このすばの仲間達がほんの少しだけまともだったら……。 作:ヒロ9673
「知ってるか? なんでも魔王軍の幹部の一人が、この街の近くにある古い城を乗っ取ったらしいぜ」
共同墓地でのリッチー騒ぎから数日後。
ギルドに併設された酒場の一角で俺は、昼間から酒を飲んでだべっている男の話を聞いていた。
「魔王の幹部ねぇ……」
正直、恐ろしいったらありゃしない。
俺には縁のない話だと良かったのだが、あくまで俺がこの世界にやってきた目的は魔王討伐。
つまりいずれは幹部を相手にしなけりゃならない日が来るかもしれないのだ。
俺一人だったらまだいい。
最初に冒険者になった時、受付のお姉さんが俺に言っていたように、高い幸運を利用して商売人として生きることも出来るかもしれない。
だが、魔王討伐の条件としてアクアについてきてもらった以上、彼女のためにもあまり怠惰になるわけにはいかない。
冒険者ギルドでだべっている連中は意外と多く、面白い話が色々聞ける。
酒場でのこういった会議は、いかにも冒険者っぽくていいな。
向かいの冒険者の男が行った。
「ま、何にせよ。街の外れにある外れにある廃城には近づかない方がいい。俺達が会ったら瞬殺されるような化け物が住んでるのは間違いないからな。廃城近くでのクエストは、しばらく避けた方が無難だな」
男に礼を言って、俺は自分達のパーティーのテーブルへと向かうと……。
「……どうした? 俺を、そんな変な目で見て」
三人が、テーブルの真ん中に置いたコップにある野菜スティックをぽりぽりかじり、俺を見ていた。
「別にー? カズマが、他のパーティーに入ったりしないか心配なんてしてないし?」
アクアがそう言いながら、不安そうな目でチラチラ見てくる。
「……むう、楽しそうですね。楽しそうでしたねカズマ。他のパーティーメンバーと、随分親しげでしたね!」
めぐみんが、なぜか怒ったような口振りで頬を膨らませる。
「何だろう、この新感覚は……。カズマが他所のパーティーで仲良くやっている姿を見ると、何か、新たな快感が……。もしや、これが噂の寝取られ……?」
このどうしようもない変態は、本当に何を言ってるんだ。
いや、というか……。
「こういった場所での情報収集は基本だろ? 別に移籍なんて考えてないから安心しろよ」
****
例のキャベツ狩りから数日が経った。
あの時収穫したキャベツが軒並み売りに出され、冒険者にその報酬が支払わることになった。
「カズマ、見てくれ。報酬が良かったから、鎧を少し強化してみたんだ。……どう思う?」
報酬を受け取ろうとする冒険者たちによって混雑しているギルド内で、ダクネスが嬉々として鎧を見せつけてきた。
一言で言えば、成金趣味の貴族のボンボンが着けてる鎧に見える。
正直に言ってもいいが、こいつが喜びそうだからあえて普通に褒めておこう。
「かっこいいんじゃねえの? クルセイダーっぽくて良いと思う」
「そ、そうか! カズマのことだから罵倒するのかと思ったが、これも悪くないな……」
なんで俺と言ったら罵倒みたいになってんだ。
俺はそういった理由がない限りは、そこら辺にいる普通の兄ちゃんだぞ。
「まあでも、強化されたからって敵に突っ込むなよ? 一々修理に出してたらキリがないだろ」
「う、うむ。なるべく善処しよう」
なるべくじゃなくてちゃんと善処してほしい。
一応パーティーリーダーは俺だし、責任は俺に来るのだから。
……それよりも。
「魔力溢れるマナタイト製の杖……! た、たまらない、たまらないです!」
俺の目の先には、まるで無邪気な子どものように喜ぶめぐみんの姿が。
高額な報酬で杖を強化し、めぐみんは朝からこの調子だ。
なんでも、マナタイトとかいう希少な金属は杖に混ぜることによって、魔法の威力が向上する性質があるらしい。
つまり、爆裂魔法の威力が何割か増すとか。
ただでさえオーバーキル気味の威力なのにこれ以上強化する必要があるのか疑問に思うが、めぐみんは爆裂魔法に強い思い入れがあるらしいし、そこら辺はあまり深く聞き入らないようにしてやろう。
それはそうと、俺もすでに換金が終わってホクホクだ。
キャベツ狩りで得た報酬は、皆で均等に分けることになった。
とはいっても、今のところ金の使い道があまりない俺とアクアの分、そしてダクネスとめぐみんの報酬の余りの分は、パーティーの共有財産にしようということになった。
もうじき冬がやってくる。その冬に備えるために、寒さが凌げる宿に冬の間は泊まるか、いっそのことこの街に拠点を構えてしまうのはどうかという俺の提案に、他の三人が賛成したからだ。
そのために少しでも貯金しようということになった。
一つの家に定住する冒険者はほとんどいない。そして、傍から見れば上級職の美人三人によいしょされてる構図なのだが、ダクネスとめぐみんは仲間が見つからない末に俺のところにやってきた形なので、俺が何しようと誰にも文句は言わせない。
もちろん良い家に住んでちょっとでもハーレム展開になればいいなんて考えてはいない。……いない。
「ただまー……」
そんな俗なことを考えていると、元気の無いアクアが戻ってきた。
……ああ、察してしまった。
こいつ、運だけはとんでもなく悪いからな。
「……その、私が捕まえてたの、ほとんどレタスだったらしくて……。報酬が五万ぽっちしかありませんでした……。ごめんなさい…………」
うわぁ……。
流石に可哀想だな。
そりゃ元気無くなるわけだ。
「その……カズマさん? カズマさんって今回の報酬はいくらだった?」
「二百万ちょい」
「「「にひゃっ!?」」」
アクアとめぐみん、ダクネスが絶句する。
実は俺の収穫したキャベツは、質のいい、たくさんの経験値が詰まったものがほとんどだったらしい。
これが幸運値の差というやつか。
ぶっちゃけしばらくの食費代でも稼げたら良い方だと思っていたが、いい意味で裏切られた。
「先に言っておくが、もう報酬をどうするかの要求には応じないぞ。どれだけ稼ごうとも共有財産にするのは決定事項だ。分かったらとっととその五万を寄越せ。必要に応じて俺が金を渡すから」
お金の管理も俺がすることになった。自分の分は自分で持っておけばいいと思うのだが、貧乏性なめぐみんはお金を持ちたがらず、アクアとダクネスも散財しすぎないように俺に預けることに。
俺が内緒で荒使いしたらどうするんだと思ったが、純粋に俺を信頼しているところを見て、そんなことはしないようにしようと固く心に決めた。
「……いいの?」
「構わん。この程度誤差だ誤差。どっちみち拠点を手に入れるのにはまだ金が足りないしな。その分クエストに行くか、またバイトすれば良いだけだしな」
「…………ありがと」
困った時はお互い様だ。
****
「あれ? なんだこれ、依頼がほとんど無いじゃないか」
あれから数日。
俺達は新たに調えた装備を試すのも兼ねて、クエストを受けようと掲示板へと行くと。
普段は所狭しと大量に貼られている依頼の紙が、今は数枚しか貼られていない。
「山に出没するブラックファングと呼ばれる巨大熊の討伐……、マンティコアとグリフォンの討伐……。私達の手に余るような高難易度のクエストばかりですね」
「どういうことだ? いつもみたいな依頼が全くないじゃないか」
そんな俺達のもとに、ギルド職員がやってきた。
「ええと……申し訳ありません。最近、魔王の幹部らしき者が、街の近くの古城に住み着きまして……。その影響か、この近辺の弱いモンスターは軒並み隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には王都から幹部討伐のための騎士団が派遣されるので、それまではそこに残っている高難易度のお仕事しか……」
マジか。
よく見てみると、他の冒険者達もやってられないとばかりに、普段よりも多くの人間が、昼間から飲んだくれてる。
魔王軍の幹部は、一体何の目的でこんな場所に来たのだろうか。
ここは駆け出し冒険者が集まる、初心者のための街。
魔王の幹部なんて、ゲームで言えば普通ラストの方で出てくるものだ。
俺達がどれだけ集まったところで勝負にならないだろう。
****
「つまり、国から腕利きの冒険者や騎士達がここに来るまでは、まともな仕事ができないって事か」
「そうですね。……となると、クエストの無い間はしばらく私に付き合ってもらう事になりそうですが……」
俺はめぐみんと共に、街の外へと出ていた。
魔王の幹部の出現により、弱いモンスターは身を隠しているため、街の近くは危険がほとんどない。
俺は、クエストが請けられない事で爆裂魔法が撃てずに悶々としているめぐみんに付き合い、散歩していた。
以前まではクエストでぶっ放すことで爆裂欲とやらを満たしていたようだが、それができない以上、どこかで撃たないと気が済まないようだ。
ぶっちゃけ一人で行ってほしいのだが、帰りに誰がおぶって連れ帰ればいいのだという話なので、仕方なく俺が付き合うことになった。
思えば、この世界でこうやってぶらぶらする事はあまりなかった。
出歩くとしても、クエスト絡み。
以前めぐみんと行った散歩も、丸腰ではなくちゃんと武器を持ち、モンスター討伐を兼ねての散歩だった。
「……? あれは何でしょうか。廃城?」
遠く離れた丘の上。
しばらく歩いていると、そこにはぽつんと佇む朽ち果てた古い城が。
それは、まるでお化け屋敷みたいな……。
「薄気味悪いなあ……。お化けでも住んでそうな……」
俺の呟きに。
「そうですね……。どうせなら、アレにしましょうか。あの廃城なら、盛大に破壊しても誰も文句は言わないと思いますし」
そう言って、魔法の準備を始めるめぐみん。
心地よい風に乗り、爆裂魔法の詠唱が始まった──
こうして、俺とめぐみんの新しい日課が始まった。
アクアは土木工事の時に、働く楽しみを覚えたそうで、お金を稼ぐためにバイトをしている。
ダクネスは、しばらくは実家で筋トレしてくると言っていた。
めぐみんは、その廃城の傍へと毎日通い、爆裂魔法を放ち続けた。
そんなめぐみんの傍で魔法を見続けていた俺は、その日の爆裂魔法の出来が分かるまでになっていた。
「『エクスプロージョン』ッッ!」
「お、今日のはいい感じだな。衝撃波がいい感じに骨身に響くな。相変わらず、不思議とあの廃城は無事なようだが、それでも。ナイス爆裂!」
「ナイス爆裂! ふふっ、毎度毎度、私に付き合ってもらってありがとうございます。あとどのくらいでクエストを請けられるようになるか分かりませんが、それまでは宜しくお願いしますね」
そう言ってめぐみんはクスリと笑う。
そうだなあ、暇な時はいつでも付き合ってやってもいいかもしれないな。
今日の爆裂魔法は何点だった、音量はどうだったとか、そんな事を語りながら街へと戻っていった。
****
日課の爆裂散歩を続け、一週間が経った、その日の朝。
『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』
街中に、お馴染みのアナウンスの声が響き渡った。
何があったのか知らないが、俺達もしっかりと装備を調え、現場へ向かう。
街の正門前に着いた俺達は、その凄まじい威圧感を放つモンスターを前に、呆然と立ち尽くした。
デュラハン。
それは人に死の宣告を行い、絶望を与える首無し騎士。
アンデッドとなり、生前を超える肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。
そんなデュラハンは、街中の冒険者達が見守る中、左脇に抱えていた自分の首を目の前に差し出した。
「……俺はつい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……」
やがて、首がプルプルと小刻みに震えだし…………!
「まままま、毎日毎日っっ!! おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる頭のおかしい大馬鹿は、誰だああああー!!!」
魔王軍の幹部は、それはそれはもうお怒りだった。
溜めてた分はこれまで。
多分投稿期間は少し長くなると思います。