原作キャラを救いたい。   作:ジャーマンポテトin納豆

7 / 12
喪中の方もいらっしゃるでしょうが、新年の挨拶を述べさせて頂きます。

新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。






トロスト区攻防戦 3

 

 

 

 

 

 

 

「ミタビ!!」

 

「ヴォルフ!?イアンはどうした!?」

 

「エレンの守りを任せてきた!代わりに俺がお前の班を援護する!」

 

「有難いぜ!お前ほどの実力者が一緒に戦ってくれるとはな!」

 

「奥の2体は任せろ!」

 

「あぁ、こっちの1体は任せろ!」

 

既に、一番近くに来ていた巨人と戦闘を開始していたミタビ班に、その巨人の事を任せて奥から接近する2体の巨人を殺しに行く。

 

身体に染み付き、慣れた一連の動作で巨人を仕留める。

幸いにもこいつらは動きが鈍い巨人だったからほんの十数秒で片を付けられた。

 

ミタビ達の方も、無事に巨人を討伐する事が出来たようだ。

 

しかし、巨人の数は減るどころか益々増えていく。

今現在、エレンの周りには11体の巨人が迫っており、リコ班とミカサは2体、イアン班も2体、そしてミタビ班は7体を同時に相手していた。

と言うのも、一度周囲にいる巨人を全て討伐し終えた俺達は一度エレンの下まで後退し体制を立て直したのだ。

そのすぐ後に、穴から巨人が4体同時に入って来たのでリコ班とミカサでまず2体を迎撃、無事討伐する事が出来た。

 

しかしながら残りの2体の内1体が奇行種で、エレンの元に直行、イアン班がそれの迎撃に当たった。

この時ミタビ班は残りの1体を討伐し終えた所だった。

 

その次に、再び穴から3体、トロスト区内の巨人が4体同時に接近。

これも辛うじて防げたのだが、エレンのすぐ近くにまで接近を許してしまってあわやエレンが襲われるところだった。

 

しかしながら再び穴から5体の巨人が入って来た時、前線を張り続けていたリコ班、ミタビ班の中にガスに不安が出始める者が徐々に出て来たのだ。

 

原作では書かれていないが、あの戦闘は少なくともこの世界に限って言えば、既に15分が経過している。

アルミンこそつい5分程前に到着したものの、どうやらエレンの説得に手間取っているのか、それとも別の理由があるのか分からないが一向に動き出す気配を見せない。

 

ガスボンベは、液体ガスを充填し装備しているのだが、節約して使えば確かに連続して40分〜50分程度は持たせる事ができる。しかしながら、周囲を常に複数体の巨人に囲まれながら戦い、尚且つそれが連続するのだ、正直に言って節約して使っていたら、死ぬ。

 

俺はまだ、巨人との連続した戦闘に慣れているからずっと余裕があるが、駐屯兵団は連続した戦闘、と言うのはまるで未知の領域だ。疲労もどんどん蓄積していくし、既に息も絶え絶えの者が数名見て取れる。

このままだとエレンを守るどころの話では無くなってしまう。

 

一度、何処かで纏まった休息と補給を受けないと、ガス切れ刃切れで戦闘なんて出来なくなってしまう。

 

ミタビ班は、俺が加わっているから幾分か楽だろうが、それでも4体同時、5体同時というのは相当キツイ。

今現在も、各班交代で戦闘を継続しているが、俺、部下3人、ミカサは常に戦闘状態で何処かの班を援護している様な状況なのだ。

このままでは不味い。

 

精鋭班のガスの残量は、3分の1、と言ったところだろうか。

この調子だと、持ってあと20分。

 

一応、補給を要請する為の煙弾もあるにはある。

だが下手に補給の人間がここに集まってしまうとかえって巨人を呼び寄せて余計に苦戦を強いられかねない。

 

壁上に補給拠点でも設置しておけば良かったと考えるが、そんな時間も無かったのも事実。

 

しかし、もしエレンがこのまま原作と違って作戦遂行が出来ない、という事になるとそれこそ本当にエレンをうなじから引っ張り出して撤退しなければならなくなる。

その判断をするにはまだ早いが、撤退判断を下さなければならない時間まで余裕があるわけでは無い。

 

壁にまで到達するのと登るためのガスも残しておかなければならないしこのままだらだらと戦闘を続けるのは、最悪の状況を作り出しかねない。

俺やミカサにアルミン、それに駐屯兵団の精鋭班が文字通り全滅するだけならばまだいい。エレンさえ生きていれば第2第3の奪還作戦を計画して実行に移すことができる。

そこまでに至れば、リヴァイやミケさんといった精鋭中の精鋭である調査兵団が帰還して作戦の成功率を大幅に上げることができるだろう。

 

それぐらいの損失で済めばまだ御の字、寧ろ人類としては可能性が多少なりとも残る事を考えれば現状エレンが岩を運べておらず無駄に消耗戦を強いられている俺達からすれば最善の結果。

何よりも恐れなければならないのは反撃の要となるエレンを失う事だ。

 

言い方は悪いが、俺や訓練兵、駐屯兵団といったただの兵士達は幾らでも替えが利く。

ただの兵士だって練兵するのに最低でも訓練兵団を入れて3年、その後の各兵団への配属後の訓練を込みで考えたとしても、前世の軍隊と比べればとんでもない時間がかかるがエレンと言う存在と一千、一万の兵士を天秤に掛けてどちらに傾くか、なんて考えるまでもない。

 

しかし、このままでは本当に撤退も出来なくなってしまう。

原作と比べて損害が少ないと言っても、それでも俺が離れていて援護が出来ない時や、援護が間に合わずに戦死、もしくは重症となって戦闘不能の駐屯兵は各班7名ずつの内、2名から3名程度になっている。

3個班全体を合計すると7名。既に3分の1が死んだか戦えない状況にある。

 

それでもまだ俺と部下3名、ミカサとアルミンを入れて20名は戦えるのだから原作と比べると随分とマシだ。

リコ班はエレンが岩を運ぶ少し前の時点で2名、ミタビ班は3名、イアン班は5名。

合計してミカサとアルミンを入れて12名だったのだから損害はずっと抑えられている。

 

「ミタビ!一旦班を下げろ!」

 

「馬鹿言うな!そしたらお前達4人だけになっちまうだろ!?」

 

「足下が覚束無い状況でまともに戦えるわけが無いだろう!?岩まで退いて、一度体制を立て直せ!」

 

「なら俺も残る!」

 

「いいから退け!1分でも2分でもいいから一旦体勢を立て直すんだ!このままじゃ犬死だぞ!!」

 

「……ッ!分かった!死ぬなよ!!」

 

ミタビ班を無理言って一度下がらせる。

ミタビは班長を任されるだけあって、幾分か余裕そうではあったが部下はそうではない。

全員とは言わないが疲労の蓄積によって足下が覚束ず、判断力が大きく低下している者が何人かいる。

流石にその状態で戦闘をさせるのは危険だ。

 

そうも言っていられない状況であるのは確かだが、それでも1分も休むことができれば随分と違うだろう。

 

「お前達、すまんな、無茶ばかりしている俺に付き合わせて」

 

「なに、調査兵団に入った時点で今更です」

 

「そうですよ、無駄飯食らいの本領を発揮するとしましょう」

 

流石に、この状況下で俺一人で守り切れるなんて自惚れちゃぁ、いない。

部下にそう謝ると、疲労も溜まっていて自分達だっていつ死ぬか分からない状況であろうに、笑って答えてくれる。

 

なんとも頼もしい部下だ。

 

「俺たち調査兵団は、人類の矛であり盾だ。なんとしてでも、エレンを守り通す!人類の希望足り得るものを守り抜くぞ!」

 

「「「応!!」」」

 

そう答えた部下を引き連れてすぐ近くまで迫る巨人に向かっていく。

1体、2体、3体と次々と討伐していく。部下も、3人で動き巨人を手早く仕留める。壁外での戦闘と比べれば、ここは満足にアンカーを撃ち込むことができる、それなりに高さがある構造物が並んでいるから戦いやすい。

 

門の前の広場を挟んだ建物の 周辺で俺達4人は戦いを繰り広げる。

エレンの元に向かう巨人は、壁内に侵入していたヤツらを除けば皆無だろう。4人も人が集まれば奇行種でも無い限りこっちに向かってくる。

 

「クソッ、幾ら殺しても殺しても馬鹿みたいに穴から湧いて出て来やがる!」

 

「もう少しだ、もう少し耐えろ!ここが正念場だぞ!ここを乗り越えれば!!」

 

必死に部下を鼓舞しつつ、巨人を討伐する。

それでも、もう限界に近い。巨人を通さないようにと無茶を何度かして戦っていたからまだ尽きると言うほどでは無いが心許無い。

部下達も同じような状況だろう。

 

だが、それでも、ここで退く訳にはいかないんだ。

あとは、エレンが動いてくれるかどうか。そこは、エレンの根性に賭けるしか無い。

 

 

 

 

それからどれほどの時間が経っただろうか?

疲労故に時間感覚が曖昧で数時間近く戦い続けたような気もするし、1分程度の様な気もする。

 

そして、次の巨人に飛び掛かろうとした時だった。

ズシン、ズシン、ズシン、と通常の巨人が歩いてくるには余りも大きな足音が周囲に響く。

それこそトロスト区全域に響き渡っているのではないか、とさえ思う大きな足音だ。

 

鎧の巨人か!?とも思ったがその考えは、良い方向に裏切られた。

 

「分隊長!アレを!アレを見てください!!」

 

「ッッ!!!」

 

部下の声が聞こえて指差す方を見ると、家に下が少し隠れてはいるがゆっくりと上下しながら、それでも着実に前へ前へ動いている大きな、どこか見覚えのある岩が。

 

それがなんなのか、ここにいる人間全員が一瞬にして理解することが出来た。

 

「エレンが岩を運んでいるんだ!!」

 

「やっとか!」

 

部下の1人がそう声を上げる。

その気持ちには大きく同意するがまだまだやらなければならない事が山積みなのだ。

もう少しだけ、頑張らねばならない。

 

「まだだ!エレンを穴まで無事に送り届けるまでが俺達の仕事だ!」

 

「「「了解!」」」

 

俺の声と共に、3人を連れてエレンの元にまで急いで飛び、現状の確認を行う。

 

「ミタビ班が地上を走っています!!」

 

「馬鹿者共めッ!!ミタビ班に群がる巨人をやるぞ!」

 

そう指示を出して、4体の巨人を殺しに掛かる。

平地での立体機動戦と言うのは、本当に成功率が低い。

しかしながら、やはり壁外での戦いに比べれば多少なりとも周りに構造物があるのだからずっとマシだ。

 

「ミタビ班!俺達で進路上の巨人をやる!イアン班とリコ班に合流して守りを固めてくれ!」

 

「ヴォルフ!?」

 

「早く行け!守りは1人でも多い方が良い!!」

 

「ッ、分かった!!」

 

ミタビ班をエレンの元に差し向け、進路上の巨人は俺達で殺す。

穴から入ってくる巨人と、穴方向から向かってくる巨人は俺達で担当し、それ以外の方向からやってくる巨人は精鋭班に任せる。

 

疲労で動きが鈍くなっている身体に、鞭打って無理矢理動かし巨人と戦う。

1秒でも討伐するのが遅くなれば、その分皆やエレンに対する脅威が多くなる。それを一番に考えながら、殆ど意識せずに立体機動を行う。

 

この際、ガスの残量なんざ気にしていられるか。

作戦さえ成功してしまえばこっちのもんなんだ。最低限、壁を登り切る、とまでは言わずとも半分程度のところでぶら下がることさえ出来れば良い。

 

周囲を見渡すと、穴からだけでなくどんどん巨人が群がってきている。

 

「分隊長!!巨人が周囲から殺到して来ています!」

 

焦ったように、そう叫ぶ部下はそれでも戦い続けている。

 

どうする?3人にここを任せて遊撃に出るべきか?

それとも、イアン達を信じて道を切り開くか?

俺1人で道を切り開いて部下3人をイアン達の元に向かわせるか。

 

どれを取っても、必ずどれかを、何かを失うであろう事は間違いない。

そんな選択だろう。

 

「お前達、精鋭班と合流、エレンを守れ」

 

「ですが、それでは分隊長が1人で戦うことに!!」

 

「構わん、行け!道は、俺が切り開く」

 

「……分かりました。どうか、ご武運を!」

 

部下を精鋭班の元に送り、俺はエレンの進む前方方向の巨人を殺すべく鈍になった刃を捨てて新しい刃に取り替えると飛び掛かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

もう時間感覚が随分と曖昧になっていてどれぐらいの時間戦っていたか分からない。

 

「兄さん!!」

 

ミカサの、俺を呼ぶ声で無意識に戦っていた俺の思考力が戻る。

地上を走るミカサと、その隣のアルミンのすぐ後ろに岩を担いだエレンが一歩一歩此方に近づいてくる。

すぐに2人の元に駆け寄り、エレンを見上げる。

 

原作のエレンの巨人と比べると、性別そのものが変わっているから身体付きが随分と違うが、その圧倒的な存在感はそのままだ。巨人体のエレンは岩の重さ故に常に巨人体が再生と破壊を繰り返しているのか、かなりの蒸気が立ち上り、担いでいる首の辺りは若干ひしゃげている。

 

「ヴォルフさん、エレンが!エレンが勝ったんだ!」

 

アルミンがそう叫ぶ。

門まで、あと100mと言ったところだろうか。

 

「他の皆は!?」

 

「まだ戦ってる!イアンさんもリコさんもミタビさんも!」

 

「エレンに直接付いて守っているのは2人だけか!?」

 

「うん!イアンさんがヴォルフなら絶対に守り通すだろうって言ってた!」

 

やはり、イアンはこの2人を残して全員が巨人と戦っているらしい。

俺を信用して、信頼して、残りの道中全てを任せられた。

 

なら、その期待にはどうやったって答えるしかない。

 

「穴からまた巨人が!!」

 

アルミンがそう叫ぶと同時に、走る速度を上げて巨人に向かう。

 

「2人はそのままエレンに付け!」

 

 

穴まであと40mほど。

周りの掘を掘った時、道として残された場所にもう20mほどで差し掛かろうか、と言った距離だ。

 

「お前達巨人には、随分と負け続けたもんだ!だがその連敗記録も今日で終いだ!!」

 

穴からまた2体、入ってくる。

7m級と13m級が1体ずつ。

 

エレンの元に行かせない為に巨人自身を立体物としてアンカーを足に撃ち込んで利用する。

 

巻き取りつつ地面を足で、スキーのように滑りつつ右足の腱を削いで体勢が崩れたのと同時に勢いそのままに後ろを取ってから先に13m級の方のうなじを最初に削ぐ。

続いて落下しながら7m級のうなじにアンカーを撃ち込んで、巻き取って削ぐ。

 

後ろを確認すると、すぐそこにエレンが迫っていた。

 

その場から退いて俺は叫ぶ。

 

「道は切り拓いた!!行け、エレン!!」

 

「いっけぇぇぇぇ!!エレン!!!」

 

アルミンもそう叫ぶ。

 

 

 

ウォォォォォッッ!!!!

 

 

 

それに応えるかの様にエレンが雄叫びを上げながら、岩を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミカサとアルミンはエレンの元に飛んでいったが、俺はどうやらガス切れらしい。

2人に続いてアンカーを射出しようとしたが、カスッ、カスッ、とガスが出るだけだ。

慌ててボンベを叩いて確認してみても、もう少しも残っていないらしいのかからのボンベを叩く音しか聞こえない。

 

パシュゥゥゥゥ……

 

後ろから、煙弾を撃ち上げる音がする。

リコが尻餅をつきながら、空に向かって黄色の信煙弾を撃ち上げていた。

 

そしてその隣には原作では死んでしまっていた筈のイアンが立っている。

 

2人は此方に駆け寄ってくる。

 

「急げ、周りの巨人が此方に群がって来ている!今はなんとかヴォルフの部下達とミタビ達で抑えているが持たないぞ!!」

 

リコが2人を急かすべく、エレンのうなじに、そしてイアンが俺に向かってくる。

その数秒後に、エレンを抱えたアルミンが落ちてくる。

それを受け止めて地面に下ろした。

 

「急げ、エレンを抱えて壁を登るぞ!!」

 

「すまない、ガスがもう少しも残っていないんだ」

 

「はぁ!?ここに来てそんなの……!!」

 

慌てて壁を登ろうとする皆にそう伝える。

意識の無い、あっても朦朧としてるエレンを除いた4人は絶望した顔で此方を見る。

 

「なら僕のガスを……!」

 

「駄目だ、そんな時間は無い。俺を置いてサッサと登れ」

 

「なら私が抱えていく!ほら、早く!」

 

リコがそう言った、次の瞬間だった。

蒸気が少しばかり晴れてくると目の前に巨人が2体、俺達を見下ろしてその大きな手を伸ばしてくる。

 

だが、その手に捕まった者は俺を含めて誰1人として居なかった。

 

壁上から降ってきた、何かが巨人のうなじを連続して削ぎ落としていく。

巨人の巨体が大きな音を立てて倒れて、その巨体を絶対的強者はお前達巨人では無い、と言い放つかのように踏みつけるかのように降りてくる人影。

 

そんな、芸当が出来る奴なんて、俺は1人しか知らない。

 

「リヴァイ!」

 

「おいヴォルフ、一体これはどう言う状況だ……!?」

 

俺が声を掛けると、すぐに振り向いてくれる。

リヴァイはやはり頼りになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないな、リヴァイ」

 

「お前なんて酷ぇザマだ?ガスも使い切ってフラフラじゃねぇか」

 

「まぁ、な。でも、そのお陰で勝てたんだからお釣りが来るだろう?俺も皆もまだ生きているしな」

 

「離すぞ」

 

「お、っと」

 

リヴァイに抱えられて壁上に運ばれた俺は溜まりに溜まった疲労と、緊張の糸が途切れたからか離された途端にフラついてしまう。

 

「おいおい、本当に酷ェザマだな」

 

「言ってくれるな、大変だったんだぞこっちは」

 

「兎に角だ、後の事は俺達に任せてヴォルフ、お前は休んでおけ」

 

「あぁ、分かった。ありがとう、リヴァイ」

 

リヴァイは俺の言葉を聞くとすぐにまだ下で戦っている残りの精鋭班達を援護するべく降りて行った。

それと同時にエルヴィンさんやミケさん、ハンジと言った面々が壁を登ってくる。

 

「ヴォルフ、無事か?」

 

「なんとか……」

 

「状況の説明だけでも頼めるか?」

 

「了解です」

 

エルヴィンさんに事の顛末を説明し、巨人を誘き寄せているから降りて戦わずとも大砲で殺せるであろう、との事を告げる。

 

「ウォール・マリアの時と言い今回と言い、毎回ヴォルフ、君には負担を掛けてばかりだな」

 

「これが、調査兵としての役割だと思って居ますので、そう仰らないでください」

 

「人類にとっては運が良く、君にとっては運が悪い事ばかりだな」

 

「ははは、全くその通りです」

 

本当に、エルヴィンさんの言う通りだ。

自惚れているわけではないが、俺が居なければウォール・マリア陥落の時は死傷者がもっと増えていただろうし今回だってもっと被害が大きかっただろう。

 

今回は違うがその様に出来るだけ立ち回っている俺からすれば当然なのだが周りからするとただ単に運の悪い奴、と映るらしい。

 

エルヴィンさんはぽん、と俺の肩を叩きながら言った。

 

「さて、後の事は我々に任せて休むといい、と言いたいがまだまだ働いて貰わねばならない。ヴォルフの腕が必要だからな」

 

「いえ、それが仕事ですから」

 

「分隊の指揮権を戻すからガスと刃を補給した後に兵団に合流、私の指揮下に戻ってくれ。一旦ここで補給などを済ませてから分隊を率いて合流後にそれが済んだら、もう一仕事頑張ってもらうぞ」

 

「了解」

 

俺の返答を聞いた後、エルヴィンさんはピクシス司令の元に壁上を走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「分隊長!!」

 

どこからか、俺を呼ぶ声が聞こえる。

振り向いてみると俺の分隊の皆が壁を登り終えて駆け寄って来ていた。

 

ネスが声を掛けてくる。

 

「お前達、無事か?」

 

「私達は問題ありません。分隊長こそご無事ですか?」

 

「あぁ、エルヴィンさんにもう一仕事、と言われるぐらいにはな」

 

「それならば良かった。補給用のガスと刃、それと水と携帯食料を少しばかりお持ちしたのでどうぞ」

 

「ありがとう」

 

礼を言ってそれらを受け取る。

まず最初にボンベを交換して、次に刃を鞘に収める。

 

いつでも戦えるように、最初に準備を行いそれから立ち上がってミカサとアルミンの元へ向かう。

 

「2人とも、お疲れ」

 

「兄さんこそ、大丈夫なの?」

 

「あぁ、大丈夫だ。エレンを頼むぞ」

 

2人にそう言ってから受け取った水と携帯食料を食べつつ内門の方へ足を進めた。

下で戦っていた部下やミタビ達はリヴァイとリヴァイの分隊の援護の元壁上に登ってきているから心配は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの事だ。

大凡の流れは原作と変わらない。

 

調査兵団の帰還後すぐにハンネスさん達駐屯兵団工兵部の面々が応援としてやってくると、ハンジの分隊と協力して外門付近の巨人を掃討、再びウォール・ローゼは巨人の侵入を阻むこととなった。

 

それから更に、トロスト区に閉じ込められて集められた巨人を掃討するべく原作よりも多い数の巨人に対して1日半程を掛けて砲撃を実施し榴弾によってその殆どが死滅。

奇行種などの僅かに残った巨人も、俺を含めた主に調査兵団の手によって討伐、掃討された。

 

そしてここからが少しばかり原作との流れが違っている。

と言うのも、原作では4m級と7m級をそれぞれ1体ずつの捕獲に成功していたのだが、この世界ではそれに加えて12m級1体の捕獲にも成功している。

ただし、これによって影響があるのはハンジがより一層興奮する、程度の事だろう。

 

 

この戦いでの被害は、死者行方不明者に関しては朧げながら原作よりも少なく、153名に収まっているが代わりに負傷者の数が981名に増えている。

原作でも語られた通り、人類が初めて巨人に勝ち、侵攻を食い止めた快挙ではあるもののやはり諸手をあげて喜ぶには、あまりにも被害が大き過ぎた。

 

 

 

そして、精鋭班に関して。

こちらは原作と比べると被害はずっと少なく、班長3名は生存し他の班員も多くはないが原作と比べると生き残っている。

 

ただし、ミタビが負傷して前線復帰に暫く時間が掛かるので万全とは言い難い。

 

訓練兵達に関しては、指揮下に無く更には接する機会も無かった為にマルコが生きているのか、それとも原作通り死んでしまっているのかは現段階では分からない。

 

 

 

そして、駐屯兵団と訓練兵団は戦後処理に当てられた。

戦後処理と言うのは、簡単な話で遺体の回収作業や区全体の清掃作業のことを指す。

駐屯兵団だけでは人手不足であり、何よりも迅速な処理を行わなければ死体というものがある以上下手に長引かせてしまうと腐敗が進み伝染病などが蔓延し最悪壁内全域で伝染病の流行が拡大しかねない。

 

そうなっては、ただでさえ余裕のない人類にとっては大きな、それこそ回復不可能な打撃となり得る。

それを防ぐために昼夜を問わず、作業が続けられた。

 

それらの回収作業と清掃作業が終わったのは、丸々2日が過ぎ去った後の事だった。

更に火葬を行う為に1日を費やし、合計3日間に渡っての不眠不休の作業となった。

 

死者は原作よりも少なかったとはいえ、死体の殆どが原型を留めておらず身元不明が大部分を占める。

回収作業に当たった両兵団の兵士達の心に、襲撃によってただでさえ疲労しボロボロだった心身に、更に大きく深い傷を残す事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレンに関しては、原作通りに一時的に憲兵団預かりとなり地下牢に手錠を付けての監禁となった。

エルヴィンさんとリヴァイがエレンの元に赴いたが、そこで語られた内容が原作通りなのか、それとも違うのかは分からない。

 

ただ、俺の知り合いであり俺本人が妹同然と公言している事もあって原作ほど酷い扱いは受けないだろう。

それも幾分かマシ程度にしかならないだろうが。

 

 

調査兵団としての、エレンの扱いは本人達には伝えられないが表向きには、

 

「リヴァイが監視といざと言う時に殺す」

 

と言う役割を与えられた。

しかしながら実際に与えられた役割は、

 

「エレンを護衛し何があっても守り通す」

 

と言うのが本当の役割だ。

エルヴィンさんはエレンに、何かしらの可能性を確信しているらしく俺に色々と聞いてきていたから調査兵団が、少なくとも俺を含めた幹部である分隊長クラスの人間が敵に回る事は無いだろう。

俺は言わずもがな、エレンの味方であるからだ。

リヴァイやミケさんは俺が言うなら、と信用し信頼してくれたようだ。

ハンジは研究材料としての味方であろうが、どちらにせよ味方である事には変わりない。

 

 

 

 

と調査兵団内では決まったのだがそこに、憲兵団が横槍を入れて身柄を引き渡せ、と騒ぎ立て始めた。

それにより、原作通りにダリス・ザックレー総統を議長の下にエレンの処分を下す審議、簡単にいえば軍法会議が開かれる事となった。

 

それには調査兵団団長エルヴィン・スミス、リヴァイ、そして俺の3人を筆頭とし、更には訓練兵団と駐屯兵団からもミカサとアルミンや駐屯兵団の精鋭班班長である3人も証人として出廷する事となった。

 

この世界の裁判と言うのは、王政下ではあるが一応、前世の民主主義の、陪審員制度と言うか、決定権などは無いものの発言し意見を述べる権利をその場では与えられている為に一般の人間も裁判に招かれる。

ただし、この一般人と言うのはあくまでも平民ではなく、商会などの金持ち連中の事を指す。

 

一応、通常の裁判であればそうなるのだが今回はかなり異例中の異例であること、更には軍法会議であるために幾ら意見を言おうともザックレー総統がこう、と決めたらその通りになる。

だから、今回の裁判で勝つ為には彼らを説得するのではなく「ザックレー総統を如何に説得し納得させるか」と言うことであろう。それには、幾らかの演技も必要であろう。

そのためにエルヴィンさんに、

 

「ヴォルフ、エレンを守るために手荒な手段を取らざるを得ないかもしれない」

 

「構いません。エレンが助かる、と言うのならば納得しましょう」

 

と言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2日後、予定通りに裁判が開かれることになった。

大まかな流れは原作と変わらず。

しかしながら、証人として呼ばれた俺はザックレー総統に幾らか質問を受けてそれに答えた。

 

「ビッテンフェルト、彼女の身元は証明出来るか?」

 

「はい、証明出来ます。産まれた当時より知っておりますので彼女が壁内で生まれ育った事などは間違い無いと、断言出来ます。彼女の両親も知っております」

 

「ふむ、では今までに今回の一連の騒動以外でエレン・イェーガーが巨人の力を行使したことはあるかね?」

 

「いいえ、少なくとも私が知る限りではありません」

 

「ふむ……」

 

と幾つかの質問を受けたが、これが裁判の結果を大きく左右出来るほどのものではない事は重々承知だ。

 

 

裁判が進み、主に商会の連中とウォール教の間で言い争っている。

こいつら、自分の主義主張を言ってばかりで裁判のことなんて最初から頭に無いんじゃないのか?

 

そう思わずにはいられないような光景だ。

 

ウォール教の司祭を見る兵士達の目は、冷め切っており怨んですらいそうな目線で見ているのは、やはり各兵団とウォール教との仲の悪さが窺える事だろう。

俺も、ウォール教は嫌いだからな。

 

憲兵団団長の、ナイル・ドークが発言している。

ミカサが誘拐された時のことだ。

 

あいつ、なんとなく前世でのヒトラーに似ていると思うのは気の所為か?

ちょび髭を生やしているから似ていると思うだけだろうか。

 

ともかく、何か色々と御託を並べている。

言い返したいことも、沢山あるが俺が下手に口を開くと不味い。

 

俺とエレンの繋がりを知っているエルヴィンさんにも、発言は求められた時以外は控えるように、と言われているからここはとにかく我慢せねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、憲兵団長が言い終わった後に商会の連中が騒めき、言い放った。

 

「そうだ、あいつは子供の姿でこっちに紛れ込んだ巨人に違いない……!」

 

「あいつもだ、人間かどうか疑わしいぞ!!」

 

「待ってください!私は化け物かもしれませんがこいつは違います!関係ありません!」

 

「信用できるか!」

 

「事実です!!」

 

「庇うってことは、やっぱり仲間だ!!!」

 

 

 

「違う!!!」

 

 

 

 

上擦った、しかしながら審議所全体に響く大きな声でエレンが叫ぶ。

 

「いや、違います……」

 

エレンは、一拍置いてから喋り始めた。

 

「しかしそちらも、自分達に都合の良い憶測ばかりで話を進めようとしている……」

 

「な、なんだと……!?」

 

「巨人を見たことも、戦ったことも無いくせに何がそんなに怖いんですか……!」

 

まさか、エレンからそんなことを言われるなんて考えもしていなかったんだろう、憲兵団や商会、ウォール教の連中は唖然としている。

 

「力を持っている人が戦わなくて、どうするんですか……!?生きる為に戦うのが怖いのなら、力を貸して下さいよ……!この、この腰抜けどもめ……」

 

 

 

 

「いいから黙って全部俺に投資しろォッ!!」

 

 

 

 

 

エレンが思いの丈を全てぶち撒けて叫ぶ。

 

「か、構えろ!」

 

「は、はっ!」

 

数瞬の後、憲兵団長の指示により側に控えていた憲兵が銃口をエレンに向けた。

しかしその銃口から、発砲炎と共に鉛玉が吐き出されることは無かった。

 

「ウブッ!?!?」

 

リヴァイが手摺りを超えて、エレンの顔面に回し蹴りを、それも相当どギツイやつを叩き込んだからだ。

一瞬、エレンは訳が分からないと言った表情をするも、次の瞬間には腹に回し蹴りを喰らい、髪の毛を鷲掴まれたと思えば膝蹴りが顔のど真ん中に叩き込まれる。

 

ドスッ!バキッ!メキャッ!ゴキッ!

 

大凡人体から出てはならない音が、審議所中に響く。

ミカサはそれを見て、血相を変えて、それこそ猛獣の様な顔でリヴァイに飛び掛かろうとしてアルミンや隣に立っているリコ、イアン達に引き止められる。

 

「ア“ァ“ッ、ガハッ!ガァゥッ!!」

 

一頻り、リヴァイがエレンをボコボコに、それこそ重症どころか内臓破裂なんかしていてもおかしく無いぐらいにはボコボコにした後に頭を思いっきり踏みつける。

 

「これは、あくまでも持論だが……」

 

更にはグリグリと、踏み躙るようにして語り始めた。

 

「躾に一番効くのは痛みだと思う。今お前に必要なのは言葉による教育ではなく教訓だ。しゃがんでいるから丁度蹴りやすいしな……」

 

そう言い終えると、更に思いっきり蹴って踏みつけた。

骨が折れるような音や、筋肉などが千切れる音すら聞こえる。

 

後ろの鉄柱に押さえ付けて顔面を踏みつけて更に追い討ちをしようとした時だった。

 

「待て、リヴァイ……!」

 

「なんだ?」

 

声をかけられたリヴァイは面倒くさそうに、それこそ舌打ちでもしそうな顔で憲兵団長の顔を見る。

 

「危険だ、恨みを買ってそいつが巨人化したらどうする……!?」

 

足を離したリヴァイを、エレンは睨みながら見上げて視線を戻したリヴァイに更に蹴られ踏みつけられる。

 

「なに馬鹿な事言ってる?お前ら、コイツを解剖するんだろ?」

 

再び、髪の毛を掴んで血だらけで腫れ上がっているエレンの顔を見せながら言う。

ヒュー、ヒュー、と掠れた呼吸音が聞こえてくる。

 

「コイツは巨人化した時、力尽きるまでに数十体の巨人を殺したらしい。だろう?ヴォルフ」

 

「あぁ、その通りだ。一撃で殺して回っていた」

 

「だそうだ。敵だとすれば、知恵がある分厄介かもしれん。俺達の敵じゃないがな……。だがお前らはどうする?コイツを虐めた奴らも考えた方がいい。本当にコイツを殺せるのか」

 

頭を踏みつけながらそう言うリヴァイの言葉は、妙に説得力があり、そして迫力があった。

言われた連中は、顔を引き攣らせて青褪めている。

 

それはそうだろう。自分達に、弱点がどこなのかを把握した意思ある巨人が襲いかかって来る事を想像すれば、デカイだけでも厄介極まりなく、討伐するのに多くの犠牲と労力を払わねばならないのが、巨人だ。

あり得ないとはいえエレンが敵に回った場合、エレンを殺し得るリヴァイやミケさんと言った面々が到着し殺すまでにどれほどの被害が出ることか。

下手をすれば、区が一つ灰塵に帰す事になる。

 

一部の人間を除いて、誰もがその光景を思い浮かべた。

 

「総統、ご提案があります」

 

「なんだ?」

 

エルヴィンさんが待ってましたと言わんばかりに手を上げ発言し始めた。

 

「エレンの巨人の力は不確定な要素を多分に含んでおり、常に危険が潜んでおります。そこで、エレンの管理を調査兵団、いえ、兵士の中で最も戦闘力に優れたリヴァイ兵士長に任せ、その上で壁外調査に出ます」

 

「エレンを伴ってか?」

 

ザックレー総統は、訝しげにそう聞いた。

確かにエルヴィンさんが言った通り、原作を知る俺にだって分からないことや覚えていないことが多く、もし覚えていたとしても常に俺が側にいて対処出来るわけでは無い。

 

そんな存在を伴って、ただでさえ危険な壁外調査に乗り出すと言うのだからこの先のことを知らなければ正気を疑うだろう。しかしながらこの世界の、兵団のトップに立つ者は良い意味でも悪い意味でも変わり者が多いからしっかりとした理由と何かしらの根拠さえあれば、例に漏れず変わり者の節があるザックレー総統も納得してくれるだろう。

 

「エレンが巨人の力を制御出来るか、人類にとって利がある存在かどうか、見極めてから最終的な判断を下すのも遅くは無いかと」

 

「ふぅむ、エレン・イェーガーの管理か……。出来るのか?リヴァイ」

 

「殺す事に関しては、間違い無く。俺では無くとも個人で見ればヴォルフでも殺すことは簡単でしょう。問題はむしろその中間が無い事にある」

 

聞かれたリヴァイはそう言い切った。

ミカサは相も変わらずリヴァイを睨みつけているがリヴァイはどこ吹く風といった感じだ。

 

その返答を聞いたザックレー総統は、ニヤリと笑いながら結論を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、エレンと一度幹部格のメンバーが面会し、顔合わせするべく審議所に併設されている部屋に集まった。

ハンジはエレンがボコボコにされた時に抜けて飛んでいった歯を手に真っ先に飛んでいった。

 

「あいつ、憲兵団よりも先にエレンを解剖する気じゃないだろうな?」

 

「もしそうだとしたら、俺がハンジを巨人のエサにする」

 

「なんだヴォルフ、珍しく随分と過激じゃないか」

 

「エレンはヴォルフの大切な妹分なんだと。俺からの折檻を見た後なんだ、多少はイラついたりもするだろ」

 

隣を歩くリヴァイや、ミケさんからそう言われて知らず知らずの内に感情が昂っていたらしい、と初めて知った。

 

「こんなに可愛い女の子相手にあんなに容赦無く殴る蹴るの暴力を振るうなんて、全く酷いね、本当に。痛いだろう?」

 

「えぇ、まぁ、少し……」

 

部屋に入るとハンジがエレンの手当てをしているところだった。しかしながら、エレンの顔の傷や腫れは巨人のあの脅威的な修復能力由来の回復力で殆ど残っていなかった。

それでもまだ目の下から出血しているらしく、消毒液を染み込ませたガーゼでもってハンジが拭っている。

 

「で、どんなふうに痛い?」

 

「おいハンジ」

 

「おぉっと怖いお兄ちゃんの登場だ」

 

「兄さん!」

 

「エレン、大丈夫か?」

 

「うん、骨とか折れてたっぽいけど治ってる」

 

俺が顔を覗かせると、唯一の味方を見つけた、とでも言うように嬉しそうに寄って来て抱き付いてくる。

エレンの、特に顔に傷が残らないか念入りに確かめる。もし、跡が残るような傷があったらカルラさんに顔向け出来なくなる。

 

よほど不安だったのか、エレンは離そうとしない。

腕力だけなら俺の方が強いから引き剥がす事なんて簡単なんだが、今暫くはこのままで居させてやろう。

 

「エレン、済まなかった」

 

「え?」

 

「しかし君が、その傷を負ったお陰で我々に君を託してもらう事ができた。効果的なタイミングで、用意したカードを切れたのもその痛みの甲斐あってのものだ。君に敬意を」

 

エルヴィンさんはエレンの前に立つと右手を差し出す。

 

「エレン、これからも宜しくな」

 

「ッ、はい!宜しくお願いします!」

 

エレンは俺から離れて、その手を取った。

離すとすぐにまた、俺にくっついてくる辺りやはりまださっきの事や地下牢での不安などがあるんだろう。

 

「なぁ、エレン」

 

「ひっ!?」

 

リヴァイがどすん、とソファに腰掛けてエレンを呼ぶと怯えたように身体をびくりとさせて俺の影に隠れる。

 

「俺を憎んでいるか?」

 

「い、いえ……、必要な演出と理解しています……」

 

「そうか、ならいい。もし憎んでいるなんて事になったらそこのお前の兄貴に寝首を掻かれるところだったからな」

 

ボコボコに、それこそ骨が折れるレベルに演出上仕方がないとは言え暴力を振るわれたのだから、原作とは違って女の子としてこの世に生を受けているのだから相当な恐怖だったのだろう。

口では理解していると言ってはいるが、俺の後ろから出てくる気配はかけらも無く、俺の腕を掴む手は震えている。

 

「エレン、ああ見えてリヴァイは仲間思いの良い奴だ。まぁ、人相が悪かったりするがな」

 

「余計な事を言うんじゃねぇ」

 

一応、その様にリヴァイに助け舟を出しておく。

 

「はぁ……、もういっそ、お前が面倒見たらどうだ?その方が楽そうだ」

 

「馬鹿言うな。エレンを任されたのはリヴァイ、お前だろう。もしそうなったら問答無用で解剖まっしぐらだ」

 

俺の後ろに隠れているエレンの頭を軽く撫でてやり、落ち着かせる。

 

「だけど、いくらなんでもやり過ぎだと思うよ?骨折したり歯が折れたり。ほら」

 

「拾うな、気持ち悪い……」

 

「えー、これだって大事なサンプルだし」

 

ハンジが取り出した歯を見て、エレンはまた顔に先程よりはマシとはいえ恐怖の色を覗かせる。

そりゃそうだ。自分の抜けた歯をわざわざ拾ってくる奴なんて、俺だって恐怖を感じる。

 

「エレン、こういうイカれた奴に解剖されたりするよりはマシだろう?」

 

「一緒にしないでよ。私はエレンを殺したりなんてしないから」

 

「ふん、どうせ貴重な実験体、ぐらいの考えだろ」

 

そう言われたハンジはリヴァイをむっ、と睨んだ後にエレンに近付いていく。

 

「ね、エレン。ちょっと口の中見せてみてよ」

 

「やっぱり、もう歯が生えてる……」

 

ハンジは驚いたようにそう漏らす。

何を今更。報告書で噛みちぎられた筈の腕が生えていたり、今までの会話にだって骨折している箇所が治っていたりとあるのに。

 

エレンの口の中を見たハンジは、やっぱりと言うか、テンションが徐々に上がって抜けた歯を手に帰っていった。

 

去り際に、

 

「いやね?もっと色々聞きたい事とかあるんだけど、今は止めとこっかな。怖い怖い過保護なお兄さんが居るからねー」

 

なんて言っていた。

確かにエレンのことは大切に思っているが、いやしかし、過保護では無いだろう。

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的にエレンの身柄は調査兵団に委ねられる事となり、新兵入団から1ヶ月後の壁外調査に同行させてそこでエレンの価値を見出す、と言う事になった。

 

審議所で決められた通り、エレンの身柄の責任はリヴァイに一任され先ほども言った通り表向きは管理といざという時のための、と言うことではあるが調査兵団の俺を含めた分隊長クラスやリヴァイ、エルヴィンさん達の間ではエレンを守る事、と決められている。

それに伴い、原作通り特別作戦班、通称リヴァイ班と呼ばれる班が作られた。

本来ならば、最も望ましい形としてはリヴァイを筆頭として俺達分隊長クラスの精鋭が護衛に就いた方が良いのだが、分隊の指揮などがあるために各分隊からそれぞれ数名ずつを選抜し、リヴァイが直接試験官として選考、4〜6名程度の人員を選抜することとなった。

 

俺の分隊からは、エルドとペトラを選抜し送り出した。

他の分隊からは、ゲルガーやナナバと言った作中でも屈指の実力者が選び抜かれ試験を受ける事に。

 

正直な話、誰がリヴァイのお眼鏡に適うか分からない。

 

 

 

 

「リヴァイ、どうだ?」

 

「まぁまぁだな。個々の実力だけで言えばナナバやゲルガー達に軍配が上がるが、班としての連携力を考えるとエルド、グンタ、オルオとペトラの4人がトップだろうな。誰と組ませても、確実に合わせる事ができるだけの力がある」

 

「まぁ、個々の能力で劣るなら連携力で戦え、と教え込んだからな。それで、誰を特別作戦班に入れるか決めたのか?」

 

「いいや、まだ決めかねている。個々の能力を優先するか、それとも連携力を優先するか。完全に俺に一任されているから適当に選べない」

 

「……護衛、と言うのが目的ならば連携力だろう」

 

「そんな事分かっている。問題はどう編成するか、だ。連携力の高いメンツで固めるか、それとも半々程度に編成するか。その辺りの事を決めかねている。何人選抜するかは決めたんだがな」

 

「何人にするんだ?」

 

「合わせて4人、俺とエレンを入れて6人班として編成しようと思っている」

 

そう言うリヴァイは、かなり悩んでいるらしく試験を受けているメンバーを珍しく難しい顔で眺めている。

しかし、原作だとリヴァイが指名して編成されたがその過程がどうだったのかは描かれていなかったと思う。だからこの世界での特別作戦班の選抜が原作通りなのか、それとも違うのか全く分からない。

 

さらに言えば、その選ばれた者が原作通りのメンバーになるとは言い切れないし、寧ろ違う可能性の方が大きいかもしれない。

 

「ともかく、期日までに決めておけよ。でないとエレンの引き渡しが出来なくなる」

 

「あぁ」

 

とりあえず、そう言っておく。

今回のエレンの引き渡しの条件は幾つかある。

 

1.エレン・イェーガーが巨人化能力を制御出来ず暴走した場合はその時どの様な状況であってももう一度審議を行う事。

 

2.エレン・イェーガーを拘束しておくために寝泊まりする場所は地下であること。

 

3.常にリヴァイ兵士長の監視下に置き、外を出歩く場合は3馬身以上離れないこと。

 

4.エレン・イェーガーのありとあらゆる権限をエルヴィン・スミス調査兵団長の元、リヴァイ兵士長にその権限を全て委ねること。

 

5.万が一に備えリヴァイ兵士長を筆頭とした班を編成し、エレン・イェーガーの監視を行う事。

 

 

 

とまぁ、このように条件が決められている。

そして今回の特別作戦班の編成完了時期はエレン引き渡しの前日まで、とされている。

エレンが調査兵団に引き渡されるのは明日の事だから、今日中に決定しなければならない。

 

なにせ、事が事で急だったからしっかりとした準備などを行う時間が殆ど無かった。

この選抜試験だってかなりの駆け足で行われている。

 

一応、エレンを地下で寝泊まりさせる事ができる施設、と言うのは相当限られている。

ただし無いわけじゃない。

 

原作でも登場した旧調査兵団本部の古城跡だ。

あそこには地下牢として使われていた場所が幾らでもあるし、知っているからエレンは現段階では巨人化して暴走しないと断言出来るが、もし巨人化したとしてもあの大きな城ならば拘束することも長時間は無理だろうが対応する時間を稼ぐ程度に拘束することは可能だ。

更には区からも離れており巨人化したエレンが暴走した場合に、通常の巨人と同じ様に多数の人間に反応したとすれば最も近い場所にあるトロスト区に向かう事が予想される。そうなった場合、区からも離れている方が望ましい。

 

それらの事を考慮し、区からも一定以上離れている旧調査兵団本部が選ばれた。

 

 

 

 

 

 

翌日、リヴァイは特別作戦班のメンバーを決定したらしい。

 

「エルド・ジン、グンタ・シュルツ、オルオ・ボザド、ペトラ・ラル。お前達を特別作戦班の班員に選抜する」

 

「「「「はっ」」」」

 

「任務はエレン・イェーガーの監視及び万が一の時はエレンを止める、もしくは殺すことだ。今日から早速特別作戦班として動いてもらう」

 

選ばれたのは、原作通りのメンバーだ。    

リヴァイはどうやら、個々の戦闘能力よりも群としての連携力を優先して選抜をしたようだ。

この4人は同期である事と他の同期の殆どが死んでしまっていると言うのもあって、別の分隊であるにも関わらず仲が良い。

 

「これからエレン・イェーガーの身柄を引き取りに行く。装備は全て身に付けて向かう。一応今回に限ってミケ、ヴォルフ両分隊長と数名づつ連れて行くが、あくまでも特別作戦班が主軸となってエレンを監視するように」

 

エルヴィン団長がそう説明した後、全員が馬に跨って憲兵団本部にエレンを迎えに行った。

 

 

 

 

その日から、エレンは表向き特別作戦班の監視下に置かれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 










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