原作キャラを救いたい。   作:ジャーマンポテトin納豆

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戦う理由

 

 

 

 

 

「分隊長!!」

 

「どうした、そんなに慌てて」

 

「捕獲した被験体が、殺されました!!」

 

その報告を受けて、調査兵団員は現場に向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

現場に到着すると、ハンジが泣き叫んで絶叫していた。

その場にはリヴァイもいて、エレンもフードを被ってそこにいた。

 

下手に声を掛ける事は、エレンの身柄を狙っている連中もいるから望ましくないがどうやら原作通りハンジに一晩中巨人の話を聞かされ続けて居たらしく、目の下には隈が出来ており睡眠不足からか少しフラフラしている。

 

しかしここにきたはいいが、俺達に出来る事なんて欠片も無い。

巨人の実験や所有権は調査兵団に委ねられていたが、こう言った事件が起きるとその管轄が憲兵団に移るからだ。そうなっては事件の捜査にも口出し出来ない。

 

犯人が判明する可能性は極低いとは言えあとは憲兵団に任せるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調査兵団がエレンの身柄を受け取って、数日。

漸くトロスト区襲撃の一件が落ち着いて来始めた頃で、戦後処理もその殆どが済んでおり残っていることと言えば、壁上固定砲の修理と増設、補填などに加えてエレンが大岩を以って塞いだ穴の補修、補強作業と言ったところだろうか。

 

他にも先日の巨人殺しの犯人探しも同時並行で行われている。

人手が圧倒的に足りていないにも関わらず、他区から兵員の応援を申し出ようにも他区が襲撃されないとは限らず、しかもトロスト区が襲撃されたばかりと言うのもあって望めない。

そうなると、ただでさえ戦闘と戦場の処理に追われ、更には犯人探しまでやって憔悴している新兵達をも動員せざるを得なくなっていた。

 

毎日、朝から晩までトロスト区の復旧だけでなく壁上固定砲などの修理増設にまで駆り出されている。

調査兵団は調査兵団で、厳戒態勢のまま万が一に備えており、分隊毎に交代ではあるが壁上で警戒体勢を敷いていたりと、戦いそのものが終わったとしても気を落ち着けて休めそうな雰囲気は未だ感じられない。

 

他に何かやることと言えば、あとは駐屯兵団や憲兵団、調査兵団の戦闘に参加した全兵団の幹部クラスの面々が報告書を書くことぐらいだ。

 

当然、俺も書かなければならずしかも戦闘の最初期から参加していたとあって書くことも膨大だった。

これら全ては、兵士としての役割と義務だから仕方がないとは言え、休暇も碌に取れないから家族に顔を見せて安心させることもできないのはかなり心に引っ掛かる。

もしかすると、毎日寝ずに過ごしているかもしれない、と考えると心苦しいものだ。

既にトロスト区が襲撃された、と言う情報は壁内全域に知れ渡っており、エレンが巨人化出来ることも同時に知れ渡っている。

 

だからこそ、特にその当事者であるエレンと身近に居て接して来た母さんや姉さん、そして実の母親であるカルラさんは心配で心配で仕方がないに違いない。

一応、手紙は書いて送ったので幾分かはマシであろうがそれでも心配なことには変わりない筈だ。

次の休暇辺りに、エレンを連れて行くことはできないがミカサとアルミンの2人だけでも連れて帰って顔を見せてあげたいものだ。

 

 

 

 

 

「分隊長、団長がお呼びです」

 

「ん、分かった」

 

報告書を纏めていると当直の部下が俺を呼びに来る。

どうやらエルヴィンさんが俺のことを呼んでいるらしい。何の用だろうか?

 

エレン関連の事か、もしくは新兵入団の1ヶ月後に予定されている壁外調査の事か。

はたまた全く別の事か。

 

見当が付く事と言えばそのぐらいだが……。

 

 

 

 

「ヴォルフガング、参りました」

 

『入ってくれ』

 

「失礼します」

 

団長室に入ると、そこには何やら机に向かって書類仕事をしているエルヴィンさんが。

 

「すまないな、急に呼び出して」

 

「いえ、問題ありません。しかし、何用ですか?」

 

「いやなに、今年も新兵の教育を任せたいと思っていてな。頼まれてくれるか?」

 

成る程、毎年恒例の新兵教育を俺に、と言うことか。

例年の如く、新兵の教育は俺が担当している、と言うか他に担当できる人間が居ない、と言うのが正しい。

 

エルヴィンさんは団長としての職務などで忙しいし、ミケさんもコミュニケーションに難がある、と言うわけではないが向いていると言うわけでもない。

リヴァイやハンジに至っては誰に聞いても新兵教育なんて到底無理。

 

とすると幹部格の人間で新兵教育を担当することが出来るのは消去法で俺しかいないと言うわけだ。

 

「補佐を行う面々の人選は一任するからいつも通り好きに選べ」

 

「ありがとうございます」

 

さて、そう言われると真っ先に名前を挙げるのはネスやナナバなどだ。

社交性が高く、コミュニケーション能力も高い。ユーモアもあって寧ろ俺よりも教える、と言うことに関しては秀でているかもしれないのだが俺の補佐、と言う立ち位置になる。

 

それらの人間の名前を挙げて補佐に付けてもらう様にエルヴィンさんに言っておく。

 

それらが終わって部屋から出ようとすると、呼び止められる。

 

「ヴォルフ」

 

「はい?」

 

「偶にでいいからエレンのところに顔を出してやってくれないか」

 

「どう言うことでしょうか?」

 

「審議所での一件で、どうやらエレンは相当リヴァイに怯えているらしい。声を掛ける度に悲鳴を上げて飛び上がるぐらいには」

 

「……なるほど」

 

「彼女は、人類の希望だからそんなことで潰れてしまっては困る。メンタルケアも兼ねて週に一度程度で良いから顔を見せに行って欲しい」

 

「それは命令、でしょうか?」

 

「あぁ、命令だ」

 

どうやらエルヴィンさんは命令という形で俺とエレンを会わせようとしてくれているらしい。

しかし、エレンはリヴァイに怯えているのか……。

まぁ、あれだけボコボコにされれば仕方が無い様な気もするが壁外調査を行ったり作戦を行う上でそう言うのは好ましくない。

 

エルヴィンさんもそう思っているからか、どうにかしてエレンとリヴァイの間にある確執と言うか、蟠りをどうにかして欲しいとエレンが一番懐いている俺に頼んで来ているのだろう。

 

そうなれば、断る理由は欠片も無い。

寧ろ、エレンに会えるのだから俺としても良い事尽くめだ。

 

「分かりました。謹んでお受け致します」

 

「ありがとう。それでは要件は終わりだ」

 

「はい、失礼します」

 

団長室から出て、エルヴィンさんに書いて貰ったネスやナナバと言った補佐の面々への命令書を手にそれぞれの元に赴くとしよう。

新兵入団は2日後に迫っているのだから、大急ぎで準備を整えなければならない。

 

まぁ、新兵教育に携わる殆どのメンバーが例年新兵教育に携わっている面々なのでやり方や準備の仕方、手順などは把握しているから問題無いだろう。

 

 

 

 

それと、例年通り各分隊のメンバー入れ替え、正確には今年は編成替えが行われた。

と言っても、リヴァイが特別作戦班の班長を直接勤めてそちらに注力しなければならなくなった為にリヴァイの分隊を俺とミケさんの分隊でそれぞれ半々程度で受け持つ、と言うことになった程度だ。

 

あとは医療班に移り応急救護術などを学びたい、という人間が2人居たのでそのメンバーと医療班の人間を2人入れ替える、といった感じだ。

俺の分隊には引き抜かれたエルドとペトラの代わりに若干多めにリヴァイの分隊が振り分けられている。

 

とは言っても、この元々リヴァイの分隊だったメンバーは荷馬車護衛班として半々に分けられて新たに編成されており、その指揮官が俺とミケさん、と言うことだ。

 

以前までは俺やリヴァイ、ミケさんの3個戦闘分隊が荷馬車の護衛を交代で行っていたのだがこの荷馬車護衛班が新たに新設されたのには、恐らく原作での女型の巨人の捕獲を目的とした、エルヴィンさんの意図がある。

 

エルヴィンさんが直接口にしたわけではないが、幹部メンバーやウォール・マリア陥落以前から調査兵団に勤めている面々は薄々何かしらをエルヴィンさんが企んでいる、と勘付いている。   

 

だからこそ、この新編成に幹部格のメンバーや古参は誰も文句を言わない。

それ故にその下についている部下たちもそう言う物なんだ、と勝手に納得してくれている。だから下手に何かを勘繰られたりはしない。

この辺はやはり他兵団などと比べると言葉にせずとも意思疎通が高いレベルで可能なのは大きく違う点だろう。

 

ともかく、新編成となっても特に変わることは無かった。

荷馬車の護衛は戦闘分隊ならば誰もが経験したことがあるから、態々訓練をし直す必要も無いし今まで通り俺達は訓練に励むこととなっていた。

まぁ、新兵教育に携わる俺以下のメンバーは違うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

新兵勧誘式の準備も大詰めとなった。

 

4つの訓練兵団を全て回るわけではなく、予め各訓練兵団に対する新兵勧誘式を行うべく人間を派遣している。

予定としては、今日の午前中まで巨人を殺した犯人探しを行って午後に新兵勧誘式が開かれる。

 

憲兵団から始まって、駐屯兵団、調査兵団、と言う順番になる。

 

そして調査兵団の順番が回ってくる。

前の兵団の説明を聞いていたからか既に整列しており、後は説明を待つばかりとなった。

辺りはとっくに暗くなっており松明の明かりだけが辺りを照らしている。

 

壇上の前には訓練兵がずらりと並んで整列している。

 

 

 

「エルヴィン・スミス調査兵団長、登壇!敬礼!!」

 

その声に合わせて、一斉に訓練兵が敬礼をする。

エルヴィンさんが壇上に登りきって真ん中に立つと直り、話が始められる。

 

「私は、調査兵団団長、エルヴィン・スミス。諸君、疲れている中で長い間立ちっぱなしでご苦労。我々の話は短いからしっかりと聞いてほしい」

 

「所属兵団を選択する本日、私が話すのは率直に言えば調査兵団への勧誘だ。今回の巨人の襲撃によって多くの仲間を失い巨人の恐怖やどれだけ強大なのか、そして己の力の限界を知ってしまった事だろう。しかしながら、この戦いで人類はこれまでに無いほど勝利へと前進した。エレン・イェーガーの存在だ」

 

「彼女が間違いなく我々の味方である事は、彼女の命懸けの働きによって証明されている。でなければ、今頃人類はウォール・ローゼを失っていただろう。更に我々は巨人の侵攻を阻止するのみならず、巨人の正体に辿り着く術を獲得した!」

 

エルヴィンさんがそう言うと、訓練兵の誰もが驚きの表情を表し、驚きの声を上げた。

ざわざわ、と騒がしくなる中、エルヴィンさんは皆が落ち着くのを少し待ってからよく通る声で再び話し始めた。

 

「彼女の生家があるシガンシナ区の地下室には彼女さえも知らない巨人の謎があるとされている。そこまで辿り着きさえすれば、この100年に渡る巨人の支配から脱却出来る手掛かりを得ることが出来るだろう」

 

そうエルヴィンさんが言い放つと、先ほどよりも更に騒めき立つ。

それはそうだ、そんな事を言われれば驚きもするし騒ぎたくもなるだろう。

 

「我々は、その地下室に至るためにシガンシナ区の奪還を目指す」

 

「目標は今まで通りだが、トロスト区の扉が使えなくなってしまった今、東のカラネス区から遠回りをするしかなくなった。4年掛けて構築した大部隊の航路も全てが無駄になったのだ」

 

「その4年間で調査兵団の6割以上が死んだ。4年で6割、正気の沙汰では無い数字だ」

 

エルヴィンさんがそう言うと、調査兵団の皆は何か思うところ、死んでいった仲間達の顔が頭を過ったのか下を俯く者や悲しそうにしたりする者がいる。

俺だって、とっくに死んでしまった同期達や入団した時の先輩達や班長、後から入ってきた後輩や部下達の顔が浮かぶ。

 

「今期の新兵にも、1ヶ月後の壁外調査に参加してもらうが、死亡する確率は3割と言ったところだ。4年後には殆ど残らないだろう」

 

訓練兵達は絶句する。

そりゃ、新兵勧誘式でそんな事を言われたら誰だって言葉も何も出てこないだろう。

普通、こう言った勧誘式は前世今世問わず良い事を並べ立てて言うことが普通だ。

 

「他の兵団や商会、組織よりも給料が良い」

「休暇が取り易い」

「昇進が速い」

 

などだ。

そう言った、所謂人間が悪いことから目を逸らそうとする習性というか性質を上手く利用して良いことに目を向けさせて悪いことに目を行かせにくくするのが殆どの会社や組織などの勧誘で行われている手段だろう。

まぁ、この辺はよくよく考えてみると何故そうなのか簡単に分かる。

 

調査兵団を例に挙げれば給料が良い、と言う面は裏を返せばそれほどの重労働である、と暗に言っているに他ならない。

人間というのは相応の対価が無ければ働きもしないし、なんなら暴動さえ起こす生物だ。

野生動物ならば、序列順に食べる順番や量などが決まっていて争いになる事は少ない。それを解決したいのならば群れのボスの座を賭けて戦うからだ。そうなれば野生動物にとって万が一にでも負ける事があれば群れを追い出されるのは必須であるしそうなっては生きていけないだろう。

 

しかしながら人間は、群れのボス、例えば国王だったり会社の社長に対して何か理由があって戦うとなった場合個人で戦う、ということはまずもってない。

九割九分九厘の場合は、徒党を組んで賃上げなどを要求するのだ。

そうなったら国や会社側は要求を飲まざるを得なくなる。

何故ならば、要求を断って武力行使などをしようものなら労働者や国民が働かなくなるから地方単位の暴動や一揆だとしても地方単位だけでなく国全体の税収や会社の収益が大きく下がることを意味しているからだ。

 

労働には相応の対価を。

 

それが通常である。

ということは給料が他と比べて高いという事は、その調査兵団に与えられる仕事が他よりもズバ抜けて辛く、そして命の危険が常に隣り合わせである、と言うことを語っている。

 

 

 

休暇が取り易い、と言う事についても同様でずっと働き詰めではおかしくなってしまうしこれまた暴動や一揆などが起こる。

 

昇進が速い、と言う点が特に調査兵団の過酷さを物語っているだろう。

何故ならばエルヴィンさんが言ったように毎回の壁外調査での損害は明らかに常識的に考えるならば中止や断念、永久凍結となってもおかしくないレベルの損害を毎回被る軍事行動だ。

人材、と言う資源を無駄に消費させることを考えれば壁外調査を続けるのには、明らかにおかしい。

しかしながら王政が、壁外に憧れを持つような人間をあえて集めて壁外に追いやり死なせようとしている意図を持っていて尚且つウォール・マリアが陥落した事によりただでさえ慢性的な食糧不足の壁内の食糧事情を早急にどうにかしなければならない、と言う理由もある。

まぁ、付け加えて言うならば幾ら民の意思や記憶を操ることが出来ると言ってもこの状況下で今の今まで反乱を起こさせなかった王政の政治的手腕はよほど卓越している、と言える。

 

話を戻して、壁外調査での高い死傷率故に、下っ端も上官も関係無く死んでいくものだからとにかく腕が多少でも立つやつはすぐに、それこそ3回目の壁外調査から帰ってくると新兵が班長を任される、なんてことすら有り得る。

だから昇進が速いのだ。

 

そう言った負の側面を隠す、と言うわけではないが少し考えれば分かることだから、と言わないでおくのが大体の勧誘だ。

にも関わらず負の側面とでも言うべき、新兵が受け止めるにはあまりにも重すぎるその事実をこの場でエルヴィンさんが言うのだからそれは変わることがない絶対的な事実に他ならない。

それはどれだけ新兵の練度が上がろうと、それこそ巨人と直接戦わずとも殺すことが出来る手段、例えば原作でも描かれている大槌のようなものや壁外の国々が持っている対巨人砲、だったか?などでもない限り変えることが出来ない事実だ。

それでも命の危険が伴うのだから、立体機動装置を用いて白兵戦を仕掛けて戦っている俺達は、その危険度は比べるまでもないほどに危険だ。

 

それを全て言う時間は無いが、少なくとも今後すぐに新兵が直面するであろう負の面を言われたら誰だって驚きもするし絶望もするし入りたいなどとは到底思わないだろう。

 

 

 

 

それでも、エルヴィンさんは続けて話す。

 

「しかし、それを超えたものが生存率の高い優秀な兵士となっていくのだ」

 

そしてエルヴィンさんは一拍置いて軽く息を吸うと、

 

「この惨状を知った上で、自分の命を賭してでも尚やる、死んで行った者達に続くと言うのならば、この場に残ってくれ。自分に聞いてみてくれ」

 

 

 

「心臓を捧げることが出来るのかを!」

 

 

 

 

エルヴィンさんがそう言うと、少しばかりざわざわとした後に誰もが口をつぐんだ。

それはそうだ、つい数日前に巨人の襲撃を受けてその圧倒的なまでの力の差を見せつけられて、自分の同期や先輩達が食われていった光景が脳裏から離れないのに、まだ心の整理すら碌につけられていないのに、今この場で決めろ、なんて言われたってそう簡単に、すぐに決められる、覚悟を決めることなんて早々出来る筈もない。

 

この選択をするには、させるには余りにも酷だ。

 

だがしかし、それでもその選択をしてもらわなければならない程に追い詰められているのだ。

 

 

 

 

 

 

「以上だ。他の兵団の志願者は解散したまえ」

 

「団長、幾らなんでも脅しすぎでは……!?これでは、1人も入団しようなんて新兵は居なくなってしまいます……!」

 

そう、班長の1人、女型の巨人に蹴り上げられて死んだベックが言った。

ベックが、エルヴィンさんにそう言ったということは、エルヴィンさんが今までに語った事は全て事実である、と言外に語っているに他ならないと言うことは、その事実を壁外で目の当たりにしている俺達で無くとも、訓練兵達でも簡単に理解する事が出来た。

 

新兵達は、顔を見合わせたりしながら1人、また1人と去っていく。

 

次々と去っていく者達に続いて次々と訓練兵達が去っていく中、辛そうな顔でその場に立って調査兵になるのか、それとも駐屯兵団か憲兵団に行くのか。葛藤している者達が居る。

 

恐らく残っている皆は調査兵団に入る事を決めていたのか、それとも今覚悟をしたのかは分からない。

鼻を啜りながら目に涙を溜めて、全身を震わせながらも自分達が味わったであろう恐怖に、絶望に必死に耐えている。

 

 

 

 

 

 

そして、その場に残ったのは僅か18名余り。

彼らに、エルヴィンさんは問う。

 

「君達は、死ねと言われたら死ねるのか?」

 

「死にたくありません!!」

 

誰が、そう答えたのだろうか。

 

「そうか……、皆、良い表情だ。これが、本物の敬礼だ」

 

 

「心臓を捧げよ!!」

 

 

答えを聞いてエルヴィンさんはふっ、と笑うと左胸に勇ましく拳を当てた。

それに続いて誰もが、左胸に右拳を当てて敬礼をしている。

その表情は、どうでもよくなったと言う顔であったり恐怖で引き攣り泣いている顔であったり、何かしらの覚悟を決めた表情であったりと様々だ。

 

その中には、ミカサとアルミンだけでなくジャン、コニー、サシャ、クリスタ、ユミル、ライナー、ベルトルトと言った面々も含まれている。

 

「よく、恐怖に耐えてくれた。君達は勇敢な兵士だ。心より尊敬する」

 

エルヴィンさんはそう言って、解散するまで敬礼の姿勢を解くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新兵諸君、それではこれにて勧誘式を終了とし解散とするが新兵達はこのままビッテンフェルト分隊長の指揮下に入りたまえ。ヴォルフ、あとは頼んだ」

 

「はい。新兵、俺のところに集合してくれ!」

 

エルヴィンさんにそう言われて新兵を託された後、軽く声を張りながら新兵を集める。

 

「これから、自身の荷物を取りに行って馬と共に調査兵団本部に向かう。いいな?」

 

「「「「「はっ」」」」」

 

「よし、それではさっさと向かおう。早く休みたいだろう?」

 

出来るだけ、明るい雰囲気や口調で話し掛けるが皆の心はそう簡単にはいかない。

まぁ、ともかく出来るだけ早めに調査兵団本部に向かってさっさと休ませてやろう。

 

今日まで続いた犯人探しやそれまでに行われていた戦後処理で疲れているだろうからな。

 

 

 

 

 

 

 

その後、全員に荷物を持たせて馬に跨らせて足早に調査兵団本部、正確には糞などの匂いを考慮して200mほど離れたところに設置されている厩舎に馬を預け、装備類を預けた後に調査兵団本部の団長室などがある建物からこれまた少しばかり、と言っても100m程度離れた場所に併設された宿舎に新兵を送り届けた。

 

因みにではあるが、幹部宿舎は別にあって俺はそこで寝泊まりしているので一緒になることはない。

 

早めに風呂に入らせて、寝かせた。

すぐに皆寝息を立てていたから、やはり疲労が相当溜まっていたんだろう。

 

明日はまだ新兵全員がここに到着していないからまだ訓練は行わないが明後日から早速訓練を行わなければならない。

と言っても時間的猶予が正確な日数で表すならば36日しかないので原作通りに長距離索敵陣形を頭に叩き込むことが主となるだろうから必然的に座学中心なので訓練兵団での日々よりは楽だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、新兵が全員集合した。

 

翌々日。

入団を希望した新兵全員を集合させて俺以下新兵教育を担当するネス達が前に出て自己紹介をする。

今期の調査兵団に入団した新兵の数は、やはりトロスト区襲撃が響いてか57人ほど。

 

それでもこれほどの数が入団を希望している、と言う事実にはかなり驚いた。

もっと少なく、それこそ20人程度に収まるのでは、と考えていたのだが。

 

「初めまして、とは違うな。久しぶり、と言えば良いのか?まぁ、とにかくだ。教育隊長を務めるヴォルフガング・ビッテンフェルトだ」

 

「同じく教育班長、ネスだ。よろしくな」

 

「ナナバだ。分からない事とかあったら気兼ね無く聞きに来ていいよ」

 

俺を入れて5人の教官の自己紹介が済むと、次に新兵達が簡単に名前だけの自己紹介をしていく。

時間が限られているから、それ以外の自己紹介は後で各々やってもらう、と言うことになっている。

 

 

すると、最後の1人が名前を名乗り終わった時のことだ。

唐突に、ジャンが手を上げた。

 

「どうした、キルシュタイン」

 

「いえ、その……」

 

「なんだ、何か聞きたいんじゃないのか?」

 

俺が訝しげに何が聞きたいのか、別に躊躇う必要はない、と促してやると深呼吸をしてから言った。

 

「分隊長は、ビッテンフェルト分隊長はどうして巨人と戦えるんですか?戦い続けられるんですか?そこまでして、何時死ぬかもしれないと言うのに、それでも戦う理由はなんなんですか?」

 

「ふむ」

 

「その、俺は、正直言って調査兵団に入ったことを凄く後悔しています……。最悪だって思ってます……。死ぬ覚悟なんて欠片も出来ていないし命が凄く惜しい。なんなら、今この会話も何もかもが夢で本当は、憲兵団に入団しているんじゃ無いかとすら思っています。だけど、分隊長は俺たちよりもずっと長く、何年も巨人と戦ってきて辛いこととか、苦しい事とかを経験して見てきたはずなのに……。それでも、戦い続けられる理由って、なんですか……?」

 

「おいジャン止せって……」

 

隣に座っていた、コニーがジャンを窘めようと声を掛ける。

 

「いや、咎めなくても構わん。そう思うのは最もだろう。調査兵団に好き好んで入団してくるのなんて世間一般で言えば本物の変人連中だからな。その点は俺が保証する。何せお前達の上官になる、特にハンジは気を付けろ。奴の前で巨人の話は絶対にするなよ。っと、話がずれたな。そうだな、戦う理由か……」

 

腕を組んで、パッと思い付いた理由を言うか。

 

一番に出てきたのは、母さん、姉さん、カルラさん、エレン、ミカサ、アルミン達を巨人の手や悪意、敵意から守りたい。

 

本心を言えば、エレンにもミカサにもアルミンにも兵士になんてならないで、変わり映えのない、毎日毎日畑を耕して、そんな退屈な日常を送って欲しい。

 

死の危険と隣り合わせの兵士、ましてや調査兵になんてなってほしく無い。

戦いに勝つには、皆の力が必要で、俺だけじゃどうにもならないからこの状況を、了承しているに過ぎない。

もし俺1人で全てをどうにか出来るのならば、多少手荒な真似をしてでも兵士になるのを止めていた事だろう。

 

だけど、それはどうやったって無理だって、幾ら考えても分かってる。

だから、せめて皆を出来うる限り、今ここで死ぬわけにはいかないが、例え最後にこの命を完全に燃やし尽くしたとしても、守ると誓ったのだ。

 

それは、リヴァイ達も同じだ。

あいつらだって、もう何年も肩を並べて一緒に戦い続けた、家族同然の奴ら。

 

そんな皆を、誰にも言えはしないし協力してもらう事も出来ないけど、俺1人で孤独だろうがなんだろうが守って、救わなきゃ、って。

 

それが、一番の理由だろう。

 

「人間ってのは、本当に守りたいものが出来た時、大切なものを守りたいと思った時、どこまでも強くなれる」

 

「自分の部下や、殆ど残ってない先輩同期の皆を死なせたくないって言うのもあるが何よりも、母親や姉さん、妹弟みたいに接して来ていた大切な家族を守らなきゃならない、食わせて行かなきゃならない、って俺は強く思ったんだ。壁の外の世界に憧れたっていう冒険心も勿論あるがな」

 

「死んでいった皆の顔がな、頭の中や目を閉じた時に、ふと過るんだ。その顔を思い出したりすると彼らを無駄死にしてはならないさせてはならない、死んだ理由を俺が見つけてやらないとならない、そう思うこともある」

 

「俺が戦っている、戦い続けられる理由はこれらだ。皆が考えるような人類の為にとか言う崇高な理由で戦ってる訳じゃないんだ。何しろ、ウォール・マリア奪還作戦の時は本当に中央政府に対して腑が煮え繰り返るぐらいの怒りを覚えていたからな。と言うのが俺が戦う理由だ」

 

俺が要領を得ない、纏まりのない理由を話すと皆黙っていた。

 

「キルシュタイン、お前が歯を食い縛って、涙を堪えて、そんなにも調査兵団に入ったことを後悔しているのに、それでも戦おうとした理由はなんだ?」

 

「俺は……」

 

ジャンは強く、強くと手を握り俯いてそう零す。

 

「俺は、誰の骨とも分からなくなった奴に、失望されたく無かった……ッ!何が正しいのか、何をするべきなのかを、考えたんです……ッ!それが、調査兵団に入る事だったんです……!」

 

ジャンは絞り出すような声でそう言った。

と言うことは、恐らくマルコは死んでしまった、と言うことだろう。

 

そうか、マルコは死んでしまったか……。

 

俺は、全てを救える訳では無いと分かってはいた。

それでも心のどこかで、あれだけ巨人を討伐していたのだからマルコは生きているだろう、と勝手に考えていた。

 

しかしどうやら、そうはならなかった。

そうなっていたら恐らくこの場にマルコが居たことだろうから。

 

「そうか……、辛い事を言わせたな。すまない。他の皆も話せとは言わん。だが、少しでいいから戦う理由とかを考えてみてくれ。理由も無く戦うのと何か理由を持って戦うのじゃ全然違うんだ。その事をよく覚えておいてほしい」

 

そう締め括って、座学に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は、毎日の様に座学を中心に長距離索敵陣形の配置や壁外での非常事態の時の動き方や煙弾の色による伝達事項の違いなどを新兵の頭に徹底的に叩き込んだ。

 

新兵の長距離索敵陣形の配置は主に荷馬車護衛班と索敵支援班の中間、位置的には大まかに区分すると最前列から2列目の場所に配置される。

そこで予備の馬と兵装、そして伝達が主任務だ。

 

索敵班

 

索敵支援班

 

新兵達

 

荷馬車護衛班

 

荷馬車

 

と言った様な感じになる。

エルヴィンさん達は真ん中の荷馬車と同じ位置でエレン達特別作戦班はさらにその後ろ、後列中央に配置され待機、となる。

 

新兵達に伝えられたエレンの配置は各班などによってバラバラで、口外しないように、と厳命されている。

俺とミケさん、ハンジの分隊はそれぞれ索敵支援班の位置に配置され万が一奇行種などの侵入を許した場合に備える事になっている。

俺はその中で女型の巨人が現れてくる方向、右翼に配置されている。

と言うことは、俺の働き次第で女型の巨人に殺されるであろう兵士の数を原作の人数よりも大幅に減らすことが出来うる可能性がある、と言うことだ。

 

流石にリヴァイと同じレベルで戦えるとは言わないが、それに近しい、足止めや時間稼ぎ程度ならば可能だろう。

 

 

 

そしてエルヴィンさんから、俺を含めたウォール・マリア陥落以前から調査兵団にいるメンバー全員に呼び出しがかかり厳重な盗聴防止などを行った上で、壁外調査の目的が知らされた。

 

簡単に言えば、超大型巨人や鎧の巨人、もしくは同様に巨人化の力を持つ人間が他に居ると仮定してその人物らの炙り出しを行い、捕獲を目的としていること。

 

これは原作と同じで、如何なる損害を被ろうと万が一それらの存在が現れた場合は巨大樹の森に誘導する、と。

もし現れなかった場合は偽装目的地である旧市街地に向けてそのまま向かい、折り返して帰ってくる。

ただ、エルヴィンさん曰く、

 

「ほぼ間違い無く、仕掛けてくる」

 

とのことだ。

その意見に関しては同意できる。

 

何故ならばここに至るまでの流れが、確かに死傷者の数などが大きく減っていたり、死ぬはずだった人間が生きていたりと原作と違う点もあるにはあるがそれでも、大凡の流れが殆ど変わっていないからだ。

もし変わっているとしたら、極端な事を言ってしまえば同じ様に壁外調査なんて行われないだろう。

それらを考えるに、ほぼ間違い無く仕掛けて来ると見て間違いない。

 

エレンを奪取するには、壁内で事を起こすよりも確かに壁外で戦った方が良い。

理由としては壁内で戦うとなれば、調査兵団と言う精鋭だけで無く駐屯兵団、憲兵団の全兵団を相手取らねばならずそこに巨人化したエレンが加われば幾ら鎧の巨人と言えど敗色が濃くなる。

超大型巨人ならば、とはいかない。

何故ならば、超大型巨人はコストパフォーマンスが悪いからだ。

下手に巨人化しようものならエレンどころかライナー、アニをも吹き飛ばし、進撃、始祖、鎧、女型の4つの巨人の力を一気に失う事になりかねない。

それを考えると、下手に巨人化は出来ない。

 

ましてや生きて捕らえなければならないのだから単純に殺すよりも難易度は跳ね上がる。

 

しかし俺達は、巨人化薬を手に入れられていない現状、ただ殺す事にのみ注力すればいいから有利なのはこちらだろう。

捕まえて情報を吐かせようにも、女型はまだしも鎧は対抗手段がエレンの巨人化のみ、超大型巨人に至っては無いと来ているから殺す、と言う手段しか取り得ない。

 

と色々と考えると、相手からしても壁内で大規模な敵と戦うよりも幾ら精鋭の集まりだとは言っても長距離索敵陣形を展開していてそれぞれの兵士の距離が離れている調査兵団を壁外で相手取った方が楽なのだ。

だから、仕掛けてくるとすれば壁外調査のタイミング、それもある程度壁から離れて即座に撤退、もしくは救援を求められない位置、カラネス区とトロスト区の大凡4分の1ほど進んだ場所かそれよりも少し行ったところで仕掛けて来るだろう。

 

俺と同じように予想したエルヴィンさんは、仕掛けてきた場合その中間地点から東側に逸れたウォール・マリアに方向に少しばかり近付いて行った所にある巨大樹の森で、捕獲を狙う、との事だった。

 

しかしながら、問題もある。

 

まず巨大樹の森に到達するには、最低限以上の足止めと気を引きつけておく必要があると言う事。

壁内から巨人化して襲い掛かってくる、と考えると最短距離で襲撃するには右翼側からの襲撃となる。

 

もしエレンが左翼側にいる、としたら遠回りをして襲ってくるかどうか、と言う点に関しては分からない。

通常で考えれば、左翼側にいるエレンを狙うとしても右翼側から突っ込めば陣形内部に深く入り過ぎてそれこそ四方八方から襲われることになるし、その間に俺やミケさん、ハンジ、ナナバ、ゲルガーと言った調査兵団内でも上位に位置する実力者がエレンを探している間に集まって、身体の一部を硬質化出来ると言っても勝てる望みは薄くなる。

なんなら、その場で捕らえることも可能だろう。

 

こうなることを避けるには、遠回りをして左翼側から突っ込むのが最良の策だ。

しかしながらそうなっては巨大樹の森方向に逃げるということがやり辛くなる。

そりゃ普通に考えれば左翼側から脅威が迫っているのならば右翼側に逃げるのにそれに向かって陣形を突っ込ませるなんて、幾ら何でも無茶苦茶もいいところ、なんならエレンの所在地を掴まれかねない。

それよりも前に異変に勘付かれて、逃げられるかもしれない。

 

と考えると出来る限りの戦力を右翼側に集めて、エレンが右翼側に居るとした方が巨大樹の森に自然な形で誘導出来るだろう。

その様に結論付けたのは良いが、さてではそんな危険な任務にどの分隊を、誰を配置するのか、と言う問題が出てくる。

 

「……最も、時間稼ぎの成功率が高いのは俺か、ヴォルフの分隊だろう」

 

「あぁ、だから2人のどちらかに、右翼側を担当してもらいたい。恐らく今までの壁外調査や巨人との戦闘の中でも最も過酷で危険なものとなるだろう」

 

「……エルヴィンさん、俺にやらせてくれませんか」

 

「良いのか?ヴォルフ」

 

「はい、任せてください」

 

「……分かった。ヴォルフ、君に右翼側での時間稼ぎと足止めを任せる。だが、巨大樹の森に向かわねばならないと言う理由上、他の分隊から応援を差し向けることも、何も出来ない。それでも、構わないか?」

 

「えぇ、構いません。それが、現状取れる最善であろう事は理解しています」

 

「ありがとう、頼む」

 

右翼側を担当するのは、俺の分隊に決まった。

あとは、全力を尽くして被害を抑え、時間稼ぎをすればいい。

 

 

 

それとは別に、兵士に巨人化が出来る人間が紛れている、と予想したエルヴィンさんに恐らく103期訓練兵卒業の者の中か104期訓練兵の中に居るであろう、と説明された。

調査兵団内部なのか、それとも他兵団なのか、と言う問題に関してはどちらとも、と言う結論に至った。

それが、憲兵団であろうこともエルヴィンさんは完璧に予想している。

 

エルヴィンさん曰く、

 

「もし巨人の力が、くじ引きのようにランダムで与えられる能力であるのならばこの仮説は覆るが何かしらの方法によって引き継ぐような形で得られると言うのであれば、私だったら優秀な者に託す。それに各兵団の情報が集まりやすい、集めやすいのは憲兵団だ。だから、もし調査兵団以外に居るとすれば憲兵団だろう」

 

との事だった。

何よりも、調査兵団内に全員が集まってしまうと、巨人化の瞬間を見られてしまうしそもそも襲撃出来ない。

ならば調査兵団内部とそれ以外の、各兵団の中にそれぞれ、最低でも2人は存在するからそれぞれ1人ずつ存在する事になる。

実際は、憲兵団1人調査兵団2人、なのだがそれは伝えようも無いから、それを知っている俺がどうにかして上手く立ち回るべきだろう。

 

それに、エレンがどこに配置されるのかは機密事項だから、壁外調査の前日まで兵団内部でも公表されない。

しかしながら今回ばかりは、誘い出しその情報を他兵団にいるであろう仲間に、伝えさせるべく3日前に公表される事となりその翌日から調査兵団は、壁外調査を行う前に恒例となっている調整日を交代で設ける事になっているから、情報を伝えるには十分な日数と時間がある。

 

この世界においてはエレンの配置は右翼側とされ、女型の巨人は精鋭を集めた真っ只中に突っ込む事になる。

あくまでも、遭遇、襲撃を受けた場合は討伐を目的とせずに巨大樹の森に誘導するための時間稼ぎを主目的としている。

しかしながら幾ら調査兵団とは言え、普通にしていたのでは「時間稼ぎ=大損害」と言う事になる。

 

そこでエルヴィン団長は俺に今回の壁外調査に限り各分隊から分隊長を除いた好きな人間を好きなだけ配属換えを行うことを許可してくれた。

しかしながら、下手に実力者で固め過ぎてしまうとこちらの意図を悟られかねない為にそこそこの人数で留めておいた。

本来ならばミケさん辺りが居てくれれば討伐には至らずとも十分過ぎる時間稼ぎは可能なのだがそれは叶わない為に、多少の犠牲は已むを得ない、と腹を括った。

 

俺の直属である、第1班が出現時に主な迎撃と時間稼ぎを担当する事とし、俺を入れて7名の精鋭で構成することとした。

知性ある、なんなら巨人の急所や弱点を完全に把握しているから各分隊からの引き抜きは容赦無く、今回に限り完全に実力主義を貫かせてもらう事にした。

 

分隊長兼班長 ヴォルフガング・ビッテンフェルト

副班長 ネス(伝令と煙弾、状況判断役兼任の為戦闘には積極的に参加せず)

 

班員 ナナバ

   ゲルガー

   ケイジ

   ミーネ

   ケニング

   

 

以上のように編成する事にした。

本来ならばミカサも加えたかったのだが、疑いがある104期なので断念せざるを得ない。

 

この編成の主戦力となるのは俺とナナバ、ゲルガー、ケイジの4名である。それ以外の3名は、ネスを中心に煙弾による伝達や必要ならば口頭伝達、他にもガスや刃の補給など、支援に動く事を前提としている。

 

このケイジは、原作において女型を巨大樹の森で拘束した時、エルヴィンさんから爆破指示を受けていたやつだ。

こいつもウォール・マリア陥落以前からの生き残りでナナバと同程度の実力者だ。

女型との戦闘になったとしても、十分に活躍してくれるだろう。

 

ネスに頼んで5名に配属替えを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後。

エレンとリヴァイ以下特別作戦班が寝泊まりしている旧調査兵団本部に出向く事に。

今日は休日なので私服に着替えてもよかったのだが、一応任務としての体裁を整えなければならないので完全装備での出向だ。

 

現調査兵団本部から、普通に馬を走らせて30分程の位置に旧調査兵団本部はある。

この旧調査兵団本部には、俺も住んでいた事がある。いやしかし、本当にオルオがエレンに語ったように趣きだけは立派なのだが川からは離れているから壁外調査を主任務としている調査兵団からすれば、正直言って交通の面で見ると不便極まり無かったのだ。

 

壁外に出るまでは、外門付近まで船で馬と人員、物資を運ぶ。

下手に馬を疲労させたりすると、壁外でいざと言う時に馬が全速力を出せなくなるかもしれないからだ。

だから川から離れている事は望ましくなく、結果的に現調査兵団本部に移ったのだ。

 

馬を厩舎に繋ぎ、中に入る。

取り敢えず、旧調査兵団本部内で一番階級の高いリヴァイの元に行き到着を報告する。

 

「リヴァイ」

 

「なんだ、本当に子守に来たのか」

 

「まぁ、一応任務だからな。それに、エレンがお前に怯えているとか聞かされたら来ざるを得ないだろ」

 

俺にそう言われたリヴァイは、珍しく苦々しい顔をした。

いやはや、エレン達と関わってからと言うもの、リヴァイの珍しい表情を見る事が出来るな。

 

「なんでも良い、さっさと会いに行け」

 

「あぁ、そうさせてもらう」

 

「今頃は、向こうの森の辺りで訓練中だろう」

 

リヴァイが指差した森は、ここを本部として活動していた時によく訓練で使用していた、巨大樹が数本生えている森だった。

 

巨大樹と言うやつは、不思議なものでどう言う訳かある一定の場所以外には生育しないし、種や苗木を植えたとしても育たず枯れてしまうのだ。

 

何故そうなのか、理由は今のところ分かっていない。

土壌がどうとか色々言われているが、実際のところはどうなのか。

 

しかしどう言う訳か、旧調査兵団本部の近くにあるこの森には、数本の巨大樹が生育しているのだ。

これらから察するに、恐らく生育に必要な栄養分の関係なのではないか?と俺は考えている。

と言うのも、この巨大樹は生命力が半端じゃない。

高さが60mを超え人が十数人以上で漸く抱えられようか、と言うほどの太さの幹を根元から切り倒されようが、枯れるどころか2年ほどすれば元の大きさとは行かずともその半分程度には成長するのだ。

 

その生命力や成長速度、木そのものを維持するために必要とする栄養分は果てしなく多いと推測される。

と言う事は、下手にそこらに植えても栄養分が足りずに枯れてしまうのだ。

 

しかし、他の植物は巨大樹の森にはほぼ生育していない。

恐らくだが過度な養分は、人間もそうだが植物にとっても毒にしかならない。

だから、途方も無く栄養分が多すぎる場所には、巨大樹以外は生えないのだろう。 

 

ただ、そうだとしても説明が出来ないぐらいにはデカイし丈夫だし。

まぁ、あくまでも素人考えなのでどうかは分からないが。

 

 

この巨大樹の利用としては対巨人戦が主で、後は各兵団が最低でも1つ以上の巨大樹の森を所有し訓練に利用している事ぐらいだろう。

 

木材としては、余りにも巨大過ぎて使えない。

切り倒すのにも労力は尋常じゃないし危険過ぎる。

加工するにしても他の通常サイズの木より圧倒的に不便だし、それならば通常の木材を使えば良い、と言う訳だ。

 

 

そんな事はさておき、エレンは何処だろうか?

森の中に入り軽くふらふらと歩き回っていると、どこからともなく立体機動装置を動かす音が聞こえて来る。 

 

この辺りは、調査兵団の敷地内だからエレンは1人では無理だが誰かが付いていれば自由に出歩ける。

 

辺りを見渡すと、数本ある巨大樹の周りをエレン達が飛び回り俺に気が付いたのか全員がこちらに飛んでくる。

 

「分隊長!」

 

「エルド、久しぶりだな。元気か?」

 

「はい、お陰様で。しかし今日はどうしてここに?」

 

「まぁ、エルヴィンさんにエレンがリヴァイに怯えてるから様子を見て来てくれ、と言われてな」

 

「あぁ、なるほど……。おい、エレン」

 

ここにいる理由を説明すると、納得した顔で頷き上官と部下と言う関係上、下手に声を掛けられずにいたエレンが自分の上官である、リヴァイとエルドに許可を得て合法的、とは違うがそれはもう嬉しそうに駆け寄って来る。

 

「兄さん!」

 

「おいエレン!まだノルマをこなしてねぇだろ!」

 

「す、すいません!」

 

「訓練中に済まないな」

 

「いえ、問題有りません。寧ろ有難い限りですよ。何しろエレンは兵長を避けてまして。俺達とはそうでも無いんですが、やっぱり同性って事もあってペトラと、ペトラと仲が良いオルオとは仲がいいんですが……、俺とグンタはどうしたものかと困っていたんですよ」

 

飛び付こうとしているエレンは、オルオに訓練中のノルマを終えていないからと引き摺られていきグンタとオルオ、ペトラの4人で訓練を続けに行った。

 

隣に降り立ったエルドに謝るとまさかの事実が発覚。

まぁ、男所帯になりがちな調査兵団だから女性同士で連む事が多くなるとはいえ、エレンが置かれている状況だとそれは望ましく無い。

 

「リヴァイは仕方が無いとは言え、お前達まで怖がるのか?」

 

「それが、ここに来て直ぐにハンジ分隊長の指揮で巨人化実験をしたんですよ。ですが、巨人化出来ず、仕方無く休憩していたら突如エレンが右腕だけ巨人化しまして……」

 

「なるほど、それで抜剣したりして警戒したお前達に警戒心やら敵意を向けられて、と言う訳か」

 

「その通りです……」

 

「まぁ、お前達の気持ちも分からんでも無い。エレンの力は俺にだって分からないものだからな。俺がエレンとこうして恐怖心も何も抱かずに接していられるのは、産まれた時から知っていてその成長を見守ってきていたからだ。だが、エルド達はまだ出会って1週間程度だからな」

 

「リヴァイ兵長は、その時エレンを庇ったので当初よりはマシなんですがそれでも審議所での事が相当響いているらしく……」

 

「だろうな。俺だってそうなるさ」

 

「オルオは兄弟が大勢いるからか年下の扱いに慣れているのも相まって大体ペトラかオルオのどちらかと食事の当番だったりを組むのが多いです。オルオは兵長の真似をしている点を除けば、面倒見も良いですし取っ付き易いですからね」

 

そうエルドは話す。

うぅむ、しかしそうか……。

 

どうにかして、全員との仲を取り持ちたいんだがな。

どうするべきか?下手に行動しても余計にエレンのリヴァイ達に対する恐怖心が大きくなるだけだしな。

 

軽く、エルド達を擁護する程度にエレンに話すのが無難なところだろうか。

 

 

 

 

 

 

食事を済ませ、皆と話を弾ませているといつの間にか辺りが真っ暗になっていた。

この暗闇の中で馬を走らせるのは危険だから、と旧調査兵団本部に泊まることに。

緊急事であれば馬も走らせるのだが、そうではないのならば無理をする必要はないからな。

 

風呂に入り、着替えを持ってきていなかったから背丈が同じくらいのエルドに服を借りる。

流石に下着などは借りるのを憚られたので、そのまま使っているが。

 

別に同じ下着を着続けることは気にならない。

野営をしたり数日間ぶっ続けで戦闘した時に比べれば問題無い。

 

 

 

 

それからは、特に何かがあるでも無く皆が自分の部屋に戻った後エレンと2人で話す事に。

地下室に向かい、ベッドに腰掛けたエレンの正面に椅子を持ってきて腰掛ける。

 

「なぁ、エレン。そんなに、皆が怖いか?」

 

「……うん」

 

「それは、どうしてだか教えてくれるか?」

 

「その、ここに来て3日後ぐらいに、ハンジさんが実験をしようって言って実験をしたんだ。その時、巨人化出来なくて、その後に落としたティースプーンを拾おうとしたらいきなり巨人化して……。その時エルドさん達に、刃を向けられたんだ。それで……」

 

「それで、改めて俺って誰にも信用されてないんだ、って思って。リヴァイ兵長は庇ってくれたけど、本当はどうなんだろうって考えて……」

 

「審議所でボコボコにされたことも相まってか」

 

「うん……」

 

そう話すエレンは、原作でリヴァイに絶対に屈服させることが出来ない化け物、と言わしめた精神はどこへ行ってしまったのか。兵士である、と言うことを除けばそこらにいる女の子と対して変わらない、なんなら遥かにか弱く、頼りなく俺の目に写った。

 

そうだ、俺は今まで理解していた気になっていただけで、本当は理解出来ていなかったのだ。

今俺の前にいるのは原作のエレンではなく、この世界にたった1人しかいないエレンだ、と言うことを。

 

そんな極々当たり前のような事を理解できていなかった。

そりゃ当然、精神などが違ったりしても何らおかしくはない。

心の何処かで、常に原作のエレンを頭の中に浮かべていた。浮かべてしまっていた。

 

そう思うと、本当に申し訳なくなってくる。

 

エレンの、カルラさん譲りのミカサとはまた違った綺麗な黒髪をくしゃくしゃと撫でてやる。

 

「まぁ、なんだ、明日には帰らなきゃならないが、今晩は一緒にいてやるから」

 

そう俺が言うと、今まで我慢していたものが溢れ出すように、堰を切ったようにポロポロと涙を流し始めた。

どうやら相当寂しかったり、怯えながら過ごしていたり、色々と溜め込んでいたらしく泣きながら色々と話してくれたが俺には、話を聞いて慰めてやることぐらいしか出来ない。

 

昔から、小さい頃からやっているように軽く抱きしめて背中を叩いてやる。

大きな声で泣くのではないが、俺の胸板に顔を押し付ける。

 

泣き止むまでの間、と思っていたが1時間ほど経った頃ふとエレンを見てみると泣き疲れたのか寝てしまっていた。

しかも服を掴んで離してくれない。

 

「どうするか……」

 

1人、そう零したが誰も答えを返してはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

朝食を済ませて愛馬に跨り旧調査兵団本部を後にした。

帰ってからは休日と言う事だから、ゆっくりする事に。

母さん達に顔を見せに行こうにも、今から出てはそう長い時間を一緒に過ごせる時間も無いし何よりも明日から再び始まる新兵教育などに遅れる事になる。

 

だからしばらくの間は、母さん達には手紙を書いて送る事ぐらいしか出来無さそうだ。

 

しばらく会いに行けそうにない、と書いておかなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の展開、マルコの件について当初かなり悩みました。
と言うのも、生存させるかそれとも原作通りに死なせるか。

この作品を書くにあたり、プロットや大まかな話の流れは構想していましたが、どうしてもマルコの一件だけは決めることが出来ませんでした。
前回の投稿が1ヶ月ぶりになってしまったのは、そのマルコをどうするか、という事を決めるのに悩んでいたからです。

一応、生存ルートの話も投稿出来る程のものではありませんが書いて、その後の展開を予想してみたのですが……。

マルコを生存させた場合、必然的に主人公がエレンの護衛でなく囮作戦の方に参加することになりトロスト区奪還作戦時のエレンの護衛に就く事が出来ず、そうなると精鋭班の面々を生存させることが出来なくなります。
主人公がエレンの護衛に就くのは、実力的にも戦力的にも当たり前の命令であり、作戦の成功率の事を考えれば当然のことなので、ピクシス司令が囮作戦に主人公を投入する可能性は、まずもって無いと判断致しました。

更には今後の展開の為にどうしても、ライナーには原作と同じ、もしくはそれに近しい精神状況になって貰わねばならない、と判断した為に万が一マルコが生存したとするとその精神状況を作り出すことが出来ず、代わりにその精神状況にさせるには、別の誰かを死なせるなどと言った方法を取らなければならなくなる為、その後の展開に支障を来たす、と考えました。

主人公は、確かに強者ではありますが絶対的な実力の持ち主ではなく良くてリヴァイ兵士長と同程度。
実力順で表すならば、

リヴァイ>主人公>ミケ>ミカサ

となっております。
実際には確かにリヴァイに近しい実力を持っているとは言え、劣っているのが事実。
そのリヴァイですら、原作において全員を救う事は出来ないと考えています。

この作品には、

「誰かを救うには誰かを犠牲にしなければならない」

という作風というか、そのようなものがあります。
これに則った場合、間違い無く精鋭班とマルコの両方を救うことは叶いません。
と言うよりも、誰であってもどちらともを救う事は出来ないと思います。

他にも理由は幾つかありますが概ね上記の理由が主です。


この展開に対して数多くのご不満、批判などが読者の皆様にはお有りと存じます。
しかしながら、本作はこの様な展開が常であり今後とも無理の無い範囲でこの様に書いていくと考えております。

それでも構わないと、それでも続きが読みたい、欠片でも読みたいとお思いになられたのならば、どうか今後とも本作品をお読み頂けると嬉しく、有り難く思います。

長々と書き連ねてしまいましたがこれにて後書きを終いとさせて頂きます。
それでは、次話にてまたお会いしましょう。
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