ついでに作風も安定してないですが、多分完結するまで安定しない気がします。
―――――私の先輩は、凄い“人”です。
とは言っても、当然ですがサーヴァント並の何かを持っておられるというわけではありません。
ただ直向きに人理を守ろうとされていて、英霊の皆さん――――そして、カルデアスタッフの皆さんを信頼されている。
まるで負けることなんて疑っていないかのように命を預けて、歯を食いしばって前を見る。
魔術師としては、きっと落第でしかない。
根拠のない信頼に身を任せて、一緒に喜んで。そうした“人”らしいところが、きっと『守りたい』と思ってしまうのでしょう。
「マースター! 次の特異点は海だとお聞きしたの! ……わたしも、ご一緒してはいけないかしら?」
キラキラと、物理的に輝いているようにも見える笑顔のアビーさんが先輩に提案すると、先輩は嬉しそうに「海水浴かあ、いいね」と頷かれた後ちょっと悩むような素振りを見せました。
「うーん、でも怖い海賊がいるから倒した後でシミュレーターかな」
「……むぅ。もし私にもできることがあれば呼んで下さいな。悪い人たちにも良い夢を見せてさしあげるから!」
「うん、もちろん。でもせっかくなんだから戦わずにみんなで花火とかで遊びたいね」
「……素敵! 私、まだ花火というものはしたことがないの! お栄さんもお誘いしなくっちゃ!」
パタパタと去っていくアビーさんを笑顔で見送ると、先輩は少し考えながらも行き先を決められたようで。
「オケアノスといえば―――――ネモ!」
と、声に応えるように不意に現れたのはノーチラス号のキャプテンである“幻霊”を名乗るキャプテン・ネモ。男の子なのか、女の子なのか……傍目には分からないですが、マスターは承知されているのか気安い様子です。
「――――なんだい、マスター。もちろん準備はできてるけど、買い物とノーチラス号の整備を手伝ってって言ったよね?」
「マスターさんにも息抜きは必要ですし」
「僕たちと一緒にいこーよ!」
「美味しいパンもご馳走しちゃいますよ」
「……俺、父さんの車の洗車とプラモデル制作くらいしかしたことないけどそれで良ければ」
「まあ、整備は別に軽く見回りにでも付き合ってくれればいいんだけど」
「普段のカルデアが閉塞された場所ですから、海風を浴びるだけでも、気分が変わりますよ?」
「そーそー! 潜水艦乗りもたまには外に出なくっちゃ!」
「ご飯も元気の維持に欠かせないよね」
「ありがとう。ネモの優しさが染み渡る……これがマイ・キャプテン」
「……ちょっ。もう、後でしっかり歓迎させてもらうよ、マイ・マスター」
少し恥ずかしそうなネモキャプテンですが、なんとなく慣れた会話のようにも思えます。……先輩、気がつくと皆さんと打ち解けられてるんですよね。一緒に戦っておられるので当然といえばそうかもしれませんが、少し不思議です。
「――――あ。今度の特異点は
「………はぁ。仕方ない、君がそういうなら僕たちは全力で応えるだけだけど―――流石に、海でも戦えるような
「おっけー。じゃあ水が得意で
「うん、そうしてくれると助かるよ。……いや、でもいるの? そんな英霊」
「本気のギルガメッシュと戦いを成立させられるくらいには強い水の女神で毒も使えるハイ・サーヴァントなら」
「――――あら、呼んだかしら」
「ああ、成程。じゃあ、また後でねマスター」
「オッケー。潜水艦の美味しいご飯を期待してる」
と、やって来られたのはメルトリリスさん。
………最近気づいたのですが、その格好はなかなかその。公序良俗に反しているのでは…? しかし先輩は気にされた様子もなく。
「メルト、次の特異点なんだけど海だから、ちょっと海中で宝具をお願いしたいなって。できればサラスヴァティーの方」
「……ふぅん。厄介な能力持ちというわけ。私にしか頼めないのなら考えてあげてもいいけど」
「うーん、どうだろう。できそうな人を考えたらメルトが真っ先に浮かんだだけだからさ。ちょっと考えてみる―――――」
「いいわ、気が乗ったからやってあげる。最高の
……やはり、仲が良いですね。
良いことだとは思うのですが、先輩のファースト・サーヴァントとしてはちょっと不安というか、これでいいのかなという思いもあったり。
「えーと、ネモと突撃して、メルトに撹乱してもらって、後は……止めの一撃?」
いつも悩んだり、どなたかに相談しに行ったり、シミュレーターをしていたり。過労が心配になるくらい精力的に動かれている先輩を、皆さんも心配されています。もちろん、私も。ですが私は、先輩の支えになれているのでしょうか…?
「そうだ、マシュ。次はきっと潜水艦か船旅になるだろうし、準備に必要な物とか聞きに行こう!」
「必要なもの、ですか…? えっと、私はデミですがサーヴァントですし、基本的に食料くらいで――――」
「それは違うさ、マシュ。俺たちは人理を救うために戦っているけど――――それはきっと、戦いだけじゃない。人類史の特異点を巡る、その道筋には。人がいて、営みがあって、そこに根付く文化があって。そこにしかない景色がある。きっと人の歴史を知る旅になるから。一緒に楽しんでいこう」
とにかく早くなんとかしようとして、ちょっとバタバタしてたけど。
そんな風にバツが悪そうに笑う先輩ですが、確かに私の心にもこれまでの旅路が、フランスの長閑な風景や、勇敢に戦う兵士たち。ローマの豪華な建物や、食事。歓迎してくれた人々の顔が残っていました。
「というわけで、餅は餅屋だ。船乗りにおすすめの娯楽を聞いとかないと!」
「はい、先輩!」
なお、ネモさん曰く潜水艦の楽しみは食事くらいしかないとのことでした。
――――――――――――――――――――――
第六特異点、キャメロット――――。
――――――どんな手段を使っても、私は今度こそ。
……今度こそ、我が王を殺すのだ。
荒廃した土地を、ブロンドの髪の騎士が歩く。
擦り切れたローブは流浪の民のようで、表情にも色濃い疲労がある。それでも、その透き通った瞳は間違いなく目指す道を見据えていた。
「――――ベディヴィエール?」
ふと、名を呼ばれた。
聞くはずのない声であった。忘れるはずもない声なのに、聞くことを想像できない声であった。
使命を果たせず、どれほど罵倒されようとも後悔しきれぬと思い。
驚いたように目を見開いて、しかして何気なく声をかけてきた在りし日の王の姿に、ベディヴィエールは思わず我を忘れた。
…………
………
…
「―――――なるほど、そういうことであれば私は別人ということになりますね。私が貴方を罰するのも、赦すのも、残念ですが筋が通らない」
「しかしまあ、よくやるものだ。諦めても誰も責めぬと思うがね」
そうおっしゃる我が王――――カルデアに召喚された、セイバーであるという我が王は。ひどく懐かしい/いつものように 公正にして実直な意見を述べた。見知らぬ赤い外套の弓兵が皮肉げに言うが、存外その言葉尻には気遣う響きがある。……円卓の中であれやこれやと気を回していたベディヴィエールからすれば、ひどく人が良い青年のように思える。
「アーチャー。貴方らしいとは思いますが――――」
「承知しているとも。君の騎士だ、それはもう頑固なところも君に似ているだろうさ」
「……サー・ベディヴィエールはともかく、私の騎士と一括にされるのは……むぅ」
「ガウェイン卿も
「ところでその条件では貴方も当てはまると思いますよ、
「……まあ確かに、人間誰しも似たような点はあるということだな」
どこか楽しげに語る我が王に、ふと思う。
円卓に、果たしてこのように王に気軽に話しかけられる者がいただろうか、と。
王である、騎士である。
その前に平等であるという円卓の理念を、どこかに忘れてはいなかっただろうか。
と、ここまで空気を読んで黙っていた黒髪の少年が思わずと言った様子で呟く。
「これが、
「マスター…!? なんですか王の圧って。そんなの出していますか!?」
「……食事が遅い時にはな」
「アーチャー、勝負を所望とあらば受けて立ちます」
「やれやれ、しがない弓兵にそんなものを求めないでほしいがね」
ずっと、私の罪は使命を果たせなかったことだと思っていた。
だが、本当は――――世界が滅ぶ間際でも、笑顔を忘れない。そんな言ってしまえば能天気な、ちょっとしたものを忘れてしまったことだったかもしれない。
――――――――――――――――――――
「―――――まさか」
「此処を、通してもらいます。――――サー・ガウェイン」
穏やかな陽光――――世界が滅びる間際とて変わらぬ“不夜”のギフト。
それに真っ向から対峙するのは。
不可視の鞘に収められた剣、青を基調とした装いに白銀の鎧。
忘れもしない――――忘れるはずもない。我らが王、騎士王の姿。
騎士たちは――――剣を向けられるはずもない。
円卓の騎士、敬愛する騎士王。濯げぬ罪を背負い、この手を拭えぬ血に染めて、必ずや成し遂げると誓ったこの身でさえも葛藤があるのだ。どうしてそこらの騎士にできるだろう。それができるとすれば――――。
「サー・ランスロット。貴方も“そちら”側ですか」
「……情けないものだが。軽蔑してくれても構わん」
「いえ、貴方が我々の側に立った理由は承知しています、それは不要でしょう。ですが―――――我々はもう二度と、彼の王を裏切らぬと誓った身」
「良いでしょう。―――――ならば押し通る」
最早、隠す意味はなし―――。
不可視の鞘から解き放たれた黄金の輝きに、騎士たちがどよめく。その、どこまでも尊い輝きにガウェインすらも心が揺れるのを感じ取った。
「ですが、その剣であっても――――いいえ、その剣であるからこそ、あの城門は破れない。仮に私を倒せたにせよ、此処を超えることは」
「―――――あのー、お話長かったので。ぎゅ~っとしちゃいましたけど。まだかかりそうですか?」
我が王が、遠い目をしておられる。
なんとなくトリスタンが去っていた時のことを思い出し、ガウェインも背後を振り返り。先程までしっかりとあった聖都の門が、綺麗な真四角にくり抜かれているのを見た。
それはもう、くっきりと。
なにかの冗談のようにすっきりはっきり中が見えていた。
そして、それを成したのは――――。
「な、――――――なんと、巨大な」
あまりにも巨大な胸部――――――ではなく、爪を持つ、一人の少女。
幼気な顔と裏腹にあまりにも、あまりにもアンバランスな
「くっ、これは――――なんという凶悪な! 未だ嘗て見たことがないほどの…!」
「サー・ガウェイン」
一応、キャメロットの門を思い出して郷愁に浸っていたはずが、まさかの展開で真顔で剣を止めたアルトリアだったが。
剣を構え直しはしたものの視線が一点に固定されて戻らないガウェインの懐に飛び込むと、再び装着したその聖剣の風の鞘を開放した。
「―――――風よ、荒れ狂え」
「ぐわぁああああっ!?」
空から見ても、やはり絶景であった。