このすばの仲間達がほんの少しだけまともだったら……。 作:ヒロ9673
「佐藤和真さん、ようこそ死後の世界へ。お辛いでしょうが、貴方の人生は終わったのです」
真っ白な部屋で、目の前で椅子に座っている目を見張るような青髪の美少女にそう告げられた。
ぶっちゃけ訳も分からず呆然としていたが、目の前の青髪少女の存在、そして現実離れした光景を目にして、ああ──ここは所謂あの世で、俺はあの時死んだのだと妙に納得出来た。
……普段学校に行かずに引き篭っていた俺は、新作のゲーム目当てに珍しく外出した。
無事に手に入れ、後は帰ってゲーム三昧だと思っていたところ。
信号が青になったのを確認しただけで、ロクに左右を見ずに渡っていく女の子に迫る影。
俺は、頭で考えるよりも先にその子を突き飛ばしていた。
そして…………。
「……すみません、ひとつ聞いても?」
自分でも不思議なほど落ち着いた心で静かに尋ねた。
美少女は頷く。
「どうぞ?」
「……あの女の子は。俺が突き飛ばしてしまった子は生きてますか?」
これだけは聞かずにはいられなかった。
世間から見ればネトゲ廃人だったり、ろくでなしだったりなどと呼ばれるような俺だが、そんな俺の最初で最後の見せ場だったのだ。
命懸けで助けに入って、結局間に合わなかったら悔しいじゃないか。
「生きていますよ。もっとも、足を骨折する大怪我を負いましたが……」
良かった……。
俺の死は無駄じゃなかったわけだ。
人生の最期に、少しはいい事出来た気がする。
だが、そんなほっとした様子の俺を見た美少女は、何故かバツが悪そうな、そんな顔をしていた。
はて、何か不味いことでもあったのだろうか。
「その、えっと……この際だから包み隠さずにお伝えします。あなたが突き飛ばさなければ、その子が怪我をすることもありませんでした……」
「………………」
曰く。
トラックかと思った影は実はただのトラクターで、本来ならあの子の手前で止まったと。万が一止まってなくてもトラクターの速度なんてたかが知れている。たとえ子供でも避けることは簡単だと。
……トラックだったら普通に女の子もきづくだろうと。
「……トラクターですか」
「……はい、トラクターです」
「…………俺はトラクターに耕されて死んだってこと?」
「…………いいえ、ショック死です。トラックに轢かれたと勘違いして、そのショックで死んでしまいました」
「………………」
「………………その後の顛末をお聞きになりますか? その、精神衛生上聞くのは控えた方が……」
「き、聞きたくない! 何となく分かるから!」
なんて情けない死に方なんだ。どうせ駆けつけたヤツら皆その死因に吹き出すに決まっている! 特に親父なんか大笑いしてるんじゃ……。
考えたくもない想像に頭を悩ませていると。
「その、死んでしまった貴方に言うのもアレだけど、あんまりクヨクヨしないでね? 結果はどうであれ、人間を助けるという行為は素晴らしいことよ。貴方の死が全くの無駄になることは、決してないからね」
そんな俺を宥める目の前の美少女。
普段だったら童貞諸君が歓喜するようなシチュエーションであるが、死んでしまった俺にとってはそれほど意味を持たないと思う。でもちょっぴり、死んでよかったと思えた気がする。
「もう大丈夫かしら? では改めて──初めまして、佐藤和真さん。私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神です」
女神か。
死ぬ前の俺だったらなんだそれと一蹴するところだったが、慈愛に満ちた顔をするこの人物が女神でなくてなんだと言うのだ。
「貴方には2つの選択肢があります。一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。もう一つは、天国のような場所で暮らすか。どちらにしますか?」
何その身も蓋もない選択肢。
「天国ってホントに存在するんですね」
「はい。とは言っても、貴方が想像するような場所ではないですよ。テレビも無ければ漫画やゲームもない。死んでるからえっちい事もできないし。やることといえば、先に死んだ先人達と日向ぼっこしながら世間話をするくらいね」
それは地獄の間違いではなかろうか。
しかし、生まれ変わって人生をやり直す……か。
なんだかなぁ。
生まれ変わったら今の記憶は無くなるわけで。俺が俺じゃなくなるってことだろ?
うーん、それしか選択肢は無いのだろうか……。
「その苦悩、よ──く分かります。死んでも死にきれないでしょう? まだまだこれからって年齢なのに」
「そりゃもう。未練タラタラですよ。パソコンのエロいデータ消しとけば良かったって」
「そ、そうですか……」
アクアは軽く引いているが、これは俺にとって死活問題に等しい。エロいデータを見られるくらいなら死んだ方がマシだ。
……もう死んでたわ。
そんな苦悩を知ってか知らずか。アクアはこほんと咳払いを一つして。
「そんな貴方に、第三の選択肢があります」
話を要約すると、こうだ。
ここではない世界、つまり異世界に魔王がいると。
そして、魔王軍の侵攻のせいで人の数が減り、このままでは世界が滅んでしまうと。
それなら、他の世界で死んでしまった若者をそこに送り込むのはどうか、ということになったらしい。
「なんちゅー移民政策……。それで、俺らが代わりに魔王を倒せと?」
俺がそう聞くと、アクアは少し慌てた様子で首を横に振った。
「た、確かに魔王は倒して欲しいけど、魔王ってものすごく強いのよ。平和な世界に住んでいた貴方達に無理強いはさせるつもりなんてないわ」
わざわざニートだったり引き篭りだったり言わない優しさが身に染みる。
それにしても、少しずつ口調が変わってきているな。恐らくだが、これが素の彼女なのだろう。
「それでも、単にその世界に送り込むだけじゃすぐに死んじゃうかもしれないから、一つだけ特別なものを持っていける権利があるの。強力なスキルだったり、とんでもない才能だったり、神器級の武器を希望した人もいたわね。……どう? これならお互いにメリットがあるでしょ? 貴方は異世界とはいえ、記憶を持ったまま人生をやり直せる。向こうの人も、魔王軍と闘える人がやってくる。ね? 悪くないでしょ?」
なるほど、確かに悪くはない話だ。
その魅力的な提案に少しテンションが上がっていると、アクアは俺にカタログのような本を渡してきた。
中を見てみると、色々な名前の能力が記されていた。
すごいな、ここまでくると目移りしてしまう。
ゲーマーとしての勘だが、どれもこれも反則級なのは間違いない。
「あ、言語の違いも心配しなくていいからね。界渡りの際に貴方の脳に少し負荷をかけて、一瞬で習得できるから」
「へぇ、便利ですね」
「……運が悪いと頭がパーになっちゃうかもだけど」
「おい」
想定外の事実に思わず突っ込んでしまったが、アクアはそんな俺の無礼を気にせずに続ける。
「大丈夫よ、そうそう起こることではないしね。貴方が考えるべきなのは、何を持っていくかだけよ」
うーむ……。
まあ運の強さにおいては自信があるからいいか。
それにしても、どうしようか。ありきたりなのは俺以外の誰でも思いつくものだろう。
それに、話を聞く限りだと俺以前にも多くの人間がその異世界に送り込まれたはずだ。
それでも魔王が倒せてないということは、普通の考え方をするのは賢い選択とは言えない。
つまり、今まで誰も思いつかなかったような発想のものを特典として貰わなければならないだろう。
でも、そんなのカタログにあるかなぁ……。
「このカタログに載ってない能力ってどうなんです? 習得出来るもんなんですか?」
「ええ、できるわよ。もちろん限度はあるけどね」
なるほど。だったらもう少し選択の幅は広がるな。
うーん……。…………あっ。
「どう? 決まった?」
「はい、色々考えたんですけど……」
俺は不敵な笑みを浮かべながら、人差し指をピシッと目の前の女神──アクアに向けた。
「女神アクア。俺は貴方を希望する」
「…………ふぇ?」
失礼だが、アクアは凄い間抜けな顔をしている。
いや、まじまじと見つめないでほしいんですけど。さすがに照れるんですけど。
「すごい発想ね……。ちなみに理由を聞いても?」
「武力で魔王撃破が未だに達成されてないなら、別ベクトルから考えようかと。無理強いさせるつもりはないって話だけど、どうせならって思って。女神様って向こうの世界の知識もあるんでしょ? その知識を活用できるかもしれないし、単純に俺一人の力よりも、二人の方が後々楽そうですし。それに、女神様って強そうですし?」
俺がそう言うと、アクアは内容を理解したのか吹き出した。
「プークスクス! 凄いわね貴方! 私を転生の特典に選ぶ人は貴方が初めてよ! 気に入ったわ、貴方の旅路についていきましょう!」
マジか! 女神様の初めて貰っちまった!
ダメ元だったが何とか通ったようだ。俺自身に何も能力が付与されないのは少し心配だが、それこそ女神様がいればなんとかなるだろう。
「それじゃ、これからは硬っ苦しいのはナシね! 女神としてではなく、仲間として貴方と共に行きましょう!」
アクアがそう言った直後、床に魔法陣のようなものが現れる。
恐らく、これが異世界へ転移するための魔法なのだろう。
「改めて、これからよろしくね!」
「ああ、こちらこそよろしく!」
異世界というのはどんな場所だろうか。どんな冒険が待っているのだろう。
俺は期待に胸を膨らませ、女神と共に明るい光に包まれた……!
やっぱり結構端折ってる気がする……。