「何だ、眠そうな顔だな。レイシフト酔いってヤツでもなさそうだが」
ここは、何処だ。どこかで見たような、印象に残らない町の景色。
目の前には見覚えのある/未だ出会っていない ヤガの男。
「眠いならまだ寝とけ。だが、起きてる理由があるなら寝るな。……聞こえてるか?」
「あ、藤丸様。おはようございます。……? パツシィさん、どうかしたの?」
また、知っている顔だ。
大人にはなれなかった少女。
「どうしたも何も、コイツがこんな調子だ。変なものでも喰ったのか、
歌。そう、歌だ。
歌が、キコえ た。
「お歌?」
「ああ。お前の故郷に、歌はあったんだったかな」
「一体どうされたんでしょう。寝台で休ませてあげるのが……それともお薬?」
「あるいは医者に診せるかだな」
ああ、俺は―――――。
失ったものを、見ている。そして、これから失うものを。
中国で出会った、馬。
インドで出会った家族を想う少女。
「おにいちゃん、元気なさそう――――」
「どうもこうもありますまい。この御仁、どうやら歌を聴いているようですし」
う タ っ テ な ン の コト?
―――――覚えがある。
これこそは、機神アフロディーテの精神汚染。
美と愛を司るが故に、価値を掌握し、幻覚と怒りで同士討ちを引き起こす。
“前”はカリギュラの宝具で精神汚染を中和したのだったか。
精神汚染で精神汚染をかき消せる理屈は専門家ではないためさっぱりわからないが、既に攻略法は示されている。
ならば。ならば――――ん?
「マスター? 言ったよね、構ってくれないとカルデアを焼き尽くしたくなるって」
メリュジーヌ?
急にチャンネルが切り替わったかのように、カルデアの自室に場面が変わる。やはり夢、あるいは幻覚なのだろう。
「――――ねぇ、マスター。早起きしたから少し寒くなってきちゃった。温めて温めて! ちゃんと、奥まで……ね?」
いや、あの。え?
しかし身体は全く言う事を聞かず、今まで体験したことがないにも関わらず妙に艶めかしく絡み合う舌が――――。
『―――――是こそは魂を分離し、治療する万色悠滞。よもや、此処にきてセラピストとしての本分に立ち返ることになろうとは思いませんでしたが――――』
いやあの、キアラさん?
ちゃんと頼んだ通りに精神汚染を無力化してほしいんですが。
『……? ええ、もちろん。とはいえ私、このような方法しか知らぬもので……お相手、マシュ様の方がよろしかったでしょうか?』
そういう問題じゃあないんだよなぁ!?
あっ、ちょっ、やめ。どこ触って――――。
これ要するに自分の煩悩を見せつけられてるってことでは!?
『なるほど、自慰はお好みでないと……では、仕方ありませんね』
言い方ァ!
くっ、キアラを信じた俺がバカだったのか……。
と、熱心に舌を絡ませていたメリュジーヌ(偽)が、不意に冷静な顔になったかと思うと、若干頬を染めつつ目を逸らした。
『……その、マスター。つがいと初めて愛を交わすのに、こういうシチュエーションは正直どうかと思うんだけれど』
『まあまあ、自慰では嫌だという男性の欲を受けとめるのもまた快楽……優しさというものでありましょうや』
は? いや、え?
もしかして、これご本人では?
『はい、これならば自慰ではありませんので……どうぞ、心の赴くまま、獣の如く交わってくださいませ』
なんでご本人呼びつけちゃうかなぁ!?
というか、言い方ァ! 普通に、普通に起こしてほしいの!
せめてメルトなら蹴り起こしてくれたかもしれないのに。
「―――マスター、今、他の女の事を考えたでしょう」
メリュジーヌの目が、アロンダイト並みに鋭い……。
「へぇ、そう。そうなんだ。私はマスターのことを1日24時間は見ていたいのに、マスターは目移りするんだ。へぇー」
いや、あの。
「確かに、オーロラに比べたら僕なんて大したことはないけど。つがいの機嫌も取れないなんて生物としてどうなの? 死ぬの?」
いや、俺はオーロラよりメリュジーヌが好きです。
「え。いや、その……本気、なの?」
本気だ。俺はオーロラよりメリュジーヌが良い。
強くて、カッコよくて、でも寂しがり屋で、意外と繊細だし寒がりだし朝弱いけど、竜として誰よりも速く空を飛ぶ姿はとても綺麗だ。
「!? ちょ、ちょっと待って。殺生院、これマスターおかしくなってない!? ちょっと、なんで返事が――――ま、まっ―――――きゃあ!?」
…………
……
…
『ヒトよ、噎び泣け』
『ヒトよ、平伏せよ』
『お前たちの苦悶の叫びはすべて、この私に届く』
オリュンポスの空から、接近するキャメロットに向けて超広範囲の精神攻撃を放つ機神アフロディーテ。同士討ちさえも厭わず、オリュンポスの住人ごと狂わせるその攻撃に。
一人の女が受けて立った。
他の住人が負うはずだった、一切の苦痛を引き受けて立つその女こそは、紛うことなき聖女。ヒトの魂を、精神を癒すセラピスト。
『済度の時です、生きとし生ける者全ての苦痛を招きましょう。あぁ……あぁーーアァーーーッ!!!』
その時、精神汚染に苦しむオリュンポスの人々は見た。
救いの女神を――――苦痛を一身に引き受け、謎の輝きを放つ真の救い手を。
『――――何? 私の攻撃を、全て引き受けている…!? 馬鹿な、そんなヒトが、生命体が、存在するはずが―――!?』
存在してしまっていた。
もっというと、それで気持ちよくなるという少し特殊な性癖をお持ちでもあった。
『衆生、無辺、誓願度。歓喜、離苦、明地、焔、難勝、現前、遠行、不動、善想、法雲。十万億土の彼方を焦がし、ともに浄土に参りましょうや!』
『―――――こ、れが――――ヒトの愛だというの?』
あらゆる知性体を取り込み、強制テクノブレイクさせる最低最悪の宝具。
知性があるのならどんな相手にも通用する、見せたくなかった人類史の最終兵器。
あらゆる苦痛を快楽に変換する真性のド変態の手により、愛の機神は失墜する。敗因は、変質者を見た瞬間に逃げ出さなかったことであった。
…………
……
…
『オリュンポスの中枢区画と思われるポイント、推定到達時刻まで残り3分!』
『キャメロット、損傷軽微! 論理障壁25%出力低下!』
「お、おお! ここまで近づけばあの雷霆も迂闊には放てない! 勝てる、勝てるぞ…!」
「――――愚かな」
不意に響いた声に、モルガンが目を細める。
その首筋に叩きつけれられかけたのは、光を放つ剣。
双神ディオスクロイ、その妹の奇襲であり――――それを受け止めたのは、人類最速の男アキレウスの槍であった。
「――――ハッ、そろそろお出ましだろうと思っていたが。神霊ともあろう者がコソコソ不意打ちとはな!」
「自惚れるな、人間如きが。貴様らと正面から戦ってやるほど我らは暇ではない」
「貴様たちはここで終わりだ、人間。ゼウス様の同盟者を倒した、その手腕だけは褒めてやろう」
「「賛辞を胸に、無様に死ね」」
「嫌なこった!」
剣、そして盾。
双神の全くよどみのない連携と、光の如く思える速さでの攻撃。それを、同じく目にも留まらぬ速さの槍捌きで凌ぎ切る。
その技量、速さ。感嘆すべきはどちらも一流でありながら二対一でも押し切られぬアキレウスの絶技。
しかし、文字通り手が足りない。
あるいはもう一人、英霊がいれば――――だが、モルガンはキャメロットの制御に集中しており、下手に手が煩わされれば戦線が崩壊しかねない。
もう一人―――と、アキレウスはイアソンと目が合った。
(――――おい、一瞬だけでいい! 気を引けイアソン!)
(何言ってやがるこの底抜けの馬鹿野郎! んなことしたら確実に死ぬだろうが!)
そんな二人のやり取りを見るでもなく察知し、ディオスクロイ・カストロは嘲笑する。
「無駄なことだ! 知っているぞ、英雄間者イアソン! ヘラクレスがいなければ何も出来ぬ無能――――あっさりと死に体になった木偶の坊如きに頼るのが貴様の限界だ!」
「――――あ゛ッ?」
その時、イアソンの脳裏に電流走る。
前半は同意だ。ヘラクレスがいないならまあ、何もできなくとも仕方がない。そのくらい自分の評価は弁えている。――――が。汎人類史のディオスクロイなら言わないだろうそれ、ヘラクレスを罵倒しやがった、と脳が認識した端から激怒に染まる。
即座にカストロが確実に嫌がりそうな罵倒を考えるでもなく吐き出す。
「妹のお情けで神様扱いになったヒモ野郎は口がでかいじゃねぇか! 妹がいないと星座になれなかった無職! ニート! 口が悪いだけのダメ人間が!」
その言葉は、兄としての威厳を割と気にしていたカストロにけっこう刺さった。ついでに最初は神だったはずが伝説の移り変わりで人間扱いにされた過去のトラウマにも思い切り突き刺さった。
「貴ッ様ァ! その減らず口を悔やみながら死ね、イアソン――――ッ!」
「妹の足を引っ張って死ね、カストロ―――ォ!」
アキレウスでさえ目で追いきれない速度で迫る盾、まさかそこまで決死で罵倒すると思わず、流石のアキレウスも間に合わない。せめて確実にポルクスを仕留めようと――――。
無機質な鋼の音が響く。
既に止められぬはずだった盾の一撃を、巌の如き肉体が受け止める。
およそ、尋常な英霊では受け止められぬ一撃。されどその肉体は無双の英霊のもの。
「――――――」
「貴様――――死にかけで出張ってくるとはな、この小者以下のゴミがそんなに大事か?」
「ヘ、ヘラクレス……お前」
イアソンが何かに気づき、目を見開く。
ヘラクレスは静かにその岩のような剣を構え――――その闘気を感じ取ったのか、ディオスクロイ・カストロは距離を取って構える。
「兄様、ここは――――」
「ふん、いいだろう」
「ならば讃えよ!我らの星を!」
「畏れよ」
「崇めよ」
「天にて輝く者、導きの星!」
「我らはここに降り立たん!」
「「<
宝具の真名解放。
その速さ、コンビネーションを最大限に活かした連続攻撃。
だが、受けて立つヘラクレスにも、その背後のイアソンにも恐怖はなく。ただ、イアソンが不敵な笑みを浮かべた。
「――――やっちまえ、ヘラクレス!」
流れるように構えられた剣に、違和感を覚える。
力みも、狂気もなく、ただその眼には、必ず守ると決めた意志があった。
そこに立つのは、最早
治療ついでに余分な狂気を取り払われた、アキレウスと双璧を成す汎人類史の、ギリシャ神話における最強の戦士。
「ならば――――我が剣を受けてみよ。<
一撃、盾が歪み姿勢が崩れる。
二撃、腕をカチ上げ、胴体ががら空きになる。
三撃、カストロの胴体に斧剣が叩き込まれる
四撃、更に押し込み、兄妹ひとまとめに吹き飛ばす
五撃、ポルクスの腕を剣ごと吹き飛ばす
六撃、首を撥ね
七、八、九撃を不死の逸話のあるポルクスに全て叩き込む
瞬時に霊核を破壊され、驚愕の表情を張り付けたままディオスクロイは黄金の粒子となって消滅する。
「――――貴様らごときが、ヘラクレスに敵うと思うな」
現在の英霊(オリュンポス)
カルデア召喚英霊
Ⅰ:ギルガメッシュ(アーチャー)
Ⅱ:アーラシュ(アーチャー) デメテル撃破 / 宝具使用により消滅
Ⅲ:モルガン(バーサーカー)
Ⅳ:殺生院キアラ(アルターエゴ) アフロディーテ撃破
Ⅴ:???
Ⅵ:■■■■■■■■(■■■■■■)
EX:マシュ(非オルテナウス)
ロマニ/ソロモン王(十の指輪装備)
令呪:残り一画
無いもの:ブラックバレル、オルテナウス、ストームボーダー(キャプテン)
あるもの:聖杯(たくさん)、霊基グラフ(2周目)
現地サーヴァント
ヘラクレス(狂化解除/ 十二の試練ストック無し)
アキレウス
イアソン
メディア(リリィ)
他多数
オリュンポス側
ゼウス
神妃エウロペ
デメテル(アーラシュにより撃破)
アフロディーテ(キアラにより撃破)
ポセイドン(メリュジーヌにより撃破)
アルテミス(メリュジーヌにより撃破)
ディオスクロイ(ヘラクレスにより撃破)
カイニス(モルガンにより撃破?)
所在不明
蘆屋道満
コヤンスカヤ
村正
言峰神父
次:ゼウスを倒す方法が思いついたら
いやまあ、究極的にはキアラでいいんですけど……。