原作キャラを救いたい。   作:ジャーマンポテトin納豆

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古城跡

 

 

 

 

 

 

 

ミケさん達が見張りに就いてから一時間ほど経った頃。

皆が寝静まり取り敢えず今は何も起こらないと気を緩めていた矢先の事であった。

 

「全員起きてくれッ!」

 

誰のものか、塔内に怒号が響き渡った。

直ぐに目を開け身体を跳ね起こし、階段を見るとミケさんの部下が一人。

 

「ビッテンフェルト分隊長、皆も急いで屋上に!」

 

階段を駆け上がる。

 

「ミケさん!」

 

「ヴォルフ、今日はとことんツキが無いらしい……」

 

厳しい表情で見詰める先には、巨人が群れを成していた。

 

「なんだってこんな時間に巨人が!?」

 

「もう日没から何時間も経ってるのに、あいつら動き回ってやがる……」

 

「なんで動けるんだよ!?おかしいだろッ!」

 

「どうして動ける!?巨人は夜は動けない筈じゃ!」

 

口々に叫ぶ。

それはそうだ、巨人は昼間、それと個体差によるが日没後数時間程度しか動けない、それがこの世界の常識だ。

 

なのに目の前には、非常識が広がっている。

人間誰しも非常識や自分の常識が通用しない場面などにぶつかったら叫びたくもなる。

 

だが俺達には、そんな余裕は無い。

こっちは十八人中八人が装備を身に着けていない新兵だ。

それを守りながら戦うとなると原作より戦える人数は多いとは言え厳しい戦いになる。

 

「なんで動けるかを考えるのは、ハンジに任せる。俺達は今この場面を如何にして切り抜けるかだけを考えないとならない」

 

「せめてミカサが戦えれば……」

 

「兄さんが居るだけマシ。私達だけなら抵抗も何も出来ないで死んでる」

 

「ミケさん、どうしますか?」

 

ミケさんの部下の一人が、そう聞いた時だった。

 

バキバキバキッ!!

 

塔の下の方から木が折れる音がする。

 

「ヤツら、塔の扉を壊しやがった!」

 

「ッ!入ってくるぞ!」

 

「新兵、急いで下の階に降りて扉を塞げ!アリソン、ウェット、新兵に付いてやれ!」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

ミケさんが指示を出し、十人が階段を駆け降りていく。

 

「お前たちは、巨人を倒せ。ヴォルフ、お前は俺と警戒だ」

 

「……アレですか」

 

「あぁ、昼間に見た毛むくじゃらが周りをうろついている。何が目的か知らんが、襲われたら一溜りも無い」

 

「分かりました。ネス、もう一人率いて馬を放せ。巨人にやられさえしなければ適当でいい」

 

「「「「「「「「はっ」」」」」」」」

 

ネス、ナナバ、ゲルガー、ケイジ、ミーネ、ケニング、それとミケさんの部下であるエリックが塔から飛び降りて巨人に斬り掛かっていく。

皆なら、人数もあって心配は無いと思うが……。

 

馬を繋いだままだと、獣の投石で全滅させられてしまう。

獣と戦うことは得策じゃないから、逃げることを前提にしたい。

 

そうなると、月光で動ける巨人が他に居るかもしれない可能性がある以上は馬は必要不可欠だ。

馬は別にその辺に放しておけば、後々指笛で呼べる。

戻ってこない場合もあるが、そうなったら装備の無い新兵に相乗りさせればいい。

 

 

獣は、昼間と違って周りを歩くではなく壁に向かって歩いていく。

 

「あの様子なら、心配無さそうだが……」

 

「俺か、ミケさんのどっちかは見張っていた方が良いでしょうね。いきなり襲撃されたら、結果なんて分かり切ってる」

 

「だな。俺が下で戦うから、お前は見張っていてくれ。俺よりもヴォルフの方がアレと戦える」

 

「……分かりました。皆の事、頼みます」

 

「あぁ、誰一人死なせはしないさ」

 

ミケさんも塔から飛び降りる。

下では皆が戦っている中で、俺一人塔の上で見張るだけだ。

 

じれったいが、獣に全く対処出来ないよりはいい。

 

 

 

 

 

 

塔の上で皆を気にしながら獣を見張る。

どうやら塔の中までは侵入してこないようだ。

 

ざっと五十体以上は確認出来る。

塔を守りながらの戦いだし、月明かりがあると言っても夜の戦いだから苦戦している。

 

ぱっと新兵達を一瞥して、状態を確認する。

どうやらライナーが原作と同じように腕を怪我しているらしい。

 

まぁ、大方これを切り抜けたならば本隊の方でライナーとベルトルトへの疑いが掛けられているだろうし、そうなったら流れも大体同じようなものだろう。

これから確実に敵対するのだから一々気にするほどのものでもない。

 

「分隊長、私達は……」

 

「あぁ、二階下の階で見張りを頼む。扉が壊された時はすぐに知らせろ」

 

「はいっ」

 

新兵達が下の階に再び降りていく。

抜剣したまま獣を見据え続ける。

 

「分隊長ッ!」

 

「どうした?」

 

「数が多過ぎます、このままじゃガス切れが先でになります!」

 

巨人の数が多い。

ミケさんも巨人に囲まれながらの戦闘に忙殺されているし、分隊の皆もツーマンセルをしっかりと守って戦っているとはいえ、長くは持たないのは確かだ。

 

一時間も戦えばガス切れの可能性が大きくなるのは確かなことだから、機を見てここから離脱した方が良いだろう。

 

「あとどれぐらい戦える?」

 

「刃もあと収まっているコレだけなんで、10分戦えるかってとこですかね……」

 

「他の皆も同じようなものか……」

 

「どうしますか?本隊なんて俺達がここにいるなんて思ってないから助けも期待出来ないっすよ」

 

「……少しここでアレの見張りをしてくれ。新兵に話をしてくる」

 

「了解っす」

 

ゲルガーとミーネに獣の見張りを少しの間任せ、下の階に降りる。

 

「新兵、集合!」

 

新兵全員を集め、話しをする。

 

「このままだとジリ貧だ。お前達は俺達が援護をするから走って幾らか離れたところで馬を呼べ。二人一組で乗馬、壁に向かえ」

 

「分隊長達は……?」

 

「少なくともお前達を逃がすまでは戦う。それにある程度は巨人を殺しておかなければならない。まぁ、護衛に二、三人は就けるがガスの残量も刃の本数も心許無いから大したことは出来ないだろうな」

 

「それなら私達も最後まで戦います!」

 

クリスタが声を張って言うが、それはどうやったって認めることなど出来ない。

そも、装備を付けてすらいない奴が巨人相手に何が出来ると言うのか。

 

精々、死ぬことが前提の囮ぐらいにしかならない。

そんな事でこいつらを死なせて堪るか。

 

「駄目だ。装備も何も無いお前達が出来ることは何も無い。それに今ここで全員が死んだら今起こっている事実を知らせる事が出来なくなる。それだけは避けないとならない。今お前達が考えるべきは、どうにかして生き残りこの事実を本隊、エルヴィン団長本人に確実に伝えることだ」

 

戦いにおいて情報と言うのは何よりも重要だ。

前世の二度の大戦だけでなく、数多くの戦争や紛争が情報量が多く、その情報量を処理する能力が高い方が圧倒的に優位であることは明白だ。

例えそれがこの世界であろうとも、変わらない。

 

人類が巨人に対して敗退を続けているのは、巨人と言う敵の情報が極端に少ないからに他ならない。

それでも今は少しづつ巨人の情報が知れて来たのだが、それでも微塵程度の情報でしかない。

 

これを前提に考えた場合、夜に巨人が動くことが出来ると言うのはとんでもない情報だ。

なんせ今までは夜に巨人が動くことは出来ないと思われていたのだ。

 

それが完全にひっくり返ることになる。

唯一人類が壁外で安全に行動が出来る夜間の行軍も安全だと言えなくなる。

 

それは人類の壁外での行動がより一層、困難になると言う事に他ならないわけだ。

 

しかもその情報を伝える前に、知っている者が全滅でもしようものなら情報すら伝えられずに、伝えられなかった者達は最初の戦いで混乱したり、最悪調査兵団が大損害を被る事すら有り得るのだ。

だからどうにかして、最悪一人二人でも良いから生き残ってこの情報を本隊に伝えなければならない。

 

この事実を伝えることさえ出来れば、俺だけでなくここに居る全員が死んだとしてもエレンとリヴァイ、エルヴィン団長、ハンジ達に後を託すことが出来る。

後々の戦いは厳しくなるだろうが、それでも戦うと言う選択肢が取れるだけマシな方だ。

 

なれば今考えるべきは、全員が生き残って生還するのでは無く一人でもいいから誰かしら、情報を握り潰される可能性があるベルトルト・フーバーやライナー・ブラウン以外の誰かが生き残る事。

 

その為に、最悪俺や部下達、ミケさん達が死のうがなんだろうがあらゆる手段を講じないとならない。

情報さえ伝えれば後の事はエルヴィンさんやリヴァイ、ハンジ、そしてエレンがどうにかしてくれる。

 

 

 

「分隊長ッ!馬を全部放しました!!」

 

「分かった!聞いたな、お前達」

 

新兵達を一瞥し、ネスとゲルガー、ナナバの3人に新兵の護衛を任せる。

 

「お前達、新兵を頼んだぞ」

 

「はっ!」

 

「やっぱり俺も……」

 

「ゲルガー、それ以上は言うな。お前達はどうにかして生きて帰れ」

 

「…………分かりました。新兵はお任せ下さい」

 

3人が新兵達を直接守りながら、他の皆もそれを援護する。

双眼鏡を覗いて獣を見る。

 

獣が腕を振りかぶり、そして手に持っていた塊を放り投げた。

 

「ッ!?投石ッ!!!」

 

反射的に大声で叫び、そして塔から飛び降りる。

塔の天辺で、放り投げられた大岩が弾け飛ぶ。

 

「うわぁっ!?」

 

「ケニング!」

 

破片が辺り一帯に降り注いで、俺だけでなく皆や新兵達を襲う。

 

「全員点呼!」

 

「ケニング!しっかりして!」

 

「どうした!?」

 

「ケニングが吹き飛ばされました!」

 

「意識と呼吸、外傷の確認!」

 

「意識無し!呼吸は……、してます!外傷は頭部からの出血、恐らく腕と足、それと肋骨が折れています!」

 

どうやら辛うじて生きてはいるらしい。

ただ、どう考えても重症であることは間違いない。

 

内臓や血管に損傷があったり、内出血が酷いのならば即座に適切な治療を受けさせないとしんでしまう。

だが、運ぶ方法が無い。

 

馬上は不安定だから、荷馬車が無いと運べない。

荷馬車の安定性は実は前世の車と同程度、もしくは少し劣るぐらいにはある。

衝撃を吸収するスプリングがかなり特殊なものだからだ。

 

だが、そんな荷馬車があったとしても本隊がここに到着するまでにケニングは死ぬだろう。

 

「ミーネ、お前はケニングの手当をしろ!ミケさん!」

 

「あぁ分かった!」

 

ミーネとケニングにミケさんの班から人を出して護衛してもらう。

獣をもう一度双眼鏡で覗くと、既に壁上には居なかった。

 

「ミケさん、獣が消えました!」

 

「なんだと!?」

 

「ミケさんの代わりに俺が戦います!ミケさんは周辺警戒を!」

 

返事を聞く前に、巨人に飛び掛かる。

どちらにしろ、ミケさんのガスや刃は尽き欠けだろう。

 

そのまま戦わせるわけにはいかない。

補給用のガスだけでも持ってきていれば違っただろうが、たらればの話だ、今考えても仕方が無い。

 

抜刀し、残りの巨人に片っ端から斬り掛かる。

 

「止めを刺せッ!」

 

止めは皆に任せて腱や脊椎、膝裏を斬り落とす。

ガスは出来うる限り節約しつつ全力で、そして素早く仕留めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分もすると、ウトガルド城を囲んでいた巨人は居なくなっていた。

 

取り合えずのところ、凌げたらしい。

俺以外の皆は全員ガスも刃も使い切り、本当にギリギリのところだった。

 

 

 

もう一度塔の上に登って辺りを索敵する。

 

巨人はどうやら本当にいない、と言うより打ち止めになったのだろう。

 

「すまない、結局ヴォルフに頼ることになってしまった」

 

「いいえ、そんなことはありません。それよりも、一刻も早くここから離脱しましょう」

 

「それと、言い辛いことだが……、ケニングが死んだ」

 

「…………そう、ですか」

 

やはりケニングは助からなかった。

言いたくは無いが、これは戦争だ、死人が出るのは当たり前だろう。

 

だが、自分の部下を失うと言うのは何時になっても慣れないものだ。

しかも今回はその死を見届けてやれなかった。

 

「ミーネ、ケニングの遺体は?」

 

「ここにあります……」

 

「せめて連れて帰ってやろう」

 

「はい……ッ」

 

「敵は討ったか?」

 

「ミケさんが、討ってくれました……」

 

「そうか。お前はそのままケニングに付いててやれ」

 

「ありがとうございます……!」

 

ミーネは長い事ケニングと共に戦っていた。

それこそ訓練兵時代からずっと一緒だったのだ、男女の仲ではないらしいが、それでも情は深いに決まってる。

さっきからケニングから離れようとしない。

 

ちらりと見たマントに包まれたケニングの遺体は、下半身が丸々無くなっていた。

 

聞いたところによると、ネスを庇ってやられたらしい。

物陰から飛び出してきた巨人に気付かず、目の前の巨人に飛び掛かったネスを引っ張り戻した時にやられたのだそうだ。

 

「申し訳ありません、分隊長……。俺が無警戒に突っ込んだばかりに……」

 

「いや、今までずっと穴の捜索もしていたんだ、疲労が溜まって注意力が散漫になって居ても仕方が無い」

 

ネスも、部下が自分を庇って死んだとあって顔を歪めている。

 

「ネス、班を率いて周辺警戒。他に巨人が居るなら討伐。ただし毛むくじゃらの巨人には手を出すな」

 

「ッ……。了解」

 

少し休憩を挟み、全員の無事、怪我の有無を全て確認し終えた頃には太陽が地平線からほんの少しだけ顔を出していた。

その後、遺体を布で包んで指笛で呼んだ馬の背に乗せて全員で馬を壁に向かって走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの土煙は……」

 

「どうやら本隊と無事に合流出来たらしいな」

 

「これで、取り合えずは一息付けそうですね」

 

途中でエルヴィンさん達調査兵団本隊と合流。

どうやら道中でミカサ達も合流しているらしく、遠目に私服に装備を身に着けたジャンが見える。

 

荷馬車にケニングの遺体を預けてガスと刃を補給する。

すぐにネス達を含めて自分の分隊の指揮を掌握してからエルヴィンさんの下に走る。

 

「エルヴィンさん!」

 

「ヴォルフ、無事だったか」

 

「部下を一人失いましたが、どうにか」

 

「そうか。報告を頼む」

 

「分かりました」

 

エルヴィンさんへの報告は、アルミンがした報告の補足や詳細を伝える程度のものだったが、エルヴィンさんはどうやら獣は人間が化けているであろうことを確信しているような様子だった。

もしかしたら、エルヴィンさんなら他にも獣と行動を共にしている知性ある巨人が潜んでいることに考え至っているかもしれない。

 

「報告ご苦労。位置に就いてくれ」

 

「了解しました」

 

長距離索敵陣形の担当位置へ就く。

相も変わらず最前線配置であるが、巨人接敵の煙弾は一つも上がらない。

 

既に昼を過ぎてそろそろ3時になろうか、と言う時刻であるのに巨人と一度も会わないのだ。

はてさてどうしたものだろうか。

 

恐らくエルヴィンさんは、壁に穴が空いていない、と気が付いているか、既にそうだと結論付けている筈だ。

であれば何故何時までもこんな呑気に、それこそリヴァイが散歩してるんじゃねぇ、と言いそうなレベルで走り回っているのかが分からない。

 

もしかしてアニ・レオンハート以外の内通者を炙り出そうとしているのだろうか?

 

いやしかしこれで炙り出せるとは到底思えない。

先の壁外調査の折、調査兵団を襲った女型の行動からして、どう考えても調査兵団内部、もしくは憲兵団よりも全く違う、より中枢に近いところに内通者がいると考えるのが普通だ。

 

エレンの配置は中枢にも知らせていない事項だから、偽の配置場所にピンポイントで襲ってきたことも加味すれば消去法で調査兵団内部に居ることは確実と考えている筈。

 

しかしどんな意図があって走り回るのだろうか。

 

 

昼頃になり、調査兵団は壁内に帰還する。

各自は警戒態勢を取りながら休息を取ることとなり、ウトガルド城で戦っていた俺達は装備を外しての睡眠と食事が許可された。

 

 

 

 

「兄さん!」

 

「皆、大丈夫だったか?」

 

「私達は大丈夫。でも、兄さんの部下の人が一人死んだって……」

 

「俺は大丈夫だ。多分、これからも長い。しっかり休んでおくんだぞ」

 

食堂に向かって食事を食べていた皆の様子を見に行く。

新兵達もどうやら疲れているだけで、怪我などは無い様子だ。

 

俺もさっさと飯を食べて、休んでおかないと。

壁内で巨人化させられた人々がどれだけいるのか分からないが、コニーの故郷であるラガコ村の人口は100人程とコニーから聞いているが、近辺には幾つかの村がある。

その村も巨人化させられていたら、恐らく倍以上の巨人が居ると考えた方が良い。

 

それら全てを討伐するとなると、広範囲を索敵しながらだから、駐屯兵団や憲兵団の助けを借りても数日は掛かる。

 

 

 

用意されていた食事は、蒸かし芋と塩味だけの何の野菜か正直良く分からない葉野菜と恐らく人参であろう小さな欠片がほんの少し入っただけのスープ、あとは両拳大を合わせたぐらいの大きさの黒パンが二つ。

 

口の中を湿らせる為にスープを口に含むが、正直塩も殆ど入っていないし、野菜も碌に入っていないしで味と言えるようなものではない。

パンは新しいものだから千切るなり、そのまま丸齧りするなり好きなように食べればいいが、個人的には齧る方が多い。

 

この世界のパンは黒パンが殆どで、小麦のみを使った白パンもあるにはあるが黒パンよりも値段が四倍ぐらい張る。

白パン、黒パンと分けて呼ばれており、大衆に一般的なのはやはり黒パンである。

俺も幼少の頃に食べていた記憶があるのは黒パンであるし、偶に白パンが出るくらいだ。

 

とは言え黒パンと言っても、ライ麦と小麦を混ぜて作っているらしく、一般家庭で流通する黒パンよりも兵団のものは幾分か色が薄く柔らかい。

それに兵団用の黒パンは味は微妙でも栄養価は高い。

正直な話、黒パン二つであればかなりのカロリーになるだろう。

 

町の食堂や宿のメニューによっては白パンが出ることもあるが、白パンは高いから大抵の客が頼むのは黒パンだ。

 

因みにであるが、エレン達が小さい頃は帰省する時の手土産の内の一つがウォール・マリアが陥落するまでは内地であったウォール・ローゼで買った白パンである。

やはり中々お目に掛かれないとあって、皆に喜ばれるものだ。

とは言えこの世界は冷蔵庫なんてものは無く、氷だって冬の間にしかお目に掛かれない代物だから、すぐに食べないとカビが生えたりして駄目になってしまう。

良くて買ってから二日持てば良い方だ、一斤もあれば全く十分である。

食べ盛りのエレン達には二斤買って行っていたが、それでも翌日には無くなる。

アルミンの家には白パンと、黒パンを一週間分と幾らかの野菜、干し肉を買い込んで持って行っていた。

 

アルミンの家は、両親が亡くなってから働き手がお爺さんだけであり、食べていくのが厳しかったからだ。

成人男性の一週間分もあれば、子供であったアルミンと高齢故に食が細くなっていたお爺さんなら二週間は余裕で保つ。

帰省から帰省までの期間が長引いてしまっても、お爺さんの収入と合わせれば、余裕は無くても取り合えずは食い繋げる。

 

白パンの食べ方と言っても、バターを塗って食べるなんてことは庶民には出来る訳も無く、焼いて食べるぐらいしか出来ないが黒パンと比べるとやはり美味い。

とは言え黒パンも焼いて食べると香ばしく美味しいのだが、兵団では焼いて食べるなんてことはまず無い。

 

当然兵団では金が掛かる白パンよりも黒パンが出される。

味は前世のパンと比べてしまうとどうしてもかなり劣っている。

とは言え、現状ではパンが二つと言う時点でこれでも随分と贅沢な方なのだ。

 

この世界に生まれたばかりの頃、と言うよりも乳離れをしてから普通に食事を摂れるようになったばかりの頃は正直苦痛であった。

なんせ前世に比べるとこの世界の食事は不味い。

味は薄いし量は少ないし、レパートリーは少ないしでそれはもう筆舌に尽くし難いものだった。

 

慣れればどうと言うことは無く、寧ろこれはこれで、と言う風になるのだがそれまではもう……。

 

 

 

黒パンの食べ方は、黒パンをスープに浸して食べると言うのが定番であるが、割とそのままでもぼそぼそとしているが固さがあるので噛み応えがあり、噛んでいるとライ麦の風味と味が出てきて美味い。

顎の力を鍛えるのには向いているし、質素で素朴な味であるからそれなりに俺は好きである。

黒パンは日持ちするために、滅茶苦茶に固い、石と変わらないぐらいには固い黒パンが偶に出てくるが、流石にその時ばかりはスープに浸して柔らかくして食べる。

と言うか長期間保存されていた黒パンはスープに浸さないと幾ら顎の力が強い兵士と言えども流石に食べられないぐらい固い。

 

味は、前世の人間は好みが分かれるだろう。

まぁ大抵の人間は味の濃い食事に慣れているから、味が薄いとか思うのは確実であるが。

 

ついでに言っておくと、サシャはこの黒パンが蒸かし芋に次いで大好物である。

肉は別次元、とのことだ。

 

大抵のお願いなどはこの黒パンと交換することでやってくれるのだから相当である。

彼女の中では、労働をやらないよりもパンを食べたいと言うのが先に来るらしい。

ユミル辺りはそれを利用して大抵の雑用を押し付けているんだとか。

 

 

 

 

 

班の皆と食事を食べ進め、食べ終えて食器を片付けていると伝令が走ってくる。

伝令の兵士は女型捕獲作戦の時も中核に居た兵士で、かなり急いでいるが何事だろうか。

 

「ビッテンフェルト分隊長、伝令です」

 

「どうした?」

 

「エルヴィン団長がお呼びです。至急来て頂きたいと」

 

「分かった。ネス、指揮を任せる」

 

「了解です」

 

ネスに指揮を任せてエルヴィン団長の下に走る。

数十秒でエルヴィンさんの下に到着すると、リヴァイ班に加えて各分隊の班長が集められていた。

 

「どうしました、こんなに人が集まって」

 

「アニ・レオンハートと同郷の者が分かった」

 

「それは……、内通者と言う事ですか」

 

「恐らくそれで間違い無いだろう。彼らが故郷だと言った村は存在してはいるが、その村にアニ・レオンハート含め同郷の者の出生記録は無く、生き残っている元村民に聞いて回ったが誰一人として見覚えは無いそうだ」

 

なるほど、壁外調査後すぐに3人の調査を進めていたらしい。

恐らく調査兵団の独力では無理な筈、となれば協力者にピクシス司令、壁内の事件事故の調査を担当する憲兵団のトップであるナイル・ドーク団長辺りが居るかもしれない。

下手をしたらザックレー総統が居てもおかしくは無い。

 

あの辺りは、調査兵団に協力してくれる。

とは言え壁中人類の益にならないとなれば俺達調査兵団すらも切り捨てるが。

 

 

 

この世界は兵団を除いて、連絡手段が早馬か狼煙ぐらいしか情報伝達手段がない。

物凄く簡単に言えば、結構閉鎖的であり、そして村内での仲間意識が強い。

 

しかも村とは言えどれだけ大きな村でも精々100~200人が暮らすのみで、毎日何かしらの理由で全員が顔を合わせる程度には繋がりが深い。

村人一人に聞けばどこそこの誰で、どこに住んでいるだとか家族構成など殆どの情報が分かるレベルと言えば分かるだろうか。

 

だから辿ろうと思えばかなりの高確率でその人物の身元が判明する。

 

 

 

 

 

「それで、どうするんだい?」

 

「勿論、捕獲を第一に行動するが恐らくは無理だろうな」

 

エルヴィンさんは言い切る。

まぁ、俺としては殺害に一票だ。

あの二人を捕獲する方法なんて正直思い付かないから、人間の姿である内に仕留めてしまった方が得策であろう。

億が一にでも上手い事捕獲出来たなら、アニ・レオンハートと同じ道を辿るのは間違いない。

 

ライナー・ブラウンはまだしもベルトルト・フーバーならレオンハートを引き合いに出して色々と情報を引き出せるかもしれない。

 

「壁に穴は開いていないことは確実だろう。となれば内通者とは別の誰かが巨人を発生させたことになる。今のところそれを気にする必要は無いだろう。もし動くならとっくに動いている。恐らくはミケやヴォルフ達と遭遇すること自体が想定外だったのでは、と考えている。その想定外が起こった以上、リヴァイを含めた3人の情報は渡っている筈だし容易に戦いには来ない。だから我々は内通者の対応に集中出来る。中央の横やりがあるまでだが」

 

「方法は?」

 

「恐らく内通者は、鎧の巨人と超大型巨人と見て間違いない。とは言え先程言った通り捕獲は困難だろう。そこで殺害を前提に話を進める」

 

「それはちょっと短絡的じゃないかい?私としては捕獲して出来うる限り情報を引き出して置きたいんだけど。女型から得られた情報と擦り合わせとか照合とかしたいし」

 

ハンジが異議を唱える。

その主張も分からなくもないが、超大型、鎧の捕獲手段が現状では存在しない。

雷槍があれば鎧はどうにか出来るだろうが、超大型は雷槍があっても無理だ。

 

個人的に考える超大型巨人に対抗し得る武器は対巨人砲が唯一ではないだろうか?

 

 

「では聞くが、あの二体の巨人をどうやって仕留めるどころか、捕獲する?大砲は勿論聞かないし、ハンジの考案した捕獲機も刺さらない以上効かないだろう」

 

「それは……、あー、もう分かった分かった、ちゃっちゃと殺そう」

 

ハンジは諦めたように言った。

ハンジの事だから女型と同じように徹底的に弄繰り回して巨人に関する情報を引き出したいのだろう。

こいつ、最初は拷問すら見ていられなかったのに今じゃ巨人の正体を暴けるだとかで、そりゃもうこっちが引くぐらい嬉々としてレオンハートを弄繰り回しているからな……。

 

麻酔をかけて痛覚がマヒしたら巨人化出来るのかとか色々騒いでいたが、麻酔を掛けてまさか巨人化されたら堪らないから麻酔無しで、生きたまま解剖しているのだ。

まぁ、レオンハートに同情は出来ないが。

 

「壁内に戻って、104期全員を呼び出す体で隔離する。ピクシス司令に協力してもらってその場所には大量の爆薬を仕掛けている。捕獲が無理そうであるならば、爆薬で建物ごと纏めて吹き飛ばす」

 

「随分と盛大にやるんだな」

 

「だが、それぐらいしかやり方は無いだろう。巨人化されて余計な損害食らうよりはマシだ」

 

リヴァイはさも当然、当たり前と言った感じで言い切った。

 

その日の会議が終わり次第、即座に準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あくまでも新兵に対する聞き取り調査と言う体で事は進められた。

そうすることで呼び出しに対しても特に疑問を持たれなくし、新兵を連れる兵士はまた壁内に巨人が現れた時に対応するべく、念の為に武装を身に着ける程度の雰囲気だ。

 

翌日には準備が終わり、順々に新兵を呼び出していく。

とは言えライナー・ブラウンとベルトルト・フーバー以外は別の場所に連れて行き、適当な理由を付けて待機させておく。

一応武装はさせた状態でだ。

 

もし二人の殺害に失敗した場合は、ほぼ間違いなく戦闘になることが予想される。

正直鎧と超大型相手では俺やミケさんどころか、リヴァイですら決定打に全く欠けるのだから新兵に何かで出来るとは思っていない。

 

「ライナー・ブラウン、行くぞ」

 

呼び出して連れていく。

ライナー・ブラウンを連れて入った部屋には壁の中、天井、床下に大量の爆薬が敷き詰められ、殺傷能力を高めるべく鉄球がその上に更に敷き詰められている。

前世で言うところのクレイモア地雷が部屋中に設置され、それに囲まれていると想像するのが一番分かり易いであろう。

 

「ここで少し待っていろ。調書を取る用紙が切れたから取ってくる」

 

「分かりました」

 

ライナー・ブラウンは特に怪しんでいる様子も無く、指示の通り椅子に座って待っている。

ベルトルト・フーバーを連れて部屋に入ったナナバもタイミングをずらして部屋から出てくる。

 

アイコンタクトで問題無しと報告してくるのを頷きで返し、二人がいる部屋の死角になる場所から建物を後にする。

 

すぐに走ってエルヴィン団長の下へ向かおうと二人で駆け出したその瞬間。

巨人化の特徴的な雷と爆音、そして熱と爆風が俺達を襲った。

 

殆ど無意識の内に咄嗟に腕を伸ばして、ナナバを無理矢理引き寄せて爆風と熱から庇う。

それの熱と爆風を受けて十数mは余裕で吹き飛ばされ、一応の受け身は取ったもののナナバを抱えているから殆ど何も出来ぬまま地面に叩き付けられた。

 

「カ、ハ……ッ!」

 

余りの衝撃と痛みで肺の中にあった空気が全て吐き出され、ついでに頭部への大きな衝撃が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に視界が開けたのは、病室のベッドの上であった。

 

視界がぼやけ、焦点が定まらない。

身体のあちこちに打撲による痛みや、恐らく爆発の時の火傷であろう痛みがある。

 

幸いにもそこまで重症では無いらしいが、流石に一週間は様子を見ておかなければならなさそうだ。

 

ベッドから立ち上がり、

 

「腹減ったな……」

 

ぽつりと一言、無意識に呟いた。

恐らくは一日以上食事と水分を摂っておらず腹が空いて喉が渇いているのだろう。

 

軽く身体を動かしてみた感じでは、骨折などは無く精々打撲や軽度の火傷ぐらいであろう。

 

病室に備え付けられているクローゼットの中からハーネスを取り出して装着し、その上からシャツとズボンを着替える。

ブーツを履いて、病室を出ていく。

 

隣の部屋の名札を見てみるとどうやらナナバらしい。

飯を食う前にナナバの様子でも見ていこうか。

 

腹は減っているが、流石に何の報告もしない訳にはいかない。

先ずはエルヴィンさんのところに行って諸々の報告をするべきであろう。

 

 

 

 

「エルヴィンさん、ビッテンフェルトです。報告に参りました」

 

『入りたまえ』

 

中から声が聞こえて来たのを確認し、入室する。

どうやら執務の最中であったらしく書類に向かっていた。

 

「身体はどうだ?」

 

「節々が痛みますが、動く分には問題ありません」

 

「そうか。それでは報告を」

 

諸々の報告を終え、色々と聞いたところどうやら鎧と超大型の2体は突如現れた獣に奪われたらしい。

その後獣は兵団の追跡を完全に振り切り、壁外に逃走、行方は全く分からないとのことだ。

 

ただ、今回の作戦は完全に秘密裏に進められていたことから内通者が、それもこの作戦を察知することが出来るほど高い地位にいると想定されている。

作戦を知っていたのは調査兵団では女型捕獲の際、それを知らされていた面々のみであり、調査兵団以外ではザックレー総統、ピクシス司令、ドーク憲兵団長、そして中央の人物のみである。

 

恐らくは中枢にいるであろうことは確定事項であるが、誰なのかは分からない。

今のところ調査を進めているが、中央憲兵やら中枢の圧力やらで碌に進まないであろうことは確定事項だ。

 

何よりも辛いのは鎧と超大型を仕留めそこなったことだ。

これでウォール・マリア奪還作戦の時に鎧、超大型、獣、車力の最低でも4体の巨人を相手取らねばならなくなった。

 

ウォール・ローゼには結局、穴は空いておらず各兵団に関しては一応の警戒態勢は取り続けることになった。

 

そして俺自身については、まず二日ほど眠っていたらしい。

全身の打撲と爆風を受けたことによる火傷があることから、エルヴィンさんから直々に十日間の休息を取るようにと言われてしまった。

 

ナナバは軽い打撲と軽い火傷で済んだらしく、明日退院らしい。

 

 

 

 

 

全ての報告を終えて食堂に食事を摂りに行く。

食堂に向かうと、大勢が丁度昼食時とあってテーブルを囲んで食事を摂っていた。

 

報告や色々聞いていたから、丁度訓練終わりの昼食時とあって混雑していた。

 

とは言え雰囲気は、最悪では無いが宜しくは無い。

なんせ仲間内から二人も敵が、裏切り者が居たのだから、表面ではなんともなくても奥底では互いが互いを疑っているのだろう。

 

仕方が無い、と割り切って食事を取りに行く。

すると俺を見つけた皆が大騒ぎをし始めた。

俺が直接率いている班や分隊だけでなく、食堂に居た全員が、である。

 

滅多に怪我も無く、巨人に囲まれようが何だろうが生還する俺が、二日間も眠っていたのだから心配して当然だと言われたし、庇ったナナバやミカサ、アルミンには泣かれるし謝られるしでもう何が何やら。

 

ともかく一連の事件は取り合えずところ収束したと言っていいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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