幻想郷で生き残れるか? ~不運にも迷いこんだ者たち~   作:ごぼう大臣

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無邪気な三妖精

「……あれ? ここさっきも通ったかな……」

 

 日が昇っていくらか時間が経った頃、うっすらと霧が立ちこめる森の中を、一人の少女が歩いていた。

 明らかに自然の中では場違いなワイシャツ、ベスト、ブレザー、スカート、そしてローファー靴という制服に身を包み、リュックを背負ってキョロキョロとさまよっている。不安げな表情で、長い黒髪を時おり、気をまぎらわすようにかきあげていた。

 彼女、ニシダ サオリは代わり映えしない景色に戸惑いながら、昨日のことを思い出していた。

 

 ▼▼中学の修学旅行で、何事もなく初日を終え、二日目の宿泊場所に行くバスへ乗り込んだ……。そこまでは覚えている。

 しかし、どういう経緯か、彼女はふと気がつくと朝方の見知らぬ森の中に眠っていたのである。

 最初はサオリも夢を見ているのかと思った。クラスの全員が乗ったバスから一人だけ森にこぼれ出るなどというのは、普通に考えてあり得ない。

 

 携帯の電波が通じないので、まずは森を出ようとしたのだが、よほどの奥深くにいたのか一時間ほど迷い、同じような景色を見続けていた。そこまでくると、さすがに夢ではないと理解する。

 

「……この森ちょっとおかしいんじゃないの? 変なキノコ生えてるし……」

 

 一人ごちながら、彼女はすぐそばの地面に目を落とした。密集するように生えた、無数のキノコたち。大きさも色もさまざまで、成人が寝れそうなほどのカサを持つもの、紫と白のマーブル柄のものなどが、辺り一面に生えている。

 脱出に集中して気にしないようにしていたが、それらはやはり奇怪だった。

 

 うんざりしたような目でサオリはキノコをながめていた。すると、不意に誰かに背中を押される感触がした。

 

「うわっ、たった……!」

 

 つんのめって倒れそうになりながら、サオリはあわてて背後を振り返る。が、誰もいない。

 人影も、足音も、気配もなく、かすかにそよ風が吹き抜ける。

 サオリは首をかしげ、また歩き出す。しかし今度は後ろからスカートをめくられた。

 

「きゃっ!?」

 

 スカートの下にはいた短パンがあらわになる。彼女はあわてて舞い上がった布を押さえ、さっきより勢いを増して振り返り、ついでに左右を二、三度確認した。

 すると、腰まである髪を引っ張られる。振り返るが、今度も誰もいない。

 彼女は最初こそ戸惑ったが、ほどなくしてイライラしはじめた。何者か知らないが、子供じみたイタズラだ。

 どこかに地元の悪ガキでも隠れているんだろうか。神や妖怪など信じていない彼女はそう思い、一つ長い息を吐く。

 

「…………」

 

 続けて、ポケットからいつも持ち歩いている手鏡を取り出すと、おもむろに髪を整えはじめた。

 何者かのイタズラで乱れた髪型を、気にしているのだろうか。否、手先はしきりに髪の毛をすいているが、彼女の視線は、鏡に映る自分の顔と――その背後をくまなく見つめていた。

 しばらくして、鏡越しに見つめる背後の原っぱに、彼女は小さな違和感を見つけた。

 原っぱの雑草の一部が、ひとりでにかき分けられるように動いている。いや、見えない何かが雑草をかき分け、踏んでいるのだ。その何かはちょうど横幅一メートルほどの生き物に見えた。

 

 サオリは反射的に眉をひそめる。ゲームならまだしも、現実で透明な生き物など見たことがない。が、その見えない生き物はどんどん彼女に向けて近づいてくる。

 ものは試しという気持ちで、サオリは持っていた手鏡を見えない生き物に向かって投げつけた。

 

「えいっ!」

 

「あいたぁっ!?」

 

 手鏡が空中で何かにはね返る。同時に、気の抜けるような女の子の悲鳴が聞こえた。サオリが虚をつかれたように前方を凝視すると、何も見えない空間に、透けて出てくるようにして三人の小さな女の子が現れた。

 

「……なんでバレたのよー。たしかに見えなくなってたのにー……」

 

「音だってちゃんと消してたわよ……多分」

 

「気配も分からないハズなんだけどなぁ」

 

「…………」

 

 突如あらわれた、サオリの腰ほどの背丈もなさそうな、四、五歳ほどの見た目の幼女たち。

 一人目は二つ結びのオレンジ色の髪に赤いリボン付きカチューシャを着けた子。

 二人目は木蘭(もくらん)色の髪をツインドリルにして白い帽子をかぶった子。

 三人目は額で切り揃えた長い黒髪に青のカチューシャを着けた子。

 全員が凝った可愛らしい子供服のようなものを着て、背中に薄い羽を生やしている。

 三人はしばらく不思議そうな顔をして愚痴っていたが、ポカンとしながら見下ろすサオリの姿に気づくとハッとなり、そろって背を向けた。

 

「ってやばっ! 逃げないと!」

 

「ルナ、早く!」

 

「あっちょっ、置いてかないでよぉ!」

 

 驚いているサオリをよそに、幼女たちはありふれた子供のようにパタパタと走り出す。

 その最後尾で、ツインドリルに白の帽子をかぶった幼女が、つまずいた拍子にドテッと転んだ。

 そのすきに、サオリは転んだ幼女を後ろから両脇を抱え、捕まえる。

 

「わっ、は、離してー!」

 

「ちょっと待ちなさい! イタズラしたのアンタたちでしょう!?」

 

 ジタバタともがく幼女を、サオリはしっかりと抱きかかえた。他の二人――オレンジ髪の子と、黒髪に青カチューシャの子――は離れた場所で顔を見合わせ、友達を助けるか否かで迷っているようであった。

 サオリはそんな二人を含め、全員に向けて言う。

 

「あの、悪いんだけどー! 謝ってほしいのと、聞きたいことが色々あるの! 少し待ってもらえない?」

 

 二人はそろって嫌な顔をする。おそらく手元の子もそうだろう。そう思いながらも、彼女は大声で頼み込む。

 

「お願い! あの、私ちょっと今何が何だかって状況で困ってんのよ! ちょっとでいいから……」

 

 ところが、そう叫んでいる途中で、サオリは急に激しく咳き込みはじめた。

 

「……ゲホ、ゲホッ!! このへん、の……ゴホッ……教え……っ!」

 

「……?」

 

 捕まっていた幼女が驚いて振り向く。サオリはなぜか喉がやにわに痛み、胸がしびれるような感覚に襲われていた。

 立ち止まっていた二人が、あわてた顔でパタパタと駆け寄ってくる。そして、言った。

 

「あちゃ~、もしかしてキノコの胞子にやられたんじゃ……」

 

「かもしれないわ。この人見るからに外来人っぽいし」

 

「……がい……らい……?」

 

「川で洗ったらマシになるかも。ね、降ろしてよ」

 

 いぶかしむサオリとは対照的に、三人は苦しむ姿に同情したのか、彼女の腕を引っ張る。そして、なんと全員でサオリを支えてフワリと浮かび上がると、どこかを目指して飛んでいった。

 

――

 

「幻想郷?」

 

「そ。で、ここは魔法の森」

 

 いぶかしげに眉を上げるサオリに、オレンジ髪の幼女がうなずいた。

 森の中を少し動いた場所にある小川のほとりで、サオリは三人から顔を洗うように言われた。森で見かけた奇妙なキノコは胞子に毒があり、洗い流さなければ危ないのだという。

 そんな危険なものがはびこるこの場所は何なのかと尋ねると、"幻想郷"なのだと言い出した。

 

「……何それ。何県にあるの? それとも外国?」

 

 洗って濡れた顔を振り、まだ胞子の毒で気だるい体を気にしながら、サオリは言った。対して三人はそんなのどうでもいいとばかりに、一歩進み出てこう話す。

 

「幻想郷は幻想郷よ。私は光を操る妖精、サニーミルク!」

 

 オレンジ髪の子が元気いっぱいに答える。

 

「私は音を操る妖精、ルナチャイルド……」

 

 ツインドリルの子が、警戒心をのぞかせつつ名乗った。

 

「私は気配を操る妖精、スターサファイア」

 

 最後に黒髪の子が、静かにおじぎをして言った。

 サオリはといえば……そんな三人を、困ったような目で見つめている。それに気づいたサニーが、不満げに口を開いた。

 

「ちょっと、何よその張り合いのないリアクションは!」

 

「いやだって、急に幻想郷とか妖精とか言われても……」

 

 サオリはとても信じられないという顔で頬をかく。サニーはむきになって人差し指を突きつけた。

 

「私たちが姿を消してたのを見たでしょ!? つかその後飛んでたし!」

 

「あれは……何かタネがあるんでしょ、手品みたいに。中三にもなって騙されないわよ私は」

 

「ああもう、これだから外来人は……」

 

「知らない人に、そんな大がかりな手品をやるワケないのにねー」

 

 納得しないサオリを、ルナとスターは呆れた目で見つめている。それに気づいたサオリはムッとなり、鼻を鳴らして言った。

 

「ふーん。そこまで言うなら……実際に見せてよ。光やら音やら操るところ。そしたら信じてあげる」

 

 半ば意地になったような口調。しかし、それを聞いたサニーは我先にとサオリに詰め寄った。

 

「本当ね? ちゃんと見てなさいよ」

 

「はいはい、頑張ってね」

 

「光を調節して、消えてみせるわ! それっ!」

 

 サニーが堂々とそう言い放った瞬間、彼女の姿が本当にスゥッと消え失せる。あからさまに疑いの目をしていたサオリは、とたんにその目を見開いて大口を開けた。

 

「……え、は?」

 

「どうよっ! これが私の能力!」

 

「わっ!?」

 

 驚くサオリの目の前に、サニーが元通り現れる。それに再度驚いたサオリは、胞子で重たくなった体で川瀬に尻もちをついた。

 それを愉快そうに見つめるサニー。サオリは夢か現実かと言いたげな顔を、ボンヤリとルナに向けた。

 視線に気づいたルナが、小さくため息をつく。

 

「……次は私? いいわよ、これから音を操ってみせる」

 

「う、うん」

 

「それっ! ……………………」

 

「……………………??」

 

 ルナが張り切ってかけ声をあげた瞬間、あたり一帯が無音になる。しかし、続けて得意気に口を開いたルナまで、なぜか口パクであった。『何してんの?』と聞いたサオリの声も、全く声にならない。

 しばらくして、ようやくハッとなったルナがあわてた様子で喋りだした。

 

「あ、そうだった。音が消えるとこういう事もあるんだった……」

 

「周りの音が消えるって、時々不便よね」

 

(……案外まぬけね。この子)

 

 恥ずかしがるルナと、それをからかうサニーをながめながら、サオリは内心で失礼なことを考えていた。

 しかしふと、あることに気づく。

 

「あれ、スターちゃんは?」

 

 そう言って、辺りを見回すサオリ。サニーとルナはなぜかニヤニヤとその様子をながめている。

 次の瞬間、サオリの背後で突然ぼそりと声がした。

 

「私スター。今あなたの後ろにいるの」

 

「ひゃあぁっ!?」

 

 いきなりの不気味な声に仰天したサオリは、振り向いた拍子に回転イスから転げ落ちるがごとく、背後の川にぶっ倒れた。彼女の後ろ半身が水につかり、三人の妖精が大笑いしだす。

 

「あはははは! 引っかかった引っかかった!」

 

「これが私の気配を操る力。ビックリしたでしょう?」

 

「見事なひっくり返りっぷりだったわね」

 

「…………」

 

 霧が晴れてのぞいてきた青空の下、三人の妖精に見下ろさるサオリ。彼女はしばらく呆けた顔をしていたが、やがて飛沫をあげてはね起き、三人に向けてわめいた。

 

「分かった、分かったわよ! 信じるからもう家に帰してよ!! こんなイタズラに付き合ってる暇ないってのっ!!」

 

 切実な悲鳴に、さすがの三人ものけぞって弱った顔をした。サニーが一人、不満げに抗弁する。

 

「な、なによ。アンタが見せてって言ったんじゃない。それにイタズラは私たちのあいでんてぃ、あいでんてってっ……ええと」

 

「……アイデンティティー?」

 

「そう、それよ! アイデンッ、ティ、ティー……なの! 失礼しちゃうわね」

 

 スターの補足を受けながらサニーが言い放ち、むくれる。サオリは少々落ち着きを取り戻したが、なおも不機嫌そうだった。

 脇で黙っていたルナが、ぽつりと口を出す。

 

「家に帰りたいなら、一応アテはあるけどさぁ……」

 

「本当!?」

 

「うん。私たちも今はその近くに住んでるし。けど……」

 

 目を輝かせるサオリに向けてルナはうなずいたが、途中で歯切れ悪く言いよどむ。サオリが眉をひそめると、スターが察したように言いついだ。

 

「たしかに、ただで帰してあげるって少し面白くないわね」

 

「は、はぁ?」

 

「本来、おせっかい焼く義理もないわけだし……いっちょう勝負ごとでもしてみるのはどうかしら」

 

「おお良いわね。さんせー!」

 

 余計な提案をしたスターに、サニーがはしゃきだす。落胆するサオリに、ルナが言った。

 

「まあ、森の中にも頼れる人はいるし」

 

「そうそう。負けたらその人の所に行けばいいのよ。少し手間が増えるだけ」

 

「今は勝負に勝つことを考えればいいの」

 

 サオリの意見も聞かずに勝手に話を進める三人。あげくには小さな声でナイショ話をはじめる。

 サオリががばりと立ち上がると、三人はそろって向こう岸めざして逃げ出した。

 

「それじゃ、勝負はかくれんぼ! 私たちを見つけたらあなたの勝ちね!」

 

「あ、能力も使うから。ちゃんと見つけてねー」

 

「なっ、待ちなさいよ! ちょっと……」

 

 笑顔で一方的に言われ、サオリはあわてて妖精たちを追いかける。しかし、川を渡る途中で、片足が予想以上の深みにはまる。

 

「きゃっ!?」

 

 サオリは悲鳴をあげ、あわてて近くに顔を出している岩に手をついた。しかし着地する場所をまちがえ、片手を岩につけて前傾した姿勢のまま両足をつっぱるという、無理な格好になってしまった。

 サニーが光を操り川の見た目をごまかしたのだが、彼女には分からなかった。

 そのサニーが、手でメガホンをつくってさも楽しそうに叫ぶ。

 

「ダメよ、ちゃんと三十かぞえないとー! じゃあ私たち隠れるからねー!」

 

 そうして、三人は向こう岸の森の中へと消えていった。それを眺めながら、サオリは苦い顔をする。

 いまだ胞子の影響で体は重かった。

 

「うぎぎぎ……っ!」

 

 片手に力を込めながら、彼女は同時に川をなめていたのを重い知った。

 膝上の深さの水流となれば、人は一気に流されやすくなる。しかも、悪いことに彼女の近くには岩が二つ、川をまたぐように並んでおり、狭い岩のすき間からの強い流れが体をさらおうとしてくるのだ。

 はたから見るとまぬけだが、サオリは身一つ。本人にとっては緊急事態だった。彼女は恥をしのんで、妖精たちが去っていった方角に向けて叫んだ。

 

「ごめーん! ちょっと、一旦こっち来てー! 川にハマっちゃってーーっ!」

 

 あらんかぎりの声が森に反響する。しかし、いくら待っても妖精たちは顔を出さない。冗談だと思われているのかとくり返し叫んだが、結果は同じだった。

 しばらくして、サオリはふと、ルナが能力を見せた時に、周りの音がいっさい消えたのを思い出した。

 

『周りの音が消えるって、時々不便よね』

 

 思えば、あの時は本当に"何も"聞こえなかった。例えば、遠くで響く鳥の声なども。

 もし、三人が一緒に隠れていたら。そして、ルナが隠れる時のクセか何かで、三人の周りの音を消していたら。

 

(……まさか、私の声も聞こえてない?)

 

 サオリがそう思い当たり、顔面蒼白となった直後。

 ふんばっていた手がすべり、彼女の体が一気に流れにさらわれる。彼女の視界には、スローモーションで向こう岸が離れていくのが見えた。

 

「ぶわっ!?」

 

 あえなく全身が沈み、彼女はパニックになって手足をばたつかせる。しかし、目鼻や耳が利かない中では上下もすぐに分からなくなり、彼女は水中を転げ回るようにして流されていく。

 胞子の毒が残る体が、水も加わって何倍も重くなる。体が鉛になったような感覚を味わいながら、徐々に鈍っていく頭の中で。

 溺死というのは、案外浅い場所でも起こるのだという戒めを、彼女はうっすら思い出していた。

 

――

 

 それから三十分ほどして、いっこうに姿を見せないサオリを怪しんだ妖精たちが、下流に流れ着いていた彼女を発見した。

 三人でぐったりした体をやっとのことで引き上げたが、すでに意識はなく、心臓がかろうじて動いているだけという状態であった。

 

 川瀬に横たわるサオリを、サニー、ルナ、スターの三人は緊迫した面持ちで見つめていた。

 誰も口を開こうとはしない。目の前で起きている状況に対して、何かを発言するほどの勇気は、彼女らにはいまいち無かった。

 

「……どうしよう」

 

 しばらくして、サニーがかろうじてつぶやき、視線を二人にめぐらせる。ルナとスターは観念したように顔を上げ、おそるおそる言った。

 

「どうするったって……」

 

「まずは病院よね……」

 

 しごく当たり前のことを言う二人。しかし、そう口にしながらも、彼女らはしきりに目を泳がせるだけだった。

 その理由は、ルナの漏らしたセリフで明らかになる。

 

「でも……この人が助かったら、何があったかバレるよね? どんなに叱られるか……」

 

 妖精の精神は、ほぼ全員が子供である。周りの者に叱られるというのは、いつまでも絶対の恐怖であった。

 黙りこんだルナに代わって、スターが突然こんな事を言い出した。

 

「そ、そうだ……埋めちゃいましょう。今からじゃお医者さんにも間に合わないわよ、多分」

 

 その言葉で、サニーとルナの表情に緊張が走る。しかし、少しの間考え込むと、ひきつった顔で笑みを浮かべた。

 

「そ、そうよね。死にそうな体をいじくり回されたら、かえって気の毒だし」

 

「きれいな森に埋葬してあげましょ。そうしましょう」

 

 そうして互いにうなずき、三人はしゃがんでサオリに土をかぶせだす。まだ生きている人間の青白い肌が、どんどん埋もれていく。

 しばらくすると、そこには簡素な土饅頭ができあがる。妖精たちはそこに数本花をむしって供え、テキトーに手を合わせた。

 そして、三人は見なかったことにするかのように、我先にとその場から飛び立った。

 

 果たして彼女らのイタズラの結果は、誰にも知られることなく、本人たちの胸にしまわれる。それも一ヶ月ほどで忘れ去られるだろう。

 妖精は反省しない。学習もしない。失敗し、痛い目をみて、なおもそれをくり返す。永遠の子供時代をすごすのである。

 今日の事件も、その一部にすぎないのだ。

 

ニシダ サオリ――死亡

 

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