幻想郷で生き残れるか? ~不運にも迷いこんだ者たち~   作:ごぼう大臣

42 / 42
大変申し訳ありませんが、ネタ切れの気配が濃くなり、以前から構想していた最終話にて打ち切らせていただきます


最終回

「無事に高校生になれたようね。おめでとう」

 

 町の桜並木が、ちょうど目一杯に桃色の花を咲かせはじめた頃。高校の入学式を終えたイガミ ケンジの前に、一人の女性があらわれた。

 長い金髪をのばした若い女性。白と紫の導師服に、ドアノブカバーのような帽子という奇抜な格好をしている。

 ケンジはその女性を知っていた。目を飛び出しそうなほどに見開き、わなわな震える口を動かす。

 

「……紫、さん?」

 

「久しぶりね。修学旅行の事件以来かしら」

 

――

 

「驚きましたよ。まさかまた会えるだなんて……」

 

「会いたい訳じゃなかったんだけどね。一応、どうしてるかなと思って」

 

 人気のない路地裏に移動し、二人は小声で話す。ケンジの顔をちらちらと伺いながら、少し大人っぽくなったなはどと紫は思った。

 

「あれから、どう? 現代(こっち)では」

 

「……いまだに、帰ってきてない人の方が多くて、世間では神隠し扱いです。一応、生還したヤツは元気ですが」

 

「幻想郷の事は、誰にも話してない?」

 

「あ……ええ。約束ですから」

 

 紫の問いかけに、ケンジの表情が固くなる。行方不明の我が子を探す親たちへ、幻想郷の存在をばらそうと思った事はあった。しかし、そうすればどうなるか、せっかく帰れたというのに水泡に帰すのが恐ろしく、言えなかったのである。

 

「それを聞いて安心したわ」

 

 ケンジの内心など意に介さず、紫は無表情にため息をつく。ケンジは何か言いかけたが押し黙り、場に重い沈黙が流れた。

 しばらく、お互いに無言でいた。紫が無愛想に視線を向けると、ケンジはふと口をためらいがちに動かし、険しい顔を上げて言った。

 

「紫さん」

 

「何?」

 

「妖怪って……何なんですか?」

 

 突拍子のない質問に、紫は眉をしかめる。しかしケンジは思い詰めたように眉間にシワをつくり、大声を張り上げた。

 

「……今まで、言うまいと思っていました。帰らせてもらった身だから。でも……やっぱり理不尽ですよ! 僕らは何かしたんですか、家族と引き離されなきゃならないような、そんな理由があるんですか!?」

 

 一気にそうまくし立て、彼は荒い息を吐く。怒りのにじんだ顔はしだいに悲壮感が増していった。

 紫はそれを見て、さすがに気の毒そうに目線を落とす。そして、ポツリと言った。

 

「理由は、ないわ」

 

「へ?」

 

「単なる偶然なの。それだけ」

 

 紫の言葉に、呆然となるケンジ。慰めるそぶりも見せず、紫は平然と語りかける。

 

「最初に会ったあの日……何て言ったか覚えてる? 幻想郷は、忘れ去られた幻想が行き着く場所だと」

 

「それが何だって……!」

 

「幻想……たとえば神様、妖怪。色々あるけど、現代でいえば自然現象や災害がそれに当たるわね」

 

 紫の言葉の要領が分からず、ケンジはいら立った顔を向ける。そんな彼に、紫はこう問いかけた。

 

「ケンジ、仮にあなたが地震で誰かを失ったら……地震を恨む?」

 

「う、恨むって……」

 

「台風は? 洪水は?」

 

「それは……」

 

「違うでしょう? 死ぬ時は死ぬと、最後には諦めるはずよ」

 

 紫はハッキリとした口調で言った。そして、相手の目をじっと見ながら言う。

 

「落雷や津波や火山噴火がどんなに人命を奪っても、災害を恨む人はいない。災害もそれを気にかけたりしない」

 

「……………………」

 

「幻想との関係も同じよ。現代では、現象に置き換わっただけ」

 

 ケンジは、聞きながら悔しげに顔を歪めていた。理屈は分かる。しかしそんなもの、笑顔で受け入れられる訳がない。

 にらみつけてくる目を、紫はもの言わずに見返していた。憎悪さえ宿すそれを軽く流すように、紫は懐から何かを取り出した。

 

「はい、これ」

 

「……これは?」

 

 それは、ケンジには見慣れない巻物だった。ほどくと、読みにくいが墨で名前が羅列してある。

 その名前のいくつかには、見覚えがあった。

 

「これって……!」

 

「今のところ分かってる生死のリスト。少しは気が楽になるでしょう」

 

 それだけ言って、紫はあっさりと背を向ける。そして自身の目の前に、あの空間の裂け目を出現させた。

 裂け目をくぐろうとする彼女。そこへ、ケンジが絞り出すような声をかけた。

 

「……紫さん」

 

「?」

 

「その……どうも」

 

 顔だけ振り向いた紫へ、涙まじりに言う。紫はにこりともせず、ぽつりと言った。

 

「もう会う事はないでしょうね。その方がいい」

 

 それっきり、紫は無音で姿を消した。一人残されたケンジは、巻物の名前を一つ一つ、緊張した面持ちで確かめていった。

 そして最後まで読んだところで、ぽつり、ぽつりと涙を流し、嗚咽をもらして座り込んだのだった。

 

――

 

 

▼▼中学 生死判明リスト

 

 

生存(帰還)

 

・イガミ ケンジ

・マエザワ エリカ

・ヌマタ カズミ

・アサクラ ノゾミ

・トクダ ノリユキ

・カマダ タカシ

・キシダ アヤメ

・オオヌキ マサヨシ

 

 

生存(残留)

 

・モトキ タツヤ

・フジワラ ハルカ

・サエグサ ミズキ

・ヌマタ レイ(ヌマタ カズミの実姉)

 

 

行方不明

 

・スズキ ミチカ

・ワダ ハルキ

 

死亡

 

・カツタ リョウマ

・ニシダ サオリ

・カトウ ショウゴ

・カサデラ マコト

・ウエムラ シュンスケ

・ミソノ シホ

・ミヤベ ハヤト

・ヤグチ ヒカル

・クロサワ リュウジ

・カシワギ アカネ

・シバタ ユウスケ

・シミズ シオン

・ツカモト ユタカ

・カゲヤマ トモフミ

・サクラバ ミユキ

・ササキ シゲル

・クドウ ナオキ

・サイトウ サクラ

・コモリ ユリ

・カワグチ マサシ

・ハセガワ シュンタ

・サタケ メグミ

・カムロ ソウガ

・カタセ ナオミ

・ヒグチ ヒロヤ

・ニイミ シュウジ

・トミザワ チサト

・ナカノ ホノカ

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。