原作キャラを救いたい。   作:ジャーマンポテトin納豆

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トロスト区攻防戦 2

 

 

 

 

 

駐屯兵団支部に群がる巨人に向かってアンカーを突き刺す。

一番手前にいた13m級のうなじを簡単に削ぎ落とす。

 

こいつら、支部を守っている部下達にばかり気を取られていて俺なんて目に入っていないらしい。

これならば、いつもよりずっと楽に事を進められる。

 

「分隊長!!」

 

「お前達、そのまま巨人共の気を引きつけておけ!その間に俺が殺す!」

 

「はっ!」

 

指示を出して、出来るだけ早く、次々とデカいのを優先して討伐し、その次に小さいのをやる。

注意が部下達に行っていたから、これと言って苦労するわけでも無く、寧ろ驚くほどに楽に事を進める事が出来た。

 

「分隊長、助かりました!!」

 

「あぁ、問題無いか?」

 

「訓練兵が何人か喰われましたが、どうにか侵入だけは防いでいます」

 

「そうか、分かった。ご苦労」

 

「ですがそう長くは持ちません。何しろ数が多くて……」

 

「それは承知の上だ。訓練兵達を連れて来るから補給の指示を頼む。ついでにお前達も補給しておけ。かなり消費しただろう」

 

「はい、正直言ってもうガスが殆ど残っておりません。すぐに補給して来ます」

 

「あぁ、周囲の警戒は任せろ」

 

ここの守りに就いていた部下達と訓練兵を補給に向かわせ、俺は待機させていたミカサ達の所に急ぐ。

 

「お前達!!支部の周りの巨人を片付けた!急いで補給を済ませろ!補給を済ませている12名とミカサは周辺警戒!」

 

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」

 

訓練兵達を支部に突っ込ませて、ガスが足りない奴が5人ほどいるのでそいつらは屋根上や地面を走らせる。

その支援を俺は行いつつ、全員がどうにかこうにか支部に到着、補給を開始することが出来た。

 

 

 

ズドォォン!!

 

 

 

 

「ッ!?何事だ!!」

 

補給室で指揮を執っていると、大きな衝撃と音が支部全体に響き渡る。

慌てて外に出ると、10体前後の巨人が支部の周りを囲んでいた。

 

「クソッ、人間が集まり過ぎたか!!」

 

「ビッテンフェルト分隊長!!巨人が複数こちらに向かって来ます!!」

 

「分かった!!全員持ち場を離れるな!!」

 

ジャンから報告を受け取って一度補給室に戻る。

 

「補給急げ!!巨人が多数ここに接近して来ている!このままだと囲まれて身動き取れなくなるぞ!!」

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

「馬鹿野郎、急げよ!」

 

「ハンス、ヨアヒム、ロベルト!訓練兵達の補給を急がせろ!補給が終了次第全員を率いて壁を登れ!露払いと殿は俺が務める!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

部下3人に、急がせるように指示を出しつつ周囲の状況をもう一度確認する。

 

「分隊長、奇行種です!!」

 

「どこだ!」

 

「あいつです、他の巨人とは違ってどうも女っぽい身体付きの奴です!」

 

「分かった。総員警戒体制を維持!戦闘になっても無茶だけはするな!!」

 

コニーが奇行種と伝えてきた巨人は、確かに他の巨人と身体付きが違っていた。

 

巨人というのは、殆どが男性と同じ様な身体付きをしている。

しかしながら生殖器は付いておらず、雄雌を判断する事は出来ない。恐らく巨人にされた時点で元の人間の性別は関係無くなる。

当然、消化器官や排泄器官も存在しない。

 

しかしながらごく稀に女性の様な身体付きをしている巨人も、存在するにはする。

そして共通することが一点。

 

女性の様な身体付きの巨人は現在確認された個体全て奇行種であるという事だ。

 

どういうわけか、女性らしい身体付きの巨人は例外無く奇行種でとにかく厄介であるのだ。

それは訓練兵団の授業でも教えられる事だから、コニーが知っていても何ら不思議では無い。

 

「お前達、殺されたくなかったらあの奇行種には無闇に近づくな!」

 

周辺警戒をさせている訓練兵達にそう伝えて支部に近寄って来る巨人を殺しに行く。

下手に接近されると脱出する事が難しくなる。

 

取り敢えず、訓練兵達の手に余るであろう10〜15m級のデカブツを先に殺して回り、それが済んだら小さいやつを、と考えていた時だった。

 

 

 

ウォァァァァァ!!!

 

 

 

「クソ!次はなんだ!?」

 

大きな、さっき聞いたような雄叫びがした方向に急いで顔を向けると、例の奇行種に向かって巨人達が一斉に群がっていた。

そして、奇行種は驚いた事に格闘術の構えを取ったのだ。

 

「そういう事か!!」

 

あの奇行種は、原作で言うところのエレンだ。

俺は頭の中で原作のエレンの巨人の姿をそのまま思い浮かべていたから気が付かなかったのだ。

 

「ビッテンフェルト分隊長!どうしますか!?」

 

「……巨人があの奇行種に向かって行ってくれていると言うのならば放って置こう。あの奇行種、他の巨人よりも遥かに頭が回るらしい。下手に関わるとどうなるか分からん。幸いにも奇行種の意識も他の巨人に向いているから脱出するならば今だ」

 

「分隊長!!補給終了しました!!」

 

「分かった!急いで壁に登れ!今が一番の好機だ!!周辺警戒に就いていた奴も先に行け!俺を気にする必要は無い!」

 

ここに来た理由は、何と無くではあるが推論は立てられる。

確か、原作ではより多くの巨人に向かって行っていた記憶がある。

もしかすると、エレンの周りの巨人を俺が粗方討伐してしまったからこちらに来たんじゃないだろうか?でなければこうもこちらに巨人を殺しにくるなんて行動、説明が付きそうにもない。

 

「兄さん!早く!」

 

「……先に行け」

 

少しばかり、演技をする必要があるな、これは。

エレンを失うのは人類側にとって余りにも大き過ぎる損害だ。

それを考えるとエレンをどうにかして救い出す手立てを考えないとならない。

 

「え!?何言ってるの!早く行かないと!」

 

「お前達こそさっさと撤退しろと言っただろう!何故残っているんだ馬鹿者め!」

 

「でも兄さんだけで殿を務めるのは負担が大きい」

 

「はぁ……、分かった。いや、後で罰は受けてもらうが取り敢えずここに残れ。お前だけで行かせるのは危険だ」

 

「分かった」

 

ミカサ1人で行かせるのには少しばかり状況が不透明過ぎる。ここに俺といてもらった方が安全だろう。

さっさと撤退しろと言ったのに、これでは命令違反だろうが。

ともかく、その事は後にしよう。

 

何よりも、目の前の巨人化したエレンの事だ。

 

「あの巨人、どうして巨人を狙う?」

 

「それは、奇行種だからじゃないの?」

 

一応ミカサに意見を聞いてみるが、奇行種だから、としか判別が付かないらしい。

 

「いいや、ただの奇行種なら俺達に襲いかかって来ていて然るべきだ。おかし過ぎるんだ、あの巨人の行動は」

 

「……それは、調査兵としての勘?それとも個人的な意見?」

 

「どちらともだな。ここにハンジが居ればもっと色々と考えられるんだが……、調査兵としてあの巨人をどうにかして捕獲出来ないものかと思ったんだがな……」

 

「でも、あんなに巨人に群がられていては無理……」

 

ミカサは、そう言葉を漏らす。

そりゃそうだ、エレンの巨人は既に20体を超える巨人に群がられて戦っているのだから。

 

流石に俺だってあの中に飛び込んでいくのは無理だ。

巻き添えを喰らって死ぬのがオチだろう。

ましてやミカサは尚更だ。

 

「分隊長、訓練兵の撤退完了しました。そこの1名を除いて、ですが」

 

「分かった。……お前達、あの巨人をどう見る?」

 

「……何故巨人同士が殺し合っているのですか!?しかも、狙われている巨人は明らかにうなじが弱点であることを分かっている様子ですよ!?」

 

部下に聞いてみても、おかしいと感じるのだろう。

壁外で見て来た奇行種を含めてありとあらゆる巨人全てをひっくるめてもそのどの系統にも当て嵌まらないのだから誰だってそう思うだろう。

 

巨人を殺し、巨人に襲われ、人間に興味が一切無く襲って来る気配が無い。

 

これは、巨人そのものの常識を書き換えるに十分どころか、有り余る程の事実なのだから。

 

「あぁ、一応奇行種と呼称してはいるが、奇行種にしてもおかし過ぎやしないか」

 

「あんな巨人、見た事ありませんよ……」

 

「あの巨人、格闘術の概念がある様にも見える動きを先程見せた。あの巨人、死なせるには惜しいな……。何か巨人の正体に繋がる発見が出来るかもしれない」

 

「ですが、この状況下での捕獲は不可能ですよ?どうなされるおつもりですか?」

 

「……ハンジが居れば、何か良い手立てでも考え付いたのかもしれないが」

 

その間にも、巨人化したエレンは周りの巨人を殴り飛ばし、うなじを齧り取り、小さい巨人は踏み潰していく。

その光景は、余りにも非現実的なものだった。

 

「兄さん!あれ!」

 

急にミカサが声を上げる。

そこには、巨人化したエレンが周りの巨人に群がられ腕や足、腹を喰われている光景が広がっていた。

流石に、これだけ大暴れしたからか体力も底を尽き掛けているのか反撃すらできていないらしい。

 

「なっ……!?!?共食いしているのか!?」

 

「巨人同士が共食い、か。益々あの巨人が訳が分からなくなって来たな」

 

「分隊長、どうされるのですか!?あの様子では損傷箇所を再生出来ているとは思えません。延命するにしろ、何かしらの行動を起こさなければ!」

 

「あぁ、分かっている!戦闘準備!調査兵団が長年突き止めようとした何かしらの答えがある筈だ!」

 

「「「了解!!」」」

 

「ミカサ、お前は戦闘へは参加せずに周辺警戒と新手の巨人の接近を知らせてくれ」

 

「分かった」

 

そう指示を出した時だった。

 

 

 

ウォォォォォ!!!!

 

 

 

 

いきなり、雄叫びをあげて1体の巨人に向かっていく。

あれは、原作でトーマスを喰った巨人だ。

 

エレンが向かっていくと言うことは、原作と同じ様にトーマスはあの巨人に喰われたと言う事か。

 

 

 

 

そして、エレンは最後に大暴れをして自分に群がって来ていた巨人を纏めて殺すと、力尽きたのか倒れる。

 

「流石に、もう駄目そうだな……」

 

「再生も出来ていないんだ、無理も無い……」

 

他の巨人の例に漏れず、身体中から大量の蒸気を発しながら蒸発していく。

すると、少しずつ肉が蒸発していくにつれてうなじの辺りにいつまで経っても、どうにも消えずに残っている部分がある。

よく目を凝らしてみてみると、明らかに人の形をしている影だ。

 

「待て、蒸気の中に人影が見える!」

 

「は!?そんな、巨人の胃袋から喰われた奴が出て来るなんて……」

 

「いや、胃袋じゃない、あれはうなじの、俺たちが巨人を殺す時に必ず削がなければならない辺りからだ……」

 

「そんな、馬鹿な事がある訳ないじゃ無いですか!」

 

「あぁ、だが現実に俺達の目の前で、それが起こっているんだ!確かめるぞ!」

 

「ミカサ、お前はハンスとロベルト共に周辺警戒を行え!いいな!?」

 

「分かった……」

 

ミカサも、余りの出来事に言葉を漸く絞り出した様な答え方だ。

 

俺はヨアヒムを連れて下に降りる。

そして蒸気の中を、進むと本当にうなじの辺りからエレンが露出していた。

上半身は、完全に切り離されているが下半身は未だに筋組織の様なもので繋がれている。

 

服はジャケットはどこへ消えたのか分からないが羽織っておらず、そもそも着ている服も上下共にボロボロ、あちらこちらの肌が露出している。

しかも、喰われたのか何なのか左手と左足は完全に露出し切っている。

 

「彼女は……」

 

「南訓練所第104期訓練兵団第34班エレン・イェーガー」

 

「え?」

 

「彼女は、俺の家族だ」

 

「分隊長が、よくお話しされている子ですか……」

 

「あぁ、だがどうして巨人の中から出て来たのかまるで分からん……。取り敢えず、上に連れていくぞ。此処だと危険だ」

 

「はっ」

 

ロベルトは、余りにも予想外の事態過ぎて一周回って逆に冷静になっているらしい。

エレンを二人掛かりで肩に担ぎ支部の塔の一番高い階に連れて行く。

 

「兄さん、どうだ…った……?……エ、レン?」

 

塔の上に戻ると、3人が出迎える。

そして、ミカサはエレンの姿を認めると言葉を失いつつペタペタと身体を触る。

 

そして抱き締めて、心臓が動いていることを確認するとポロポロと涙を零し始めた。

 

「うぁぁぁ……!」

 

「ミカサ、泣いている暇は無い。とにかく壁上に連れて行くぞ。ミカサ、エレンを担げ」

 

号泣するミカサをどうにか宥めて壁上に連れて行く。

そこには、先に登った訓練兵達も居た。

 

「な、あ、エレンが、巨人の中から出て来やがった……?」

 

「どう言う事だよ……」

 

衝撃のあまりまともな言葉を出せずにいる訓練兵達は、呆然と立ち尽くしている。

そんな所に悪いが、これ以上の混乱を避けるべく手を打たせてもらう。

 

「お前達、今まで見た事に関してヴォルフガング・ビッテンフェルトの名前において緘口令と守秘義務を敷く。この事実を今知らしめるわけには行かない。ただでさえ巨人に街を襲われている状況なのに、この事が知れ渡ったらどうなるか予想が付かん。いいな!?」

 

「「「「「「「はっ!!」」」」」」」

 

少し強めに言っておく。

でなければ、耳に入らなさそうだったからだ。

 

俺は知っていたから平然と受け止められるが、何せ、原作でもあった様に壁中人類からすればこの事実は受け止めるには余りにも、理解と常識の範疇を超えている事だからだ。

これがこの混乱状態にある中で追い討ちの様に知れ渡ったら、その混乱は民間人だけで無く兵士達をも冷静さを欠く事になる。戦闘によって既に大混乱一歩手前まで来ていると言うのに、これ以上は不味い。

そうなったらどんな行動を人間が取るのか、予想も付かない。

組織的抵抗力を失ってしまう事だけは、なんとしてでも避けないとならない。

 

壁外で様々な理不尽や地獄を見てきた3人の部下ですら、それなりに困惑しているのだからそれがどれほど衝撃的な事か。

 

「口外すれば、命令違反として軍法会議に掛けざるを得なくなる。出来ればそんな事にはなって欲しくは無いからな、頼むぞ。それとお前達、先に走って壁上でこの事を見ていた兵士全員に俺の名前で緘口令と守秘義務を敷いた事を伝えろ。急げ!」

 

もう一度、釘を刺してから他の駐屯兵や訓練兵達に緘口令と守秘義務が敷かれた事を伝えるべく、ジャンやマルコ、コニー達訓練兵を伝令に送り出す。

 

それを確認した後に俺が羽織っている調査兵団のマントをエレンに掛けて抱えつつ内門の方まで歩く。

道中、駐屯兵団の姿もあったがどうやら負傷兵を抱えていると思われたらしくこれと言って何か聞かれることは無かったが、やはり見ていた者も中には居るようでエレンを見る顔色は良くない。

 

「分隊長、どうなさるのですか?既に報告は上に伝わってしまっている筈です……。言いたくはありませんがキッツ隊長がこの事実を受け止めて何かしらの判断を下すほどの人物であるとは思えません」

 

「それは同意見だ。だが、そこでむざむざ殺させてたまるか。俺達調査兵団が命を賭けて、仲間の屍を踏み越えてでも探し求めていた何かがあるはずなんだ。もしエレンを殺されてしまっては知り得る情報も知り得なくなってしまう」

 

理由として、そう言ってはいるが実際は自分の妹分を殺されて溜まるか、と言うのが殆どの理由だ。

 

原作においてエレンが一度、巨人に喰われる事は知っていたし覚悟もしていたがそれでも、その事実を聞かされた時はどんな時よりもショックだったし悔しくて悲しかった。

 

そんな思いを、一度ならず二度も体験したくは無い。

 

「……分かりました。ですが、説得は如何なさるのですか?まさかお一人で?」

 

「あぁ、いくら調査兵だからと言ってお前達を巻き込むわけには行かない。もし罰が下るとしたらそれは俺だけで十分だ。いいか、もし駐屯兵団に包囲されたりする様な事態になったらお前達は俺を置いて離脱、指示を待て。いいな」

 

「納得いきませんが、分かりました」

 

「すまないな、無茶に付き合わせて」

 

「何、調査兵団に入った時から無茶ばかりをしているんです。慣れたもんですよ」

 

そして、内門付近で壁を降りるとやはり駐屯兵達に囲まれた。

そして指揮を執っているのはキッツ隊長だ。

 

これはやはり、言葉での説得は難しそうだ。

どうにかしてピクシス司令が到着するまで時間稼ぎをした方が良さそうだ。

アルミンは、この場には居ないからな。俺がどうにかこうにか口上を並べ立てるしかない。

 

エレンはまだ気を失っている様だし、本人の口からの説明も期待出来そうにないし出来たとしても火に油、としかならないだろう。

 

「ミカサ、お前も早く俺の部下と一緒に行け。でないとどうなるか分からん」

 

「嫌。私は兄さんとエレンの側を離れない」

 

「そんな事言っている場合じゃ――――」

 

先に俺の側から離れた部下達に付いて行くよう言うが、意地でも梃子でも動かないらしい。

ミカサを説得しようと口を開き、言葉を放とうとしたその瞬間、目の前のキッツ隊長から大声で、それも緊張のあまり上擦った声で怒鳴られる。

 

「ビッテンフェルト!!そこに居るエレン・イェーガー訓練兵を我々に引き渡せ!!」

 

「断る!」

 

「何故だ!?そいつは巨人の中から出て来たんだぞ!?」

 

「それがどうした!?彼女が巨人の中から出て来た事は紛れも無い事実だ!」

 

「ならば今すぐにでも処刑するべきだ!」

 

「ふざけるな!調査兵団が長年探し求めていた何かの答えに繋がる事になるのが、エレン・イェーガーという存在だ!それとも何か!?貴様はその機会をみすみす逃し、巨人の支配から脱却しえる何かしらの方法を自ら捨てろと!?」

 

俺とキッツ隊長は延々と押し問答を繰り返す。

キッツは怯えているのか、こちらの言葉を聞き入れているような感じでは無い。

 

俺の主張を聞いているようではあるがその実、怯えに怯え、極度の混乱と緊張によってまともな判断を下せなくなっている。

 

「それ以上規律を破ろうと言うのなら、今ここでお前達3人には死んでもらう!既に大砲には榴弾を装填して準備を進めているのだからな!?」

 

「それがどうした!?大砲が怖くて調査兵なんぞやっていられるか!!それにキッツ隊長が大砲を撃つ命令を下す前に少しでもその素振りを見せたら俺がその首を胴から切り落としてやる!」

 

「なっ、なっ!?お、脅す気か!?」

 

「あんただって俺達に砲門を向けて脅しているようなもんだろう!?」

 

今はまだ、キッツ隊長だけだから説得も難しくは無い。

いや、相当難しいが今の方がまだマシだ。もう1人キッツ隊長以上に保守的で厄介な奴がいるんだが、そいつだけは来てほしく無い。

 

 

 

 

 

 

 

「ヴォルフ!!あんた何やってんの!?」

 

「!?リコか」

 

俺とキッツ隊長の言い合いに、割り込んできたのはリコ・ブレツェンスカ。

駐屯兵団の数個班ある精鋭班の内の1つを率いている女性で、俺の同期だ。

 

卒団時の成績は8番と高く、憲兵団を選ぶことも出来たが正義感が強いからか腐敗していると言う事実を見て憲兵団は合わないとかなんとか言って駐屯兵団を選んだ。

調査兵団を選ばなかった理由としては、

 

「私には、そんな勇気も度胸も無い」

 

らしい。

それと、キッツ隊長よりも保守的な考えの持ち主だから説得するのにはより厄介な相手だ。

来るな来るなと思っていたが、来てしまった。

 

原作でもその場にいたのだから当然と言えば当然だが、もしかしたら、と思ったのだが……!

これは、相当厳しいぞ。

 

そして、気を失っていたエレンが目を覚ます。

 

「……あ、え……?にい、さん?なんで……ッ!?なんで、俺達は、駐屯兵に包囲されて……?」

 

「エレン!?目を覚ましたの!?」

 

「ひっ!?化け物が目を覚ましたぞ!」

 

「隊長!早く殺しましょう!今ならまだ間に合います!」

 

エレンが目を覚ましたのと同時に、俺達を包囲している駐屯兵達にも大きな動揺と緊張が走る。

特にキッツ隊長やリコは顔を青褪めさせて震えているのが良く分かる。

 

「エレン・イェーガー!」

 

「は、はっ!?」

 

「率直に問う!貴様の正体はなんだ!?人間か!?巨人か!?」

 

キッツ隊長は、あまりの混乱ゆえに自分でも何を言っているのか理解出来ていないらしい。 

そう聞かれたエレンも、いきなり訳の分からない質問をされて戸惑っている。

 

「し、質問の意味が分かりません!!」

 

「シラを切るつもりか!?化け物め、そうは行かないぞ!?もう一度やってみろ!貴様を粉々に吹き飛ばしてやる!正体を表す暇もなくな!!」

 

「正体!?」

 

「大勢の者が見たんだ、貴様が巨人の中から出て姿を表す瞬間を!!」

 

キッツ隊長は、大きな声でそう叫ぶ。

 

「ヴォルフ、あんたも馬鹿やってないで早くそこから離れなさい!」

 

「断る!」

 

「なんでよ!?」

 

「キッツ隊長にも説明したが、エレン・イェーガーは巨人の正体や発生原因など色んな事を突き止め、そして巨人の支配からの脱却に繋がるきっかけになるかもしれない存在だからだ!それは調査兵団が長年数多くの犠牲を払ってでも尚求め続け、そして今も追い求めているものだからだ!」

 

「ふざけるな!そんな憶測だけで物事を図ろうとでも!?」

 

「憶測で物事を図ろうとしてるのはそっちだろう!何故危険だと言い切れる!?何故敵だと言い切れる!?」

 

「それは……」

 

「敵ではない証拠を提示してやろうか!?」

 

「出せるものなら出してみろ!!」

 

「エレン・イェーガーは巨人になっている時、30体を超える巨人を殺し、そして人間に興味を示すどころか目の前に居ても無視をし別の巨人を殺しに行った!それは俺が実際にその場にいて他にも体験し見た人間もいる!」

 

「それだけじゃ敵じゃないなんて言えない!」

 

「もう一つある!こいつは巨人になっている時、他の巨人はエレン・イェーガーの巨人を、捕食対象として襲いかかり、俺達の目の前で喰われていた!それは俺も俺の部下も、壁上にいた駐屯兵、訓練兵達も見た筈だ!」

 

俺は、そう大きな声ではっきりと言う。

俺が伝えたことは、紛れも無い事実でありキッツ隊長やリコも当然ながら見たものだ。

 

それに関しては、どうやったって反論のしようも無い。

だがそれでもリコは、そう思わないらしい。

 

「……エレン・イェーガーが巨人の正体を突き止めるきっかけになる確証も無いのに!?」

 

「いいや、それもある!」

 

「じゃあ何だって言うのだ!?」

 

「エレン・イェーガーは巨人のうなじから出てきた!それは多くの人間が見た事だ!」

 

「それがどうした!?」

 

「巨人の弱点を思い出せ!何処だ!?」

 

「……うなじだ」

 

「そうだ、巨人の弱点はうなじでありそこを縦1m横10cmをこの刃で削ぎ落とせば絶命する!それは、エレン・イェーガーが巨人体のうなじから出て来た事と深い関わりがある筈!本質的に切っても切り離せない事と考えられる事柄だ!!」

 

俺が、さらに追い討ちをかけてそう言い放つと駐屯兵達は騒めきだす。

そりゃそうだ。今まで人類は巨人の弱点はうなじという事実を知ってから、確かに弱点はうなじである、と言う事自体は突き止めたものの、その弱点たる理由や原因はどれほど調査を行っても分かっていなかった。

 

そして現在に至るまでうなじ以外の弱点が見つかっていないという点に関しても、判明すれば何らかの説明が付けられる事になるからだ。

 

これは、巨人に対して他の攻撃手段を模索するに当たって大きく前進する事になる。

特にうなじ以外の弱点が判明すれば、場所によっては兵士の死傷率を大幅に下げる事すら可能になると言う事だ。

 

「キッツ隊長、少しばかりお待ち下さい!」

 

「イアン!?貴様、奴らを庇うと言うのか!」

 

「いいえ、そうは言いませんがあそこにいるのは、調査兵団の中でも抜きん出た実力の持ち主であるヴォルフガング・ビッテンフェルト分隊長ですよ!?そんな彼を殺してしまえばどうなるかお分かりですか!?」

 

「だが奴は反逆者に足を突っ込んでいるのだぞ!?」

 

「それに、その後ろにいるアッカーマン訓練兵もそうです!彼女は我々後衛と共に民間人の護衛に就き、彼女の働きは並の兵士100と等価です。失えば人類にとっての大損害となり得るのです!」

 

イアン・ディートリヒがキッツ隊長にそう進言するがそれでも受け入れそうにもない。

 

「に、兄さん、今の状況はどうなってんだよ……?」

 

「エレン、いいから下がっていろ!前に出るな!」

 

「もう一度問う!貴様の正体はなんだ!?」

 

 

 

 

「人間です!!」

 

 

 

 

 

「そうか……。悪く思うな……、仕方が無い事だ、自分が悪魔では無いと言う事を証明出来ないのだから……」

 

エレンが大きな声でそう答えると、キッツ隊長は手を挙げこちらに照準を付けている大砲に砲撃準備の合図を送る。

 

「「「ッ!!」」」

 

不味い、そう思った時だった。

 

 

 

「よさんか」

 

 

 

キッツ隊長の後ろに立ち、その振り上げた腕を掴む人が居る。

 

「相変わらず、図体の割に小鹿の様に繊細な男じゃ……」

 

「ピクシス司令!?」

 

「今着いたところだが、状況は早馬で聞いておる。お前は増援の指揮に就け。儂は、ヴォルフガングの話には一考の余地があると思うのでな、話を聞く事にしよう」

 

よ、良かった……!!

ピクシス司令の到着まで、時間稼ぎが出来た……!

 

かなり、人生の中でも相当の大博打だったが、どうやら一旦の賭けには勝てたらしい。

だが、まだ賭けは終わっていない。これから、エレンを救う為の、そしてその方法と手段を必死に頭を動かして考えなければならない。

 

 

 

 

 

 

今、俺の隣に立っている男、ドット・ピクシスはトロスト区を含む人類に残された残りの領土の南側領土を統括する最高責任者であり、人類領土の最重要区防衛の全権を託されている人だ。

 

我々調査兵団の報告書には、巨人は南側から現れる、と書かれている。

それは何度もの調査によって明らかになったことであり、事実845年に襲撃を受けたのは最南端に位置するシガンシナ区であり、そして次に襲撃が予想されたのはウォール・マリア陥落に伴い人類領土の最南端になったトロスト区だった。

 

 

 

 

俺が入団する以前には、東西南北全ての方位に対して一度は壁外調査を実施していた。

 

すると驚いた事に、確かに巨人は存在するにはするが、南側に近づくに連れて巨人の数が多くなるのだ。

逆に言えば、北側に近づけば近づくほど、巨人の数が圧倒的に少ない。

東西では遭遇率は南側の3分の1。

北側では特にその傾向が顕著であり、巨人と遭遇する確率は更に遥かに低い大凡20分の1。

 

この事実を考えるに、北側への壁外調査を実施した方が圧倒的に損失も少なく済むのは、誰だって分かる話だろう。

しかしながら、調査兵団は南側に向けて常に壁外調査を実施してる。

単純に生存率を考えるならば北側に送り出したほうが良いに決まっているが、何故南側に送り出すのか。

 

それに関しては、巨人の発生原因ともなる何かが南側にある、と想定出来るからに他ならない。

確かに北側に進めば、海に囲まれたこのパラディ島では海に出る事自体は可能だろう。

 

だがそれでは、巨人の正体を突き止め支配から脱却すると言う、調査兵団の目的などを果たせないからだ。

だから調査兵団は常に巨人との遭遇確率が高く、最も危険な南側に壁外調査に赴いているのだ。

 

 

 

 

「のうヴォルフよ」

 

「はっ、何でしょうか?」

 

「超絶美女の巨人は見当たらんのぅ……。どうだ、壁外で見つけてくれたか?」

 

「いえ、司令のお眼鏡に叶う巨人はまだ見つけられておりません」

 

「それは残念だの。超絶美女の巨人なら、喰われても構わんのだがのぅ」

 

ピクシス司令は調査兵団の主要幹部に引けを取らないぐらいの、生来の変人だ。

なんなら変態と言って差し支えない。口には出さないが。

ただし、他に類を見ないほど優秀であり、それは南側領土防衛の全権を与えられていることからも分かるだろう。

 

 

 

 

ピクシス司令とは、個人的にも兵士としても交流がある。

と言うのも、南側領土防衛の全権を託される前、ウォール・マリア陥落以前の話だ。

俺が卒団時に首席だったのにも関わらず調査兵団を志望した奴がいる、と大騒ぎになり、当時まだシガンシナ区の隊長だったピクシス司令がどう言うわけか尋ねて来たのだ。

 

「お主、変わり者じゃのぅ。首席卒業だと言うのにどんな訳で調査兵団なんぞを選んだ?」

 

と開口一番に尋ねられた記憶が未だに鮮明に残っている。

あの時はまさか、自分の選択でこんな偉い人が来るか!?と驚きを隠せなかったがどうやらピクシス司令は首席卒業者が調査兵団を志望するなんて言う、自殺志願者か何かとしか考えられない俺に、

 

「お主は、どうも儂や調査兵団のへそ曲がり達と同じ匂いがする」

 

と言う思いを抱いたとの事らしい。

 

それからと言うもの、どう言うわけか気に入られた挙句、半休の時などには母さん達の居る開拓地には距離的な問題故に帰れないのでちょくちょく壁上の散歩に付き合ったりとしていた。

 

シガンシナ区での戦いの後、調査兵団の中から何人かいざと言う時の防衛の為に人手を残すという法案が出た際にも、悪い意味で無く色々とあった。

 

ついでに言っておくと、調査兵団に入ってから1年ぐらいした頃だろうか、突然俺の目の前に現れて、

 

「壁外で超絶美女の巨人を探して、居たらここまで連れてきて捕獲するのに手を貸してくれんか」

 

と言われた。

もう、本当に何を言っているのだろうこの人は、と呆然としたがどうやら死ぬなら超絶美女の巨人に喰われたい、との事らしい。

 

その時は俺、なんでこの人に同類認定されたんだろう……、と思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

「それで、どんな話じゃったか」

 

「エレン・イェーガーについてです」

 

「おぉ、そうじゃったそうじゃった。それで、お主の生家の地下室に行けば、全てが分かると」

 

「は、はい……。信じてもらえますか……」

 

「お主自身が確証を得られない以上は取り敢えず頭の中に入れておこう。物事の真意を見極める程度の事は出来るつもりじゃ。しかし、ヴォルフが保証しておるのだ、まぁ信頼するには値しよう。お主らの命は、儂が保証しよう」

 

取り敢えず、現状はピクシス司令自身がそう言ってくれた事に感謝し安堵すべきだろう。

これで、下手に誰も俺達に手出し出来なくなったということだ。

 

「ありがとうございます」

 

「しかし、ヴォルフも無茶をする。なんだ、調査兵としての考え以上に何かありそうだの。どれ話してみんか?」

 

「エレン・イェーガーと、ミカサ・アッカーマンは私の妹分なんです。生まれた時から知っていますので……」

 

「ほっ、なんじゃ、最初からそう言わんか」

 

「人類憲章、と言うものがあるでしょう。あの公の場でそれを言ってしまえばそれこそあの世へまっしぐらです」

 

「そうか……。まぁ、家族のためというのならば何よりも信用し信頼するに足りるな」

 

微笑みながら、そう言ってくれる。

この人はただ付き合いがあると言うだけではここまで配慮してくれはしない。だが、ピクシス司令に何かを考えさせ、そして庇護するに値すると感じてくれた何かがあると言うことだ。

 

「そうじゃ、ついでと言えばアレだがの……。トロスト区、奪還する方法はありそうか?」

 

「……無いわけではありません。ですが、私が思い付く方法なんて言うのは今まで出された案とそう対して変わりありません」

 

やはり、トロスト区を奪還しない事には問題の解決にはならないらしい。

俺に聞いてくるが、そう思い浮かぶものではない。

一応、原作でのアルミンが提案した方法ならば分かるが俺が提案するのではなく、出来ればアルミンに提案させてアルミン自身の戦術価値を上げておきたい。

 

正直に言えば、俺が今までに出した考えや答えと言うのは原作での知識などに則った物だ。

しかしながらアルミンは、それら無しで自分の頭のみでそれら全てを思い付いている。

その頭脳は、万金に値するものだ。

 

ならば、出来るだけアルミン自身の地位や戦術価値を上げておくに越した事は無いだろう。

 

 

 

 

ついでに言っておくと今までに提案された方法は、二つほどある。

 

一つが今までの調査兵団がやったように大量の資材を運び込み時間を掛けて奪還する方法。

ただしこれには大きな問題点がある。

まず、大量の資材の用意から始めなければならないと言う事。

単純にあの穴を塞ぐには、相当量の資材が必要であり、尚且つ周りの壁自体も補強や補修を行わなければならない為に、数日では足りない程に準備に時間が掛かる。

 

更には、穴を塞ぐ作業の最中、常に巨人に狙われ続けると言うこと。

トロスト区内に侵入した巨人は勿論の事だが、侵入しようとする巨人とも戦闘を行い、尚且つ指一本触れさせてはならない。

 

最低でもコンクリートなどが乾くまで数週間は掛かるから、その間常に戦い続けなければならないから、兵士の疲労どころか損耗は大きすぎる物となるだろう。

 

 

 

もう一つは、穴の空いている箇所の上部にある壁を爆破し、穴を塞ぐ方法。

これに関しては大量の資材こそ必要は無いが、代わりに大量の爆薬が必要となる。

 

それを設置するのにも大量の人手が必要となるし、何よりも爆破したとして確実に塞げると言う保証が無いと言う事。

最悪、壁の中にいる巨人の目を覚ましてしまう結果になったらトロスト区奪還どころでは無い。

何よりも、可能だったとしてもウォール教と言う存在が邪魔をする。

彼らは壁を神と崇めて、何かと駐屯兵団に文句を付けているのだ。

 

壁の武装が遅々として進まないのも彼らのせいだ。

現状は各区とその近辺にのみ大砲の配備が止まっているが本来であればそれ以外の場所にも大砲を常時では無いが設置出来る様にしたいのだが横槍を入れて文句を付け、兵団にその許可が降りない。

 

奴らは、貴族や金持ち連中が入信しているために金と地位だけは持っている。

 

 

 

 

 

 

「うーむ……。どうじゃ、そこの2人。何かあるか?」

 

「いいえ、俺達では思い付く事はありません……。ですが」

 

「ん?」

 

「俺達の幼馴染ならば、何か方法を思い付くかもしれません」

 

「ほう、幼馴染とな?」

 

「はい。兄さん、ビッテンフェルト分隊長も知っています」

 

「本当か?」

 

「はい。名前はアルミン・アルレルト訓練兵です」

 

「そうか。ならばその者を呼ぼう。一つでも新しい案が出てくるのならばそれは考察するに値するからの。アッカーマン訓練兵、そのアルレルト訓練兵とやらを呼んで来てくれんか」

 

「はっ、分かりました」

 

ピクシス司令はミカサにアルミンを呼びに行かせる。

俺とエレンは、そのまま壁上で到着を待つ事に。

 

 

 

 

「連れて参りました」

 

「おぉ、ありがとう。それで、お主がアルミン・アルレルト訓練兵で間違い無いな?」

 

「は、はい。ですが、一介の訓練兵である自分にピクシス司令は何用でしょうか?恐れながら全く見当が付かないのですが……」

 

「なに、ここの3人からお主ならもしかするとトロスト区を奪還する為の方法を思い付くかもしれない、と聞いたのでな?」

 

「は、あ、え……?トロスト区奪還、でありますか……?」

 

「あぁ、その通り。どうじゃ、何か良い案は浮かばんか?」

 

最初からピクシス司令は直球に聞く。

アルミンは、何を聞かれているのか最初は分からずぽかん、としていたが確かめる様に自分で言われた事を口に出して確認する。

 

さて、これであの追い込まれた状況でない今、アルミンが何かしらの方法、原作での方法を思いつくことが出来るかどうか。はっきり言ってこれもまた、相当な賭けである事は間違い無い。

 

アルミンが思い付くことが出来なければ、俺から提案するという形にしなければならない。

そうなるとアルミンの価値を上げておくと言う目的は達成出来ない。

 

「……一つだけ、本当に思い付きで、実際に出来るかどうか全く見当すらつかない案であれば、御提案出来ます」

 

「ほう!それはどのような方法じゃ?」

 

「外門付近にある、例の大岩で穴を塞ぐ、と言う方法です」

 

よし!

 

そう、アルミンが提案したのを聞いて、表情に出さない様に心の中でガッツポーズを取る。

この世界に生まれてから、どうにも前世ほど感情を面に出せなくなっているらしい。周りと比べると割とぶっきらぼう、みたいな感じもあるだろう。

そのおかげか、4人に勘づかれた様子は無い。

 

しかしやっぱりアルミンはアルミンだな。

 

アルミンの提案を聞いたピクシス司令は、驚いたような表情をする。

 

「それは、確かに案としてはあるだろうが、どうやって穴まで運ぶ?」

 

「巨人化したエレンが運ぶのです。彼女が巨人化した時の巨人の大きさは15m級であり単純な大きさならば持ち上げるなり、転がすなりで運ぶ事自体は可能な筈です。それを用いて穴を塞ぐことが出来れば、あとはトロスト区内の巨人を掃討し、塞いだ箇所の補強を行えば、従来の方法よりも遥かに短時間で、尚且つ安全に実施出来るもの、と考えます」

 

「ふーむ……」

 

アルミンの説明を聞くと、ピクシス司令は顎に手を当て考え始める。

1分ほど考えていたのだろうか、少しするとピクシス司令はエレンに向き直った。

 

「どうじゃ、イェーガー訓練兵よ。お主は穴を塞ぐ事は出来るか?」

 

「それは……、その、どうでしょうか……。今の自分に分かることなんて此処に居る皆とそう変わりはありません。なので、自分はここで、出来るにしろ出来ないにしろ、無責任に答える訳には……」

 

エレンはピクシス司令に聞かれると、そう返した。

確かにそうだ。

 

確証も無いまま作戦を行うと言うことは、作戦である以上一定数以上の兵力を投入すると言うことだ。

となると、作戦を決行したとしてエレンが目的を達成出来なかった場合、投入した兵力、物資、ありとあらゆる労力が無駄となる。それは戦死した兵士達も本当に死ぬ意味があったのか、と問わざるを得ない事でもある。

 

そのエレンの返答は、尤もであり、そして常識的な答えだ。

無責任にやれます、出来ますと何でもかんでも頷いてしまう奴よりかはこの状況下であるのにも関わらず、それだけしっかりと考えられているので遥かにマシだろう。

もしかすると、逆に冷静になっているのかもしれないが、どちらにせよ考える事が出来るのは評価出来る。

特に調査兵からすれば、壁外では常にその様な状況下であるか、それに近しい状況に置かれている場合が多い。

だが、エレンは未だ訓練兵であるにも関わらず今に限って言えば考えることが出来ている。

 

しかしながら俺はそう評価したが、ピクシス司令が欲しかった答えでは無いらしい。

 

「あぁ、そうじゃのう、すまんかった。質問を間違えてしもうたわ」

 

カラカラと優しそうで人の良さそうな笑いをした後に、目尻を鋭く声を低くし言った。

 

 

 

 

 

「お主は、やるのか、やらんのか、どっちだ?」

 

 

 

 

そう聞くと、ピクシス司令はちらりとエレンの後ろ、壁内に視線を向ける。

そこには、ウォール・ローゼとウォール・シーナの壁内の光景と幾つもの街、村、家々。

内門付近には多くの兵士達が集まっており、中には俺の同期達やエレンの同期の姿。

 

此処には無く、目にも見えないが俺の母さんと姉さん、カルラさんが住んでいる開拓地とその家もあるのには間違いない。

 

これ以上、人類の領土が後退すればどうなるのか、と言うのは原作で語られた通りになるだろう。

 

 

 

 

 

「やります……、やります!穴を塞げるかどうかは分かりません……!でも、やります!」

 

 

 

 

 

「ふっ、よう言ったの」

 

ピクシス司令はエレンの肩をぽんぽん、と叩いてから立ち上がり壁内にいる自分の参謀達を呼ぶ。

 

「参謀を呼ぼう。作戦を立てようぞ」

 

「え!?そんな……、幾ら何でも皮算用ですら無い思い付きなのにいきなり実用するなんて……」

 

その判断にアルミンは驚きの声をあげる。

それはそうだ。さっきも言ったが、そもそも成功するかどうか以前の話であるのにも関わらず作戦を立てて実行しようなんて言うのは、常識的に考えれば明らかに異常行動だ。

 

作戦を立てる、と言うのは単純に戦術や戦略を練ればいいと言うわけではない。

投入兵力、資材、資金、時期時間etc……。

 

それら諸々を全て計算し、算出しなければ作戦と言うものは成り立たず、幾ら作戦自体が立派であったとしてもそれら全てがおざなりであれば、全くの意味が無い。

補給が滞れば戦う以前の問題になるし、投入兵力を見誤れば規定の損害の許容範囲を超えて作戦自体が中止せざるを得なくなる。

資材が無ければ、兵站を構築することもできない、金が無ければそもそもそれら物資や兵士達を揃えられない。

 

時期を見誤れば、前世での独ソ戦のドイツ軍のように成り兼ねない。

時間が無ければ兵士の疲労や損害を無視した無茶苦茶な攻勢計画になる。

 

それら全てをひっくるめて考えた上で、漸く作戦と言うのは成り立つのだ。

 

しかしながらピクシス司令はそれら全てをすっ飛ばして、作戦を行おうとしている。

多少、その方面に知識がある人間ならば誰でも分かる話だ。

 

 

 

「俺もそう思ったが、でもその判断を訝っても意味が無い。ピクシス司令は今の俺たちに見えない物を見ようとしているのかもしれない」

 

「見えないもの……?」

 

「それに、多分作戦を実行する以前に根本的な問題がある。司令はその現状を正しく認識している……」

 

「つまり……」

 

「敵は巨人だけじゃない」

 

「えっ……?」

 

そう、エレンが言った通り敵というのは巨人だけではない。

敵、という存在の認識に必要なのは直接的に争う、という事だが、実際はそれ以外にも数多く存在する。

直接争う、という事ばかりに目が行きがちだが、今回に限って言えば恐怖であったりと人間の心理面での敵、と言う側面が大きい。

 

なにせ、中央政府や貴族達は未だに混乱状態で自分達の保身などを優先する余り、こちらに干渉する余裕なんて欠けらも無いのだから。

政治という面での敵は、少なくとも今の段階では発生していない。

 

敵、と言うのは少なければ少ないほど戦いやすいものだ。

 

と言うことは、はっきり言ってしまえばその敵が、人間の、此処で言うところの兵士達の士気などだけである今こそが最も敵が少ない状況なのだ。

これがもっと時間が経過すれば、政治やら保身やらばかりを優先する中央政府と貴族の横槍でそれどころでは無くなる。

箔をつけたいからと、指揮権を寄越せと言ってくるならばまだ良い。

それが、作戦は全て我々貴族が、なんて言い始めたらそれこそ兵士達の無駄死ばかりでなんら戦果を挙げる事すら出来ずに終わるだろう。

指揮系統がピクシス司令に直結している今ならば、そんな面倒な事にはならない。

 

 

「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である」

 

とは誰が言った言葉だっただろうか。

今の壁中人類はまさにその通りなのだ。

 

更には、原作で参謀の一人が発言したように、今現在もトロスト区に流入する巨人の数はどんどん増えており、壁上から見下ろすとざっと数えただけでも200は下らない数が犇めいている。

既にこれだけの数を相手すると言うだけでもどれほどの犠牲が出るのか予想するだけでも恐ろしい。

 

これが、更には300、400と増えて行けば、余計に作戦を遂行する事が難しくなってくる。

 

それら全てをひっくるめて考えると、むしろ下手に時間を経たせてしまうよりも今の方が作戦を決行するには適している。

 

 

 

 

 

「時は一刻を争う。活躍してもらうぞ、若き兵士達よ」

 

ピクシス司令は、そう俺達に言うと早速アルミンを含めた参謀達で作戦を練り始めた。

 

参謀達とアルミン、そしてエレンを含めた面々で作戦を立てつつ、俺とピクシス司令も作戦計画案を共に見る。

 

「自分は、巨人と戦う必要は無いと思います」

 

「巨人と戦う必要が無い?」

 

「す、すみません……、一介の訓練兵が口を挟んでしまって……」

 

「構わん、話を続けたまえ」

 

「あ、はい。巨人は通常、より多数の人間に反応して迫ってきますのでそれを利用して大勢で誘き寄せて壁際に集めることが出来れば、大部分は巨人と接触せずにエレンから遠ざけることができると思います。また、誘き寄せた巨人達は後で大砲を利用して損害を出さずに倒せます」

 

「その案で行こう。出来るだけ損害が少ない方が良い。現状、最も損害を少なく済ませる事が出来るであろう作戦はそれしかない」

 

「ただし、エレンを無防備にするわけには行かないので少数精鋭の班で守るべきだと思います。それに、穴から入ってくる巨人との戦闘も避けられません。そこは、精鋭班の技量に掛かっています」

 

「よし、分かった。そこを踏まえて作戦を練り直そう」

 

やはりアルミンは、天才らしい。

原作においての知識があるにも関わらず俺は此処までの提案は出来ない。

 

なのにアルミンはそれら知識を一切無しで思い付いたのだ。

固定観念に囚われがちである我々において、それら固定観念を抜きにして考えられると言うのはやはり凄い才能だ。

ウォール・マリア奪還作戦の時も、壁の中にライナーが潜んでいると見破ったしその才能は疑いようも無い。

 

「ただ、この作戦はエレンが確実に岩を運んで穴を塞ぐことが大前提として、存在しています。その確証が乏しいまま作戦を決行するのには、やはり疑問を感じ得ないのですが……」

 

「確かに、根幹の部分が余りにも不確かなまま大勢を死地に向かわせる事には何も感じない訳では無いが……、ピクシス司令の考えも理解出来る」

 

「えぇ、一つは時間の問題ね。今現在も巨人が街に入り続けてる。街に巨人が充満するほど奪還作戦の成功率は絶望的になるわ」

 

「それに加えてウォール・ローゼが突破される確率も高くなっていくな」

 

先ほども俺が言ったように、参謀達も現状の厳しさと作戦をやるならば今しかないと言う事を理解しているのだろう。

ピクシス司令は年功序列や階級よりも才能を何よりも重視するタイプの人だから、ピクシス司令に直接選ばれたのだからその優秀さは語るまでもない。

 

「それともう一つ」

 

「「?」」

 

「人が恐怖を原動力にして進むには、限界があるわ」

 

参謀の一人がそう言うと、誰もが押し黙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「外門が破られた時、相当頑張ってくれたらしいの」

 

「いえ、兵士としての義務ですから。まぁ、あのままあそこで戦わせてくれていればもっと被害は抑えられたはずですし、私が駐屯兵団支部の守りについて、直接訓練兵達の補給に行かねばならない、なんて事にはならなかったでしょうが……」

 

「まぁ、キッツの事は許してやってくれんか。柔軟性に欠けるがあれはあれで優秀な指揮官なんじゃ」

 

「いえ、特に怒っているという訳では。むしろあの場で説得出来なかった自身の力量の無さが悔しいばかりです」

 

「お主は相変わらずじゃのう……。調査兵団の変人達に混じっていて自身も変人だと言うのにこんな生真面目な調査兵を見たことなんぞないわい」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

ピクシス司令と、幾らか軽口を叩き合ってから真面目な話に戻る。

 

「作戦決行となったら主には、エレン・イェーガーを直接護衛してもらう。駐屯兵団の中から精鋭を選んで護衛に就けるがそれでもお主一人の力量には遠く及ばん。少しでも多く腕の立つ者が必要じゃからの」

 

「了解しました」

 

作戦の、大まかな会議が終わると俺はピクシス指令と共に壁上を今までそうしてきたように歩く。

まぁ、違うことと言えば眼下を見下ろせば穴が開いたトロスト区の外門と巨人の大群、内門辺りには大勢の兵士がいると言う事だろうか。

あとはまぁ、エレンが共に居ると言うことか。

 

ピクシス指令は、普段と変わりない様子で歩く。

エレンは緊張からなのか、それとも別の何か感情があるのか定かではないが、動きが硬い。

 

 

 

 

「殺せぇ!死刑にするなら早くしろぉ!!」

 

「いいか!?やるぞ!?」

 

内門付近で待機中の兵士達から、その様な絶叫と怒号があちらこちらから聞こえてくる。

見下ろすと、誰も彼もが暗く重々しい雰囲気と顔をしていて端的に表すならば、絶望、と言うものが辺り一体に蔓延していた。

 

巨人と人間の力の差と言うのは圧倒的で、こっちは必死になって飛び回って急死に一生を得て勝ったと思ったら、巨人は軽く足を動かすなり手を振るなりで俺達を殺せるのだ。

そんな存在がすぐ目の前の、たった壁一つを隔てた場所に犇めき合っていて、そいつらに俺達は抵抗手段と言えば立体機動装置と大砲だけなのだから、誰だって絶望するしかないだろう。

 

100人の兵士と100体の巨人がいたとして戦わせたら勝つのは間違い無く巨人だ。

そこにリヴァイやミケさんと言った精鋭中の精鋭がいれば結果は覆るだろうが、その頼みの綱が所属する調査兵団の9割9分9厘の面々は壁外調査中、いつ帰ってくるか分からない。

 

駐屯兵団の多くは、実戦経験が今回が初めてと言う者も下士官から士官に至るまで数多い。寧ろ実戦経験を踏んでいるのは精々、シガンシナ区での戦いを経験している駐屯兵ぐらいなものだろう。

あとは怪我が理由で転属せざるを得なくなった調査兵が極々少数。

 

このトロスト区だけで考えても、駐屯兵で実戦経験があるのはハンネスさんと他に十数名、と言ったところか。

ウォール・マリア奪還作戦において駐屯兵団から抽出された兵士達の殆ども巨人の胃袋の中に消えて行ったし、生き残った駐屯兵もトロスト区ではない別の区に配置されたりしているのだ。

 

それほど初陣の兵士が多い。

トロスト区には訓練兵も含めれば元々約1400人が居たがその数は戦死した者を引いて1000人に届こうか、と言ったところだ。

俺や部下3名を入れても実戦経験があるのは、20名程度と考えられる。

1000分の20。

この数字は、実戦経験者の割合を表す物だが割ってしまうとたった50分の1に留まる数字だ。

 

殆どが初陣の人間、しかも半分が訓練兵と言う事を考えるとこれだけの混乱や絶望は、寧ろ必然であると言えよう。

 

それでもある程度の規律を保とうとしている人間がいるだけマシだろう。

 

 

そして、ピクシス指令は壁上のギリギリの場所に立ち、一度咳払いをすると大きく良く通る、そして威厳溢れる声で言った。

 

 

 

「ちゅうもーーーく!!」

 

 

 

 

 

「これより、トロスト区奪還作戦について説明する!!」

 

ピクシス指令のその言葉を聞いて誰もが、呆然と見上げるばかりで、ピクシス指令の声以外は風の音ぐらいしか聞こえてこないほどの静寂に包まれていた。

 

「この作戦の成功目標は、破壊された扉の穴を塞ぐ事である!」

 

その言葉を聞いて誰も、言葉を発せなくなっていた。

いや、言葉を発している者もいたのだろうが、あまりの驚きなどによってまるで周りに聴こえるような声には到底届かなかった。

 

「穴を塞ぐ手段じゃが、まず彼女から紹介しよう。訓練兵所属、エレン・イェーガーじゃ」

 

紹介で前に出て、エレンが敬礼をするとエレンの顔を知っている面々が驚きの表情に包まれる。

そりゃそうだ、自分達の同期が壁の上に立って南側領土防衛の最高司令官の隣に立って紹介されているのだから、普通なら驚く。

 

「彼女は、我々が極秘に研究してきた巨人化生体実験の成功者である!彼女は巨人の身体を生成し、意のままに操る事が可能である!」

 

そう、ピクシス指令が発現すると、下は大騒ぎ、と言うほどでもないがざわめき出した。

はっきり言って、原作での知識でもない限りはそんな事を唐突に言われれば誰だって驚くし混乱もするだろう。

 

ピクシス指令の巨人化生体実験、何て言うのも頭の良い面々ならば何らかの口上に過ぎない、と言うことも分かる筈。

 

「巨人と化した彼女は前門付近にある例の大岩を持ち上げ、破壊された扉まで運び、穴を塞ぐ!諸君らの任務は彼女が岩を運ぶまでの間、彼女を他の巨人から守る事である!!」

 

 

 

「うそだぁぁ!!そんな訳の分からない理由で命を預けてたまるかぁ!俺達を何だと思ってるんだ!?俺達は使い捨ての刃じゃないぞぉぉ……!!」

 

「人間兵器だとよ!!」

 

「まやかしに決まってる!!」

 

「馬鹿にしやがって!!」

 

「今日ここで死ねってよ!俺は降りるぞ!!

 

説明された兵士達は、最初は呆然としていたが次第に口々にそう叫ぶと、背を向けて立ち去ろうと歩き始める。

一人立ち去ろうとするものが現れると、俺も、私も、と次々と降りようとする者が出てきて、既に半分近い人間が立ち去ろうとしている。

 

「待て!貴様ッ、死罪だぞ!?」

 

「人類最後の時を家族と過ごします!!」

 

上官達が死罪を盾に引き止めようとも誰一人として立ち止まる様子は見せない。

誰もが足早にこの場から消えようと、顔を振り向かせることすらせずに。

 

「不味いなこれは……」

 

「あぁ、このままじゃ秩序が無くなる……」

 

「覚悟は良いな!?反逆者共!今この場で叩っ斬る!!」

 

「ひぃ!」

 

「うわぁ!」

 

キッツ隊長が、刃を抜いたことで漸く死罪にされると言う事が本当であると分かったのか、立ち去る者、残っている者全員に大きな動揺が走った。

 

しかしながら、それを止める声が響いた。

 

「儂が命ずる!今この場から去る者の罪を免除する!」

 

「なっ!?」

 

キッツ隊長が、それはもう驚きに染まった表情でピクシス指令を見上げる。

 

この、ピクシス指令が発言した事は、前例の無い、それこそ特大の異例中の異例だからだ。

 

と言うことは今後、上官が許可さえすれば逃亡罪と言う兵士にとって最も重い罪の一つである罪が免除される、という前例を作ってしまうと言うことになり、それは今後、様々な兵団運用に大きな影響を与え得る事になる。

 

幹部になるための教育を受けている者ならば誰でも分かる事だ。

俺は教育自体は調査兵と言う事で免除されていて受けていないが教本をエルヴィンさんとピクシス指令経由で調達してもらって読み込んだから、分かる。

 

そしてことの重大さがどれ程のものなのか、と言う事も。

最悪、ピクシス指令自身が何らかの罪に問われる可能性すらある、と言えば分かってもらえるだろうか。

それほどの重大な事なのだ。

 

 

 

 

 

「一度巨人の恐怖に屈した者は二度と立ち向かえん!巨人の恐ろしさを知った者は此処から去るがいい!そして、その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟、愛する者に味合わせたい者もここから去るがいい!!」

 

ピクシス指令の言葉は、兵士達全員を死地に送り込むためのものだ。

その言葉を聞いて悪魔だと言う奴も居るだろうが、今の人類にそんな事を言っていられる暇も余裕も無いのだ。

 

その言葉を聞いて、立ち去ろうとする者達は誰もが足を止めた。

そして、悲壮な表情をしながら戻る者もいれば覚悟を決めた表情の者もいる。

 

 

 

 

 

「4年前の話をしよう。ウォール・マリア奪還作戦の話じゃ。敢えて儂が言わんでも分かっておると思うがのう……。奪還作戦と言えば聞こえはいいが、要は政府が抱えきれんかった大量の失業者の口減らしじゃった!!」

 

 

「皆がその事に口を噤んでおるのは、彼らを壁の外に追いやったお陰で、我々はこの狭い壁の中を生き抜く事が出来たからじゃ!」

 

 

 

 

「儂を含め、人類全てに罪がある!!」

 

 

 

 

「生き残ったウォール・マリアの住人が少数であったがために争いは表面化しなかった。しかし今度はどうじゃ!?ウォール・ローゼが破られれば人類の3割以上を口減らしするだけじゃ済まんぞ!!」

 

 

「ウォール・シーナの中だけでは残された人類の半分も養えん!!人類が滅ぶのなら、それは巨人に食い尽くされるのが原因ではない!!人間同士の殺し合いで滅ぶ!」

 

 

 

 

「我々はここより奥の壁で死んではならん!!どうか此処で、此処で死んでくれ!!!」

 

 

 

ウォール・ローゼが突破されたらどうなるか、何度も説明している通り。

そして、ピクシス指令が今言ったその通りになるだろう。

そうならないためにエレンは何だって良いのだ、皆の希望にならなければならないのだ。

 

 

 

 

そして、作戦の概要がピクシス指令から直接説明された。

 

「巨人が出現して以来、人類が巨人に勝ったことは一度も無い!巨人が進んだ分だけ、人類は後退を繰り返し、領土を奪われ続けてきた!!しかし!この作戦が成功した時、人類は初めて、巨人から領土を奪い返す事に成功する!」

 

「その時が、人類が初めて巨人に勝利する瞬間であろう!!」

 

「それは、これまで人類が奪われて来たものに比べれば、例えようも無く小さなものかもしれん。しかし!!その一歩は我々人類にとっての大きな進撃になる!!」

 

最後に、ピクシス司令はそう締め括った。

 

 

 

作戦に従って壁上固定砲を全て西側の角に集める。

各兵士は巨人をそこに集めるべく、装備を整え、補給用のガスや刃の準備と整えていく。

 

そして、支作戦を行う兵士達はその様に準備を着々と進め、本作戦実際に作戦を行う、エレンは壁上で装備の準備と共に心の準備も行う。

 

俺を始めとした調査兵4名はエレンの護衛に就く事が決定しているので、あの時別れた部下3名を呼び寄せる。

 

 

そして駐屯兵団からは精鋭3個班が選抜された。

それぞれの班の班長は、

 

第1班 イアン・ディートリヒ

第2班 リコ・ブレツェンスカ

第3班 ミタビ・ヤルナッハ

 

となった。

 

 

 

 

「諸君らの任務は一つじゃ。エレン・イェーガーの護衛に就き、作戦過程で起きるあらゆるリスクを排除する事。本作戦中、最も危険且つ、難度の高い任務じゃろう。諸君らの働き如何によって人類の命運が決まると言っても過言では無い」

 

俺を含めた4名が並び、ピクシス指令にそう説明される。

階級順で言えば俺が分隊長と最も高く、次にイアン、リコとミタビが同列、と言うことになる。

 

しかしながら今回は俺達調査兵は遊撃を任され状況によって自由に動く事、とされており実際に作戦の指揮を取るのは、原作通りおそらくイアンとなるだろう。

 

と言うか、俺はピクシス司令にイアンを指揮官にしてはどうか、と進言して了承を得ている。

恐らく、イアンが指揮官となるだろう。

 

「司令、一つ宜しいでしょうか」

 

「なんじゃ」

 

「人間兵器というのは、本当に機能するのでしょうか?」

 

「止せ、リコ」

 

「貴方だって疑念を抱いているんでしょう?」

 

リコが、至極尤もな質問をして、イアンはそれを止める。

だがそう思うのもなんら不思議ではない。

 

エレンが、本当に巨人の力を自由自在に操れるかどうかという確証が余りにも乏しく、エレン自身も確証を持って頷く事が出来ないからだ。

そんな、綱渡りなんてレベルではない命懸けの賭けをしなければならないのに、作戦の最も重要な部分がそんなでは、誰だってそう聞きたくなる。

 

それはミタビも同じようで。

 

「司令、この作戦はエレン・イェーガーと言う恐ろしく曖昧な根拠の上に成り立っています。もし奴が機能しなければ多くの兵が無駄に死ぬ事に……」

 

そう、聞く。

その顔は、3人ともやはり納得出来ない、納得していないと言う顔だ。

 

しかし、ピクシス司令は髭を弄りながら言った。

 

「うーむ、困ったのぅ……。お主ら、そんなに巨人に負けるのが好きか?」

 

「「「え?」」」

 

「儂は嫌いじゃぞ?儂は負けることが何よりも、嫌いじゃ……。だが、豈図らんや生まれて此の方、負け続けておる」

 

「「「……」」」

 

「儂は巨人に勝ちたい。あの木偶の坊共に何としてでも勝ちたいんじゃ」

 

「そ、それは、私達も同じです!」

 

そう言った、ピクシス司令は本心なのか分からない。

何せ、超絶美人の巨人を探してきてくれ、食われたいから、なんて事を本気で言うような人だ。

 

俺には、本心にも見えるがそれと同時に3人を鼓舞する為の言葉なのではないか、と思ってしまう。

 

「ならば彼女に賭けるしかなかろう?お主らの言う、恐ろしく曖昧な根拠だけが、巨人に勝ちうる唯一の可能性なんじゃからな」

 

そう言われた3人は、どこか納得はいかない、と言った表情ではあるものの、腹を括って戦う事だけは決めたらしい。

 

するとそこに、参謀の一人が声を掛ける。

 

「司令、そろそろ囮作戦開始時刻です」

 

「うむ。ヴォルフガング・ビッテンフェルト、イアン・ディートリヒ、リコ・ブレツェンスカ、ミタビ・ヤルナッハ。お主らは、今人類や駐屯兵団の中でも精鋭中の精鋭じゃ」

 

 

 

「人類の命運は、託したぞ」

 

 

 

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

 

 

「イアン、お主が現場の指揮を取れ。現場の判断は全て委ねよう」

 

「はっ!?私が、ですか?」

 

「異論は無いよ」

 

「俺もだ」

 

「し、しかし、私の力量では……。それに前線での経験豊富なヴォルフガング分隊長の方が向いているのでは……」

 

「案ずるな。そのヴォルフからの直々のご指名じゃ。彼ら調査兵には遊撃班として動いてもらう事にしているからの。それに、お主は酒の味が分かる」

 

「はっ……?」

 

「美酒も悪酒も、どちらの味ものう……。任せたぞ」

 

「!はっ!!」

 

イアンに、ピクシス司令はそう言った。

正直、何を言っているのかまるで分からないし、イアンも理解出来ていないのだろうが、それでも、説得するには事足りる言葉だった。

 

 

 

 

 

「兄さん」

 

「エレンか。どうした?」

 

「その、俺……」

 

「なんだ、今になって不安になって来たか?」

 

「まぁ、不安だけど……」

 

「そうだな、こんな大仕事、俺だってやった事無いから緊張してる」

 

「!やっぱり、兄さんでも緊張するんだ……」

 

「まぁ、な。でもな」

 

「でも?」

 

「俺達がやらないで、誰がやるんだ?誰が巨人に勝つんだ?」

 

「……」

 

「俺達の後ろには、何十万っていう巨人に対して無力な人達がいるんだ。その中には俺の母さんや姉さん、お前の母さんだって居る。その人達を、二度とウォール・マリア奪還作戦の時みたいな状況にさせたくない。行かせたく無い。そう考えると幾らだって力は湧いてくるもんだ」

 

「……俺、やるよ。絶対に穴を塞いで、トロスト区を奪還する」

 

「あぁ、頼んだぞ。エレンは、俺達の希望なんだからな」

 

不安そうにしていたエレンを、幾らか勇気付けてやれたらしい。

覚悟を決めて、表情は引き締まっている。

 

 

「エレン、やはり私も一緒に……」

 

「付いてくるなんて言うなよ。お前は囮部隊に配属されただろ」

 

「でも、エレンを一人にするのは……。それに、兄さんだって遊撃班だからエレンを確実に守れるなんて言えない。一人になったらまた……!」

 

「いい加減にしろ!俺は、お前の妹でも子供でも無い。過保護はやめろって何時も言ってんだろ!」

 

ミカサは、エレンの事が心配で心配で仕方が無いらしい。

自分も付いていくと言ってエレンと言い合っている。

 

昔からエレンは危なっかしいし突っ走る所が多々あった。

その度にミカサはヒヤヒヤしながら助けに入って、お説教をカルラさんと食らわせていた。

 

ある意味では、エレンの姉みたいな立ち位置でもある訳だが、そこらのガキ大将よりもやんちゃなエレンだし、15歳と言う反抗期真っ盛り、と言う年齢も相まってミカサを幾らか鬱陶しく思っている、と訓練兵団で会った時に聞いた。

 

ミカサの頭の中には家族の事が9割でそれ以外が1割と、随分と偏っているから仕方が無い。

しかも、本当の両親を一度目の前で殺されていて、売られそうになっていた所をエレンは助けたのだから命の恩人だ。

依存するのも、理解は出来る。

 

「アッカーマン訓練兵!お前もイェーガーを守る精鋭班に入れ。お前の高い技量が必要だ」

 

「!!」

 

どうやらイアンは、人手不足をミカサを加える事で少しでも解消しよう、と言う魂胆らしい。

それを聞いてミカサは嬉しそうにするのと同時に、エレンは少しばかり複雑そうな顔をする。

 

「行くぞ、作戦開始だ!」

 

 

 

「じゃあな、アルミン。死ぬなよ」

 

「うん、エレンも気を付けて。兄さんとミカサも、死なないでね」

 

「当たり前だ、後で、作戦成功を一緒に祝おう」

 

最後に、アルミンを別れて壁上を走った。

 

 

 

 

 

 

 

「極秘人間兵器とか言ってたが、穴を塞げれば何でもいい。エレン、俺達はお前を最優先で守る。頼んだぞ!」

 

「はいッ!」

 

イアンは、エレンにそう言い聞かせる。

この作戦で、どれほどの人間が死ぬことになろうとも、成功すれば人類にとって大きな前進になることは間違いない。

 

「エレン、身体は大丈夫?」

 

「あぁ!」

 

「エレン!」

 

「だから大丈夫だって言ってんだろ!囲まれてた時よりはだいぶマシだ!」

 

「飯事やってんじゃないぞ、イェーガー!」

 

「ッ、そんなつもりは……!」

 

「お前みたいな甘えたガキに人類の命運を賭けなきゃならんとはな!」

 

「お前達いい加減にしろ!もうすぐで岩までの最短ルートだ。……今見える限りでは巨人は居ない!皆がうまく囮をやっているんだろう。この機会を絶対に逃す訳には行かない!」

 

俺と部下3人を含めて、24人が壁の上を走る。

 

そして、リコが何を思ったのか、口を開いた。

 

「一つ言っておくぞ、イェーガー」

 

「?」

 

「この作戦で、少なくない数の兵士が死ぬ事になるだろう。あんたの為にな」

 

「ッ!」

 

「それは、私達の同僚や先輩や後輩の兵士達だ。当然兵士である以上、死は覚悟の上だ。だがな、彼らは物言わぬ駒じゃない。彼らには、名前があって、家族があって、その分だけの想いがある」

 

「アリョーシャ、ドミニク、フィーネ、イザベル、ルードヴィヒマルティナ、ギド、ハンス。皆、血の通った人間で、訓練兵時代から同じ釜の飯を食ってる奴もいる。そんな彼らの多くが今日、あんたの為に死ぬ事になるだろう……。あんたには、彼らの死を犬死にさせてはならない責任があるんだ。何があろうとな」

 

 

「その事を、甘えた心に刻め。そして、死ぬ気で責任を果たせ」

 

 

 

「ッ!!はい!!」

 

リコからそう言われて、エレンの顔はより一層、顔が引き締まり覚悟を決めた表情になる。

これは、いい起爆剤になってくれたらしい。

 

 

それからまた少しばかり走ると、ちょうど大岩に最短距離となる場所に到達。

 

「ここだ、行くぞ!!」

 

イアンのその声が聞こえた瞬間、ステップを効かせて方向転換を行い、まず俺と3人の部下が壁上から飛び降りる。

それに続いて第1班、エレンとミカサ、第3班が続き飛び降りる。

 

最後に第2班長のリコが緑色の煙弾を撃ち上げて飛び降りてくる。

それを横目で見つつ脇と脇腹の間にしまってあった立体機動装置のグリップを取り出して、一定の高さ、だいたい20mぐらいの所でアンカーを射出する。

 

一番近くの家に刺さったアンカーを巻き取って、大岩を目指す。

 

ちらり、と後ろを見るとイアン達もエレンとミカサも、他の皆も問題無いようだ。

 

巻き取ったアンカーを塔に射出して刺し、再び巻き取る。

それを、5回ほど繰り返しただろうか、大岩が見えた。

 

最後に大きくアンカーを刺して、巻き取り大岩を少し過ぎた辺りの民家の屋根上に部下達と降り立つ。

そのすぐ後だった。

 

大きな雷光と爆発音、そして衝撃音と大きな風が俺達を襲う。

 

蒸気と土煙が舞い上がり、その中から巨人化したエレンが現れる。

 

 

ウォォォォォ!!!!

 

 

 

大岩の直ぐ前でエレンは雄叫びを上げた。

 

 

 

しかし、岩に向かうのではなく、最も近くにいたミカサに顔を向け、そして殴り掛かった。

 

「ミカサ!避けろ!!」

 

「ッ!?」

 

ミカサは大声でそう叫んだ俺の声に反応するよりも早く、体を動かす。

そして、煙突に身体を打ち付けてもなお、立ち上がった。

 

「アッカーマン!!」

 

俺やイアン達が大急ぎで近くにまで駆け付けるが、状況は何ら変わらない。

 

「おい、アッカーマン止せ!そいつから離れろ!」

 

「エレン、私が分からないの!?私はミカサ!貴女の、家族!!貴女はあの岩で穴を塞がなくてはならない!!」

 

「作戦失敗だ、分かってたよ、秘密兵器なんて存在しない事を……」

 

「!!避けろ、アッカーマン!!」

 

ミカサはエレンの頭にアンカーを射し込み、巻き取って目を覗いて声を掛けるが反応は無い。

それどころか、ミカサを殴ろうと自分の顔を殴って、そのまま倒れ込み動かなくなった。

 

リコは作戦失敗の合図を告げる赤の煙弾を撃ち上げた。

 

「ミカサ、大丈夫か!?」

 

「うん、私は大丈夫。でもエレンが……」

 

「何だあいつ、あれじゃぁ、頭の悪い普通の巨人じゃないか……」

 

「クソ、どうなっているのか俺にも分からん!とにかく各班迎撃体制を取れ!」

 

「イアン班長、穴の方から2体接近!10m級と6m級です!!」

 

「後方からも1体、12m級が此方に向かってきます!」

 

見張りについていた兵士から、次々と報告が上がってくる。

現状、3体の巨人がこちらに接近している訳だ。

 

「イアン、撤退するぞ!あのガキ、扉塞ぐどころじゃねぇよ!」

 

「あぁ、仕方が無いがここに置いて行こう」

 

リコとミタビはそう言って、現場指揮官のイアンに撤退を進言する。

それに対してミカサは言葉は発しないものの、ギロリ、と3人を睨む。

 

「イアン、俺は取り敢えず前方の2体をやる!後ろは俺の部下に任せるからさっさと判断してくれ!」

 

「!?おい、待て!」

 

イアンの静止を振り切って、前方10m級と6mを殺しに行く。

屋根伝いに走って、大勢に向かうと言う性質上、俺にガラ空きで隙だらけのうなじを見せている10m級のうなじに沿うようにアンカーを向こう側の民家に射出して、巻き取り削ぐ。

 

その勢いのまま次の通りを歩いていた6m級のうなじを上から強襲して討伐。

 

それが終わった後にすぐにエレン達の所に戻ると、未だに問答を続けていた。

 

「おい、何迷ってんだ!早く指揮してくれよ!イアン、お前のせいじゃない。端っから根拠の希薄な作戦だった!皆分かってる!試す価値は確かにあったし、もう十分に試し終えた!いいか!?俺達の班は壁を登るぞ!」

 

「ッ!?」

 

ミタビは班を率いて壁を登ろうとする。

そしてミカサはそれを、刃を装着したまま引き止める為に追いかけようとして、イアンに止められる。

 

「待て!待て、落ち着けアッカーマン……。リコ班、後方から新たに接近している14m級をやれ。ミタビ班、俺の班に続いて前方の新たな3体の巨人をやるぞ!」

 

「何だって!?あんたもおかしくなったの!?」

 

「指揮権を託されたのは俺だ!!黙って命令に従え!」

 

「ッ!!」

 

「イェーガーを無防備な状態のまま置いては行けない!作戦を変える。イェーガーを回収するまで彼女を巨人から守る!彼女は、人類にとって貴重な、それこそ唯一しか残っていないかもしれない可能性なんだ!!そう簡単に放棄出来るものでは無い!俺達と違って、彼女の代役は存在しないからな……」

 

「あの出来損ないの人間兵器の為に、今回だけで数百人は死んだだろうに、あいつを回収してまた似たような事を繰り返すっての!?」

 

「そうだ、何人死のうと、何度だって挑戦すべきだ!」

 

「「な、ぁッ!?」」

 

イアンのその言葉に、リコとミタビは絶句する。

その選択は、確かに普通で考えれば精神異常者なのだろう。

 

だが、二人がそれ以上反論しないのは、出来ないのはそれ以外に人類が巨人に勝つ為には方法が無いからだ。

 

それが分かっているから、それ以上に言葉が出てこないのだ。

 

「ッ!!イアン、あんた本気なの!?」

 

リコがそう叫ぶが、その叫びは、反論なんてものではなく、ただただ自分と、エレンの護衛に就いている周りの兵士達の気持ちを代弁するだけのものだ。

 

「では、どうやって人類は巨人に勝つと言うのだ!?リコ、教えてくれ!他にどうやったらこの状況を打開できるのか!!人間性を保ったまま、人を死なせずに、巨人の圧倒的な力に打ち勝つにはどうすれば良いのか!!」

 

そう大声で言ったイアンは、人として確かに大きく外れた道を行く事になるのではあろうが、それでも巨人という敵に勝つには正しい事なのだろう。

 

「巨人に勝つ方法なんて、私が知ってる訳無い……!!」

 

「あぁ、だから今俺達がやるべきことは、これしか無いんだ……!あの、良く分からない人間兵器とやらの為に、命を投げ打って、健気に尽くす事だけなんだ!」

 

「「……」」

 

「悲惨だろう、俺たち人間に唯一出来ることなんてそんなもんだ……!さぁ、どうする!?これが俺達にできる戦いだ。俺たちに許された足掻きだ!」

 

イアンの言葉に、もう誰も本当に何も言えなくなった。

下を俯いて、歯をぎゅっと噛んだ。

 

誰もが、そうしなければならない、それしか方法がないと、本当に理解し、そして悔しいから。

 

良く分からない物の為に死ぬ、と言う事が兵士にとってどれほど恐ろしい事か。

 

それが、家族の為、仲間の為、人類の為、と言うのならば死ぬ事に躊躇いはあるだろうが、戦いを恐れはしないだろう。

だが、その戦って死ぬ理由なんてのが、こんな、これからも多くの兵士を死なせる地獄を作り出す事になるかもしれない物の為に、だなんてそれこそ戦いたくもないに決まっている。

 

俺だって、そんなもん嫌に決まっている。

だが、俺は知っているから戦えるのだ。エレンが人類の唯一の希望になると言う事を。

 

「そんなの、納得出来ない……!」

 

「リコ!」

 

「作戦には従うよ。貴方の言っていることは正しいと思う。必死に足掻いて、人間様の恐ろしさを思い知らせてやる!犬死なんて納得出来ないからね。後ろの14m級は私の班に任せて」

 

「……ッ!行くぞ、イアン。俺達は前方の3体をやるぞ」

 

「あぁ!」

 

リコもミタビも、戦う事に決めたらしい。

どうやったって納得は出来ない、と言う顔をしつつも。

 

こうなったら、俺は皆を死なせない為に動くとしよう。

 

「イアン、ミタビ班には俺が付く。お前達はエレンを直接守ってくれ」

 

「だが……」

 

「いいや、頼むよ、イアン。任せられるのは、お前達だけなんだ」

 

「……あぁ、分かった。お前の妹分は必ず命に変えてでも守る」

 

「命に替えてでも、なんて言うな。何、心配するな。俺が巨人共なんて軽く蹴散らしてくるから」

 

「そうだな、お前は、調査兵団でもトップクラスの実力者だからな。期待しているぞ」

 

「任せておけ」

 

イアンにエレンの守りを託して、部下3人にリコ班の援護を命じ俺はミタビ班に合流。

 

ミカサは俺と同じように遊撃、自由に動く様にイアンに言われると、また別方向から近づいてくる巨人に向かっていった。

 

 

この後の事は、アルミンが何とかしてくれるだろう。

エレンを叩き起こして、岩を運ばせて。人類最初の勝利を掴もうじゃないか。

 

 

 

アルミン、後のことは頼んだぞ。

 

 

 

 

 






分割した筈なのに随分と長くなってしまった……。
多分、3万行くか行かないぐらい……?
過去一番文字数が多いと思います。

次の投稿は、今週中には出来る様に頑張りますのでお待ち頂けると有難いです。



追記
感想の返信、出来る限りしていますので未返信の方は今暫くお待ちを……。



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