卯ノ花さんの光源氏計画   作:木野兎刃(元:万屋よっちゃん)

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双葉、宣言する

一番隊隊舎にある隊首室。双護はそこで自身の副官である市丸ギンの報告を聞いていた。

 

 

「……………とまぁ、こんな感じですわ。艶羅鏡典の封印手続きと綱彌代への取引もこっちで済ませときました」

 

 

双護は今回、時乃が起こした事件の事後処理をギンに一任していた。その結果として、綱彌代を含めた一部の貴族に護廷への関与を禁止させた。事件に綱彌代の本家は直接関与していない。

 

そのため、綱彌代本家は当初時乃の被害者として護廷を脅そうとした。

 

しかし、艶羅鏡典をただの霊術院の生徒が簡単に持ち出せた事への責任として財産と綱彌代本家の解体をチラつかせた途端意見を180度反転させた。

 

今の綱彌代は艶羅鏡典があるといっても護廷を相手に出来るほど戦力を持ち合わせていない。ギンは武力行使も辞さないとばかりに霊圧を開放させながら交渉した事で綱彌代も退かざるをえなかった。

 

 

「ご苦労さま、ギン」

 

 

書類を片付けながら自分の報告を聞く双護に小さくため息を吐くギン。上司としての双護に文句は無い。斬拳走鬼、どれ一つとっても自分よりも数段は上でありどんな策謀すら捩じ伏せるだけの力がある。

 

ギン個人としても双護には返しきれないだけの恩がある為、忠誠を誓わない理由がない。

 

しかし、不満はあった。双護が仕事をし過ぎる事だ。総隊長というのは基本的に激務である。

 

各隊から上がってくる報告書の確認、霊術院の護廷隊内定者の資料確認と入隊先の確認と調整、隊士の訓練と定期的に開催する隊首会の準備………ざっと挙げるだけでこれ程あるのだが、部下の分の書類仕事をやってしまったりと一番隊の隊士で双護が休んでいる姿を目撃した者は居ないとまで言われている。

 

部下の記念日であったり、体調を崩していると知れば仕事を取り上げて無理矢理休ませる姿が目撃される。

 

そんな仕事ばかりな双護を心配してか、夜一や浮竹、京楽、烈などから仕事をセーブさせるように言われているギンは双護のワーカーホリック振りに辟易としていた。

 

報告ついでにとギンはちょっとした憂さ晴らしを思い付きニヤリと笑う。

 

 

「それにしても双葉ちゃんはええ子ですわ。鬼道だけならボク敵いませんし、ご両親に似て美人さんやし、ボクの見たところによると奥様ぐらいのスタイルにはなりそ………………って冗談ですやん。ヨミちゃんもそんな怒らんといてや」

 

 

『次そんな事言ったら殺すから』

 

 

書類仕事をしていた筈の双護だったがいつの間にか自身の斬魄刀を解放しており、ギンの背後から現れたヨミがギンの首筋に刃を当てていた。

 

 

 

「ヨミちゃんが言ってくれたから僕から言う事は無いけど、とりあえず乱菊には報告しとくね」

 

 

「んな殺生な‼︎ちょっとした冗談ですやん‼︎」

 

 

「確かにギンに迷惑はかけてるけどそれとこれとは別問題だからね。もしあの娘に手を出すなら乱菊の同意と僕を倒してからにしてね」

 

 

「乱菊程じゃ無いけど双葉ちゃんもかわええからなぁ…………双護さんと本気でやり合えるならそれも有りですわ」

 

 

飄々とした口調で冗談なのか本音なのか分からない事がよくあるギンだが双護と戦ってみたいというのはギンが口にする数少ない本音の一つだ。

 

ギン自身双護に勝てるとは思っていないが、男として一度は本気で戦ってみたいと思っていた。

 

ギンも双護も霊圧を解放する事で備え付けられている机や箪笥などがガタガタと震え出す。しかし、ギンは突然霊圧の解放を止め、パンと手を叩く。

 

 

「ま、ボクって一途なもんで。そんな機会一生来る事あらへんです………………って、どうやらボクはお邪魔みたいですし、今日は早退させてもらいますわ。別に乱菊の機嫌取るつもりとかやないけど酒屋寄ってから帰りますわ」

 

 

「ギン、これ僕からのお詫び。明日返してくれればいから」

 

 

「おおきに、ほな」

 

 

隊首室の窓を開け飛び出していくギンに自身の財布を投げ渡す双護。

 

ギンは財布を受け取ると何処かへと消えていった。

 

ギンが窓から退出してから暫くすると、隊首室のドアをノックする音が響く。

 

 

「どうぞ」

 

 

双護が入室を許可すると双葉がドアを開けて入ってきた。

 

 

「ギンさ…………市丸副隊長は帰られたんですね」

 

 

「この前の事件で働き詰めだったからね。少し無理矢理だったけど早退してもらったんだよ。それで?わざわざ隊首室まで来たのはなんでなのかな?」

 

 

双護は書類を片付け、双葉の目を真っ直ぐと見つめる。

 

仕事ばかりの双護だが、家族の時間をとっていないかと言われれば答えは否である。日中は難しいが夕食は必ず夜一と双葉と3人で食べている。

 

その為、話であるなら双葉が隊首室へ出向かずとも家で出来る。それをせずにわざわざ隊首室へ来たと言う事はよっぽどの要件だと双護は考えた。

 

 

「まずは私の不手際で起きてしまった事件の後始末ありがとうございます。その上で私の我儘を聞いていただき感謝します」

 

 

「礼には及ばないよ。総隊長としては瀞霊廷の平和の為にそうするべきと判断したからそうしただけだから」

 

 

今回の事件の主犯である時乃は数週間の停学程度の処分になった。

 

同級生2人を殺害しており、艶羅鏡典の強奪や贈賄などおよそ停学程度で済むような物では無い。通常ならば被害者である双葉からの嘆願があったとはいえ、蛆虫の巣への投獄に相当する刑になる筈だった。

 

しかし、綱彌代本家の力を削る事を優先した結果、時乃は停学処分となった。

 

停学が明け、日常生活に戻ったとしても時乃の生活は今までのようにはいかない。人殺しの犯罪者というレッテルが一生ついて回る事となる。霊術院卒業後の進路、そしてその後の出世にも響く事になる。

 

霊術院生のうちに起こした犯罪であればそうした社会的制裁があれば投獄は必要無しとして中央四十六室を無理矢理納得させたのだ。

 

 

「まぁ、普段あんまり頼ってくれない娘の我儘くらい叶えてやりたいっていう父親心っていうのもあるんだけどね」

 

 

真面目な表情から一転して普段の温和な表情へと戻る双護。

 

双護は仕事とプライベートは切り分けるべきというのを信条にしているが、普段大半を自分で何とかしようとする娘が珍しく自分を頼ってくれて思わずはしゃいでしまった。

 

双護は本来、時乃を蛆虫の巣へ投獄するから霊力を剥奪した上で現世へと追放させるかの二択を考えていた。綱彌代本家への制裁とは別として考えていたのだ。

 

しかし、滅多に無い娘の我儘を叶えるべく双護は必死で頭を働かせた。ギンの「わざわざ投獄させんでもええんやないです?本家の動きを封じれば貴族なんて何も出来んですよ」という一言で決心したのだ。

 

 

「で?話ってそれだけじゃないよね?」

 

 

「うん。今回の件で決めた事があるんだけど、父さんにはちゃんと伝えとかなきゃって思ってさ」

 

 

双護が表情を崩したのを確認し、双葉も口調を崩す。

 

 

「私、父さんには護廷隊には入らないって宣言してたよね」

 

 

「そうだね、最初は反抗期とか思ったけど双葉が決めた事だから応援するって決めたし、そのスタンスはこの先と変わらないよ」

 

 

双葉は砕蜂の二番隊、京楽の八番隊、平子の五番隊からうちの隊にこないかと非公式ではあるがスカウトを受けている双葉。

 

その話を双葉に伝えると双葉は全力で拒否した。総隊長の娘という事で奇異の目で見られ、必要以上の期待が掛けられている双葉にとってそのスカウトは迷惑でしかなかった。

 

剣の才能が無く昇進が遅くなれば叩かれ、早く昇進すればコネという事で叩かれる。中途半端な自分が特別扱いされて良い筈が無いと拒否した。

 

そんな双葉にかけるべき言葉が見つからなかった双護は黙って双葉を応援する事にした。

 

双護自身そういった視線を気にしては居なかったし、そうした反論をねじ伏せるだけの力と自信があった。しかし、自分の才能に負い目を感じている双葉にそれを求めるのは酷な話である。

 

 

「私、護廷隊に入るよ。斬術の才能が無くても戦えるって事が分かったし、いつまでも才能が無い事に甘えて逃げてちゃ駄目だって思ったから」

 

 

「そっか、双葉が考えて決めた事なら応援するよ」

 

 

双葉は大抵の事を自分でやろうとし、あまり頼ろうとせず、周囲からの評価を気にして自分だけでなんとかしなければと考え込んでしまう事が双護の思う双葉の欠点だった。

 

 

(僕が時灘に感謝する日が来るなんてね…………お供物くらいはしてやるか)

 

 

しかし、その欠点を払拭するきっかけはあろう事か殺したい程ムカついた時灘の姪だった。

 

時灘本人とは大した関係は無いのかもしれないが双護は双葉が前に進めた事を時灘に感謝していた。

 

 

「よし、今日はもう仕事も片付いてるし久しぶりに僕が訓練みてあげるよ。斬術でも瞬歩でも鬼道の訓練でも何でも付き合うよ」

 

 

「じゃあ………….久しぶりに父さんと鬼ごっこがしたいな。抵抗、妨害有りで」

 

 

双葉はニヤリと笑うと指を弾く。すると突然双護を縛る鬼道が発動した。

 

そして更に手を翳すと六杖光牢が双護の動きを封じる。

 

 

「時間は晩御飯の前まで‼︎私が勝ったら今日の父さんのおかず全部貰っちゃうから‼︎」

 

 

満面の笑みでそういうと双葉は瞬歩で逃げた。双葉の姿が目では確認出来なくなったのを確認して縛道を解除する双護。

 

 

「あぁいうとこは夜一に似たのかな」

 

 

双護は小さく笑みを浮かべると双葉の霊圧を追って駆け出した。

 

その後数時間に及ぶ壮絶な鬼ごっこの末、朽木邸の壁と襖をブチ抜き親子共々白哉に説教される羽目に合った。

 

結果として、双護の勝利に終わったのだが、双葉の更には2人分のおかずが盛られていた。




随分と長くなりましたが、本作はこれにて完全に完結とします。

今後はリメイク版として新しく投稿していくので良かったら読んでください。
自分で納得いかなかったところとか、もっと出来たなって思うところを直して皆様に楽しんでもらえるような作品にしていくので今後とも万屋よっちゃんとこの作品をよろしくお願いします。

双護くんヒロインダービー!!!!※双護くんと絡ませるのが明らかに難しいキャラはヒロインとしての採用が難しくなりますのでそこはご了承ください。

  • 涅ネム (マユリ印ヒロイン)
  • 虎徹勇音  (長身系真面目臆病風妹)
  • 砕蜂    (一途な真面目ちゃん)
  • 雛森桃  (正統派美少女)
  • 四楓院夜一  (褐色お姉さん)
  • その為 (活動報告にお願いします)
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