この世界に生まれてきて、目が開いて初めて見た空は凄く小さかった。
大きな壁で四方を囲まれていて、見上げた空は見慣れていた広くてどこまでも続いているものとは全く違っていた。
俺が暮らしている街は、どこもかしこも中世の街並みそのもので石造りや木造が基本で東京なんかの大都会の摩天楼とは違って高い建物も殆ど無い。
精々、3階建てで殆どは2階建て。
街の真ん中辺りに石造りの砦みたいなところはあるけれど、あそこには一般人は入れない。
そこでふと思った。
確か、進撃の巨人の人類の領域もこんな感じだったな、と。
それで、3歳ぐらいになってから調べてみるとドンピシャだった。
しかも俺と両親、姉が住んでいる場所と言うのはシガンシナ区だったのだから。
シガンシナ区と言えば、進撃の巨人の世界において一番最初に超大型巨人の襲撃を受けて主人公のエレン・イェーガーが母親を食われたりアルミンをいじめるたびにエレンと喧嘩になっていたいじめっ子が飛んできた壁の破片に潰されたりする、あのシガンシナ区だ。
もう本当に、その時の絶望感といったら半端じゃ無かった。
何せ、原作において最初期に起こるであろう出来事の中で恐らくその後の世界線において一番の影響を与える重要な場所に生まれてしまい、しかもその数年後には死ぬかもしれないんだから。
あまり詳しく覚えてはいないけど、襲撃があるのは確か845年の事だったはず。
あの時のエレンの年齢は原作一巻のトロスト区襲撃の時点で15歳ぐらいだったか?
訓練兵団に入団出来るのは12歳からだったはず。開拓地で2年過ごして、となると10歳の時にシガンシナ区は陥落する。
今は835年で、俺の年齢は8歳。
と言うことは、俺はエレンやミカサ達よりも8歳年上という事になる。
シガンシナ区襲撃の時は、18歳。
もし12歳で訓練兵団に入団するのであれば、とっくに卒業してから3年は経った頃だ。
季節はいつなのか、という問題については大凡だけれど春ぐらい、という仮説が立つ。
この、パラディ島という場所は日本の様な四季は無くとも雪が降っている描写は幾つもあったしそうなると夏なども存在するという仮説が立てられる。
正直、ミカサが季節関係無くマフラーをずっとしているものだから服装で判断するのは難しい。
とまぁ色々考えたりしたけど俺はどうすれば良いんだろう?
確かに原作では、かなり人が死んでいったし巨人との力の差と言うのはそれほど圧倒的と言うのも分かる。
何しろエレンは一度巨人に食われているし、女型なんかに食われたのも入れると複数回はパックリいかれちゃってる訳だし、そもそもこの世界の真実と言うやつがあるしでもう訳が分からない。
それに、確か原作だと民の記憶をフリッツ王だかなんだかが操って我々以外の人類は滅亡したとかなんとかと言うのも朧げながら覚えている。
そうすると、ユミルの民だかなんだかの俺はどうしてその影響を受けていないのだろう?
その辺も色々と謎ではあるし、考えなければならない事柄なんだけど目下の課題はシガンシナ区襲撃をどうやって生き残るか、と言う点。
最初は、それらの事を全部話して、と考えたけどそれはすぐに出来ないと知る事になる。
話そうとすると、途端に身体のどこかに激痛が走ったり気を失ったりするのだから話せないし、話せたとしても中央憲兵の存在がある。
調査兵団団長のエルヴィン・スミスの父親は確か壁の外の事で中央憲兵に拷問された末に殺害されているから下手に喋ってしまうとそれこそ、俺の大切な家族に危害が及ぶ可能性が大きい。
前世のことは覚えているし、勿論両親の事も覚えているけどそれでも今世で俺の事を産んでくれて育ててくれているのは今の両親で、そんな俺を可愛がってくれているのは姉だ。
だから、そんな事で死なせるわけにはいかない。
姉は幾らか俺に対する愛情の注ぎ方が過剰気味ではあるけど、それでも可愛がってくれて食料事情があまりよろしくないこの世界において食べていけるのは家族のお陰だ。
ともかく、どうにかして845年の襲撃を家族と共に生き残らないとならない。
でも訓練兵団に入るにしても、年齢は全然足りていないし調査兵団などに協力を依頼することも出来ない。
どうせ話せたとしても子供の戯言だと捨てられるに決まってるんだから。
それから6年の月日が流れて、俺は14歳に。
エレン達は6歳ぐらいの年齢になった頃。
訓練兵団に入団して1年が過ぎた。
姉は19歳になって、父親譲りの金髪を伸ばしている。
姉さんは訓練兵団へは入団しなかった。
ちなみに今世での俺の名前はヴォルフガング・ビッテンフェルト。
なんともまぁ、大層ご立派な名前だが気に入っている。
親しい人には大体ヴォルフとか、ヴォルなんて呼ばれている。
姉はヒルデという名前で十分に将来性を感じられる容姿だ。
優しそうな顔だちと豊かな金髪、それと薄い青色の瞳を持っていて姉弟という関係じゃなきゃ惚れてる事間違い無しだ。
俺は、オレンジブロンドというやつで両親は二人とも金髪だけど母さんの方の遺伝を強く引いているらしい。
母さんは灰色の瞳だから、俺も灰色の瞳。見た目はあまり似ていないんだけどね。
両親とも優しくて、毎日沢山の愛情を貰って育った。
姉は姉で、俺を溺愛してくれているし。
幼少の頃は毎日を日本ほど豊かとは言えないけれど幸せな生活を送りながら、毎日本を読んで勉学と体力作りに専念。
訓練兵団での生活も特に問題は無い。
あぁ、そういえば当然と言えば当然だがエレンとも交流がある。
エレンのお父さんが開いている診療所に健康診断だかなんだかよく分からないけど連れて行かれた時のことだ。
そこで、母さんと先生が話しているのを聞いたんだけど、
「うちの娘も、やんちゃで大変ですよ。この前なんかどういうわけか顔に青あざ作って帰ってきたもんだから妻と二人で仰天しました」
「うちの息子も、最近区内を走り回って一日中帰って来ない時もあるんですよ。人攫いにでも攫われたのかと心配になりました」
んんっ!?
おかしいぞ。
イェーガー家には子供はエレンだけで、そのエレンは男だったはず。
ミカサはまだ一緒に暮らしていないはずなんだけど、もしかしてもう一人子供がいるのか?
と考えて会話に聞き耳を立ててみると、
「うちは娘が一人だけですから、つい甘やかしちゃうんですよ」
なんて言葉が聞こえてきた。
イェーガー家は一人っ子で、しかも女の子。
と言う事は、恐らくエレンが女の子として生まれてきていると言うことだろう。
まさか、そんな訳……と思って一緒に遊びたいみたいな感じでおねだりしてみると、友達が居ないから是非、と言うわけで後日イェーガー家に向かうとエレンくんはエレンちゃんになってました。
どう言うことだ?俺という存在、イレギュラーが存在する事によって変わってしまったのだろうか?
いくら考えても、その答えは出てこなかった。
エレンと初めて出会って早数年。
時間が過ぎるのは早いもので844年、シガンシナ区襲撃まであとたったの1年しかない。
初めてエレンと会ったあの日から、殆ど毎日俺と、姉さんで遊ぶ様になって。
その間、エレンとミカサが出会う切っ掛けになった事件があったり、アルミンとも仲良くなったり。
因みにミカサとアルミンの性別は変わってなかった。
結構安心したのは内緒だ。
でもアルミン、小さい頃って本当に女の子よりも可愛くて俺の両親は普通に初見で勘違いしていた。
それと、シガンシナ区襲撃の件だがいくら考えても答えは出てこなくて仕方が無いからエレンやミカサ、アルミンと遊びながら身体を鍛え勉学に励んだ。
身長も178cmにまで伸びたし、身体付きも同年代と比べるとずっと筋肉質。
あのいじめっ子達を相手しても負ける事は無い。
というか、俺は訓練兵団に入団して、卒業して調査兵団へ入団した。
訓練兵団での成績は、1番だった。
死ぬ気で努力して、幸いにも立体機動の才能は他よりもズバ抜けていたらしく、あまり苦労はしなかった。
ただ、エレン達104期と比べると見劣りする。
なにせ104期は粒揃いも粒揃い、ミカサを筆頭に周りに嫌われてはいるけどジャンも優秀だしコニーやサシャと言った頭は弱くとも強い面々もいる。
それと比べるとどうしても見劣りしてしまうのだ。
まさか10番以内の、しかも1番を取った人間が調査兵団に入ってくるなんて思ってもいなかった調査兵団の先輩や上官達は大騒ぎして、その年の調査兵団を希望して入団したのが8つある訓練兵団を合計しても、俺を入れてもたったの23人だけだったと言うのもあってそれはもう、熱烈に歓迎された。
しかもリヴァイさんに掃除の事で怒られるという貴重な経験もさせてもらった。うん、スパァンッ!!って蹴られて一回転、アニに蹴り飛ばされたエレンやライナーみたいになったのは今でも笑い草だ。
入団したての頃はまだリヴァイさんも兵士長では無かったのと、入団時期が俺と一年程度しかズレていなかったと言うのがある。
ってことは、OVAだかなんかの時の地下街での仲間を失って余り時間は経っていないと言う事になる。
そのせいかなんなのか相当尖っていたけど。
調査兵団での日々は常に死と隣り合わせで、壁外調査から帰ってくると税金泥棒、なんて言われたり石を投げられる事も多い。
俺の同期22人も、月に一度行われる壁外調査で14人が死んでしまったのだから。
壁外調査は基本は一ヶ月に一度行われる。
壁外拠点を作るという目的上、あまり間隔を空けてしまうと巨人の領域に作らねばならない為にどうなるか分からないからだ。
先輩や上官達も、少なくない数が毎回毎回死んでいって、俺の班の班長を務めていた上官は入団から2回目の壁外調査で巨人に喰われて死んでしまったし、同じ班の先輩3人もそうだ。
それでも、エルヴィンさんやリヴァイの力量もあって大幅に下がっている。
俺も生き残っているし、生き残った同期5人も数ヶ月前とは顔付きがまるで別人。
調査兵団に入ってから初めての休暇で家に帰った時、両親もそうだけど姉さんにも驚くぐらい心配されたしエレンやミカサ、アルミンにも「兄ちゃんだいじょうぶ?」って言われたのを覚えてる。
それと、俺の方針が決まった。
それは、出来るだけ原作キャラを救おうと言うものだった。
確かに漫画やアニメで見て好きだったり不憫だと感じたキャラは多い。
リヴァイ班の4人や、ミケさん、ゲルガー、ナナバと言った面々やモブリット達。
他にも、エレンの同期達なんかもそうだ。
新兵でまだ卒団すらしていないのに、前線に駆り出された挙句、死んでしまうのだからあまりにも不憫すぎると言うものだ。
この世界で過ごしていくうちに、原作で死んでいったキャラクター、この世界では実際に生きている人達を救いたい、と思う様になった。
ミケさんやゲルガーとは一緒に酒を飲んだりもするし、ナナバもそう。
ゲルガーとナナバはミケさんの部下で別の班員だが、ミケさんと仲が良い俺はよくこの二人とも関わりを持つことがある。
俺は俺で分隊長として部下を任されている。
他に分隊長なのはハンジやミケさん。
階級は、
・司令官
・団長
・兵士長
・分隊長
・班長
・兵士
・訓練兵
となっている。
兵士長、と言うのは実力で選ばれるのだが、それでいくと間違い無くリヴァイが兵士長になるだろう。
調査兵団において死傷率が高く、あまり嬉しく無い事だがそれ故に昇進も早い。
だから分隊長なんて階級にこれだけ早く昇進出来たのだ。
どうして原作キャラを救おうと思ったのか、と言う理由についてはさっきの不憫だ、とかそう言うのもあるが他にも彼ら精鋭が数人だけでも残っていれば必然的にウォール・マリア奪還やその他の出来事に於いて少なくとも原作よりかは幾分か楽に進められるんじゃないか、と思ったから。
そうすればエレン達に掛かる負担も少しは減るだろうし作戦でももう幾らかは選択肢が広がるだろうから。
偶の休日には帰省して家族や三人に顔を見せ、ハンネスさんともよく話す。
上官ではあるけれど、小さい頃からエレン達とお世話になっていたからか、仲が良い。
出来るだけ、原作の登場人物と交流を深めておきたい。
そうすればいざって時に色々と融通が利きやすいだろうから。
だけど、焦りは日に日に強くなっていく。
当然と言えば当然だけど、壁外に出ることも出来ないし協力者も誰一人得られていない。
未だに誰かに話せないと言うのは変わりない。
今も色々と考えるけど、良い案は浮かばない。
とりあえず、今日から三日間は休暇だから家に帰って家族やエレン達と遊ぼう。
そう言えば、原作ではナナバは男なのか女なのか分からなかったが、少なくともこの世界においてはナナバは女だ。
瞬く間に845年になってしまった。
どうすれば良いのか分らず終いで、焦りがただひたすらおおきくなるばかり。
家に帰れば家族が出迎えてくれるけど、それがいつまで続くかも分からない。
つい先日、壁外調査から帰って来た。
最初は順調に進んでいたけれど、どんどん集まる巨人相手には多勢に無勢で結局壁外拠点を作ることも出来なくて、過去最高レベルの死傷者を叩き出した。
アニメでもあったように、団長が何の成果も得られませんでした、と絶叫するあの場面は、目的が違うとはいえ相当堪えるもので。
シガンシナ区は一番南にあるから壁外調査の時はいつもここから出発して帰ってくる。
当然と言えば当然だけど、母さんや姉さん、エレン達が見にくるのだ。
怪我をして帰ったこともあるし、その時はとんでも無く心配された。
俺はその日、兵団本部に帰った後泣くしかなかった。
泣き止んだ後、俺は確かアニメや漫画だとこの帰って来た日に襲撃があったはずなのに、そんな報告はいつまで経っても来ない。
もしかすると、あの描写ではその様に感じたのだが、本当は日にちがズレていたのだろうか?
どういうわけなのかまるで理解出来ないが、ともかく数日中に襲撃があると見ていいだろう。
そして今日はその分の休みを今日は半休という形で取って家族の下へ。
もしかすると、今日襲撃があるかもしれないし、そうなったらいの一番に対応出来る。
壁外調査の次の日の休みの後、半休を取ったのだ。
午前中の訓練が終わった後に装備の点検などを手早く済ませて装備を付けて家に向かう。
半休というのは、日本でもあったような制度で一日の半分を休暇として過ごせるというものだ。
ただし、違う点が一つある。
と言うのも、半休を取ったとしても兵士として振る舞い居なければならないのだ。
調査兵団はその特性上、いざって時には駐屯兵団や憲兵団よりも先行して事に当たらねばならない。
いつ召集が掛かるか分からないから、召集がかかってもすぐに動けるよう、最悪現地の部隊の指揮下に入ったりすることが出来るよう半休の日は装備などを装着していなければならない義務がある。
それが、今日起こり得る可能性が高い。
調査兵団本部はシガンシナ区から50kmほど離れている。
どれだけ馬を速く走らせても準備などを含めれば2時間は掛かるのだ。
たった2時間、されど2時間。
この時間をどうにかして稼ぐ必要がある。
これが、半休を取った理由だ。
恐らく時刻は午後で夕方頃だったのは確かだから、半休制度の方がいい。
何しろ合法的に装備を付けていられるし、それによって怒られることもない。
まぁ、調査兵団って事で他の兵団よりも周りからの目は厳しい。
それでも、そんなものなんともない。
家族やエレン達が助かってくれるのなら、幾らでも汚名を被るし必要なら殴られてやろう。
調査兵団というのは、その職務上の理由や多兵団よりも圧倒的な激務、死亡率の高さ故に頻繁とまでは行かないが思い通りに休暇を取ることが可能だ。
上官や妻子持ちの人が優先されたりとかはあるけど、その分はまた別の日に回ってくる。
俺もそれを存分に使って、月に一度ぐらいは顔を見せにきていた。
今日も普段と変わらず、半休を取って家族に顔を見せに。
出来るだけ、顔に出さない様に。
「ただいま」
「ヴォルフ!?」
「ヴォルフ!」
家に入ると、母さんと姉さんが出迎えてくれた。
父さんは仕事でいないらしい。
この前の壁外調査での惨状を見て、相当心配してくれていたのだろう。
涙を浮かべながら怪我は無いか、と身体中を確認してくる。
「母さん、姉さんも大丈夫だよ。俺は無事だ。どこも怪我はしていない。心配する必要はないよ」
「それなら、良かった……!」
「本当に、心配ばかり掛けないで……!兵士ってだけでも心配なのに、しかも調査兵だなんて心配しないわけがないでしょ!」
泣きながらそう訴えられて、安心させる為に抱き締める。
二人とハグを交わして、椅子に腰掛けてお茶を飲む。
俺の給料の殆どは家族に仕送りしている。
姉さんは結婚したけど上手くいかなくて離婚、2年ほど前に家に帰ってきた。
俺もまだ恋人の一人もいたことがない。
「今日は、半休なの?」
「あぁ」
「夜には帰るのね?」
「そうだね。多分、来週辺りにちゃんとした休暇が貰える筈だからその時はゆっくりするよ」
二人と笑って話して、3時頃にエレン達に会いに行く。
「エレンミカサ、ただいま」
「兄ちゃん!」
「兄さん」
イェーガー家に赴くと、二人が喜んで飛び付いてくる。
ミカサは原作通り口下手だけど。
ミカサは今でも十分に端正な顔付きしてる。
そりゃジャンが惚れるわけだよ。エレンも美人なんだけど、いかんせんやんちゃ過ぎてなぁ。
本当かどうか分からないけど憲兵団の要注意人物になっちゃってるとかなんとか。
いやでも、子どもの殴り合いぐらいだから盗みとかやってるわけじゃないしそんなことはないと思うけど。
エレンはもう少し落ち着いたほうがいいんじゃないかな、と思うぐらいにはやんちゃで、先月来た時はいじめっ子相手に殴り掛かって憲兵のお世話になり掛けたとか言っていた。
憲兵に追い掛けられるのは初めてじゃないから大丈夫、なんて言ってたけどそうじゃないんだよ、と少しお説教した。
口を尖らせて不貞腐れるエレンは可愛かったです。
「ヴォルフ君、大丈夫だったかい?」
「カルラさん、お久しぶりです。大丈夫ですよ、俺はこの通り五体満足で元気です」
「それなら、本当に良かった。本当に心配したんだから」
「すいません」
「でもなんだって調査兵団に入ったんだい?」
「なんででしょうね……」
カルラさんは、昔っから俺の事を気に掛けてくれていた。
エレンと遊び始めると、尚更だ。かなり肝っ玉母ちゃんって所があるから怒鳴られた事もある。
エレンに調査兵団に行くなと言っているだけあって、それだけじゃないんだろうけど俺が調査兵団に入団したことは今でも反対している。
帰って来ると毎回、駐屯兵団が嫌なら憲兵団に行ったら、と言われる。
多分、今でも願い届けを出せば憲兵団に移れる。
討伐数だけなら50体を数えているし、討伐補佐も41体。基本これだけ戦果を上げていれば憲兵団への切符が渡されるが来た当初当然断った。
俺は移る気は全く無い。
言っちゃなんだけど、多分天職なんだと思う。
それに、命懸けで助け合ってきた皆を放り出せない。
調査兵団や駐屯兵団には先程の文脈から察せられる通り、功績などによって憲兵団への移籍権利や内地での住民権を家族共々得られる機会がある。
ただし、調査兵団にはその基準を十分以上に満たしている人も数多いが誰一人として憲兵団に行かない。
理由は分からないが、どういうわけか今まで調査兵団に所属していた人間でその様な話は聞いたことがない。
唯一聞いたことがあるのは、キース・シャーディス調査兵団長がエルヴィンさんに団長の座を譲って訓練兵団に行くかもしれない、という原作通りの話だけだ。
他兵団と比べると、同期や上下の関係はずっと深く仲が良い。
リヴァイだって、あんな見た目して結構おしゃべりだし、調査兵団内だけで言えば周りを常に気にしている。
ハンジは、原作通り変態だ。
ミケさんは人の匂いを嗅いで笑うと言う癖以外は、寡黙だ。
目が隠れていたりするから何考えているのか本当に分からないけど、鼻がいいから巨人を見つけるのにはとんでもなく秀でている。
「兄ちゃん、調査兵団の話聞かせてよ!」
「エレン、そんなに引っ張ったりしちゃダメ。装備が壊れたらどうするの」
「なんだよミカサ、聞きたく無いんならどっか行ってろよ」
「行かない。エレンは一人にすると何をしでかすか分からないし、すぐに怪我をする」
「なっ!?そんな事ねぇよ!」
エレンとミカサが恒例の言い合いをし始めたから、取り敢えず二人を抱き上げる。
「喧嘩はするなっていつも言ってるだろ。ほら、話なら幾らでも聞かせてやるから。ついでにアルミンも誘ってやろう」
「うん!」
「分かった」
二人を連れてアルミンを探す。
すると、いつもの河原の階段の所で本を読んでいた。
「アルミン」
「!ヴォルフさん!」
「元気だったか?」
「うん、元気だよ」
「相変わらず、その本ばかり読んでるんだな」
「その、憲兵団には言わないで……」
「別に言ったりしないさ。ほら、エレンとミカサも一緒に読もう」
二人を肩から下ろして地べたに座り、壁外の事を話す。
本意では無いけど、グロテスクな所は省いて。
「やっぱり調査兵団ってすげぇ!」
「でも、やっぱり人が沢山死んじゃうんでしょ……?」
エレンはこんなだけど、ミカサとアルミンは聡いから分かっているのか現実の調査兵団はどうなのか、と聞いてくる。
「そうだな……。この前の壁外調査から帰ってきた俺達を見たか?」
「うん」
「皆、傷だらけだった」
「それが現実なんだ。あれだけの数の調査兵団でも巨人と戦うとああなっちゃうんだ」
そう言うと、ミカサとアルミンは下を向いたりマフラーで顔を隠す。
エレンは、驚愕したような顔で俺を見るけど、少しすると言った。
「でも、それでも兄ちゃんは、調査兵団は巨人に立ち向かってんだろ?自由のために戦ってんだろ!?それって凄いカッコいいじゃん!」
そう言われて、俺は驚いて固まるしかなかった。
そんな事を言われたのは、初めての事だったから。
しかもあんな話を聞いた後にそんなことを言うだなんて。
原作を考えると、エレンらしいと言えるのだろうけどそれでも自分の可愛い妹分がこんなんで大丈夫なのか、と本気で不安になる。
「エレンは、調査兵団に入りたいんだったな」
「あぁ!こんな壁の中で死ぬまで暮らすなんて絶対に嫌だ!」
「そうか……」
「な、なんだよ、兄ちゃんも反対するのかよ!?」
「いや、俺はどちらでもないさ。でもいいかエレン。命ってのは軽いものじゃないんだ。よく考えるんだぞ」
「……分かったよ」
それからは、アルミンの壁外の話を聞いている時だった。
ズドォォォォン!!!!!
大きな音と光と共に、地面が揺れて身体が浮く。
咄嗟に3人を抱き寄せて地面に叩きつけられないように庇う。
クソ!遂にって訳か!!!
「な、何が……」
驚いたアルミンの声と同時に、エレンが駆け出す。
「おいエレン!待て!」
エレンを追いかけるためにミカサとアルミンを抱き上げて走る。
そして、あの光景が目に飛び込んでくる。
超大型巨人が姿を現し壁の頂上に手を掛けていた。
確かに調査兵として、数多くの巨人を見て討伐してきたけれど、余りにも圧倒的で言葉を失った。
そうしている間に、超大型巨人は脚を振りかぶって振り下ろす。
そして、大きな衝撃と共に、壁が破壊された。
飛び散る大小様々な壁の破片や、風圧によって吹き飛ばされる人達。
それを見て、我に帰った。
「エレン!何処に行く!?」
「あ、あっちには家が……!母さんが……!」
そう言って駆け出すエレンを、ミカサは俺の腕を振り解き追い掛けていく。
アルミンを抱き抱えたままの俺は、そのまま2人を追い掛けてどうにか捕まえる。
「離せ!離せよ!」
「駄目だ!巨人が入ってきた今、お前達だけ行かせるわけには行かない!だから俺も行く!」
3人を纏めて抱き抱え、イェーガー家に走る。
すると、そこには大岩に潰された家があって、カルラさんはその下敷きになってしまっていた。
原作通りとはいえ、これではどうやってもカルラさんを助け出せない。
それでも駆け寄って、助けられないか試す。
「ヴォルフ!」
「カルラさん、今助けますから!」
そこに、ハンネスさんが立体機動装置で駆け付けて来る。
「ハンネスさん!」
「ヴォルフ!どう言うことだ!?」
「カルラさんが下敷きに!」
そう言って手を貸そうとしてくれた時、ズシン、ズシンと大きく重い足音が聞こえてくる。
クソ、思ったよりも巨人どもの足が速い!
「ハンネスさん、ここは任せます!俺は巨人を食い止めてカルラさんを助け出す時間稼ぎを!」
「止せヴォルフ!単騎ではこの数は無茶だ!」
ハンネスさんの声を無視して、迫る巨人に向かう。
今まで壁外でそうやってきたように身体が自然と動く。
懐の立体機動装置のグリップを握り、ブレードを挿す。
勢いよく引き抜きながらアンカーの射出角度を調整、射出する。
既に5体以上の巨人がこちらに向かってきていて、エレン達が襲われるのは時間の問題だった。
「オラァァァァァ!」
アンカーを建物に刺して、巻き取って通り過ぎてからうなじにアンカーを直接刺す。
そして、また巻き取って頸を刈り取る。
これで1体。
そのまま離脱しながら次の巨人に狙いを定めて斬り掛かる。
それから残りの4体を片付けた後、またエレン達に駆け寄る。
「カルラさんは!?」
「駄目だ、引っ張り出せない!」
「クソったれ!」
そう叫びながら必死に柱を持ち上げようとするが、どうやっても持ち上がらないしびくともしない。
周りを見ると、さっきよりも多い数の巨人が群がってくる。
「ハンネス!ヴォルフ!逃げて!子供達を連れて逃げて!」
「何言ってんだよ母さん!?」
「このままじゃ全員死んでしまうわ!」
「何言ってんだアンタは!俺を誰だと思ってる!?調査兵だぞ!?このぐらいの数、なんて事は無いんだよ!今全部殺してから絶対に助け出してやる!」
「母さん早く出てくれよ!」
「おばさん!」
「ハンネス、ヴォルフ!この子達を連れて逃げて!お願いだから!足が潰れてて出られたとしても走れない!」
「だったら俺が担ぐよ!だから早く出てくれよ母さん!」
エレンと、カルラさんの絶叫が辺りに響き渡る。
俺だって助けたい。
だけど、このままじゃ本当に皆死んでしまう。
ハンネスさんも、俺も、エレンもミカサもアルミンも。
「……ハンネスさん、3人を連れて逃げてください」
「なっ!?お前何を……っ!!」
「お願いします」
だから、俺はハンネスさんに3人を託した。
こうすれば、少なくとも4人は生き残れるし、運が良ければカルラさんも助け出せるかもしれない。
「ハンネスさん、お願いします」
「…………分かった」
ハンネスさんはそう言って、3人を抱き抱える。
「おい何やってんだよ!?母さんがまだ!」
「ハンネスさん、援護は任せてください。あれぐらいはどうにかして見せます」
「すまない、頼んだぞ」
そう言ってハンネスさんは走る。
その後を追わせないために、群がってきた巨人を片っ端から片付けていく。
「いやぁぁぁぁ!!」
「ッ!?」
悲鳴が聞こえて振り向くと、カルラさんが掴まれていた。
急いで戻って、掴んでいた巨人を殺す。
その巨人は、原作の巨人とは違っていたけれどそんな事どうでもいい。
「カルラさん!」
落ちていくカルラさんをどうにか抱き止めて、急いで内門を目指した。
「ハンネスさん!!」
「ヴォルフ!?カルラも!?」
「カルラさんを任せます!足が折れているだけなのでそのまま船へ乗せて早く避難させてください!」
「おいヴォルフ!ヴォルフ!?」
そこで、運良くハンネスさん達と合流出来たからカルラさんを任せておく。
一方的にカルラさんを預けて、再び前線に戻る。
まだ逃げ遅れている人や調査兵団主力が到着するまで時間が必要なんだ。
死ぬ気はさらさら無いが、不味いかもしれない。
やっぱり数が多すぎる。
しかも鎧の巨人まで出てこられたら、雷槍も何も有効な攻撃手段を持たない俺はどうしようもない。
あれから、鎧の巨人が現れて内門を突破された。
どうにかハンネスさん達駐屯兵団と抑えてはいるが、やはり実力差がありすぎる。
調査兵団じゃ、絶対に死なないであろう場面で死んでしまう人も多い。
「ヴォルフ!あまり無茶するな!」
後ろからハンネスさんがそう怒鳴るが、そうも言ってられない。
何せ、この1時間半の間に討伐数は37、討伐補佐だって19も上乗せになっている。
それでもまだ、巨人はゾロゾロとシガンシナ区内や内門を越えて入ってくるのだから、休んでなどいられない。
俺はシガンシナ区内で、駐屯兵団の精鋭班を率いて戦っているが精鋭班と言っても今日の今まで実戦経験なんて一度も無かったのだから瞬く間にその数を減らしていった。
既に20人は居た精鋭班も、今はたったの6人。
俺を入れて7人で巨人と戦わなければならないのに、俺は俺で数の多い巨人を相手するので精一杯、とてもでは無いが援護など出来る筈もなかった。
「うわぁぁぁっ!?止めろぉっ、止めてくれぇぇぇ!!」
また1人、絶叫と共に巨人の口の中に消えていった。
「全員、内門まで引くぞ!ここはもう保たない!」
これ以上、戦うのは無理だ、と判断した俺は内門まで後退する事を決意。
ガスも残り少ないし刃だって今使っているので最後。
今ならまだ壁上に登る事も可能だ。
「行けッ!早くッ!!」
5人を壁上に行かせるべく、最後に道を切り開く。
5人が登り切ったのを確認してから俺も登る。
そこから内門まで壁上を走って移動。
駐屯兵団主力と合流して、ほんの数分の休息とガスと刃を補充しまた戦いに行く。
すると漸く調査兵団が到着。
壁が破られてから1時間と50分後の事だった。
だがもう、どうしようも無かった。
次々と現れる巨人に、いくら調査兵団と言えども壁に出来た穴を塞がない事には打つ手は無く、結果的に調査兵団と駐屯兵団は民間人を乗せた最後の船が出た後に馬に跨りトロスト区に撤退。
その日、人類はウォール・マリアを失った。
性懲りも無く、新しい小説投稿していきます。
他の小説もちゃんと書いてますから、安心してください。
ツイッター始めました。
ジャーマンポテトin納豆
@potatoes_natto