エレン達が訓練兵団に入団してから早いものでもう1年半が過ぎ去った。
その間、調査兵団はウォール・マリア奪還に向けた大軍の行路を着々と構築しつつあり、おおよそ半ばほどまでの行路を構築し終えた頃だ。
しかしながら、調査兵団の損耗は激しく新たに入団してきた新兵は114人を数えたがそれでも半年しか経っていないのにも関わらず既に38人、実に3分の1の新兵を失っている。
残りの新兵もいつまで生き残っていられるか分からない。
相変わらず俺は去年のペトラ達4人を始めとした新兵教育に引き続き今年も新兵教育隊長を担う事となっていた。
3ヶ月間の訓練を終えた後、4ヶ月目にして壁外調査に参加させるというこれまでと同じやり方だ。
リヴァイ班の4人を含めた去年の入団者は、1年を最初に配属されたそのままの分隊で過ごした後に配置転換が行われ全員バラバラに。
俺の分隊に残ったのはエルド、ペトラの2人で他の分隊から5名が配置転換要員として送られてきた。
グンタとオルオの2人はそれぞれミケさんとリヴァイの分隊に配置転換となり毎日2人の新しい上官の下で扱かれているそうだ。
リヴァイ班のグンタ、エルド、オルオ、ペトラの4人は訓練兵団卒団時の成績こそ10番以内にも入っていないしパッとしない、普通なものだったがどうやら実戦経験を積む事でその才能が開花するタイプだったらしく、この1年半でメキメキと実力を伸ばしている。奇行種に怯えて動けなくなり、しかも漏らしたり気絶していたりしたあの時が嘘のようだ。
オルオはリヴァイの分隊に配属された後、やはりと言うか影響を受けたらしく刈り上げとあの喋り方をし始めた。
俺達上官に対しては普通なのだが同期や新兵には、原作のエレンに対するあの感じで毎日毎日接しているとかなんとか。ペトラがそれを聞いて呆れ返っていた。
この2人、なんだかんだと仲が良いので休暇になると必要な物を一緒になって買いに出たりしているから、多分出来ているんじゃないか?とリヴァイと話した。
まぁリヴァイは興味無さそうだったけども。
グンタは相変わらずの栗頭でてっぺんがとんがっている。
あれ、セットしているのかと思いきやそうではなく普通に自前なんだそう。
どうしたらああなるのか不思議でしょうがないが本人がそう言うのならそうなんだろう。
そんな風になんだかんだと楽しく過ごしている。
訓練兵団には、何人かの部下と共に立体機動術の訓練教官として毎年の如く派遣されもした。
やはり、エレンは原作で語られるよりも遥かに空間把握能力、対G耐性が優れているのと、並々ならぬ努力によって立体機動術に関して言えばとてつもなく上達している。
ミカサも現役調査兵から見ても驚きの声を上げざるを得ないようなレベルだし、少なくとも原作において10番以内に入っていた面々に関していえば、例年と比べてもかなりレベルが高い。
ただ、原作でも語られているように、104期はどちらかというと協調性に欠ける面々が多い。
サシャも集団行動は得意ではなさそうだし、コニーは頭の回転が鈍すぎて訓練の説明を普通なら10分もあれば終わるようなものを1対1で、しかも30分も掛けて説明しなければならなかったりと、まぁ、苦労の連続である。
ミカサも訓練兵団内に限って言えば他者とは隔絶した高い実力故に周りに合わせてしまうと本来の実力が発揮し辛かったりと、個々の能力は非常に高いがそれ故の弊害も出ていたりと、かなりの難点を抱えている。
そして、個人的に一番指揮官として向いているであろう、と思ったのはマルコ・ボット。
周りへの気配りなどが人一倍優れているからか、的確な指示出しが出来る。
時には自身の戦果よりも優先する傾向にあるのでかなりの指揮官向きと言えるだろう。
確かにジャンも原作では指揮官に向いていると書かれていたが、マルコ・ボットも同等かそれ以上の能力を有してる。
現時点では憲兵団志望だと聞くが、可能ならば調査兵団に来て欲しいものだ。
あれから更に1年半が過ぎ、運命の850年を迎えた。
エレン達は訓練兵団を卒団となるが、その翌日がトロスト区襲撃だと仮定するとあと3日しかない。
その日の早朝から、壁外調査に赴かねばならない。
今回の壁外調査の目的は今までに構築した最も南の一番新しい補給拠点へ物資を運搬することにある。
この一番南に位置する補給拠点は、ウォール・マリアから15kmの位置にありもう既に目前だ。
しかしながらトロスト区の外門が巨人化したエレンの活躍によって塞がれたと共に調査兵団もそこから出発出来なくなる事を俺は知っている。
そう考えると、途端に今までの壁外調査と死んでいった部下は何の意味があって、と考えてしまうが誰にもこの事を話せないのだからどうしようも無い。
壁外調査前日、俺は例のくじ引きを皆で引いていた。
出来る事なら、分隊長クラスの誰かと他に何人か腕の立つ奴がここに残ってほしいが運と言うのは、どうも俺達の思い通りに行ってくれない事が殆どだ。
だが、今回はどうやら俺にツキが回ってきているらしい。
「今回残るのは、ヴォルフとゲルガーか……」
「おい、エルヴィン。ゲルガーはまだ分かる。いや、ゲルガーも腕が立つから置いていきたくは無いが、ヴォルフを援護班に回すのか?冗談じゃねぇぞ」
「リヴァイ、気持ちは分かるがくじ引きは平等だ。変更する事は出来ない」
「それじゃぁ、なんだ?部下達を無駄に死なせようって訳か?ヴォルフが居る居ないで調査兵団の死傷率は大きく変わるんだぞ?今までだってそうだ、こいつは俺やミケよりも部下を死なせた数が圧倒的に少ないし腕も立つ。そんな奴を置いて行くだと?」
「……エルヴィン、俺もヴォルフを置いて行く事には反対だ。ヴォルフを連れて行く代わりに俺の部下のナナバとミーネ、ケニングを置いていくからヴォルフはどうにかして連れて行けないか」
「ちょっとちょっと皆、一旦落ち着こうよ」
「ハンジ、テメェは黙ってろ」
一定以上の実力者のみのくじを引いた時、俺とゲルガーが当たりくじを引いた。
くじの枚数は、引く人数よりも数枚多く用意されていて本当に誰が引くのか分からない様になっていた。
くじの枚数が人数よりも多いから、当たりくじを誰も引かない時も当然ある。
それが、まさか俺が引いてしまうとは……。
そのお陰でリヴァイとミケ、エルヴィンさんの間で相当言い合っている。
ここに来て、自分の実力の高さが裏目に出るとは思わなかった。
あの、エルヴィンさんを信頼していて命令や指示に対しては従うリヴァイやミケさんがここまで反発するのは相当珍しい。
確かに今まで俺が当たりくじを引いた事は無かった。
それが、何の悪戯なのかここにきて当たりくじを引いてしまうとは、思ってもいなかった。
寧ろ俺が引ける可能性なんて極小だと考えていたからだ。
だが、もしこれが原作に沿ったものだとしたら?
俺と言うイレギュラーが存在している時点で原作とは違う歩みをしているのは既に分かりきった事だが……。
しかし、これが何かしらの力で原作に近づこうとしているのなら?
そうなれば、今回の出撃で大きく変わっている事が何かしらある筈。
とすると、それが起きるであろう場所は調査兵団側では無く、訓練兵側のトロスト区防衛戦で起こる可能性が高い。
考えられるのは、ライナー達がエレンの巨人化と言う出来事がありつつも内門の破壊に乗り出す事やエレンが巨人の力に目覚めない、などと今後に大きく関わってくる出来事だろうか。
どちらとも、どちらかだけでも起こってしまうと取り返しが付かなくなる。
内門が破られれば、人類は内戦で絶滅。
以前から、模索してはいるが鎧の巨人に対する有効な攻撃手段は、壁内人類のみで考えると雷槍ぐらいしか無い。
刃も非装甲箇所である、原作でも言われていた膝裏や脇の下、股座なんかに対しては有効ではあるがあくまでも一時的に戦闘力と機動力を削ぐ事しか実際には出来ない。
肝心なうなじに対してはまるで有効な攻撃手段が存在しない。
壁外人類側には対巨人砲弾とかかなり記憶は曖昧だが対抗手段は存在する。
だが、現時点で内門の破壊に乗り出されたらなす術は皆無としか言えない。
更に、こちらもこちらでなんとしてでも今後を考えると獲得しておかなければならないのがエレンの巨人化能力だ。
エレンの巨人化が成されなければ、トロスト区外門を塞ぐことも出来ないし女型の巨人の捕獲、ロッド・レイス関連やウォール・マリア奪還も、まるで解決する事ができなくなる。
結局のところ俺達はエレンの巨人化能力が無ければ人類は、巨人には勝てない。
それを考えると、残った方が良いのか残らない方が良いのか、どちらを選ぶにせよかなりの、それも賭け金が重すぎる賭けをしなければならない、と言う事になる。
さて、どうしたものか……。
「おいヴォルフ」
「なんだ、リヴァイ」
「お前はどうするつもりだ?残るのか?」
「……俺は、どうすれば良いんだろうな。どちらを選んでも、俺は何かを失いそうなんだ」
俺が、そう言うと皆は先ほどまで大声で言い合うのを止めて黙り込む。
腕を組んでどうしたものか、と悩む。
「ヴォルフ、お前が決める事は簡単な事だ。俺達を信じるか、信じないかのどちらかだろうが。信じるってんならここに残れ。信じないってんなら付いてこい。ただそれだけの話だ」
リヴァイは、そう言う。
信じるか信じないかのどちらかだけ、か……。
「エルヴィンさん、俺はくじ引きの結果に従います。リヴァイ、俺は皆を信じる事にする」
「そうか……。ならその信頼に応えられる様にしよう」
「すまない、リヴァイ」
「あぁ?信じるって言ったんだから謝ってんじゃねぇよ、馬鹿かお前は」
「そう、だな……」
俺は、残る事にした。
口では信じる、なんて言っているが俺は部下を見捨ててエレン達に走っただけなんだ。
すまない、皆。
3日後。
調査兵団は俺と3名の部下を残して壁外調査に出発して行った。
ゲルガーは、俺がいるからその分皆を助けてやってくれ、と言って壁外調査に送り出した。
俺の分隊はリヴァイの指揮下に組み込む形になったが、俺が抜けた事によって今までの被害よりも大きな被害が出る事は簡単に予想出来る事だった。
それでも、俺は残ったのだからなんとかしてトロスト区での戦闘で発生する被害を最小限にしなければ。
無駄死する新兵や駐屯兵を、極力少なくして後々の戦いに繋げられるように戦力温存を念頭に置きつつ、エレンには巨人化能力に目覚めて貰わないとならない、なんとも自分の都合ばかりしか考えていない事だろうか。
それでもどうにかしないと。
調査兵団の皆が、外門から出発して行った後。
俺は、駐屯兵団トロスト区支部に3名の部下を伴って待機していた。
つい先程、調査兵団主力の援護を終えてここに来たばかりだ。
そして、立体機動装置の簡易的な整備を行っておく。
これから数時間以上に渡る戦闘をしなければならないのだから。
しかし、本当に立体機動装置は訳が分からんな。
そんなものに命を預けて戦っている時点であれだとは思うが……。
ガスに関しては液体ガスをボンベに充填していることは分かる。
だがそれ以外に関するものがまるで、謎技術なのだ。
立体機動装置に実際に触れて扱ってみると分かる事なのだが、本当にこれほど小さな機構に収めるには余りにも無理がある性能をしているのだ。
その機能を全て一つのグリップに収納し、しかも扱いやすい形状にしているには余りにもそのサイズが小さすぎるのだ。
アンカーの射出や巻き取り、アンカー射出時の角度を操る、ブレードの着脱etc……。
これら全てをあのたった一つのグリップに収めるには、もう一度言うが余りにも小さ過ぎる。自転車などを扱うワイヤー方式の操作方法であれば、もっと大きくて然るべきなのだ。
しかも刃を差し込むから、更にその操作関連の装置を色々詰め込むスペースは更に小さくなるはず。
全ての装置に関連するワイヤーなんかを入れておく場所は、はっきり言ってあるわけが無い。
あったとしたらもっとサイズが大きくなる。
どうやって、それらを組み込んでいるのか皆目検討も付かないが……。
このサイズに収めるには、電気信号でも使わない限りはどうにもならないだろう。
ワイヤーを細くすればいいなんて言う奴もいるだろうが、そうなると、使用した時に力に耐えきれずにワイヤーが切れる。
アンカーも、撃ち込んだ時と外す時に形状が変わるから、電気信号方式でないとすると、ワイヤーで支えなければならない重量は人体の重さ+G分+アンカー操作用ワイヤーを入れると、かなり重くなる為に比例して相当太くなる。
使用する素材にもよるが上記の機能を全て詰め込むならば最低でも1センチ程度の太さは無ければならない。
だが実際は、その半分程度の太さしか無い。しかも柔軟性と伸縮性に優れている。
前世にはパラコード、と言うロープがあった。
あれは、数本の合成繊維で作られた細いロープを撚り合わせて伸縮性と剛性を高くしているのだが、この立体機動装置に使われているワイヤーは同じように作られている。大きな吊り橋などで使われている物凄く太いケーブルなんかでも使われているようなもので、単純な一本のワイヤーよりもこちらの方が張力や剛性が高くなる。
しかも触った感触が鉄では無いのは確かだ。
何か、もっと別の材質である事は間違い無い。
寄り合わせていない状態でも張力もかなり高いだろうし、どうなっているのか本当に訳が分からないな。
もしかすると、グリップの内部にはスマートフォンの中に入ってる様な電子基盤が組み込まれているのかもしれない。
電力に関しては立体機動装置本体を使用している限りはファンの回転で幾らでも発電は出来るから、特に問題は無い。電池なんて、最初の一回目の駆動さえ賄えるだけの電力を貯めておければいいからデカく無くてもいい。その後は使う時使う時だけ発電すればいいだけの話だからだ。
まぁ、そもそもの話をしてしまうとこの世界の技術レベルでは電子基盤や電池なんてものがある訳がないが。
自分で言っておいてあれだがスマートフォンレベルの電子基盤だと?馬鹿馬鹿しいにも程があるな。
予め言っておくと、これらの立体機動装置のそれぞれの役割に関する説明はあくまでも俺の推論でしか無い。
何故ならば立体機動装置の内部構造は完全にブラックボックスだからだ。
中央の技術開発を担当している連中しかこの立体機動装置に関しては知らないし、刃だって製造方法も分からない。辛うじて何かしらの合金であると言うことは想定出来るが構成材料が全くの不明だ。
これだけ軽いのに切れ味は巨人の肉、まぁ人体を切り刻める程度はあるし、この世界は余りにも謎が多すぎる。
これ以上は下手に探って、藪蛇を突くのは勘弁願いたいから弄らないが。
それから、昼前になるまで駐屯兵団トロスト区支部で過ごした。
昼食になるにはまだ時間がある。
丁度その頃、エレン達訓練兵が卒団後に初めて与えられる任務として固定砲整備任務を言い渡されてから1時間ほど、時間的には午前11時を少し過ぎた時。
ズドォォォン!!!!!
突如として5年前のシガンシナ区で聞いたものと同じ轟音が鳴り響く。
それのすぐ後、何か大きなものを破壊する破壊音が辺り一体に鳴り響き、駐屯兵団支部にまで破片が飛んでくる。
「な、何事だ!?」
「あ、あれ……」
「ちょ、超大型巨人だと……!?」
駐屯兵団の支部に勤めていた兵士達が呆然と、立ち尽くす。
今ここトロスト区に勤務している兵士の殆どが、実戦未経験の兵士だった。
中にはハンネスさん達の様にシガンシナ区での戦闘を経験したことがある兵士も少ないながら存在していたが、それでも数は少数であった。
「お前達、戦闘準備!ハンス、ヨアヒム、壁上に登って状況確認!ロベルト、俺と付いて来い!」
「「「はっ!!」」」
部下2人をまず、壁上に状況確認に走らせてもう1人を伴ってトロスト区の防衛隊長であるキッツの元へ急ぐ。
隊長室に到着すると緊急事態と言う事でノックも挨拶もせずに勢い良く入る。
中では大きな音を聞いて立ち上がっていたキッツ隊長が右往左往していた。
この男、原作でも言われていたように195cmと図体ばかりでかくその実、緊急事態の時には柔軟性に欠けると言う欠点を持っていた。
しかしながら隊長を務めるだけの実力もあり、原作でもゲルガー達が死ぬことになった一連の騒動で巨人を迎撃するために前線に出たりとするので一概には言えない。
ただ、俺はあまり好きじゃない。
「なっ!?ヴォルフガング!?貴様挨拶も無しにいきなり入ってくるとは何事だ!?」
「その、何事が今起きているのです!今し方、大きな音が聞こえたかと存じますが、何が起きているかご存知ですか?」
「い、いや、まだなんの報告も来ていない」
「巫山戯ているのですか?今の音は、超大型巨人出現の音と、壁が破壊された音なのです!」
俺がそう言うと、キッツ隊長は愕然とした表情で立ち尽くす。
「と、とにかく超大型巨人出現時のマニュアルに従って兵士達を行動させなければ!」
「キッツ隊長、我々は先遣隊と共に最前線に赴かせて頂きます。申し上げ難い事ですが、駐屯兵団の先遣隊だけでは押さえ込む事は不可能と考えますので」
「だ、駄目だ!」
「……は?今なんと仰いましたか?」
「駄目だと言ったのだ!お前達調査兵には民間人の護衛に就いてもらう!」
「何故ですか!?我々が最前線で先遣隊と共に戦えばそれだけ時間が稼ぐことが出来、民間人の避難に要する時間も稼げるかと考えますが!それとも訓練兵が主力の中衛を前衛に出すおつもりですか!?それこそ無駄に被害を増やすばかりです!!」
「駄目だと言ったら駄目なのだ!貴様達調査兵は後衛として民間人の護衛に就いてもらう!」
俺が全て正しいとは言えないが、それでも余りにも柔軟性に欠ける。
少なくとも俺と部下3人が最前線で戦えば、中衛と後衛に流れる巨人の数は少なくて済むしそれだけ訓練兵達に掛かる負担が大きく減る事になるのだ。
それをいくら説明しても頑なに認めようとしない。
「ッ!!ならば少しだけの時間でも前衛に出させてください!!!」
キッツ隊長の目をジッ、と睨んでそう懇願する。
「……分かった。本隊が到着するまでは許可しよう。だがそれ以降は後衛に行ってもらう」
「分かりました、ありがとうございます!!」
その許可を得られた瞬間に走って支部を出る。
因みにではあるが、調査兵団における分隊長と駐屯兵団における隊長、と言うのは同格だ。
調査兵団には隊長という役職がない代わりに前線指揮を取れる事や幹部クラスの実力を持つ兵士が極少数であることなど色々な理由があるが他兵団での分隊長とは名称こそ同じではあるがその階級的な違いが大きい。
駐屯兵団における隊長、というのはキッツ隊長の様に防衛隊長、ハンネスさんのように工兵隊長、補給隊長などかなりの役職がある。
これは調査兵団における戦闘班、補給班、医療班、巨人研究班に該当しているのだが、何故調査兵団には隊長という階級が存在していないのか、ということを説明すると単純な話ではあるが規模の違い、と言うのが大きな要因となっている。
駐屯兵団はトロスト区だけでも900名を越す、調査兵団の2倍以上を有しているのに対して現在の調査兵団は去年の新兵を入れても317人程度に留まっている。
これでは隊長という階級の人間を幹部に当てるには人員の数が足りていないので、分隊長の階級のものが調査兵団では隊長という階級と同格なのだ。
しかしながら、同格であるとは言っても調査兵団がその特殊な立ち位置や役割故に死傷率が高く多少腕が立てば階級が上がるのに対して駐屯兵団や憲兵団は死ぬ事がまず無いから、その出世にはかなり年数が掛かる。
最低でも分隊長になるのに10年以下、各隊の隊長を務めるには10年以上を務めて尚且つ何かしらの実績を残し続けなければならない。
ハンネスさんはウォール・マリアでの戦いの時に挙げた巨人討伐や民間人避難の時間稼ぎなど、俺と共に挙げた功績があったから昇進したのだ。
調査兵団には実施されていないが、駐屯兵団と憲兵団には班長以上の、分隊長から始まる幹部クラスになる前に指揮官としての責務などを教育するために特別教育が5ヶ月間に渡って施される。
これ、調査兵団でこの年数を考えると間違いなくエルヴィン団長かミケさんしかいない。
しかも5ヶ月間の教育なんて常に人手不足の調査兵団からするとそんな事の為に実力ある人間を手放す余裕なんてあるわけが無い。
故に、調査兵団にはこれらの制度が適用されていない。
調査兵団は言ってしまえば、駐屯兵団や憲兵団とは違って完全な実力主義なのだ。
悪く言えば、超が付くほどの脳筋頭脳派集団。
調査兵団の幹部になるタイプの人間は、戦闘能力以外に大堤何かしら一つぐらいは秀でているものを持っている人間が多い。
エルヴィンさんは圧倒的な指揮能力と人類のためならば、悪魔にすらなり得る精神性。
原作でも語られるように、人類の為ならば100の味方の命を捨てる選択肢を取れるというのは、これは相当稀有な精神性だ。
何せ普通なら100の味方の命を救おうと考えて人類のことなどその時は頭に無いからだ。
それを常に考えていられるエルヴィンさんは、調査兵団団長に最も適任であると言える。
ミケさんならば索敵能力。
というよりは嗅覚なのだが、これによって索敵能力が大幅に高くなっているのだから同じだろう。
冗談抜きでミケさんの索敵能力は凄まじく、距離にもよるが正確な巨人の数、方向、距離を全て割り出せてしまう、と言えばどれほどのものか分かるだろうか。
これによって切り抜けられた窮地も少なくはない。
リヴァイならば、圧倒的な戦闘能力。正直リヴァイは戦闘能力こそ圧倒的だが群の統率にはあまり向いていない。
まぁ、リヴァイ班の様に少数精鋭ならば存分に指揮できるが指揮しなければならない部下の数が多くなればなるほどリヴァイの真価を発揮出来なくなる。
どちらかといえば本来は単体で自由に動かさせた方がもっと圧倒的な戦果と部下を救えるはずなのだが、幹部になれる実力者でもその中からさらに生き残った者なのでリヴァイ以外に指揮出来る人間が他にいないのが実情だから、1個分隊を任せている。
現在は階級こそ兵士長に昇進して給料も上がったが指揮している分隊は据え置きのままだ。
ハンジは巨人に対する見識。
見識というよりも執着とか執念といった方が正しい。
ある種の変態性とも言えるが、ハンジは巨人の知識に対する貪欲さが並大抵ではない。
それ故に誰もが予想しなかった事を考えついたりするものだし、あの女型の巨人を巨大樹の森で拘束した装着を考案したのはハンジだ。
ハンジ曰く、
「巨人は時間経過によって損傷した部位が修復されるから、返しが付いた拘束器具を打ち込んでしまえば修復によってより拘束力が高まる」
との事らしい。
確かに聞いた時は確かにその手があったか!!と驚いたものだ。
その提案によって壁の補強に巨人そのものを使ってしまおう、というあの原作でハンネスさんが呟いた方法が開発された。
しかしながらこれを開発したお陰で毎回毎回壁外調査に出る時や、そうで無い時の壁内にいるときも毎日毎日巨人を捕獲させろ、というハンジ1人の絶叫が団長室から聞こえる様になったのは必然と言えるのかもしれなかった。
話を戻そう。
調査兵団における分隊長と駐屯兵団の隊長は同格であると言ったが、同格ではあっても年功序列や先任、というものもあって俺はキッツ隊長よりも年下であり隊長職を長年勤めているから年功序列や先任という観点からも、階級は同じだが向こうのほうが地位は上、という方式が成り立つ。
というか、俺よりも下の隊長職なんて無い。
階級が実質的に下であるとかでない限りは年上に敬われることはない。
まぁ、はっきり言えばものすごーく面倒で複雑だから考えたくないというのが実際のところなのだが。
「分隊長、戻りました!」
丁度、中庭に出た時に状況確認に出していた2人が戻ってくる。
「状況は!?」
「超大型巨人によって外門に穴を開けられました!既に巨人が多数迫ってきており外門付近では戦闘状態、しかしながら突破されるのは時間の問題かと!!」
「分かった!お前達はガスを補給して予備のボンベを持って俺達と合流しろ!」
「はっ!!」
部下2人に、補給をさせて予備のガスボンベを携行してくるように言っておく。
2人で8本持つことができるから、4人分になる。
これだけで継戦能力は大きく上がる。
指示を出した後に俺はロベルトを伴って最前線に急ぐ。
到着すると、未だ外門付近で先遣隊が奮闘していたが大砲は沈黙、生き残っている兵士も僅か10人ほどだった。
「調査兵団、ビッテンフェルト援護に入る!」
「ビッテンフェルト分隊長!!」
「やった、これで助かる!!」
「このまま駐屯兵団の増援が来るまで戦ってやる!!お前達は俺達が気を引いている間に急いで態勢を立て直せ!」
指示を出してすぐに巨人に向かう。
駐屯兵団先遣隊は事実上の前線における組織的抵抗力を失っていた。
だが撤退させるわけにも行かず、少し後方に一度下がらせて体勢を整えさせ指揮系統の回復などを行わせる。
ロベルトには最初に巨人を引き付ける役目を任せ、一番近くにいた巨人をすぐに殺す。
すぐにアンカーを家に射出して屋根上に登り周囲を見渡す。
外門の穴のすぐ近くで戦おうと思ったが、余りにも巨人の数が多過ぎる。
「ロベルト、少し下がって戦うぞ!ここじゃ巨人の数が多過ぎる!!」
「はっ!!」
100mほど後退して、そこで防衛線を張る。
目に付く巨人を片っ端から殺して回るが、それでも余りにも数が多過ぎる。
本当にどこからこれだけの巨人が沸いて来たのか!?
「分隊長!ハンス、ヨアヒムの両名合流します!!」
ハンスとヨアヒム、先程の駐屯兵10名が合流しと13人で戦わせて俺は出来るだけ多くの巨人を殺すために単独となる。
ただし、いざと言う時には相互支援が出来るように距離を開け過ぎないように注意はしているが、あまり長くは持たないだろう。
数が多過ぎる。既にざっと見ただけでも40を超える巨人が入って来ている。
10分ほどだろうか、戦い続けていると駐屯兵団本隊が漸く到着した。
「ビッテンフェルト分隊長!!駐屯兵団本隊到着しました!!」
「よし、俺達は後退するが無茶はするな!!お前達、後退するぞ!!」
命令通り、駐屯兵団本隊に前線を任せて後衛まで後退する。
その前に、ガスボンベを交換しておく。
出来るだけ数を殺す為にかなり無茶をしつつ消費したから、交換しておかないと途中でガス切れになったら目も当てられない。
駐屯兵団本隊に前線を任せて俺は後衛と合流するべく急ぐ。
「兄さん!!」
「エレン、アルミン!」
途中、中衛として配置されたエレンとアルミンの第34班の面々と出会った。
「兄さんはもう巨人と戦って来たの!?」
「そうだ、前線じゃとっくの昔から戦闘が始まってるし先遣隊はもう殆ど残ってない。前衛が機能しなくなるのもそう時間は掛からないだろう」
「なら兄さんが前線に出れば……!!」
「民間人の撤退が遅れているらしい。後衛で民間人の護衛に就けと命令されて無理言って今まで前線で戦わせてもらっていたんだ」
「はぁ!?なら兄さんにそのまま前線で戦ってもらった方が結果的に問題無くなるだろ!?」
「そ、そうだよ。ヴォルフさんが前線で戦った方が被害も抑えられるし鎧の巨人が現れた時にもすぐに対応出来るのに……」
「防衛隊長のキッツ隊長は優秀だが柔軟性に欠けるタイプだからな。マニュアル通りにしか行動できないとは言うがマニュアル通りに行動すら出来ない奴よりはキッツ隊長の方がマシだ」
そう説明するが、どうも納得が行っていない様子の面々は、それでも何か言いたそうではあったがそれ以上何かを言う事をやめた。
「とにかく、お前達死ぬんじゃないぞ。特にエレン、お前は熱くなり過ぎて周りを見失うな。酷な事を言わざるを得ないが、仲間を1人2人失ったとしても冷静でいろ。いいな?」
「!?ッ、分かった……」
エレンは、原作だとトーマスを奇行種に喰われて怒り狂って突っ込み周りを巻き込んでアルミンを残して班諸共巨人に一度喰われている。
それさえ無ければ、実際その時がどうなるかは分からないが少なくとも全員が全員あの場で死ぬ事は無かった筈だ。
それを、自分がどうにかしてその場で抑えられないが言葉だけでも残してその可能性を低くしておきたい。
そして、アルミンに隣を通り過ぎる時に小さな声で耳打ちしておく。
「アルミン、もしエレンが1人で突っ走ろうとした時は殴り倒してでも止めてやれ。じゃないとここにいる全員を死なせることになるからな」
「ッ!……分かった」
「よし、頼んだぞ」
最後に全員に、もう一度声を掛けておいて後衛に下がる。
後衛に下がりきり、一度支部で補給を受けようとした時、キッツ隊長と訓練兵が揉めていた。
「キッツ隊長!!どうかお考え直し下さい!」
「えぇい、邪魔だ!」
「ヴォルフガング、只今戻りました。何があったのですか?」
俺が声を掛けると、新兵は先程までの必死の形相を幾らか綻ばせる。
「私は増援部隊の編成に向かわねばならん!だと言うのにこの訓練兵達はそれを引き止めてくる!規則に則った行動だ!」
「そんな!?我々訓練兵だけでここを守れと仰る方が無茶苦茶です!今はまだ巨人もここまで攻めて来ては居ませんが、巨人にここまで攻められたら数分と持ちません!」
両者共に譲らずに言い合いを続けている。
原作の、漫画では無くアニメでのオリジナルシーンの話なのだが、今の状況はどうやらそれに近しい状況らしい。
話を聞いてみるとどうにもキッツ隊長は部隊再編とその指揮を執るべく、内門へ撤退する為に新兵のみに駐屯兵団支部の防衛を任せようとしている。
しかしながらここを駐屯兵団と共に防衛任務を言い渡された訓練兵達は自分達のみでここを守り切るのは不可能であり、部隊再編成を行うならばここで前線の戦闘指揮を執りつつ行って欲しいと必死に説得している所であった。
「キッツ隊長、ここの防衛に駐屯兵をどれほど割くおつもりですか?」
「訓練兵にのみ任せる。ここの防衛を行う訓練兵以外は全員一度壁上、又は内門に一時撤退するのだ」
「キッツ隊長、それは余りにも酷な話です!訓練兵のみで、しかもたったの20人程度の人数でここを守りつつしかも前線に補給を行うなど無謀にも程があります!それでは前線将兵はガスも刃も尽きて死ぬしか無くなるでしょう!?」
「えぇい、貴様もか!?ヴォルフガング、貴様には後衛での民間人護衛を任せた筈だ!!一々我々駐屯兵団の決定に口出しをするんじゃない!!」
「いいえ、私にはいざと言う時に自己裁量で行動を決定し、その通りに動くための権利があります!このままキッツ隊長が支部に対する防衛戦力を割かないと言うのであれば私と部下は此処を守るか、前線に出て巨人を食い止める為に動かざるを得なくなります!!」
俺には、壁外調査に出た時に援護班に周り壁内に残った調査兵は如何なる階級を問わずに、いざと言う時には基本的には駐屯兵団の指揮下に入るが、それとは別に独自の意思決定権を与えられ、その援護班指揮官の決定に従いそれに則って行動する権利が与えられていた。
「ッ!?!?貴様、命令違反をすると言うのか!?」
「いいえ、いざと言う時に私に与えられた権利を行使するだけの話です!命令違反でもなんでもありません!これが命令違反というのであれば、キッツ隊長のその行動は最悪敵前逃亡と捉えることも出来るのですよ!?」
「なんだと!?」
「本来ならばここまで巨人に攻められていない現状であれば内門に撤退して編成を行う必要性は無い筈です!部隊再編成指揮などであれば此処で前線戦闘指揮を執りつつ此処で行う事も可能でしょう!?それを規則規則と、マニュアル通りに、と言うのを盾にして訓練兵及び前線で戦っている駐屯兵諸君をも見捨てると言う事でしょう!?命令違反よりも重い罪では無いのですか!?」
「な、なっぁ!?」
「もし撤退なさると言うのであれば、私を後衛での任務から外し前線で戦わせるか、ここの防衛をお任せ願いたい!それが不可能と言うのであれば私は権利を行使するまでです!!」
俺は、そう言い切る。
幾ら何でも流石に訓練兵だけにここの防衛を任せるのは無責任に過ぎる。
「お伝えします!巨人更にトロスト区内に侵入、その数既に100を上回ります!!至急増援部隊をお送り下さい!!このままでは前線崩壊は時間の問題です!!」
それに、何時迄もここで問答している場合じゃない。
前衛の駐屯兵団兵士達もこのままでは無駄に死ぬ者が多くなるだけだ。
一番良いのは俺が前衛に出て戦う事だが、キッツ隊長がもしここを離れると言うのならば俺はここを部下と共に守らなければならない。
先ほどから言っているがガスが尽きて機動力を失ったら巨人と戦うどころか逃げる事すら出来なくなる。
それでは原作での出来事がそのまま引き起こされるだけだ。
「……えぇい、ならばヴォルフガング、お前はここを守れ!」
キッツ隊長は漸く決心してくれたのか、俺を支部の守りに回してくれた。
「はっ、了解しました!!」
「私は増援部隊の編成と部隊再編の指揮を執りに一度後退する!!これ以降の指揮はヴォルフガング分隊長に従う様に!!」
そう言葉を残してキッツ隊長は参謀の部下数名と共に後退していった。
しかし、増援部隊の編成と言うが恐らくその部隊を派遣するよりも前に前衛は総崩れになるだろう。そうなっては増援部隊の意味も何も無くなる。
単眼鏡で前線の様子をざっと覗いて見てみたが、俺が離れてから30分程度とそう時間は経っていない筈なのに既に最前線部は戦闘と各部隊の半壊で混乱状態にあるようで、まともに巨人との戦闘など出来ていない。
「分隊長、どうされるのですか?前衛はもう組織的抵抗力を失いつつあります。あのままでは訓練兵に前進命令が下るのは時間の問題です。そうなれば被害は更に拡大する恐れが……」
「分かっている。だがここの守りを任された以上無責任に離れる訳には行かないだろう。ともかく、どうにかして補給だけは途切れさせない様にしなければならない。一度下に降りて訓練兵達の指揮を執るぞ」
「分かりました。訓練兵を集めます」
「頼んだ」
部下に訓練兵達を支部の中庭に集めさせる。
「ヴォルフガング分隊長!!先程はありがとうございます!!」
「礼は要らん、すぐに補給用のガスと刃を準備しろ。ここにいる補給任務を与えられた訓練兵は何人いる?」
さっきキッツ隊長と問答をしていた訓練兵の1人が敬礼しながらそう言ってくる。
今は緊急だから適当に返しつつ補給用のガスと刃の準備、そして人員の掌握を最優先に進める。
既にキッツ隊長がここを去った後に何度か補給要請を伝える伝令が駆け込んで来ていた。
その伝令には撤退用のガスを何本か持たせて今暫く待つように伝えて送り出した。
恐らく、一時撤退の鐘が鳴るのも時間の問題だろう。
何しろ、伝令として駆け込んでくる駐屯兵や訓練兵の顔は一様に青褪めておりその顔から前線の様子を察するには余りあるものだった。
「10個班73名が居ります」
「よし、5個班を補給部隊として残り5個班を支部防衛に充てる。それぞれの班長は俺の元に集合せよ」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
訓練兵の各班長を集めて、割り振る。
各班班長に、班員の半分にガスと刃を持たせてもう半分はその護衛に当たらせる。
「各班は戦闘は極力避け、必要な時以外の戦闘を厳禁とする!補給を最優先事項として頭に叩き込んでおけ!!」
「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」
「それでは補給任務に掛かれ!」
合図と共に、補給を任された各班はトロスト区の各所に散っていく。
俺はもう一度支部にある塔に登って状況確認を行う。
「酷いな……!」
「あの様子から察するに、前衛は総崩れ、中衛のかなり深い所まで侵入されているでしょう。巨人の姿がすぐその辺まで来ています」
「このままだと、前衛と中衛は孤立せざるを得ないな。ここまで到達するのにそう時間は掛からなさそうだ」
「どうしますか?」
「訓練兵達に高台に登って戦闘準備を命令、いつでも戦える様にさせておけ」
「はっ!」
単眼鏡でトロスト区全域を見渡すが、戦況は宜しく無い。
寧ろ最悪だろう。
前衛で押さえ込むことには、失敗しているし中衛を構成する訓練兵達との戦闘も始まっている。
この防衛線には南訓練所を卒団した訓練兵全員が投入されているがあの様子じゃ被害はかなり甚大だろう。
「分隊長、訓練兵に戦闘準備命令を伝えて来ました。ですが、全員怯えている様でアテには出来ないかと……」
「幾ら訓練兵団を卒団したとはいえ、訓練兵は訓練兵だ。あんまりな言い分だろうが最初から期待など出来ないししていない。だが、俺達4人だけでは無理だからな、なんとかして彼らにも戦ってもらわねばならん」
「!!分隊長、巨人複数が中衛を突破、ここに向かってきます!」
「ハンス、ヨアヒム!!訓練兵を1班づつ率いて迎撃!!1体ずつ確実に仕留めろ!無理そうだったら後退して構わん!!」
「了解!訓練兵第27班、付いて来い!!」
「訓練兵第23班、行くぞ!」
部下を2人、巨人の迎撃に当たらせる。
だが、視認出来る大きさの巨人だけでも5体。
建物の影に隠れて見えない奴を考えると倍はいるだろうと思われる。
2班を前に出したが、長時間に渡って抑え続けるのは無理だ。
ウォォォォォォォォ!!!!!!
どの様な手を打つか考えていると、大きな、それこそ人間では出せない様な絶叫が辺り一帯に響き渡る。
「ッ!?い、今のは……」
部下のロベルトはそれを聞いて驚いた様だが動揺はしていない。
流石は調査兵というべきか。
しかし、俺の記憶が正しければあの絶叫は、初めてエレンが巨人となった時のものだ。
と言うことは、エレンは巨人に食われたと言う事だ。
クソ、俺はエレンを救えなかった。
だが、ともかく今は俺が平静を失う訳には行かない。
そうなったら俺も部下3人も訓練兵全員が終わりだ。
「ロベルト、訓練兵を1班指揮下に入れていざと言う時にすぐに動ける様に待機しておけ。残り2班は俺が直接指揮する」
「はっ、分かりました。しかし、先程の絶叫と言い、状況が不明過ぎます。補給に出した5班が無事なら往復で5分と掛からない筈なのに、もう10分以上は経っているのに戻って来ていませんし……」
「……この様子だと、全班が巨人と戦闘中、もしくは戦闘によって全滅した、と考えるのが妥当な所か」
「そんな……、どうなされますか!?」
「……ロベルト、訓練兵を率いて補給任務に向かえるか?」
「分かりません。調査兵団の面々ならば楽にこなせる任務でしょうが、訓練兵を率いて、となると……」
「そうか……。分かった。今暫くはここで様子を見つつ補給任務と支部防衛に努めよう」
「分かりました」
調査兵団に属している時と、現状では俺の指揮下にある部下の量こそ多いが、質が桁違いに悪過ぎる。
壁外調査の時と、同じ様に動いてしまってはどうなるのか、結果は火を見るより明らかだろう。
そう考えると、5個班を補給任務に出してしまったのは余りにも浅慮だった。
そう考えつつ、どうすれば良いのか考えるが有効的な手段は思い付かない。
せめて、補給に送り出した5個班の内の各班数人ずつが補給に辿り着けていれば原作の様に訓練兵達があんな無茶をする必要は無くなるのだが……。
そう考えるのは、余りにも希望的観測に過ぎるか。
暫くすると、夕立が降り始めてその数十分後には一時撤退の鐘が鳴り響いた。
後衛は問題無く撤退出来ただろう。
だが問題は前衛と中衛だ。単眼鏡で覗いているが壁を登っている様子は無く、屋根の上で座り込んだり言い合ったりしている。
あの様子だと、補給に向かわせた5個班は辿り着く前に巨人との戦闘で全滅したのだろう。
「兄さん!!」
「ミカサ!?お前如何してここに居る!?」
「後衛で民間人の護衛に就いていた。前衛と中衛の撤退を援護する為に前に出て来たのだけど……」
「見ての通りだ。一時撤退の鐘が鳴ったとは言え前衛と中衛は補給が行き届かずに撤退出来ずにいる」
「補給班は?」
「5個班送り出したが辿り着く前にやられたらしい。補給が届いていたなら今頃あそこに訓練兵達は居ないだろうからな」
「そんな……ッ!!エレンとアルミンは!?」
「見ていない。多分、まだ撤退出来ていない筈だ。今どうにかするために策を考えては居るが……、これだけの兵力ではどうにも出来ん。調査兵でこの兵力ならどうとでもなるだろうが、その殆どが訓練兵だからな……」
「兄さんが、前に出ることは出来ないの?」
「キッツ隊長にここの防衛を任されている。考えはしたがそれはあくまでも最終手段だ。一時撤退の鐘が鳴ったとは言え彼らが補給出来ていない以上、なんとかして維持する必要がある。他にもうどうしようもないとなったら俺が直接補給班を率いて前に出る」
「なら私だけでも今直ぐに前に……」
「駄目だ。出るのならば俺と一緒に来い。ミカサ1人で行かせるわけには行かん」
「どうして!?エレンとアルミンが、それに他の皆の命が!」
やはりミカサは、2人の事となるとエレンと同じで周りが見えなくなるらしい。
普段は割と内心は喜怒哀楽が激しいが表には出ずに冷静沈着、と言った顔をしているが今は完全に焦りなどの感情が現れている。
しかし、だからと言ってミカサを1人で行かせるわけにはいかない。幾ら歴代でも類を見ない才能の持ち主、と言われようとも実力はあろうとも俺からしたら、それこそミケさんやリヴァイからしたらまだまだ訓練兵に毛が生えた程度だ。
シガンシナ区での惨劇などを見てきたとは言え、巨人相手の戦いは今回が初陣だ。
本人の知らないだけで疲労が溜まっているかもしれないし、怪我をしている可能性だってある。
それは、実戦において死に直結しかねない危険な事だ。
しかしながら周りに味方がいれば、そうは限らない。
だからこそ、ミカサをこの冷静さを欠いた状態で前に出すわけには行かないのだ。
「分かっている!だがあれを見ろ!あの数の巨人に無闇矢鱈と突っ込んで行けばどうなると思う!?幾らお前とは言え死ぬぞ!?そんな大口を叩くなら俺より強くなってから言え!」
そう考えると感情的になって怒鳴ってしまう。
今の状況は、ミカサのせいではない。
打開策の思い付かない俺の責任であって、ミカサは怒鳴られる謂れはない。
自分の同期を助けたいが為に発言したのだから、悪いのは俺だろう。
「すまん、ミカサ。感情的になり過ぎた。だがやはりお前1人で前に出すことは出来ない。取り敢えずガスと刃を補給して来い。いいな?」
「……うん」
「悪かった」
誤魔化す様に、ミカサの頭を撫でて補給をさせる。
現状、なんとか支部は維持出来ているがもう保ちそうもない。
決断を下すなら、今だろう。
ピィィィィ!!
笛を鳴らして巨人を迎撃させていた部下と訓練兵を集合させる。
「どうされましたか分隊長!」
「一時撤退の鐘は聞こえていたな?」
「はい。我々も早く撤退しないと……」
「あれを見ろ」
「?……あれは」
「補給が届かずに撤退出来ずにいる訓練兵達だ。彼らを見捨てる事は俺には出来ん」
「……分隊長自ら、補給班を率いて行くと言う事ですか」
「あぁ、そうだ。お前達は訓練兵を引率して支部の防衛にあたって欲しい。彼らを補給させるまではここを捨てるわけには行かないからな」
「分かりました。分隊長は、単騎で行かれるのですか?」
「いいや、訓練兵を1班伴って前進する。俺だけではまともな数を運べんからな。申し訳無いが共に来てもらわねばならん」
「それならば私達3人を連れて行ってください!その方が――」
「駄目だ。彼ら全員を補給させるにはここに一度戻ってくる必要がある。その時まではどうにかしてここを何とかして維持しなければならない。それを訓練兵だけに任せるのは無理だ。腕が立つお前達の力が必要なんだ」
ここにいる3名の部下は、調査兵団内でも比較的腕が立つ方の面々だ。
訓練兵だけでは支部を守り切るのは厳しいが彼ら3人が居てくれれば難しい事には変わりないが不可能では無いだろう、と考えた。
ミカサはエレンとアルミンの様子がよほど気になるのか何が何でもついて行くと言う顔で、置いていかれない様に俺にピッタリ張り付いてくる。
この様子だと命令としてここに残るよう言っても命令違反なんのその、と付いてくるだろう。
であるならば、付いて来させた方が良い。
更に、原作通りエレンが巨人に食われているとしたらミカサは平静を保てるとは思えない。
そうなれば、原作通りにミカサはガスを無駄に吹かし過ぎてガスが尽きるのは目に見えている。
そうならない為にも俺が付いて多少手荒になったとしても冷静さを保たせなければならない。
「……分かりました、分隊長がお戻りになるまでここを守り切って見せましょう」
「俺が至らないばかりにお前達にまで無茶をさせてしまってすまない」
「いいえ、お気になさらず」
「それでは、準備完了次第出るからあとは任せたぞ」
「はっ、御武運を」
下に降りて、自分が指揮していた訓練兵の2個班から1個班8名を連れ、補給用物資を6人に持たせる。
その護衛に俺、ミカサ、他2名を当てた。
ガスは補給用を1人4本づつ運搬が可能だから6人で24本、12人分となる。
壁に登れずにいる訓練兵は、ざっと30人以上はいるから半分にも満たないがそれでも十分だ。
12人が十分な機動力を得る事が出来たのなら、戦力は単純だが12人分増える事になる。
そうなれば、ここに辿り着くのも簡単とは言わないが幾らかは楽に事を運べる様になるだろう。
「護衛は巨人と戦うより見つける事を優先しろ!やむを得ない場合のみ戦闘を許可するが、必ず俺かミカサを呼ぶ様に!それでは行くぞ!」
まず最初に、露払いの意味も含めて俺とミカサが出る。
それに続いて物資を背負っている訓練兵6人、その次に後方警戒として護衛の訓練兵2人を続かせた。
「ミカサ!!左を警戒しろ!俺は右のアイツらを殺しに行く!!」
「了解!!」
右側から3体同時に接近してくる10m級巨人を纏めて殺しに行く。
出来るだけミカサへの負担を少なくする為に、俺が巨人を相手する。
各街や各区には、他の建物よりも高い塔が各所に散らばって建てられている。
あの塔の高さは、物にもよるが基本的に20m程度で、15m巨人が相手でも十分に戦える高さを持っている。
街中で戦う時は、この塔を中心に戦いつつ必要であれば他の場所などでも戦闘を行うのだ。
今回の場合、丁度良く近くに塔が1本あるのでそこを軸に片方のアンカーを撃ち込みつつ、巨人を相手にする。
遠心力でスピードをつけ、タイミング良くアンカーを外して巨人の後ろを取る。その瞬間にうなじ目掛けてアンカーをもう一度撃ち込み、巻き取りの勢いと共にうなじを削ぐ。
地面に激突する前に建物にアンカーをもう一度撃ち込んで、近寄ってくる巨人の腱を削いで機動力を無くす。
今更だが巨人とまともに戦って殺す必要は無い。
ミカサ達を無事にガス切れの訓練兵の下に送り届ける事さえ出来れば良いのだから。
だから機動力を失わせる事が出来れば、1分程度は歩く事は出来ない。
2体を討伐して、もう1体は両足の腱を削ぎ落としておいた。
「ミカサ、異常はあるか!?」
「私は大丈夫!!」
「出来るだけ巨人と接触しない様に飛ぶぞ!戦う余裕は後ろの奴らには無い!」
「了解!」
ミカサ達を先導しつつ、巨人を避けて飛ぶ。
少しばかり迂回する事になるが無駄にガスを吹かす事さえしなければ問題は無い。
「訓練兵!!異常無いか!?」
「1人遅れ気味です!少しだけ速度を落としていただけないでしょうか!?」
「分かった!ミカサ、お前は遅れているやつに付け!他は俺に付いて来い!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
ミカサに遅れ気味の奴を任せて他の訓練兵を率いて行く。
後少しで、到着だから訓練兵達を送り届けたらミカサともう1人を援護しに行かなければならない。
「おい!!お前達!!」
「ビッテンフェルト分隊長!?何故此処に!?」
「補給用のガスを持って来た!ただし全員分は無い!特に腕が立つ訓練兵12名は前に出ろ!!」
俺がそう指示を出すが訓練兵達は固まったままだ。
今までの恐怖などで動けないのだろうが、そんな事を言っている暇は無い。
「馬鹿野郎、何をボケッとしている!?さっさと前に出てこい!」
「は、はっ!」
怒鳴ると、12名が前に出てくる。
ジャンやコニー、サシャなどの面々だ。
「お前達、補給用のガスを装着しろ」
「はっ!?我々だけですか!?」
「駐屯兵団支部に向かわないと全員分の補給は出来ない。今現在、俺の部下3人と訓練兵4個班が防衛に就いているがそう長くは持たん。急げ」
「ならもう一度補給しに来れば……!」
「それも考えたが、あの数の巨人の中をもう一度行って帰ってくるのは訓練兵を伴ってだと難易度が高い。だから、俺とミカサ、それに腕が立つ12名で他を護衛しつつ本部に突っ込む」
今だに、穴から多数の巨人が侵入し続けており、駐屯兵団支部に向かう道のりまでは数十体にも上る数の巨人が我が物顔で闊歩していた。一度ならばまだしも、もう一度、もう二度と言われると流石に厳しい。
決行出来るには出来るが、無駄な被害を出すだけに終わるだろう。
それならば、俺とミカサ、そして他腕の立つ12名で露払いを務めて他の訓練兵を連れて行った方が良い。
下手に分散させると、護衛の数が足りずに各個撃破の様な形になって全滅は避けられないだろう。
手短に指示を出して、ミカサともう1人の訓練兵の援護に向かう。
その2人が皆の下に辿り着いた後に、12名の補給完了を待つ。
訓練兵の中に、エレンとアルミンの姿は無いか、と探してみるがアルミンは見つかったのだがエレンの姿だけが見つからない。
「アルミン、エレンはどうした?同じ班だったろう」
座り込んで、俯いているアルミンに声を掛けて何処に居るのか聞いてみる。
声を掛けた瞬間にビクリ、と身体を跳ねさせたかと思うと声を震わせながら涙を零しつつ絞り出す様に言った。
「僕達訓練兵34班っ……、トーマス・ワグナー、マック・ティアス、ミリウス・ゼルムスキー、ミーナ・カロライナ……」
「エレン・イェーガー……!以上5名は自分の使命を全うし壮絶な戦死を遂げましたッ!!」
アルミンのその言葉を聞いて、周りがざわつく。
「そんな……」
「34班はほぼ全滅か……」
「俺達も巨人とまともにやり合えばそうなる……」
俺も、原作で知っていた事とは言え相当なショックを受けて一瞬頭が真っ白になる。
隣に立っていたミカサからも、普段の様な気配が失われて急激に冷え込んでいくのが分かる。
だが、俺はそうも言っていられない。
何しろ此処にいる全員の中で最も階級が高く、そして何か行動する場合は俺が指揮を執らなければならないからだ。
「ごめん、ごめんなさい……!ヴォルフさんに何かあった時はエレンを止めろって、言われたのに、止められなかった!エレンが巨人に喰われるのを、ただ見ていることしか出来なかった……ッ!!」
嗚咽混じりに俺と、ミカサに向かって頭を下げ続けるアルミンの頭をグシャグシャと雑に撫でて顔を上げさせる。
「アルミン、顔を上げろ」
「ッ!」
「いいか、エレンは喰われた。そうだな?」
「うん……」
「なら、今はお前が生き残る事だけを考えろ。弔うのは後だ」
「……分かった」
どうにかして、アルミンに前を向かせる。
そして、ミカサに顔を向ける。
「ミカサ、落ち着け」
「私は、落ち着いている」
「嘘を吐くな。動揺しているのが丸分かりだ」
「してない!!」
やはりミカサはエレンの死によって相当動揺しているらしく、目の色も違うし手が小刻みに震えている。
このままでは、原作通りになってしまう。それは余りにもリスクが大きい。この世界でその状況になったとしてミカサとその援護に行ったアルミン、コニーが生き残れる確証も何も無いのだから出来るだけそういったリスクは避けないとならない。
その為には、やはり少しばかり手荒にやらせてもらおう。
バシンッ!!
「ッ!?」
「落ち着けと言っているだろう!?このままだとお前も死ぬ事になるぞ!」
頬を叩く。
そこまで力を入れてはいないが、ミカサは俺に叩かれたと言う事実の方が衝撃的だったらしく驚きの表情で固まる。
だが、これで正気を取り戻してくれたらしい。
「……ごめんなさい」
「いいや、俺こそ叩いて悪かった。とにかくこの場を離れなければ。お前達、補給は終わったか!?」
「はい、全員終了しました」
「よし、ならば支部まで最短距離で突っ込むから付いて来い。露払いは俺がやるから補給を行った12名はそれぞれ等間隔に2人でペアを組んで他の訓練兵を援護しろ。分かったな?」
「「「「「「「はっ!!」」」」」」」
「ミカサ、お前は遊撃に回れ」
「でもそれだと兄さんが1人で戦う事になる。それは危ない」
ミカサはこれ以上大切な人を失いたく無いのか、そう訴えて来る。
だが心配されるほど俺は弱くはない。
それに、腕が立つ12名だけでは護衛任務を勤め上げるのには手が足りない。
実力があるミカサが遊撃に回って他を援護してくれないと巨人にやられてしまうだろう。
「はっ、俺を誰だと思っている?調査兵団の兵士だぞ。この程度の数の巨人なんざ壁外に比べればなんて事は無い。なに、露払いぐらいお前達に負担を掛けさせないぐらいには満足に努められるさ。任せておけ」
そう言って、小さい頃からやっている様に少し雑に、落ち着かせ安心させる様に頭を撫でてやる。
「……兄さんは、どうしてこんなにも冷静なの?」
ふとミカサがそんな事を聞いてくる。
「エレンが巨人に喰われて、それでも私とは違って冷静で、周りを見て……」
「あまり言いたくは無いんだがな、これよりずっと酷い地獄を見て来たことがあるから、だろうな」
「……」
「ウォール・マリア奪還作戦の時、此処で死んだ兵士には悪いがもっともっと酷い、それこそ地獄の様な光景がずっと続いていたんだ。だからだろうな、冷静で居られるのは」
俺がそう答えるとミカサは何も言わなかった。
答えは返ってこないものだと、俺はそう思って支部に向かった。
「ガスは無駄に吹かすな!!屋根上を走れるんだったら出来るだけ走れ!機動力を失ったら死ぬものだと思え!!」
訓練兵を鼓舞しつつ、前に現れる巨人を片っ端から仕留めていく。
小さいやつは無視して、デカくて厄介な巨人にのみ狙いを定める。
訓練兵達にガス切れをさせないように、屋根上を伝って走らせつつ必要な時にのみ立体機動装置を使わせる。
出来るだけガスを使わずに屋根上を走れば15mなどのデカい奴でなければ早々手出しは出来ない筈だ。奇行種もパッと見たかぎり近くには存在していないし、この調子であれば問題無く支部に辿り着けるだろう。
出発地点から最短距離で行くと、2分と掛からずに支部に到着することが出来る。
ただし、それは道中に巨人が居なかったり支部に巨人が群がっていなければの話だ。
もう少しで支部に到着すると言うのに、部下達に防衛を任せたからか人数の多さに釣られて巨人が群がっている。
しかしながら未だに部下とその指揮下に入れた訓練兵達は奮闘しているので、俺が戦闘に加わればなんとかなるだろう。
「訓練兵!!支部に群がる巨人を倒しに行って来る!その間の指揮を誰かに任せたい!適任は居るか!?」
俺が、そう聞くと直ぐには答えられないが先程とは違い答えが返ってくる。
「はっ、マルコ・ボット訓練兵が適任かと思います!」
「マルコ・ボット訓練兵、前に出ろ!」
「は、はっ!」
「俺が戻るまでの間、ここに居る訓練兵の指揮を任せる。いいな?」
「了解です!」
「訓練兵よく聞け!これより俺が戻るまでマルコ・ボット訓練兵の指示に従え!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
「ミカサ、お前もボット訓練兵の指示に従いつつ巨人から皆を守れ。必要ならば12名の中から選抜して率いて行っても構わん」
「分かりました」
最後にミカサにそう言ってから、支部に群がる巨人目掛けて飛んでいった。
長くなってしまったので分割します。