場所と時は変わって、一月前のフェン王国。
フェン王国を治める剣王シハンは、天和から派遣された外交官の護衛として随伴して来た陸軍の将官、若愛驥熾覇を相手取り、外交とは無関係なはずの剣術の稽古兼試合を催していた。
「天和國の将の実力を見極めたい」という剣王シハンの言葉に驥熾覇が機嫌を良くして「是非手合わせ願いたい」と答えたことが引き金となり、前代未聞、一世一代の稽古が催されたのである。
広場の周囲は今回限りの大勝負を一目見ようとアマノキの住民たちが集まっているために、芋を洗うかのような光景であった。
両者が王城正面の広場で相対し、まず城に向かって一礼。そして、互いの目を真っ直ぐに見つめながら一礼し、剣を手にとる。
「では、始め!」
審判役の百士長の賭け声とともに、試合が開始された。両者が強く一歩を踏み出し、一気に距離を詰めて一振りづつの剣を振り上げる。
「デヤアァー!」
シハンの片手半剣が驥熾覇のこめかみに狙いを定め、大きく振るわれるが、打刀が片手剣を阻むように振るわれ、斬り返される。
その後も驥熾覇の刀とシハンの片手剣が幾度となくぶつかり合い、火花が散る。
「トオーっ!」
十数秒の攻防の後、シハンは左足に力をこめ、片手剣を大きく振りかぶり、驥熾覇の額に一撃を食らわせようと勢いをつけて振り下ろす。それを防ごうと刀を構えたが、思いの外強く重い一撃を食らった驥熾覇は、鍔迫り合いを諦めて後ろに跳び下がろうとするが、シハンは驥熾覇が脚に力をこめる瞬間にできた隙を見逃さず、すかさず突きを見舞った。
「はあぁーっ!」
対して驥熾覇は怯まずに片手剣の切っ先に刀の柄頭を叩きつけて剣筋を狂わせる。しかし、それをシハンは逆に利用し、剣の動きに合わせて時計回りに体を回転させながら後ろに跳び下がることで、驥熾覇との間に距離をおく。
「やあぁー!」
そして着地の反動を使って再び間を詰め二度目の突きを食らわせようとシハンは片手剣の切っ先を正面に向けるが、驥熾覇はその真っ直ぐな突進を軽々といなし、刀を逆袈裟に振るう。
「ふんっ!」
シハンは振り向きざまに片手剣を斜め下から自身の頭上に振り上げ、刀の剣筋をそらすことでやり過ごしたが、これが仇となり、決定的な隙を作った。
驥熾覇は真上にそらされた刀の剣先を、しっかりとシハンに向け直し、両手で柄を握り、一直線に刀を振り下ろす。
「勝負あり!」
審判の声が広場に響いた。刃が触れるか触れないかの僅かな合間を残して、刀が止まっている。驥熾覇はゆっくりとシハンから離れ、血振りの動きをして納刀し、三歩後ろに下がる。
シハンも剣を鞘に納め、三歩後ろに下がった。そして、相互に礼をし、城に向かってもう一度一礼。
最後は互いの健闘を称え、がっしりと強い握手を交わした。
その握手の瞬間、歓声が辺り一帯に谺し、惜しくも敗れたシハンとともに、今世一度限りの名勝負に見事勝利した驥熾覇を祝福するのだった。