という因果逆転の力はそこまで期待できない。だが、このまま見過ごせるものでもない。
「―――――
クーフーリン・オルタが、バニヤンに向けてその宝具を開放する。
真紅の槍は稲妻の如く空を切り裂き、無遠慮に暴れまわるバニヤンに襲いかかり――――!
「さあ、おいでなさい。わたくしを護る青銅の身体、燃えたぎる血。燃えたぎる熱の御前。出番ですよ、タロス」
それを、巨大な青銅の巨人が受け止める。
ヘファイストス神によって鋳造され、神々ですら容易に破壊できないというその巨体は、クーフーリン・オルタの投擲した槍すらも受け止めて見せたのだ。
「いや、何よこれ!?」
巨人と赤熱する巨大ロボに殴り込まれたケルト軍団は、瞬時に戦線崩壊した。
どうやって止めろというのか、というレベルであり、それが可能な人員であるアルジュナはカルナによって食い止められており――――。
「――――おお、久しぶりだなクー・フーリン。また変わった姿をしているが――――今度は立場が逆になったな」
「……叔父貴」
ゲッシュにより、クー・フーリンと戦えば無条件で勝利するフェルグス・マック・ロイ。かつてはメイヴの部下として、クー・フーリンと戦ったその偉丈夫が、変わり果てた姿の大英雄と対峙する。
「卑怯とは言うまいな。――――良い男が待っているのでな、勝たせてもらう!」
「……さて。アンタに今の俺が殺せるかな」
「ふんっ……今のクーちゃんがそう簡単に負けるものですか! 聖杯よ、もっとクーちゃんに力を―――――!」
と、不意にメイヴはバニヤンの起こした土煙と、タロスの噴射する大量の蒸気、そして濃密な魔力に紛れて気づくのが遅れたが、いつの間にかすぐ近くにいたバニヤンが消えている。英霊を交代でもしたのだろう。
―――――が、問題ない。メイヴちゃんは最高に可愛いので、暴漢程度に敗れはしない。聖杯だってある。
「ふんっ、そんな程度で――――――へ?」
「Aaaaaaaa」
そこに立っていたのは、赤い葉脈のようなものを波打たせたチーズを手に持つ漆黒の甲冑だった。
「Cheeeeeese!」
―――――グシャッ。
あるいは、遠距離からのチーズであればクーフーリンが己の身を犠牲にしても防いだかもしれない。あるいはチーズでなければ、メイヴは死にかけながらも魔神柱を召喚できたかもしれない。
だが、チーズを受けたらメイヴは死ぬ。
例えそれが、宝具化していないチーズでもクリティカルヒットすると死ぬ。むしろ死ななければそれはメイヴではない。チーズで死んだのがメイヴであり、メイヴが死ぬのはチーズだ。
この世にそんな阿呆な宝具を所持する英霊はいないはずだったのだが、至近距離で投擲されたチーズの宝具を食らったら何もできずに即死するしかない。宝具のチーズってなにさ。
「―――――…ちくしょうめ」
悲しげに佇むクーフーリンから聖杯の強化がなくなり―――――微妙な顔で現れたスカサハが槍を構える。
「………やれやれだが―――――王としてではなく、戦士に戻れることだけは悪くない…か」
すみませんが、ちょっと色々大変なことが起きてしまったので次の投稿がどうなるか未知数です。
でも速度と鮮度が命なのでネタが思いついたら早めに出したいです。