このすばの仲間達がほんの少しだけまともだったら……。 作:ヒロ9673
石造りの街中を、馬車が音を立てながら進んでいく。
「……異世界だ。すげぇ、マジで異世界じゃないか! えっ、本当に? 本当にこれから冒険したりすんの?」
俺は目の前に広がる光景に、興奮で震えながら呟いた。
車やバイクは走っておらず、電柱も無ければ電波塔も無い。
まさに中世ヨーロッパのような世界だ。
「興奮するのは分かるけど、落ち着いてね? 周りから変な人に見られちゃうから」
「いやいや、興奮を覚えずにいられるかよ! ゲーマーとしての性ってやつだよ」
さて、これからどうしようか。
アクアが言うには、魔王軍によって人類がまずいことになってるらしいが、今見ている感じだと平和そのものだ。
多分、魔王軍が来づらい場所に位置しているかなにかだろう。
「なあ女神様、とりあえずこういう時の定番は冒険者ギルドだと思うんだけど、どこにあるか知ってます?」
「……え? 知らないわ。この世界の知識は確かに持ってるけど、私の担当じゃない世界の街のことなんて分からないわね。カズマだって他所の地方の詳細なんて分かりっこないでしょ?」
なるほど、それもそうだ。説得力があるな。
「あ、あと私のことは女神様じゃなくて、アクアって呼んでね。敬語も必要ないわ。一応私、信者こそ少ないけれど、この世界で崇められてる神様だから。もし信者にバレちゃったら大変なことになるし」
なんとできた神様だろうか。半強制的に連れてこられたと言っても過言ではないのに、対等な相手として見てくれるとは。
「分かったよアクア。とりあえず、そこら辺の人に聞いてみるか……」
ちょうど良さそうな通りすがりのおばさんに訊ねる。
男性だとガラが悪い相手だと怖いし、若い女性だと俺のチキンハートでは難易度が高い。
「すいませーん、ちょっといいですか? 冒険者ギルド的なのを探してるんですが……」
「ギルド? あら、この街のギルドを知らないなんて、もしかして他所から来た人かしら?」
「いやぁ、ちょっと遠くから旅してきたもんでして、ついさっきこの街に着いたばかりなんですよ」
「あらそうなの。それなら駆け出しの街、アクセルへようこそ。ギルドならここの通りを真っ直ぐ行って、右に曲がれば見えてくるわ」
「真っ直ぐ行って右ですね、ありがとうございました! ……よし、行こうぜ」
駆け出し冒険者の街か。
なるほど、スタート地点としては理想的だな。
おばさんに教わった道を歩いていると、後ろをついてくるアクアが、ちょっと尊敬の眼差しを交えながら感嘆の声を上げた。
「ねぇねぇ、あの咄嗟の言い訳とか、どうしてそんなに手際がいいの? そんなにできる男なら、引き篭もらずに元の世界でも上手くやっていけそうだと思うんだけど……」
「……まあ事情があるんだよ。そのうち話す。……ほら、あれじゃないか?」
──────
「いらっしゃいませー!」
こういう場所だと大体荒くれ者に絡まれるものだと思っていたが、ウェイトレスのお姉さんが愛想良く出迎えてくれた。
ガラの悪そうな人は見当たらないが、やはり新参者は珍しいのかやけに注目を集めている。
……が、その理由は大体検討がつく。
「カズマカズマ、何だかすごい見られてる気がするんですけど。もしかして私が女神だってバレちゃったのかしら?」
んー、もうバレてるんじゃないか?
見てくれならそんじょそこらの女優と一線を画しているし。
とりあえず視線は無視して、当初の目的を遂行しよう。
「……いいかアクア、登録すれば駆け出し冒険者が最低限生活できるようなサポートをしてくれるのが冒険者ギルドだ。駆け出しでも食っていける簡単なお仕事を紹介してもらったり、オススメの宿を教えてもらったりできるはずだ。とりあえず今日のところはギルドへの登録と軍資金入手、そして寝床の確保をしよう」
「ほぇー……。よくもまぁそこまで思いつくものね。貴方、そんなにスペック高いのにどうして引き篭ってたの?」
「そ、そのうち話す……。と、とりあえずさっさと受付を済ませてしまおうぜ」
俺はアクアを引き連れ、真っ直ぐカウンターへ向かう。
受付は四人。
そのうち二人は女性職員。
俺はそのうち、より美人な方の列に行く。
「……ねぇ、他の三つの受付が空いてるのに、なんでわざわざここに並ぶの? 受付が美人さんだから?」
「確かにそれもあるが、ギルドの受付の人と仲良くなるのは基本だ。そして、美人なお姉さんとは色んなフラグが立つ。今後、あっと驚く展開とかが待ってる訳だ。例えば、お姉さんは元々凄腕の冒険者だった、とかな」
「……なるほど、確かにゲームや漫画でもそういう展開って多いわね!」
別に今後嘘をつくつもりはないが、この子、人のこと信じすぎやしないか?
いつか悪人に騙されそうで少し怖いのだが。
「はい、今日はどうされましたか?」
そんなこんなで俺たちの番がやってきた。
受付のお姉さんはおっとりした感じの美人だ。
ウェーブのかかった髪と巨乳が大人の女性らしさを醸し出している。
「えっと、冒険者になりたいんですけど、田舎から来たばかりで何も分からなくて……」
こういう時は田舎から来たとか、遠い外国から来たとか言っておけば、受付が勝手に教えてくれる。
「そうですか。えっと、では登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」
そう、これがチュートリアル。
あとはこの人の指示に従っていけば……。
「……登録手数料?」
「はい、1000エリスになりますが……」
マジか。これは予想外だ。
「なあアクア、金持ってる?」
「お金ね。二人合わせて2000エリス……はい」
財布から紙幣を取り出し、受付に手渡すアクア。
めっちゃありがてぇ……。
こういう時に仲間の大切さを痛感するんだよな。
能力を得られるとはいえ、一人だったらここで躓いていただろう。
あ、ちゃんとお金は後で返すよ?
「はい、丁度お預かりします。それでは、軽く冒険者についての説明をさせていただきますね──」
受付のお姉さんの話を要約するとこうだ。
冒険者というのは、街の外に生息しているモンスターの討伐を請け負い、それらの仕事を生業とする人の総称で、冒険者には各職業がある。
この世のあらゆるモノは魂を体の内に秘めており、食べたり、殺したりすることで、その魂の一部を吸収できる。所謂経験値と呼ばれるものだ。
お姉さんが差し出した身分証のようなカードに、経験値やそれに応じたレベルが表示され、レベルが上がると新しいスキルを覚えるためのポイントなどを手に入れることが出来るらしい。
「──とまあ、以上になります。それではお二人とも、こちらのカードに触れてください。それであなた方のステータスが分かりますので、それに応じて職業を選んでくださいね」
まんまゲームだなぁ……。
こういう時ってのは、俺の凄まじい潜在能力が発揮されて、ギルド内が騒ぎになったりするわけだ。
俺はそんな淡い期待を込めてカードに触れた。
「サトウカズマさん、ですね。ええと……、軒並み普通ですね。知力が高い以外は……、あれ? 幸運が非常に高いですね。冒険者に幸運ってあまり必要ない数値なのですが……。どういたしますか? これだと選択できる職業は基本職の『冒険者』しかないですよ? これだけの幸運があるなら、商売人とかになることをオススメしますが……」
いきなり冒険者人生全否定されたんだけど。
そんな俺にどう声かけるべきかオロオロしているアクアを見て、すごい申し訳なさが込み上げてきた。
「え、ええと、その、冒険者でお願いします……」
アクアとお姉さんが慌てた様子で。
「ま、まあ、レベルを上げてステータスが上昇すれば転職が可能ですし!」
「そ、そうよ! 冒険者だからって悪いことはないわよ? なにせ、全ての職業のスキルを習得して使うこともできるんだから!」
「その代わり、スキルを覚えるのに本職以上の労力が必要だったり、本職に及ばなかったりするんでしょう? 器用貧乏みたいな……」
「「…………」」
二人とも黙ったところを見るに、図星だったのだろう。
なんだろう、軽く凹む。
それでも、これで俺はモンスターと戦うことができる冒険者になれたわけだ。
ちょっと感慨深くカードを手に取ると……。
「ええっ!? な、何ですか、この数値は!? 知力が少し低いのと幸運が最低レベルな事以外は、残り全てのステータスが大幅に平均値を超えていますよ!? 特に魔力が尋常じゃないんですが、あなた何者なんですか……!?」
アクアの触ったカードを見たお姉さんが、素っ頓狂な声を上げた。
それに応じて、ギルド内の人達もざわめきだす。
……それ、俺のイベントじゃないのか。
「え? そ、そう? いやー、それはまあ嬉しいかなーって。私くらいになればそりゃあね?」
流石は女神様だ。高ステータスなのは自明の理だな。
ちょっと悔しいけど決して口にだしたりはしない。
「このステータスなら、高い知力が必要な魔法使い職は無理ですが、それ以外だったらなんだってなれますよ。最高の防御力を誇るクルセイダー。最高の攻撃力を誇るソードマスター。僧侶の上級職であるアークプリーストまで、なんでも……!」
お姉さんのその言葉にアクアは少し悩み。
「そうねぇ、やっぱり私らしいとも言えるアークプリーストかしら!」
「アークプリーストですね! あらゆる回復魔法や支援魔法を使いこなし、前衛に出ても問題ない万能職です! では、アークプリースト……っと。冒険者ギルドへようこそアクア様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」
お姉さんはそう言って、にこやかな笑顔を浮かべた。
……アクアが目立つせいで俺の存在が無視されているような気がするが、そんな程度じゃへこたれない。
俺の名は佐藤和真。決して負け惜しみなんてする人間ではない。
「良かったわねカズマ! 私がついてるんだから、あなたの冒険者生活はこれから安泰よ!」
「いや、まあ……」
無邪気なのか分からないが、俺の心情は気にせずに祝福してくるアクア。
まあ、特典をアクアとして選んだのは俺自身だし、こうなるのは仕方ないかなぁ。
出鼻をくじかれたものの。
こうして俺の冒険者生活が始まったわけだ。