「――――何故だ」
オリュンピア=ドドーナに座す天空神、ゼウス。
かつて白き滅びとも恐れられた外なる脅威にすら打ち勝ち、機神たちを掌握した全能神。だが彼は、同盟者たるキリシュタリアとの対話のために作ったアバターを困惑に追い込まれていた。
同盟者たるキリシュタリアの敗北―――それはまだ良い。彼はカルデアのマスターと自身が対等だと言っていた。あの凶悪すぎる初見殺しをなんとかできるのであれば、確かに勝機もあるのだろう。
だが、それが月女神、海神、大地母神、美神と立て続けに起こるのはどう考えてもおかしい。そんなことができるはずがない。
例えば月女神と海神を倒したあの竜、アレは災害のようなものだ。
白き滅びと違って土着のものであり、性質上他の物を食い尽くす白き滅びほど傍迷惑な存在ではないというだけである。
恐らくはこの惑星にて最古と言ってもいい神秘を携えた竜。
アレを倒せるとすれば美神がもっとも可能性が高かったのだが、それを見越したかのように姿を消した。月女神の精神狙撃も、何かしらの力で近くにいた別のサーヴァントに吸い込まれた。
だが、それでゼウスも危険は察知した。
同盟者、月女神、海神、遅すぎたという考えはなかった。だが、適切に脅威を評価しなくてはならないと考えた。
もはや偶然ではなく、明確な、これまでで最大の脅威であると。
だからこそゼウスの雷霆、大地母神の耕し、美神の支配と三段構えの攻略をした。
それこそセファールのような、倒したものを力にするような反則がなければどうにもならないはずだったのだ。
ゼウスでさえも及ばぬ、惑星生誕の如き地獄の具現―――それを操る
神の権能そのものと言っていい大地母神を穿つ、星の如き
原始的な知性体が抗えるはずもない、美神すら飲み込んだ
神だ。
此処にいるのは、神代を超えてなお支配する現存する神。
それが、一対一で後れを取る? こちらの技術、ナノマシンを奪われたわけでもなく?
さながら一匹のアリが、一体のヒトを打倒していくような。
何が起こっているのか頭脳体が理解を拒むような状況。
真体は、既に顕現した。
神妃は既に避難させた。
背後には異聞帯の要とされる空想樹。もはや退路などなく、全能神が退くこともない。
だが、かつて感じたことのない異様な空気を感じ取っていた。
『彼らは、容易く人理修復を成した。その偉業、取りこぼさなかったもの。私では考えに至らなかった、尊い勝利を彼らは掴んだ』
『私であっても、人理修復そのものは可能だっただろう。だが、全能神ゼウスよ。もし仮に、何も失うことなく白き滅びを倒すような者がいるとしたら――――彼ら、カルデアのような者たちだろう』
オリュンピア=ドドーナが震える。
美しい装飾の外壁をぶち破り、純白の城塞が物理的に突入してくる。
『何故だ――――何故、抗う。何故、諦めない。何故――――』
何故、我らが敗北しようとしているなどと。
そんな、起こるはずのないことを思わせる!?
負けるはずがない。
何年、人類種を庇護してきたと思っている。
幾年、宇宙を放浪してきたと思っている。
どれほどの隔たりが、どれほどの力の差があると思っている。
人類種の中にも、強きものはいる。
だが、それでもオデュッセウス程度のもの。有能だが、決して神に敵うようなものではない。
『何故だ―――――カルデアよ!』
「貴様らしからぬ愚問よな。朽ちた天空神よ――――神の庇護を離れ、人間は歩き出した。脆弱な生き物が、分不相応な欲望を抱いたその結果。たどり着いた境地というのは手ごわいぞ?」
何せ、我もよく手古摺らされると実感たっぷりに呟く黄金の王は、その腕に天の鎖を巻き付けただけの簡素な姿(下はちゃんと履いている)――――ゲーティアを打倒した神話礼装を纏い、既にアイドリング状態の乖離剣を携え。
「英雄として生き、英雄として死ぬ。それが俺の望みだが――――悪くない。話の通じるマスターに、肩を並べるに足る英雄。それでもなお敵わぬかもしれない相手。そして何より、退屈極まりない世界なんぞ願い下げだってな!」
槍、盾、戦車。
全ての宝具を出し、全力で戦う構えを見せるのは誰もが認める人類最速の男。全能神への恐怖など無く、ただ己が全身全霊を賭して戦うに足る相手への戦意に燃える。
「最早言葉は不要であろう。互いが守護するべきもののために、退路はない。我が友の期待に、応えさせてもらおう――――」
武具はない。
ただ、岩を削りだしたような無骨な大剣のみを手にした姿。されどその肉体を覆うのは、あらゆる英霊の頂点、その一角であると信じさせる覇気であり。極限の一、人類史が誇る大英雄が、静かに剣を構えた。
『平伏せよ』
「「「―――――断る!」」」
雷撃を放つ、巨大な顔面。遥かソラへと届かんばかりの神鋼の巨大構造体。
それこそがゼウスの真体。
神器クロノス=クラウンを制することで十二神の全権能を所有する無敵の要塞。
それが、視界を焼き尽くさんばかりの雷霆を放つ。言うなれば空間爆撃。逃げ場はなく、防ぐ手段もなく、突破も敵わない。
その雷霆こそは神の怒りと恐れられたもの。
アキレウスの盾であっても長くは耐えられず。ヘラクレスであっても弓も武具もなく裸一貫の状態では防ぎきれず、ギルガメッシュであっても所有者ではない宝具では限界がある。
「真名、開帳───私は災厄の席に立つ……」
「対終末、対粛正防御、開始」
故に、前に立ったのは人理の守護者たるカルデア。それを守護する盾であり。ブリテンの守護者であった。
「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ、<
「異邦の国、時の終わり。なれど剣は彼の手に――城壁は固く、勝鬨は万里を駆ける。冷厳なる勝利を刻め! <
あらゆる敵意・害意を許さない白亜の城。
性質上、盾の担い手以外であれば人類史全ての熱量であったとしても守護しきるその城壁を、対粛清宝具が重ねて守護する。
宇宙を灼くその雷霆にも白亜の城壁は小動もせず。
女王に守護された盾の担い手もまた、揺るぎない眼で防ぐべきものを見つめる。
『大主神戦闘、予定時間超過――――敵知性体の防御力を再評価――――最終裁定機能ケラウノス、発動準備』
故に、ゼウスは躊躇を切り捨てる。
守護すべき民を巻き込むまいと制限していたものを解き放つ。
『対惑星―――対星系――――対時空――――対概念破砕機構、限定解除』
「天の鎖よ――――!」
無論、黙って見過ごすほど甘くはない。
天の鎖が巻き付いた部位のゼウスの活動を阻害し、
「クサントス、バリオス、ペーダソス、行くぞ!命懸けで突っ走れ! 我が命は流星の如く!<
『命懸けどころか、決死隊じゃないですかねぇ!?』
不死の戦車に乗った大英雄が、盾を構えてゼウスの幾層にも張り巡らされた概念防御に傷を付け、
「む――――」
「まだだ、焦るなよヘラクレス! 俺たちの出番は今じゃあない! せめてヘラクレスにふさわしい弓があれば別だが――――おい、そこのゴージャスなヤツ! 何か持ってないのかよ!?」
と、目の前がピンチすぎて危機管理を忘れたのか、近くにいて宝具を乱射している英雄王にたかりにいくイアソン。
「――――ええい、喧しいぞたわけ! 確かにゴージャスではあるが、この我を誰と心得る。人類全ての財は我の物―――当然、そこな筋肉ダルマに相応しい弓程度持っているが――――誰が貸すか!」
「ハァーッ!? 金持ちの癖にケチとか、救いようがねぇな!」
「痴れ者が――――そら、受け取るがいい」
スッ、と黄金の波紋から出てきたのは槍。
それはけっこうな速度で射出され、音もなくイアソンの腹を串刺しに――――する直前で、ヘラクレスがキャッチした。
「ぎゃああ!? 死ぬ、ヘラクレスがいなかったら致命傷じゃねぇか!?」
「チッ、大人しく死んでおれば良いものを」
舌打ちする英雄王だが、視線は向けず殺意もない。
「ふむ――――慈悲に感謝する、英雄王」
「ハッ、命知らずの道化への対価に過ぎん」
「えっ、何。なんでいい話っぽくしてやがる!? ちょっ、俺死にかけたんだが!?」
本気で殺す気だったらヘラクレスが受け止められない本数を射出するが、わざわざ持ちやすい角度で射出したことでヘラクレスは意図を察していた。
「では、返礼に我が武技をお見せしよう――――<
幻想種であるヒュドラを仕留めた逸話から昇華された、万能攻撃宝具。
対幻想種、ドラゴン型ホーミングレーザーが九本放たれるとゼウスの雷霆を一部突き破ってその概念装甲まで届く。が、それだけ。
「ぬ――――火力不足か」
「くそっ、安物貸し出しやがって――――ぎゃああ、死ぬぅ!?」
一応、借り物なので壊さないように振るったところ普通に火力不足であり。
イアソンの周囲に<不壊>の概念つきの宝具がいくつか突き立てられる。が、機嫌を損ねたのかランク的にはほどほどである。
「貴様のその舌、何故ついている――――?」
「英雄王の、カッコイイ宝具がみたいなー!? 俺たちの想像もできないような、すっごい弓とかあるんだろうなー!?」
慌ててフォローに入った藤丸の声に、ピクリと英雄王の耳が動く。
と、それを見てなんやかんや危機管理意識が戻ってきたイアソンがすかさず乗った。
「ヘラクレスに相応しい弓なんて出せるのは英雄王くらいだろうなぁー!」
「確かに、他の英霊には望むべくもない」
「――――――良いだろう。だが、相応しい働きをせねば貴様の首をもらうぞ?」
ヘラクレスにもヨイショされ(本人はいたって真面目)、機嫌が戻ったギルガメッシュは、黄金の波紋から巨大な大弓を取り出す。ヘラクレスが使った弓―――その原典とも言えるそれに、ヘラクレスが不敵な笑みを浮かべる。
「では、ご覧いただこう――――――<
空を割り、雷を裂いて九の矢が飛翔する。
その第一矢が、進路上の雷を引き受け――――全ての矢が、先ほどアキレウスが傷を付けた概念防御の上、全く同じ位置に突き立つ。
あまりにも局所的かつ高い負荷により、ゼウスの概念防御が破られ――――矢が真体に傷を付ける。
ゼウスの巨体からすれば小さな傷。
だが、明らかに雷霆の出力が低下する。
『出力低下――――まさか、これは』
「よもや、ヒュドラの毒矢すらあるとは……恐れ入った」
「当然だ、この我を誰と心得る」
ケイローンがその苦しみから不死を返上し、ヘラクレスすらも死に至らしめた絶死の猛毒。もはや概念的な毒の最上位と言っても過言ではないそれは、機械の神であるゼウスさえも蝕む。
即座に汚染された部位を切り離そうとするが、その瞬間突っ込んできたアキレウスの戦車が傷口を広げ。ピンポイントに再度放たれた毒矢が突き刺さる。
『ぐ、おおおおお―――――!? 莫迦な』
『だが、まだだ。毒が回りきるよりも、我が雷霆、最終裁定ケラウノスが貴様たちを焼き払う方がはるかに早い』
既に毒を諦め、防御を諦め、殲滅を優先したゼウスを前にヘラクレスとアキレウスであっても殺しつくすことは難しい。
本来であれば、ブラックバレルを用いて即座に戦闘を終了させなくてはならない局面。
この局面のために呼び出された、人類史の英霊たちが立つ。
「――――故にこそ、刮目せよ! 神の雷霆は此処にある――――『
其れは、神を撃ち落とした理。
人が自然を、神を解き明かし、技術へ―――人の手が及ぶものとした宝具。
決して、ゼウスを倒せるような威力ではない。
だが絶対神から過去のものへとその神秘を貶める。
「行くぜ、大将! ゴォォルデン! ―――ヒュージ・ベアー号!」
「――――告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に 聖杯の寄る辺に従い、人理の轍より応えよ 汝、星見の言霊を纏う七天 降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!」
ライダー霊基の金時によって召喚されるのは、巨大な甲冑。明らかに平安という時代にそぐわないその物体の由来、海の果てから流れ着いた何か。それと、先ほど破壊されたばかりの月女神の破片を触媒とし――――。
その技術を流用して造られた、同じく甲冑。
触媒が触媒なため、普段よりも巨大なロボとして顕現したのは、
「サーヴァント・アーチャー。対軍戦闘もののふユニット……。真名を……源為朝。戦闘待機中。指示を。」
「令呪を以て命ずる――――最大威力にて宝具の解放を!」
「承知――――標的『星間戦闘用船』確認、出力最大。鏡月収斂。形態変化。月読式リボルビングキャノン、<轟沈・弓張月>。カウント、令呪にて大幅に省略。開始」
「3」
その矢は、船を沈めるという逸話の具現。
「2」
カルデアすらも崩壊せしめるその一矢、
「1」
宇宙を渡る船たるゼウスに、その技術を源流としつつ、弓というただ一点にて凌駕するそれを、とある国の妄執と技術の積み重ねが生んだ怪物が放つ。
「発射」
ヘラクレスとアキレウスの手により、既に満足な概念防御はない。
ニコラ・テスラの雷電により、雷霆は貶められた。
もはや、ゼウスに防ぐ手立てはなく。
船を貫く概念が、再び宇宙を彷徨う船になろうとしていたゼウスを貫いた。
そして、虚空の“瞳”は開かれる―――。
以下、あとがき
皆様の感想とかアイデアのお陰でなんとか失踪せずに済みました。感謝を。
これが三人寄ればモンジュー…。
設定上、摂津式大具足の由来が機神の真体という疑惑があり。
その技術を流用して為朝ができた、かもしれないらしいので採用しました。採用です!(某サトイモ感)
真体由来、対船の宝具……あれ、これ対艦砲では? 採用です!(ry
カオス戦はもう決めてるので、早めに出します
が。仕事の都合上、感染状況に左右されるかもしれません。すみませんがご理解いただきたく…。