原作キャラを救いたい。   作:ジャーマンポテトin納豆

9 / 12
お久しぶりです。







死闘

 

 

時が過ぎるのは本当に早いもので、新兵が入団して1ヶ月。

その間、やはり例年と比べ訓練期間が3分の1しかないと言うこともあって原作通り座学による訓練を中心に留まっていた。

実地訓練と言えば、長距離索敵陣形を実際に組んで行動する事を主としておりそれ以外の実地訓練と言えば最低限の立体機動訓練と馬術程度のみでそれも、身体が動きを忘れないように、と言うレベルだ。

それ以外の体力錬成は各人に任せている。

 

理由としては長距離索敵陣形は、図面の上で見る分にはそう難しそうには見えないが実際やってみるとかなり難しいのだ。

巨人を見つけたら、通常種か奇行種かを見分けて煙弾を打ち上げ、それをエルヴィンさんにまで伝達、エルヴィンさんが進路を決定したら緑の煙弾を撃つからそれも正確に方向を伝達しなければならない。

 

陣形はなるべく広く展開しなければならないし、しかも奇行種が出てきたら奇行種との戦闘をもこなさなければならない。長距離索敵陣形は、思っているよりもずっと緻密で複雑で、そして難しい。

 

それを本来ならば3ヶ月掛けて訓練するのに、今年はたったの4週間程度で訓練し、新兵に実戦でやらせなければならない。やってもらうのでは無く、確実にやらせなければならないのだ。

休日が毎週1、2日程度はあるとは言え、訓練は当然と言えば当然であるが必然的に厳しく、苛烈になった。

 

座学によって頭に自分の配置や役割、やることなど陣形を構成する上で必要となる事を徹底的に叩き込んだら、次は僅か1週間だけで実際に先輩上官達に混ざって実地訓練を朝から晩まで行い続ける。

例年であればもっと余裕があるのだが、何度も言うが今年は全くもってそんな余裕は無い。

当然、それに付き合わざるを得なくなる先輩上官達の機嫌も、新兵が失敗すれば悪くなる。

いや、今年はそのご機嫌取りが一番苦労した。

まぁ、俺にぶつくさ文句を言う訳では無いがフラストレーションが溜まって新兵に当たられたら俺としても新兵としても堪ったもんじゃない。

 

しかしながらやはり、怒鳴る回数は増える増える。

特に頭の回転が悪いコニーは特に、覚えが悪いし教えても覚えないわでそりゃぁ、もう怒鳴られに怒鳴られていた。

まぁ、頭で覚えるより身体で覚えたらしくどうにかなったが心配だ……。

サシャは、別に馬鹿と言う訳ではない。頭は悪いがコニーほどでは無い。馬鹿ではある。ただ意味が違う。

勉強が出来ない馬鹿と言う意味では無い。ただし、特別頭が良いでも無い。

まぁ、可もなく不可もなくと言った所だ。

 

 

八つ当たり、と言う側面もあるにはあるのだろう。

だが全員が一番大変なのは新兵だと、皆が分かっているがそれでも怒鳴り声は止まない。

何せここで手を抜いてしまえば、壁外に出た時にどうなるかは分かりきっている事だ。

この訓練での、新兵の出来が壁外での自分自身だけでなく、仲間達の生死に直接関わって来るからこそ、壁外で巨人がどれほど自分達よりも強大な相手かを嫌と言うほど知っているからこそ、誰であろうと手を抜く者は誰一人としていない。

 

手を抜いたが最後、壁外に出れば巨人の胃袋に直行だからだ。

 

ならば、八つ当たりだろうと怒鳴ってやった方が命懸けとなる調査兵としては生き残って行ける。

 

 

 

 

 

 

 

「判断が遅い!その一瞬で2人は死んだぞ!!」

 

「馬の足を止めるな!!止まったら巨人の餌食だぞ!」

 

「煙弾を斜めに撃ち上げるな!出来るだけ遠くに見えるように撃ち上げろ!でないと団長の進路決定が遅くなる!!」

 

「大馬鹿野郎!自分の配置を忘れたのか!?なんでそんな場所にいる!?」

 

最後の1週間。

 

予定通り実地訓練として新兵を混ぜて長距離索敵陣形を構築し馬を走らせる。

俺を含めた教官全員が新兵を固めて配置しているから、その間を走り回り怒号と罵声を浴びせ続けた。

 

それらの、ともすれば訓練兵団での日々の訓練よりもキツかったかもしれない訓練を1ヶ月間。

新兵達からすれば、卒団したら楽になると言われていたのに嘘じゃないか!と叫びたくなる様な地獄の日々だったろう。だがしかし、それが巨人が支配している領域で生き残っていく為の唯一無二の手段なのだから、諦めてもらうしかあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、新兵諸君。今日を以て新兵教育を終了する。これより配属分隊と班を発表するから翌日からはそちらでの指揮に従うように」

 

ようやく新兵教育が終了した。

予め決められていた新兵全員の配属される分隊と班を伝え終える。

 

「これをもって新兵57名の指揮を解く。それでは解散」

 

「「「「「「はっ」」」」」」

 

新兵達の指揮を解き、それぞれの配属先の分隊に指揮権を移譲して俺の新兵教育の仕事は終わりだ。

新兵達を解散させ、教場に俺をはじめとした教官だけが残る。

 

「「「「「「「はぁぁぁ……」」」」」」」

 

全員が、どっと疲れに襲われて新兵達が先程まで座っていた椅子にヨロヨロと腰掛ける。

 

「いやぁ……、今年も漸く終わりましたな……」

 

「今年は1ヶ月に全部詰め込みましたからね、例年よりもキツい」

 

「私なんて痛み止めと塗り薬が手放せないですよ」

 

「痛み止めで抑えられるなら、まだいい。最悪、壁外調査に支障が出るかもしれん。もしその可能性があったらしっかりと俺に報告しろ」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

口々に疲れた、手首が……、肩凝りが酷くて気持ち悪いやら頭痛い、明日からの休みは寝て過ごす、などなどと出てくる出てくる。

 

本当にこの時期は大変なのだ。

何しろ新兵それぞれの評価や性格などを兵士としての力量や適役となるであろう配置も考えなければならないしそれに伴って一人一人の事を記した書類も書かねばならない。

前世のようにパソコンでキーボードを叩いて、プリンターで印刷することなんて出来るわけもなく、一枚一枚自分で書かねばならない。

しかもコピーするにしても、兵士の情報が載っているわけだから、そう易々と民間に頼むわけにもいかない。

となるとこれもまた自分で書かなければならないのだ。

 

パソコンのタイピングですら長時間続けると腱鞘炎になりかねないのに、全ての作業が手書き、というのはある意味で巨人と戦うよりも辛い作業だ。

 

しかも団長や各分隊長、班長に渡す為に期日に間に合わせないといけないから夜通し徹夜なんて当たり前だ。

まぁ、そう言うのは実地訓練がない座学の日に限ってやるのだが。

でなければ新兵の前で俺達が倒れる事になる。

 

 

まぁ、その辺は各班長と一緒になってやっているからまだ楽なのだが、これが100人も新兵が入って来たとなると、俺達教官はこれ以上の地獄を味わう事になる。

最悪腱鞘炎になって暫く刃を振るえなくなるレベルだ。

 

いやはや、失ってから気がつくとはよく言ったものだが前世が如何に便利な物で溢れていたかを、この世界に来てから常々思い知らされるばかりだ。

 

しかし、前世と変わらず毎日暖かい風呂に入れるのはありがたい。

この世界は、と言うよりもパラディ島全域が資源に恵まれている。

もっと詳しく言えば特にこの壁内には立体機動装置でも使われているガスが、それ以外の鉱物から水、木に至るまで資源に物凄く恵まれている。

それこそ前世で考えればどれほどの価値ものになるか分からないぐらいの埋蔵量を誇る。

下手をすると資源にもよるだろうが世界埋蔵量の内の相当数を占めるかもしれないぐらいには。

 

一般市民の家々は未だに薪を燃やしての料理だったり暖を取ったりしているが、貴族階級や一部の特に金持ち連中、それと兵団はそのガスを使って湯を沸かす事が出来る。

風呂に入れるか否か、と言うことは士気に大きく関わっている。

そりゃ誰だって泥塗れ汗塗れ、それこそ鼻水小便唾液、下手すると糞を漏らしかねないし、何処から出てきたのか分からない体液塗れになるぐらい、兵士、特に調査兵団は過酷だ。

良い例が、オルオとペトラが初めての壁外調査で小便を漏らした事だろう。

 

 

調査兵団>訓練兵団>駐屯兵団>憲兵団

 

以上の様にそれぞれの順位で兵団は過酷だ。

誰だって戦場に出たりして戦友上司部下同僚の死を目撃したり、死ぬレベルの訓練を行った後にそのままで過ごせ、寝ろと言われたらやる気もクソもなくなる。

 

考えてみてほしい。

確かに兵士だから戦場に出れば数週間風呂に入らないなんて言うのは十分に想定出来るし、下手をするとその日の飲料水にすら困りかねない状況だ。

 

そんな状況で、戦場から帰って、真っ先に何がしたいか?と聞かれたら大抵は美味い物を食いたい、とか風呂に入りたい、だろう。

しかも俺達が戦っているのは、巨人という自分達の尺度で測るのが馬鹿らしくなるぐらいに強大な相手だ。

そんなのを相手にしているのだから、人間同士の戦争も過酷だが銃弾の1発撃ち込んでやれば大抵は死ぬ。

だが巨人は頸以外に弱点が無く、しかも立体機動装置という戦闘機に乗っているようなもので飛び回って戦わなければならないから過酷だ。

どちらの方がより過酷か、というのは何とも言えない。

何せ俺は、巨人としか殺し合ったことがないのだから。

 

元は人間とは言え、どうにもその辺は感覚が麻痺、いや狂って来ているらしい。

 

 

話を戻そう。

誰だって身体中汚れまくっている状態で日常生活を送るのは嫌なものだ。

衛生的な観点からも最悪と言っていいし、士気にも関わる。

 

まぁ、この世界は衛生学なんてのはまるで無いから士気の観点でしか考えられていないのだがそれでも士気を維持するべく、兵団の宿舎にはガスを用いて湯を沸かすことができる様になっている。

でなければ士気は下がるし、伝染病なんかも流行るだろう。

しかも何よりも辛いのが冬が到来した時だ。

このパラディ島は四季がある。と言っても前世の日本の様に桜があったりするわけでは無いので体感し辛いが、ともかく四季がある。

ただし夏と冬の寒暖差が、日本よりもずっと激しい。毎年雪は降るし、かなりの降雪量だ。

トロスト区やシガンシナ区がある南側はそうでもないのだが、北側に近付くにつれて降雪量は増える。

 

南側だと、場所にもよるが積もっても10〜50cmとさほど積もらない程度なんだが北側に行くと、余裕で1〜2mなんて軽く越すし山などになると数m余裕で積雪する。

それぐらい、俺達が生きている世界は厳しい。

にも関わらず、雪が積もろうとなんだろうと壁外調査は行われる。

 

そんな中で、地上に置いてある水ですら表面が凍るほど冷たいのに、井戸から汲み上げたより冷たいであろう水なんかで身体を洗ったり拭いたりすれば、どうなるか。

 

結果は火を見るよりも明らか、全員風邪を引いて死んでしまうか凍死する。このパラディ島の冬は本当に厳しい。

 

しかも医療が発展しているとは言い難いこの世界では、前世では少なくとも若者は死ぬ事がなかった風邪だって致命的だ。

毎年冬にどれだけの人間が冬を越せずに死んでいることか。

 

それを考えると、壁を破られた人類は巨人に唯一対抗しえる兵士達を、しかも莫大な費用と3年という月日を掛けて育成した兵士を風邪やら寒さで死なせる訳にはいかない。

だからこそガスで湯を沸かす装置が兵団の風呂には備えられている。

性能は比べるまでもないがガス式給湯器みたいなものだ。

 

更には石鹸も支給される。

品質なんて比べるまでもないが一応兵団用に大量生産されている石鹸も支給されているので時代的に比べても衛生状況などは相当マシだと俺は考えている。

同年代の前の世界、ヨーロッパなどははっきり言って酷い。

それと比べれば、遥かにマシだろう。

 

本当に良い石鹸が欲しいのなら休日に街にでも出て買いに行けば良い話だしな。

 

俺は家族への仕送りに使ってしまっているから買う余裕は無く、支給品の石鹸を使っている。

汚れを落とすだけならば支給品の石鹸で十分、泡立ちやら匂いやらを気にするならば街に買いに行けば良い。ウォール・シーナに出れば、値段は高いがモノはある。

原作で、リヴァイが言っていたがあるところにはあるのだ。

 

当然、俺を含めた男どもは気にしないが女性陣は物凄く気にする。

女性兵士達は街に出て、それこそウォール・シーナにまで繰り出して石鹸などを購入しているらしい。

確かナナバやペトラもそうらしい。

香水も買うとかなんとか言っていたな。

 

買い物に付き合わされたオルオがげっそりした顔で言っていたのを覚えているからな。

どの世界どの国でも、女性というのは買い物が長いらしい。

 

この世界の男は、前世のように肌の手入れやらなんやらと言った身なりに気を使うなんてのは相当稀だからな、理解し難いって言うのも分かる。しかもそう言うのに限って値段が高い。

なら酒や食事、人によっては女に金を使いたくなるものだ。

 

俺に至っては仕送り分を引いて、残った額で必要なもの以外を買う、と言う事すら面倒になって来ているから十分にこの世界の男達の気持ちは分かる。

ただ、せめてリヴァイほどとは言わないが歯磨きぐらい丁寧にやってほしいものだ。

兵団は噛む力と言うのが踏ん張りなどの力を出さなければならない場面で必要だから割と磨くんだが、民間になると歯を磨かないなんて当たり前だ。

だから、まぁ、何というか、口臭がキツイ連中が多い。

兵士だと歯ブラシが支給される、と言う点も関わっているんだろうがそれでもだ。

 

この世界は歯磨き粉なんて贅沢なものはない。

精々炭を砕いたもので磨くぐらいだ。最初はもう、何とも言えない不快感が襲って思いっきり吐いたが慣れればどうと言うことはない。

トイレだって水洗式だから態々汲み取らなければならないなんて事も無い。

 

まぁ、ともかく何度も言うがお陰で衛生環境は同時代の地球と比べると遥かに良いだろう。

それでも前世と比べてしまうと劣るからその辺りは困り物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな話はさておき。

目下の課題は、女型の巨人相手にどうやって被害を少なく、そして巨大樹の森に誘導するか。

 

俺が選抜した面々で直接足止めすることは決まってるが、どうやっても力量不足だ。

自惚れているわけではないが、俺だって兵士としてはリヴァイに次ぐ実力を持っている。ミカサよりもまだまだ強い。ゲルガーやナナバだって決して弱くはないし、寧ろかなり強い方だろう。

だがそれでも、今回の任務は困難極まりないものだと断言できる。

 

女型の巨人と戦闘を行う、しかも討伐では無く巨大樹の森へ誘導するために適度な足止めだ。

第一、討伐は硬質化の能力があるから無理なんだか、それを差し引いても単純に討伐を狙うよりも難しい。

 

例を挙げるとすれば、通常種の巨人を捕獲するのと同じ様なものだ。

まぁ、難易度は比べるまでも無いが。

 

何が難しいかと言うと、今も言った通り討伐ではなく足止めが目的であり誘導しなければならないことだ。

ただ殺すだけなら頸を削ぐだけで事は完結する。

だが、捕獲するとなると、頸は狙ってはならないからそれ以外の動きを止め得る弱点を、しかも四肢全てを動かせない様に正確に削ぎ、修復するまでの短い間に拘束を完了しなければならない。

まぁ、ハンジの考案した拘束具であればポイントまで誘導さえすればより簡単に、安全に出来るがそれでも他の巨人を寄せ付けない様にしなければならないから難易度は高い。

 

しかも今回相手にしなければならないのは、巨人化した人間だ。

当然のことながら知性もあるし、アニ・レオンハートという作中屈指の格闘能力の持ち主でしかも、立体機動装置の動きや弱点を熟知している相手だ。

通常種や奇行種を相手するのとは、訳が違う。

 

討伐ですら硬質化の能力があって困難極まりないのに、討伐では無く足止めをして尚且つ指定のポイントにまで誘導しなければならないのだ。

鎧の巨人の様に全身を硬質化させて守っているわけでは無いが局所における硬質化があるし、なんなら運動能力は知性ある巨人の中でも、訓練兵団で格闘訓練において明らかに手を抜いている事は間違い無いのであろうが、主席であったエレンを凌駕している。

恐らく、巨人化したエレンと女型の巨人が純粋に1対1を行えば負けるのはエレンの方だろう。

 

そんな奴を、俺を入れてたった7人で戦う事になる。

いや、実際には俺、ナナバ、ゲルガー、ケイジの4人だけで戦わなければならない。

ネス達も戦闘に参加させようと思えば、参加させられるのであろうが本人達の実力は明らかに女型の巨人と戦うには足りていない。

それを考えるならば下手に参加させて混乱したりするよりも、援護に徹させた方が賢明だ。

 

一番楽に戦える方法は、腱や脊椎といった弱点を確実に削いで時間稼ぎを行いつつ誘導すること。

だが、原作でも描かれている様に通常種や奇行種は損傷した箇所が複数ある場合全て同時に修復し始めるが、女型などの人間が巨人化し、尚且つ巨人の身体の扱いに長けているのであれば修復する場所を自分の意思で限定出来る。

 

原作においてグンタ達が殺された時、両目を潰したが片目だけ修復再生していたのが良い例だろう。

 

 

さらに言ってしまえば鎧の巨人は、手の損傷、正確には指から掌の真ん中あたりまで喪失したのにも関わらず瞬時に修復していた。

それらの事を考えるに恐らくは、女型の巨人がそうとも限らないが腱や脊椎と言った直接的に行動に関わる場所以外であれば修復は巨人化の練度にもよるだろうが速さは思いのままに行えると考えておいた方がいい。

いや、急所も修復時間は思いのままと考えておかねばならないだろう。

 

一度の戦闘で最低でも20から30秒は稼がないと陣形が方向を決める事が出来ないし誘導も不可能だろう。

と言う事は、1箇所を削ぐだけでは不十分、いやそれでも凄い事なのだろうが欲を言えば同時にとは行かずとも2箇所は削がなければならない。

 

ただ口にするだけなら問題無いだろう。

だが実際に行うとなれば、全く次元の違う話になってくる。

知性の無い、所謂無垢の巨人ですら相手取るのは難しいと言うのに。

 

更には、先程も言ったが運動能力が桁外れに高い。

原作でも言われていた事だが、3箇所同時にアンカーを刺されて回避する為にジャンプをするなぞ、誰が予想出来ようか?

蹴りや殴った時の速度も馬鹿にならない。

 

他にも難しい点は幾らでもある。

その1つが、どれぐらいの深さで削がなければならないか、と言う点だ。

 

刃の刃渡りは90cm。

それにグリップの部分を合わせると大体110cm程の長さになる。

確かに人間が扱う刃物としては十分な長さを持っているしその強度も申し分無い。

 

だが考えてみてほしい。

相手は巨人、いわば人間が巨大化した存在だ。

当然全てが大きくなっているから急所の大きさも大きい。

頸を除いてだが、脊椎や腱の大きさは巨人本体のサイズが大きくなるにつれて比例して大きくなる。

 

例えば脊椎、背骨などで考えてみても太さは15m級と比べると何十倍何百倍の大きさになる。

と言うことは、その脊椎を削いで動きを止めようとしたならば、深く削がねばならない。頸にもこの事は当てはまる。

 

と言うことは、15m級巨人で考えてみると。

20代の男性の平均的な肩幅を大凡45cmである。

これを巨人で考えてみると単純に15倍して計算して6m75cm。

個体差もあるから一概には言えないが、大体5m〜8mないし9mと見積もる。

それに伴い背骨も15倍する。

太さにばらつきも当然あるだろうが、3〜5cmで考えてみる。

3cmでも45cm。4cm程度で考えても60cm。5cmで考えた時は75cmにもなる。

と言うことは、巨人のサイズにもよるが女型の巨人は最低でも深さ70cmは削がねばならない。

 

刃渡り90cmの刃で、70cmの深さを削ぐ。

これがどれほど困難で尚且つ危険なことか、想像出来るだろうか。

しかも相手は運動能力に優れた女型の巨人。一筋縄では行かない。

 

しかも問題は女型の巨人だけじゃない。

女型の巨人が引き連れて来るであろう、大量の無垢の巨人も同時に何とかしなければならない。

これらの問題の解決策なんぞある訳もなく、だがしかし、考えなくて良いと言うわけではない。

 

さて、本当にどうしたものか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからずっと考えたものの、結局答えは出なかった。

無垢の巨人に対しては、申し訳ないが俺の部下達に対応して貰わざるを得ない。

 

そうなっては、死傷率は大幅に上がる事だろうが堪えるしかない。

 

「分隊長、いよいよですね……」

 

「あぁ。……緊張しているか?」

 

「そりゃぁ、勿論。いやはや、今までなんだかんだと生き残ってきましたが、今日が最後かもしれませんな」

 

「馬鹿な事を言うな」

 

「はっはっは、こりゃ失礼」

 

隣に並んで馬に跨っているネスは、緊張から顔が何時もの壁外調査と比べると明らかに顔が強張っている。

俺やネスのその後ろに並んでいるナナバやゲルガー、ミーネ、ケニング達も同じ様に新兵と同じぐらいか、それ以上にガチガチだ。

 

「お前達、そう固くなるな。いざと言うときに動けなくなるぞ」

 

「いえ、ですが……、分隊長は怖く無いんですか?」

 

「何を言ってる、怖いに決まっているだろう」

 

「なら……」

 

「だが、そうも言っていられないだろ、俺達は。なら、その恐怖をどうにかしてでも押し殺して前に進み続けるしかない。いいか、俺達の働きが皆の命だけじゃない、人類の命運すらも握っているんだ。なんとかするしかないだろう」

 

「それに、俺には死ねない理由があるからな。その為に、足や腕を喰い千切られようがなんだろうが何があってもお前達を連れて今回の壁外調査も、生きて帰ってくる。いいな?」

 

「「「「「「はっ!!」」」」」」

 

不安そうにしている皆を、どうにかして鼓舞して。

そして、俺も外門を見据えて覚悟を決める。

 

 

 

 

「かいもーん!!!かいもーーーーん!!!!」

 

その大きな声と共に、外門が重々しい音を上げながらゆっくりと開く。

 

「これより、壁外調査を開始する!!!前進せよ!!!」

 

エルヴィンさんが、外門が開き切ったのと同時に声を上げた。

先ず先頭を、俺とミケさんの分隊が走って進み、旧市街地を駆け抜ける。

その後に続いてエルヴィンさんの司令班や荷馬車護衛班、荷馬車、そして特別作戦班が順々に外門から出ていく。

 

旧市街地を抜けると、すぐに開けた平原に出るから先頭の俺とミケさんの分隊が一番最初に長距離索敵陣形を展開し進む。

 

 

 

 

 

それから暫く馬を走らせた頃。

位置としては3分の1程度を進んだ辺りだ。

途中巨人と索敵班が接敵したり、陣形内部で索敵で取り零した巨人との戦闘も何度かあったが概ね順調。

やはり、巨人の数が少ない。

最初から南側から出発するのとでは、明らかに遭遇率が低い。

 

そう思っていた時の事だった。

先ず最初に、俺の分隊が担当している右翼初列索敵班から奇行種発見を知らせる黒の煙弾が撃ち上げられた。

 

それから、数分してだった。

突如として右翼初列索敵班の彼方此方から巨人発見を知らせる赤の煙弾が次々と撃ち上げられる。

 

「なっ、前方から多数同時接近!?」

 

ネスが驚きの声をあげる。

それと同時に、内側の方で黒の煙弾がまた何度か立て続けに撃ち上げられた。

恐らく陣形深くに突っ込んできている。

 

これの意味する事はただ一つ。

 

「ミーネ、エルヴィン団長に直接口頭伝達。右翼にて目標接敵、ビッテンフェルト班これより作戦行動に入る、と」

 

「!!……了解!」

 

ミーネにエルヴィン団長に直接伝えるように馬を走らせた。

俺にそう言われたミーネは、覚悟を決めた様で一目散に向かっていく。

馬の速度はかなり速い。

 

「分隊長!」

 

「いよいよだ、ここからだと巨大樹の森まで距離があるが、なんとしてでも時間を稼がねばならない。皆、覚悟は決めたな?」

 

「勿論、とっくに決まってますよ!!」

 

「行きましょう!」

 

「よし、行こう!」

 

皆の顔をぐるっと見回して、そして女型に向けて俺達は進路を取る。

 

どうやらこちらに向かって走っていたらしく、ものの数十秒程度で視界に収めることが出来た。

女型の足下には、部下が数名馬で走っており今にも立体機動を仕掛けようとしている所だった。

 

「お前達!!」

 

「分隊長!?」

 

「こっちへ来い!」

 

飛び掛かろうとしていた部下達を呼び寄せる。

 

「何が起こっているんですか!?こいつが現れたと思ったら何十体も巨人を引き連れて来やがった!」

 

「しかもこいつは馬鹿みたいに強くてもう何人もやられました!」

 

どうやら女型とは既に何度か部下が交戦し、そして殺されたらしい。

呼び寄せた部下達は皆混乱していて、何が何だか今何が起きているのか分かっていない。

 

「索敵班の様子は?」

 

「巨人との戦闘で手一杯です!数が多くてそう長くは持ちません!!」

 

「分かった。お前達は索敵班の方に向かって援護、巨人との戦闘は極力避けつつエルヴィン団長の進路決定に従え、と伝えろ」

 

「ですがアイツはどうするんですか!?このまま野放しにしたら陣形深くまで潜り込ませることになってしまいますよ!?」

 

「アイツは、俺達でやる。だからお前達は行け」

 

「ですがッ……!!了解ッ!!」

 

どうやら分かってくれたようで、グッと歯を噛み締めてから頷き索敵班の方に馬を全速力で走らせて行った。

 

「それでは、これより任務を開始する!」

 

俺の声と共にゲルガー、ケイジが女型の左後方に。

俺とナナバは右後方に位置を取り、ネス達は支援がしやすい位置にそれぞれ陣取る。

 

まずは、どれほどのものか様子を見る為に、俺が仕掛ける手筈になっている。

さて、どうするか。

下手に仕掛けてもワイヤーを掴まれて終わりだしよしんば腕や足の稼働範囲外から仕掛けたとしても運動能力が高いからあっさりと振り向かれるなり足や腕で薙ぎ払われてあの世行き。

かと言って何もしないわけにも行かない。

こうも木や建物が無い場所で戦うとなると、やり辛くてしょうがない。

 

仕方が無い。

手信号で全員に煙弾を撃つ準備をさせる。

原作で、女型の巨人や獣の巨人との戦いの時にやった様に煙弾で、望むべくは視界を奪う、最低でも姿勢を崩すことぐらい出来れば、なんとかなる。なんとかする。

 

ナナバ達に、もう一度手信号でその様に伝えて背後に回る。

恐らく気付かれているだろうが、それでも真後ろから仕掛けられたら人間であろうと巨人であろうと対応するのにコンマであろうと多少なりとも時間が掛かる。

そこを煙弾と組み合わせて、突く。

合図は、俺がジャンプした時。

そのタイミングであれば、アンカーを射出して刺すことぐらいの時間はある。

 

抜刀して馬の上に立ち、機会を窺う。

下手にやれば、間違い無く死ぬ。

一度限りのチャンスだ。

 

呼吸を整え、女型を見据える。

周りを見つつ、離脱する時に使えそうな木があれば、なるべくそこで仕掛けたい。

 

!見つけた。

 

ジャンプする。

 

その瞬間、周りを取り囲んでいた皆が煙弾を顔から身体にかけて満遍なく撃ち込んだ。

右側のアンカーを肩に刺し、一気に巻き取る。

このアンカーの刺し方であれば、本来は頸を直接狙う方法だが。

 

今回は頸を狙わない。

肩の筋肉を狙いつつあわよくば脊椎を。

無理だったとしても、何処かしらは削ぎたい。

 

女型が反応して振り向きながら腕を振るったその時には、肩を捨て脊椎を狙うべく既にアンカーを外してもう一方のアンカーを背骨を少し超えた辺りに撃ち込む。

そのままガスの噴射を強くして、一気に速度を増しつつ脊椎を深く、大きく削ぐ。

 

一連の動きは、恐らく2秒と掛かっていない。

多分、その半分ぐらいの1秒程度の出来事だろう。

リヴァイならばいつでもこの0・5秒で斬撃を3回は行えるが、これからの事を考えれば流石に無理だ。

ならば、一撃に全力を賭けるしか他に無い。

 

 

手応えはあった。

予め、目星を付けておいた木にアンカーをもう一度撃ち込んで素早く離脱する。

 

振り返って見ると、女型の動きが止まり前に倒れつつあった。

動きが止まったその隙を当然見逃すはずが無い。その隙を突いてナナバとゲルガーがタイミング良く脇の下を削ぐ。

ケイジとネスは、腱を刈り取った。

そして、ケニングが好機と見たのか飛び上がって頸目掛けて刃を振り下ろす。

連携としては完璧と言っていいだろう。

 

特に俺やネス、ナナバは新兵教育に携わっていたから碌に連携訓練をする暇も無かった。

だが、皆が上手く合わせてくれた様だ。

 

しかし。

金属同士を勢い良くぶつけたような、弾かれた様な甲高い音と共にケイジが振るった刃は簡単に弾かれた。

 

「離脱!!」

 

脊椎は、ありとあらゆる生物が生きる上で重要な神経などが多く通っている。

そして背骨は身体そのものを支えていると言っていい。

 

そんな場所を一番に削がれたら、一瞬にして四肢麻痺、要は体を動かすことができなくなる。

欠片も力を入れることができないし、この世界で考えれば寝たきり生活は余儀なくされる。前世の世界でも車椅子生活が関の山だろう。

それは、再生するとはいえ巨人も同様だ。

一時的に全身の動きを止められてしまうことに違いはない。

 

仕留める方法が頸を削ぐしかない事と、頸を確実に捉えて削がなければ延々と再生修復し続ける事以外は人体の構造と、そう対して変わらないし、弱点も同様だ。

脇の下だって腕を動かすために必要な神経が多く通っているから削いでしまえば、人間ならば一生腕は使い物にならないし巨人でも修復するまでは指先さえ動かせない。

腱は歩けなくなる。

 

頸も人間で置き換えれば、削がれたらそりゃ死ぬだろう。

だから狙うならば人体と同じ急所を、と言うのは極々当たり前の事だ。

幾ら神経系の事などが分かっていない時代とはいえ、経験則に基づく事として弱点として伝えられている。

 

それは、訓練兵団で座学で学ぶ事だし、調査兵団になれば必ずと言って良いほどそこを狙うように、と新兵教育で叩き込まれる。

 

しかし、脇の下というのは本来であれば狙えない。

 

何故ならば腕という存在があるから。

腕が下に伸びているのだから自然と守られていて狙える物ではない。

巨人が馬鹿みたいに飛び回る俺達に腕を伸ばせば狙えるが、今回は脊椎を失って、バランスを崩した時に俺に目掛けて振るった右腕と頸を守った左腕で、完全にガラ空き状態で転倒したのだ。

そんなもの、四肢の自由が効くのならば脇を閉じるなりして守ことができるだろうが、脊椎を失って四肢麻痺に陥った状態で脇を曝け出していたら、どうぞ狙ってくれと言っている様なもの。

当然、見逃すほど俺達調査兵は甘くない。

 

僅か数秒の間に行われた一度目の戦闘の勝者は俺達だった。

 

 

 

 

「分隊長!!」

 

嬉しそうに全員が駆け寄ってくる。

だが、ここに長くいるわけにもいかない。

 

本当は、今すぐにでもエルヴィン団長を呼び寄せて、ハンジやリヴァイも呼んでコイツを捕獲したい所だがいかんせん、場所が悪すぎる。

拘束具を撃ち込める建物や木は無く、巨人を呼び寄せられたら一瞬にして取り囲まれて終わりだ。

 

地面に降り立つとどっ、と汗が溢れてくる。

顔の汗を、袖口で拭う。

 

「あぁ、上手く行った」

 

「で、コイツはどうしますか?」

 

「捕獲したいが……、機材も無ければ場所も悪い。止めを刺して本隊と合流しよう。随分と離れてしまっているらしい」

 

煙弾が撃たれて、どうやら巨大樹の森に向かって陣形を進めているらしいが、緑の煙弾が撃ち上げられた位置と馬が走った時に起きる土煙から察するに最後尾から最低でも4kmは離れてしまって完全に俺達は孤立しているらしい。

 

早急に合流しないと、不味い。

 

しかし当然、この事は想定済み。

それにこの会話も全員分かっている事だが芝居だ。

 

演技が下手くそなゲルガーとネス、ケイジは周囲を警戒するふりをして会話に参加していない。

今会話しているのは、俺とナナバ、ケニングだけだ。

 

「ですが、先ほど刃は弾かれていましたよ?如何なさるおつもりですか?」

 

「……もう一度、頸を削いでみてくれ。それで駄目だったならば、全身を切り裂いて暫く動けなくしてここに置いていく」

 

「了解しました」

 

そう言って、ナナバに指示を出し頸に刃を振り下ろさせるが予想通り弾かれた。

 

「仕方が無い、全身ズタズタにして暫く動けないようにしてやれ。そうすれば実害は無い筈だ」

 

「了解」

 

結局その後、脊椎から腕、足、腰、顔面、身体中至る所の筋肉を削ぎ落としてその場を去った。

 

 

 

 

「この後、どうしますか?」

 

「どうするも何も、任務続行だろう。間違い無く、また仕掛けて来る」

 

「ですが、先ほどあれだけ痛め付けたのですから仕掛けて来るとは……」

 

「いいや、間違い無く来るだろうさ」

 

「何故そう思うんです?俺には分かりませんがね」

 

「俺にだって分からんさ。だがヤツの目を見た時、何か執念じみた様なものを感じた。恐らくエレンを攫うまでは絶対に手を引かない筈だ」

 

「よしんばもう一度仕掛けてきたとして、俺達のとこに来ますか?普通なら避けて別の所から仕掛けに来るんじゃ……」

 

「これもあくまで俺の勘でしか無いが、恐らくヤツの中でエレンは右翼側にいると確証じみた何かを得ているかもしれない」

 

「そりゃ何故です?」

 

「俺達がいるからだ」

 

「私達がいるから?」

 

「あぁ。多分エルヴィン団長が言った通り103期か104期生の中に内通者がいる事に間違いは無い。でなければエレンが右翼にいると知っているのは調査兵団に属する、調査兵のみなのに、外部にいるであろう女型の中身が右翼から突っ込んでくるか?」

 

「確かにそうですが」

 

「となれば、その内通者は調査兵団の人員の情報も粗方伝えている筈。という事は一定以上の実力を持っている俺達がこんなに固まって、態々出張って迎撃してきたんだ、右翼側に存在すると思うのは当然の事だろう」

 

「ですがリヴァイ兵長が居ませんよ?」

 

「リヴァイが居なくともこれだけ実力者で固めてるんだ、恐らく俺達が予め脅威を排除する遊撃班みたいなもの、リヴァイ本人はエレンを直接守っているとでも考えていても不思議じゃない。エレンを敵だろうと味方だろうと、どちらにせよ丸腰にする訳が無いからな。現状、巨人の弱点を理解している巨人を討伐するに足りる実力を持っているのは、リヴァイぐらいなものだ。さっきの戦いが上手く行きすぎたと言うだけで、俺じゃ無理だからな。まぁ、理性さえなくてただ暴れるだけなら降り立つでも討伐出来るだろうが、確実なのはリヴァイだ。だからリヴァイをエレンに直接護衛なり監視なりで付けていると考えた方が自然だろう」

 

そこまで説明すると、皆は納得してくれたのか頷いた。

女型の損傷度合いから考えて、全身の傷を全て修復し終えるのには、最低でも4〜6分は有するだろう。

それまでに、このままの速度で進めば、大体時速50kmで走っているから最大でも4〜5km程度は距離が開く。

その距離を幾ら女型とはいえ、全力で走った場合の速度を馬の最高速度80kmで考えても、すぐに追いつく訳じゃない。

 

どれだけ短くても、次の戦闘まで15分程度の余裕があると見て良い。

 

頭の中で計算しつつ更に馬を走らせて陣形に合流後、戻ってきたミーネを加えて巨大樹の森に進路を真っ直ぐ向けて走るから女型の巨人が襲来する度に迎撃せよ、とエルヴィンさんから言伝を貰ってきていた。

 

地図を取り出して、見てみると巨大樹の森と大凡の現在地の距離で測ってみると恐らく1回は確実に女型と戦わなければならないだろう。

 

「お前達、今の内に水分補給を済ませておけ。恐らく、あと1回は確実に戦うことになる。それも、さっきみたいに上手く行かない苦しい戦いだ」

 

手綱を握って、前を見据えて皆に言っておく。

恐らく、次の戦いじゃ無傷とは行かないだろう。

 

さっきのは上手い事色々と嵌ったってだけで、上手い事行き過ぎたのだ。

次の戦闘で、またそうなる保証は無い。

 

しかも、次に女型が襲来してくる方向は陣形後方から。

エレン達がいる方向からだから、出来るだけ長く、引き付けつつ足止めを行わないとならない。

 

さて、ここでどうするか決めないと……。

女型が右翼に達するまで待つか、それとも今の内に折り返して予め迎撃に向かうか。

 

今俺達の通っている陣形内には小さな集落がある。

情報によればどうやら農作物を育てていたらしく住居の他に倉庫などの建物が10戸ほど存在する。更に麦などの脱穀などを行うために風車が2棟。

建物は住居は2階建てで屋根の天辺を入れると9mそとこまで高さは無いが、倉庫が大体5mの3階建ての15mぐらいでに風車の方は20mはある。

 

建物全体の強度はそこまででは無いが巨人と戦うには十分。

 

ただ問題が一つ。

ここで戦ってしまうと、陣形と女型の距離が離れ過ぎてしまうのだ。

これは巨大樹の森に誘導すると言う目的がある以上、望ましくない。

 

付かず離れずの距離を保たないとならないのだが、今の距離ですら少し距離があり過ぎる気がしなくもないのだから、これ以上距離が開くのは、確かに脅威を遠ざけるという意味で見ればやるべきなのだろうが、誘導すると言う観点から見ればやるべきではない。

 

だがしかし、女型の脅威度はそれをも上回る。

やるべきか、やらざるべきか。

 

女型が最初に現れた俺の分隊が担当する右翼側の損害は既に十数名にまで上っておりこれ以上損害を広げるわけには行かない。

自分の部下であるから死なせたくないと言うのも一つの理由だが、何よりも長距離索敵陣形を縮小せねばならなくなる。

そうすると索敵範囲が縮まる事となって巨人を早期発見することが難しくなるからだ。

 

ガスの残量はまだまだ十分。殆ど残っている。

だが、ここで迎撃に向かえば陣形から離れ過ぎて、それこそ逆に俺達が危険になる。

ただでさえ女型と戦わなければならないのだから、通常種や奇行種と戦っている余裕は無い。

 

……仕方が無い、女型が追いつくのを待つしかないか。

 

「このまま、女型が陣形に追い付くまで待機。恐らくそのまま走るのであれば後方から来るだろう。黒の煙弾が上がったら、迎撃に向かう」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

皆にそう命じておく。

俺は、再度地図を広げてコンパスなどを使って方位や現在地など、色々と確かめることにした。

 

 

 

 

 

 

それから13分ほど経った頃。

 

後方の荷馬車護衛班から黒の煙弾が上がった。

 

それが意味する事は、女型の巨人が再接近してきていると言うことだろう。

あの辺りはエレン達特別作戦班と位置が近いから、下手に近付かせると本当の居場所を悟られかねない。

 

「女型の迎撃に向かうぞ!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

俺は、迎撃に出る事に決めた。

馬を翻し、黒の煙弾が上がった方向に急ぐ。

 

 

 

 

馬を走らせ煙弾が撃ち上げられた辺りに到着すると、既に戦闘は始まっていた。

そこにあった光景は、少なくとも俺以外の面々からすれば余りにも常識からかけ離れているものだった。

 

建物があって、その周辺で10名程度が女型と戦っているが何名かの兵士は既に潰されたり、地面に叩き付けられたりして物言わぬ骸に成り果てている。

 

4人の兵士がその弔い合戦とでも言うような、決死の形相で女型の巨人に向かってアンカーを撃ち、巻き取り、刃を振り下ろそうとする。

 

「止せッ!!!」

 

それを見て、大声をあげて止めたが遅かった。

女型は、大凡他の巨人とは比較出来ないほどの高い運動能力で、次々と兵士達を潰して、叩き付けていく。

頸を片手で守っているのにも関わらず、片手しか使っていないとは到底思えないような動きで、だ。

 

「野郎ッ!!」

 

「止せゲルガー!」

 

「……チクショウ!!」

 

目の前で見せられたゲルガーが、飛び掛かろうとするがそれを何とか留まらせてる。

 

「いいか、奴はさっき俺達にボロ雑巾にされて相当警戒しているし、さっきみたいには行かないだろう。特に俺達はボロ雑巾に仕立て上げた張本人だ。恐らく全力を以て潰しに来る。油断するな、さっきの感覚は全て捨てろ!」

 

「「「「「「了解ッ!!」」」」」」

 

兵士達を殺して、女型はそのまま走り出す。

それを取り囲むように、俺の班以外の兵士達が馬を走らせる。

 

馬の速度を上げて追い付く。

 

「お前達!!」

 

「ビッテンフェルト分隊長!?」

 

「お前達はこのまま離脱、陣形後方より脅威接近、要警戒するように各兵士達に口頭伝達!!復唱も何もいらん、行けッ!!」

 

何物をも言わせぬように、問答させないように声を張り上げて言う。

それを聞いた彼らは、陣形に散っていく。

 

「分隊長、如何されますか!?」

 

「多少無茶してでも、奴をここで押し留める!下手に陣形に近付かせるな!」

 

「了解!」

 

少し距離を開いて、展開する。

女型の真後ろに俺が陣取り、その右にナナバを配置し左にゲルガーとケイジを置く。

 

手信号で、俺が仕掛けるから援護しろ、ただし無茶はしてくれるな、と伝える。

無茶をするのは俺一人で十分、俺がここで決めれば皆を危険な目に合わせなくて済む。

 

馬の上にバランスを取って立ち上がる。

女型の揺れる身体を見てアンカーを刺すタイミングを、先程と同様見極める。

見誤ればそこで俺はあの世行き、作戦にも大きな影響が出る。そうなればここにいる皆だけで無く調査兵団全体がこの、女型の巨人と言う過去遭遇したことが無いであろうレベルの脅威に直接晒される事になる。

それだけは絶対に避けないとならない。

 

 

 

「はぁ……」

 

少し視線を落とし一息吐いて、もう一度女型を見据える。

そして、考える。

 

一つだけ、頭の中で原作と比べつつ今回の戦闘も入れて見た時、気が付いたことがある。

女型の巨人は、頸を守る時には右手で守る。100%かどうかは分からないが今のところは全て右手で頸を守っている。

先程の戦闘もそうだったし、ついさっき殺された兵士達との戦闘でもそうだった。

 

完全に、と言い切ることは危険だからしないがそれでも、基準にすることが出来るぐらいには確証がある。

それを考慮して、女型の動きを予想すると、右手で守っているんだから使うことが出来るのは左腕のみだ。

 

振り向きざまに拳を振るうのなら右回転、薙ぎ払うのならば左回転と大凡の予想が付けられる。

それを頭の中に置きつつ、どう動き戦うべきか考える。

 

避けやすいのは左回転だろう。

右回転は、そのまま殴り掛かって来ることが出来るし他にも初動での動きで取れる選択肢が増える。と言うことは俺に対しての攻撃手段が増えると言うことに他ならない。

 

しかし左回転は、肘が伸び切った状態で振り向きながら腕を薙ぎ払うような動作しか取ることが出来ない。

人体の構造上、関節は曲がることが出来る方向には曲げられるが、その逆には一切曲げることができない。それを考えるならば、左回転をさせれば、俺は極小とは言え少しばかりは有利になれる可能性がる。

 

となれば、右足を前に出した瞬間が、アンカーを撃ち込むタイミングだろう。

前方向に走っていると言うことは、前方向に慣性やらの力が加わっている。ただ突っ立っているだけならどちらの足を軸足にしても好きな方に回転できるが、今回重要なのは、右腕が頸を守っているかどうか。

 

右腕、右手で頸を庇っていると右側に掛かる力に対してバランスがとても取り辛くなる。

実際にやってみれば分かるが、右回転をするには、基本的には左足が前に来た状態の時に行う。右足が前に出た状態であると、足を入れ替えなければならず、尚且つ回転しようとすると人にもよるが大なり小なりバランスを崩すからだ。

バランス感覚が優れいているとしても、本能的に左足を前に出した時でなければ咄嗟には行えない。

 

しかし、これが右手で頸を覆った状態で右回転をしようとすると、左足が前に出ていようといまいと、走っている状態、特に巨人化して時速50〜60kmで走っている場合になると大きく話が違ってくる。

走りながらやれば分かるが、勢いがついている分、出来るとしても相当難易度が高い。

 

普通に考えればどちらに振り向いて来るかなんて、分かり切っている。

左回転なんていう博打を打つよりも右回転を行った方が手段はが多いし、対応しやすい。

 

ならば、そう出来ないように左回転を行わざるを得ないように攻撃してやれば、最短距離で迎撃を行わなければならない女型としては、左回転を行わざるを得なくなる。

わざわざ右回転なんてしていたらその隙にどこか弱点部位を削がれて行動出来なくなるからだ。

 

とすれば、右足が前に出ている状態で尚且つ左斜め後方からの攻撃が望ましい。

こうすれば、女型は肘を伸ばし切った状態で回転せざるを得なく、対応し辛くなる。

 

確実にそう行動するか分からないし、未知数だがそこに賭けるしかない。

 

 

そうと決まれば、行動は早かった。

少しばかり襲い掛かるぞ、と言う雰囲気を出してやれば女型は頸を右手で守った。

それを見て、好機を探りつつ走るために振っている左腕が下がった時を見計らう。

 

腕も足も、下げるより上げる方が力がいる。

何せ下げるだけなら力を抜けばいいだけの話だからな。

だが上げるとなると、少なからず力を使わねばならない。その一瞬の隙ですら俺達からすれば今この状況において何物よりも欲しいものだ。

 

出来るだけ近付き、タイミングを伺う。

 

 

そして、全ての条件が揃った瞬間に、アンカーを撃ち込む。

すると女型はこちらが望んだ通りに動いてくれた。

 

だがそのまま真っ直ぐワイヤーを巻き取ると腕に薙ぎ払われてしまう。

避けたとしてもワイヤーが腕に引っ掛かって終わりだ。

それを避けるために、一度アンカーを抜きガスを蒸して下方向に移動、次の瞬間にはもう片方のアンカーを顔面へ突き刺してガスの勢いも強めにして一気に巻き取る。

そのまま、馬鹿デカイ眼球を抉り削ぐ。

 

「ッラァァッ!!」

 

眼球を削がれて、たたらを踏みバランスを崩すと勢いそのまま空中に放り出された俺はガラ空きの左脇に狙いを定めて削いだ。

右腕なんぞ放っておいても頸を守っているのだから無力化出来ている。狙うならば自由に動かせることが出来る左だ。

脇を削ぎつつ下に放り出されるのをアンカーを左腕に刺して止め、小さな弧を描くようにガスを蒸して腕と並行になるように位置を取る。

そしてアンカーを外し巻き取って、ガスを強く蒸す。すると腕を舐めるように動くが重力で落下するのを防ぐ為に刃を腕に突き刺し勢いそのまま身体を回転させ、ガスの蒸す方向や強さを操って左肘の内側、上腕二頭筋、手首と3箇所を削ぐ。

こうしてやれば、左腕は使い物にならない。

だがこれ以上の追撃は無理だ。

しかしそれでいい。

 

俺は一人で戦っているわけじゃぁ、無いんだから。

 

俺が一連の攻撃を終えるよりも前に、まずナナバが、続いてゲルガー、ケイジと言った順番で待ってましたと言わんばかりに女型に襲い掛かる。

ナナバは動かせない左腕を尻目に左方向から削がれた左目の死角を縫うように、顎の筋肉と右目を。

完全に視界を奪われた状態の女型に、ゲルガーが足を振るえないように両足の腱を、そしてケイジが両膝の裏を立て続けに削ぐ。

それを見届けて上に勢いよく放り出されたナナバが脊椎を深く、深く削いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2回目も、俺達の勝ちだな」

 

「はい。こいつが左腕を振るった時はヒヤッとしましたが流石です」

 

「何、お前達の方こそ良くやってくれた。良くタイミングで襲い掛かってくれたな。お陰で隙を与えない内になんとか出来た」

 

再び、女型を地面に沈めることが出来た俺達は女型の周りを取り囲み、先程同様全身をズタズタに削ぎ落として陣形に合流した。

どうやら、俺達の合流を待って陣形全体の進軍速度を大幅に速めるとのことらしい。

 

巨大樹の森までの距離は、かなり縮まっておりもう程なくして到達することが出来る。

どうやら速める以前に、女型に追われる形になったことで自然と進軍速度が速くなったようだ。

それに加えて、エルヴィン団長は犠牲は覚悟の上であるとして、

 

女型の速度が想定以上に速い事。

逆算して考えた時に修復能力をも想定よりずっと高い事。

現状の損害を考えてこのまま進むと余りにも大き過ぎる損害と、下手をするとまともな作戦遂行能力を失う事も考えられ、今後予想される戦いに支障を来たす、それにエレンをこれ以上危険に晒す事は望ましくない。

 

と判断して進軍速度を上げるらしい。

現時点で、エルヴィン団長はどれぐらいの損害を受けるかあくまでも予想を立てる事しか出来ないから、知らない。

だからエルヴィン団長は確かに犠牲は覚悟の上だがそれでも、少なく抑えなければならないと考えているらしい。

 

確かにエルヴィン団長は、女型が自分を巨人に喰わせる場面を見ていないから、そこまで腹を括れていないと言う事だろう。

ならばこの決断は普通だ。

 

正直これは俺達としても有難い。

 

二度あることは三度ある、なんて言うが正直3度目は勝てる気がしない。

巨大樹の森の中ならば取れる選択肢も戦術の幅も大きく広がるから、まだ可能性があるがこれ以上なんの構造物も何もない状況で戦っても、勝ち目はほぼゼロだろう。

そう言う観点から言えば、嬉しい誤算、と言う奴だろう。

 

陣形に合流して10分ほど。

 

 

俺達は漸く目的地である、巨大樹の森に到達。

 

 

 

まず最初に森の中に入ったのは俺とミケさんが直接指揮する班だ。

俺の班は指定された地点まで女型を誘導する任務があるので森の浅い箇所で待機だがミケさん達は指定ポイントまで向かった。

 

次に荷馬車護衛班とハンジなどと言った予め教えられてここに到達出来た場合は集合せよ、と言われていた面々が。

荷馬車には拘束具が乗せられており、それを展開し準備する時間も必要だ。

それ以外の分隊などは森の外縁部で、抜剣し樹上待機となった。

 

次に特別作戦班。

リヴァイ以外状況を理解していないが、それでいい。

下手に事実を知って混乱するよりも、幾分かは冷静さを保てる。

 

 

樹上で待機している俺をリヴァイは見つけて、チラリと視線だけで頼んだ、と言ってくる。

それに俺は、小さく頷いて答えた。

 

 

 

 

 

 

 




女型の肩幅などの計算ですが、男性の平均で計算しております。
理由としては原作などの描写を見る限り、作者はどうも筋肉質で肩幅は広めだな、と言う印象を受けたからです。

あくまでも個人の意見からですが肩幅が広い、と言う印象に従って男性の平均での計算とさせて頂きました。



頸を覆っている状態での振り向きの話ですが、実際に作者が試しました。
走った状態でやって、盛大に転びました。まぁ、芝生の上だったから良かったですがこれがコンクリやアスファルトの上でやってたら、と思うとゾッとする……。



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