このすばの仲間達がほんの少しだけまともだったら……。   作:ヒロ9673

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この浄化魔法を湖に!

 魔王軍幹部襲来から何事も無く、しばらく経ったある日。

 

「クエストよ! キツくてもいいから、クエストを請けましょう!」

 

 久しぶりにクエストを請けようとするアクア。

 今俺達の懐はとても潤っているし、高難易度のクエストは本来受ける必要は無い。

 だが将来の事を考えれば、お金はいくらでも稼いだ方がいい。

 とは言っても、あまりにも難しいクエストだったらさすがに悩むが。

 

「私は構わないが……私だけでは火力不足じゃないか?」

 

 モンスターに対する攻撃手段を持たないアクアとはもちろん、めぐみんは魔法が使える場面が限られるし、俺は論外だ。

 唯一まともな攻撃手段を持つダクネスはMだし……。

 あれ? 俺はなんでこんなパーティーでリーダーを続けていられるんだ? 

 

 そんな疑問は露知らず、掲示板へと向かう三人を俺は慌てて追いかける。

 

「マンティコアとグリフォンの討伐…………これはさすがに厳しいですね」

「二匹まとまってるところにめぐみんの爆裂魔法を食らわれられれば一撃だが……」

「都合よく二匹まとめるのは不可能だな。もっとこう、報酬が少なくてもいいから軽めのクエストは無えかなぁ……」

 

 うーん、と悩む俺の服の袖を、アクアが興奮しながら引っ張ってきた。

 

「ねぇカズマ! これなんかどう?」

 

 言われて、アクアが指さす依頼書を見る。

 

『──湖の浄化──街の水源の一つの湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住み着き始めたので水の浄化を依頼したい。湖の浄化ができればモンスターは生息地を他に移すため、モンスター討伐はする必要は無い。※要浄化魔法習得済みのプリースト。報酬は三十万エリス』

 

「……お前、水の浄化ってできるの?」

 

「そりゃもちろん。カズマだって今まで浄化魔法見てきたでしょ?」

 

 まあ確かに。

 それにしても、水の浄化だけで三十万か。確かに美味しいな。

 討伐しなくていいのが何よりもポイント高い。

 

「だったらそれでいいんじゃないか? というか、浄化だけならお前一人でもいいんじゃないか?」

 

 だが、そんな俺の言葉にアクアが渋る。

 

「え、ええー……。多分、湖を浄化してるとモンスターが邪魔しに寄ってくるわよ? 私が浄化を終えるまで、モンスターから守ってほしんですけど」

 

 そういう事か。

 しかし、ブルータルアリゲーターって、要するにワニ系のモンスターだろ? 

 物凄く危険そうなんだが……。

 

「ちなみに、浄化ってどれくらいで終わるのです?」

 

 短時間で終わるなら、めぐみんの爆裂魔法で何とかなるだろう。

 そして、そんなめぐみんの問いにアクアが首を傾げて言った。

 

「……半日くらい?」

 

「長ぇよ!」

 

 名前からして危なそうなモンスター相手に、いくらなんでも半日も防衛なんてしてられない。

 俺は貼り紙を元に戻そうとするが。

 

「ああっ! お願い、お願いよぉ! 他にまともなクエストが無いの! それに水で困ってるなら私としては見過ごせないの! 協力してよーっ!」

 

 そういや、アクアは水の女神なんだっけか。

 見過ごせないってのはそういうことなのだろう。

 

「……なあ、浄化ってどうやってやるんだ?」

 

「……へ? 水の浄化は、私が水に手を触れて浄化魔法をかけ続ければいいんだけど……」

 

 なるほど、水に触れなきゃいけないのか。

 ちょっと思いついた事があったんだが、それじゃ……。

 ……いや、待てよ? 

 

「おいアクア。多分、安全に浄化できる方法があるんだが、お前、やってみるか?」

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 街から少し離れたところにある大きな湖。

 なるほど、依頼にあった通り湖の水は何だか濁り、淀んでいる。

 モンスターも清潔な水を好むかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 俺が湖を眺めていると、背後からおずおずと声がかけられた。

 

「……ねぇ、本当に大丈夫なの?」

 

 それは凄く不安気なアクアの声。

 気持ちは分かる。

 俺がアクアの立場だったら下手したらちびるかもしれないが、少なくとも最良の選択であると信じている。

 

「……私、今から売られていく、捕まった希少モンスターの気分なんですけど……」

 

 ……希少なモンスターを閉じ込めておく鋼鉄製のオリの中央の中で、体育座りをしながらアクアが言った。

 

 最初は湖の近くで安全なオリの中から浄化魔法をかければいいと思っていたのだが、どうやら浄化魔法は水に触れていないと使えないそうなので、この作戦になった。

 水の女神であるアクアは、水に浸かるどころか、湖の底に一日沈められても、呼吸に困らず、不快感も無いらしい。

 本人曰く、浄化魔法を使わなくてもアクア自身が湖に浸かっていれば、それだけで浄化効果があるそうな。

 それほど神聖な存在だということなのだろう。さすがは女神様だ。

 アクアが入ったオリは、俺とダクネスの二人がかりで湖に運んだ。

 鋼鉄製のオリはギルドに常備されていた物で、モンスターの捕獲依頼などの時用の物らしい。

 これなら湖の浄化中にブルータルアリゲーターが襲ってきても大丈夫だろう。

 なにせ、捕獲したモンスターの運搬用に使われるオリだ、中のアクアに攻撃が届くとは思わない。

 最悪、オリを湖から引き上げるための鎖をダクネスに引っ張ってもらえばいい。

 アクアを入れたオリは湖の際に沈められ、体育座りのあくあは足の先と尻の部分を湖に浸からせていた。

 後はこのまま、俺達三人は離れたところで待つだけだ。

 アクアが、膝を抱えながらポツリと呟く。

 

「……私、ダシを取られてる紅茶のティーバッグの気分なんですけど……」

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 浄化装置改め、アクアを湖の際に設置して、二時間が経過した。

 だが、未だにモンスターが襲ってくる気配はない。

 俺とめぐみんとダクネスは、アクアから二十メートルほど離れた陸地でアクアの様子を見守っていた。

 水に浸かりっぱなしのアクアに声を掛ける。

 

「おーいアクア! 浄化の方はどんなもんだ? 湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ? オリから出してやるからー!」

 

「浄化は順調よ! 後、トイレはいいわよ! アークプリーストはトイレなんて行かないし!!」

 

 昔のアイドルのような事を言うアクア。

 実際どうなのかは少し気になる。

 

「何だか大丈夫そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレなんて行きませんから」

 

 めぐみんが聞いてもいないのにそんな事を言ってくる。

 お前もアクアも食ったり飲んだりしたものはどこに消えているんだとツッコミたい。

 

「えっ? 普通は行くんじゃないのか……? トイレに行く方が間違ってるのだろうか……」

 

「大丈夫だダクネス、お前が正常だ。トイレに行かないって言い張るめぐみんとアクアには、今度日帰りじゃ終わらないクエストを請けて、本当にトイレに行かないか確認してやる」

 

「や、止めてください。紅魔族はトイレなんて行きませんよ? でも謝るので止めてください。……しかし、ブルータルアリゲーター、来ませんね。このまま何事も無く終わってくれれば良いのですが」

 

「ねぇそれフラグって知ってる?」

 

 めぐみんのフラグとしか言えない発言をきっかけにするかのように、湖の一部に小波が走る。

 大きさ的には地球のワニと比較しても、そんなに変わらないだろう。

 だが、そこはやはりモンスター。地球のワニとは一味違った。

 

「カ、カズマー! なんか来た! ねえ、なんかいっぱい来たわ!」

 

 この世界のワニ達は、群れで行動するようだ。

 

 

 ──浄化を始めて四時間が経過──

 

 

 最初は、水に浸かって女神としての浄化能力だけを使っていたアクアだったが、今は一心不乱に浄化魔法を唱えまくっている。

 

「『ピュリフィケーション』! 『ピュリフィケーション』! 『ピュリフィケーション』ッッ! ギシギシいってる! ミシミシいってる! オリが、オリが変な音立ててるんですけど!」

 

 アクアが入っている鋼鉄製のオリを大量のワニ達が囲み、オリをガジガジと齧っている。

 この状況で爆裂魔法をぶっぱなす訳にもいかず、俺達にはちょっとどうしようもない。

 

「アクアー! ギブアップならすぐ言えよー! そしたら鎖引っ張ってオリごと引きずって逃げてやるからー!」

 

 先ほどからオリに向かって叫ぶのだが、アクアは怯えながらもクエストのリタイアを拒む。

 

「い、嫌よ! ここで諦めたら今までの時間が無駄になっちゃうもの! 『ピュリフィケーション』! 『ピュリフィケーション』ッッ!! ……わ、わああああーっ! メキっていった! 今オリから、鳴っちゃいけない音が鳴ったぁ!!」

 

 わあわあと泣き叫んでいるアクアを取り囲むブルータルアリゲーター達は、俺達三人には見向きもしない。

 ……俺達にはどうしようもないな。

 

 

 ──浄化を始めて七時間が経過──

 

 

 湖の際にはボロボロになったオリがぽつんと取り残されていた。

 ブルータルアリゲーターに齧られたオリは、所々に歯型が残されている。

 もうブルータルアリゲーター達はオリから離れ、山へと向かっていった。

 アクアの浄化魔法の声は聞こえてこない。

 

「……おいアクア、無事か? ワニ達は、もう全部どこかに行ったぞ」

 

 俺達はオリへ近づき、中にいるアクアを窺った。

 

「……ぐす……ひっぐ……えっく……」

 

 膝を抱えて泣くくらいなら、とっととリタイアすればいいのに……。

 まあ、女神としての意地があったのか、この状況では無理もないのかもしれない。

 

「ほら、浄化が終わったなら帰ろうぜ。ダクネスとめぐみんで話し合ったんだが、俺達は今回、報酬はいらないから。三十万、全部お前が持っていけ」

 

 体育座り状態で膝に顔を埋めたアクアの肩がぴくりと動く。

 だが、オリから出てくる気配はない。

 

「……そろそろオリから出てくれないか? もうアリゲーターはいないし、このままじゃ帰れないだろ?」

 

 俺の言葉に、アクアが小さな声で呟くのが聞こえた。

 

「……まま連れてって……」

 

 …………? 

 

「なんて?」

 

「……オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

 ……どうやら、今回のクエストは、カエル討伐に続いてアクアにまたトラウマを植え付けた様だ。

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