更木剣八が綺麗だったら最強では? という疑問。
1 旅禍
そこは魂の存在が住まう世界である。現世で死した魂は死神と呼ばれる存在によって尸魂界へと運ばれる。一方で
死神と呼ばれる特別な者たちは、その霊力によって魂を導く。
そして彼らは瀞霊廷と呼ばれる場所に住んでいた。本来、瀞霊廷は死神以外が立ち入ることを許さない絶対の領域。遮魂膜という霊体を分解する防壁に守られたその場所へと訪れるには正式に死神となる他に方法はない。
だがその日、その瀞霊廷に侵入しようと試みた者が現れた。
「来たか。三番隊隊長、市丸ギン」
瀞霊廷を守るために設立された死神による機関、護廷十三隊の総隊長が告げる。その言葉によって隊首会が始まった。
山本元柳斎重國。
彼は護廷十三隊の創設者であり、千年にわたって総隊長を務めている老人だ。額にある十字の傷、そして豊かな髭が特徴的である。発する霊力は底知れず、最強の名を欲しいままにしている。
そして彼の手前には各隊の隊長が並んでいた。
隊長の一人である市丸ギンは感嘆を漏らす。
「こない大げさな。僕なんかのために隊長の皆さんがお集まりになって……いや、一人おらへんなぁ」
「十三番隊隊長は病欠だ」
「そら、お大事に」
九番隊隊長、東仙要が律儀に返すも、懐疑的なものを見る態度が透けて見えていた。彼は法を重んじる男であり、市丸ギンという男がしでかしたことに密かな怒りを抱えていたのである。
ただ、それを直接口にすることはない。
本題に触れたのは十一番隊隊長であった。
「そんな話をするために呼ばれたわけではありませんよ。あなたが逃したという旅禍。それについてあなたは今から尋問されるのです」
涼やかな声であった。
護廷十三隊の中で戦闘に特化した部隊とされる十一番隊の隊長、更木剣八。
美しいという形容詞が似合うその人物は静謐とした霊圧を発していた。左目を覆う眼帯ですら、魔性の美を演出する装置として機能している。
綺麗な剣八。
密かにそう呼ばれている彼女の問いに対し、市丸は調子を崩さない。
「そら怖いわ。てっきり死んだと思っとったのに生きとったんか。僕の勘も鈍ったかもしれんなぁ」
「猿芝居も止めたまえヨ。隊長クラスがその程度を判別できないとでも言うのかネ?」
「僕がわざと逃がしたとでも?」
「わざわざそう言ってやらないと理解できないのかネ?」
十二番隊隊長、涅マユリは苛立ちを感じさせる声音で追及する。
マッドサイエンティストと呼ばれるに相応しい所業を平然とこなす彼だが、護廷十三隊に対しての忠義は中々のものだ。旅禍を逃したという市丸に対し、裏切りの可能性を見出したのも当然かもしれない。
白熱する様相を見せ始め、隊長たちの中には呆れを露わにする者も現れる。
そんな場を山本元柳斎は諫めた。
「止めんかみっともない! だが呼ばれた理由は伝わったの……失態の弁明があるなら述べてみよ。市丸や……」
言い逃れは許さん。
そう告げているような目を向けられても尚、市丸という男は飄々としていた。気味の悪い笑みを浮かべ、ただ一言告げる。
「ありません」
「何?」
「弁明も何も。僕の凡ミスですわ。ですから弁明はありません」
いっそ清々しいまでの開き直りである。
隊長たちの多くが目を細めた。
だが、意外なところから援護が飛んでくる。
「それならば、瀞霊廷に侵入しようとした旅禍が隊長格の攻撃をも凌ぐ実力者である……という可能性が浮上したと。それは、それは」
「黙っとれ更木」
「これは失礼」
闘気のように溢れる霊圧を察したのか、山本元柳斎はしかりつける。剣八は実に素直に力を抑え、元の静謐へと戻った。
改めて山本元柳斎は市丸へと目を向ける。
そして尋問が再開されようとしたその時、瀞霊廷中に警報が鳴り響いた。
『侵入者! 侵入者!』
先刻の未遂とは違う、本当の侵入。
最も早く動いたのは更木剣八であった。長い髪を流しつつ、音もなく。彼女は抜け出そうとした。
「貴様! どこへ行く」
「分かり切っていることでしょう。砕蜂隊長? 十一番隊は戦うための部隊。隊長たる私が一番に出なくてどうするのでしょうか?」
「隊首会の途中だぞ!」
「そんなもの。旅禍を全て捕らえてから改めて開けばよいことです」
綺麗な剣八。
そう称される彼女は礼儀を重んじ、規律にも従う。しかし自身の考えを貫き通し、必要と判断すれば
今は雁首揃えて話し合っている場合ではない。
一刻も早く、侵入者を片付けるべき。
彼女がそのように判断すれば、もう止める者はいない。事実、結局は更木剣八の後姿を見送ることになった。
「やれやれ。こいつは大変だねぇ」
「京楽……何を呑気に」
「まぁまぁ。日番谷隊長もそんな硬くならずに。あの更木隊長が出たんだ。彼女に動き回ってもらって、僕たちは網でも張るとしよう。それでどうだい、山爺?」
女物の着物を羽織った色男、京楽春水が尋ねる。
山本元柳斎も異存なかったのか、深く頷いたのだった。
◆◆◆
物静かに歩いて行く剣八の背中に小さな影が飛びつく。小さな背丈と幼い容姿からは想像もできないが、死覇装を纏っていることから死神だと分かる。
「剣ちゃん! やるの?」
「ええ。瀞霊廷に侵入者ということですから、私が出るべきでしょう」
隊長羽織にしがみつく少女、草鹿やちるはこれでも十一番隊副隊長だ。その証拠に、腕には副官章が取り付けられていた。
やちるはただ、無邪気に笑う。
「じゃあ行ってみよー!」
「そうですね。さて、どこに行けば旅禍と出会えるのやら。それにできることなら最強を相手にしたいところです」
「うんうん! 最近の剣ちゃん本気で戦っていないもんね!」
「この瀞霊廷に侵入し、市丸隊長の攻撃を凌ぐ者。ええ、私の獲物です」
言葉遣いは丁寧で静かだが、そこから溢れる闘志は隠せない。また徐々に霊圧も高まりつつある。
自然と唇を舐めた。
それが艶めかしく、蠱惑的なものすら感じさせる。
「さぁ、この私に『封』を解かせることはできるかしら?」
更木剣八はそっと眼帯に触れた。
◆◆◆
黒崎一護は死神である。
だが、朽木ルキアによって死神の力を譲渡され、その後に自身の力を開花させた特別な死神だ。出刃包丁を思わせる巨大斬魄刀・斬月を操る彼は、一般死神よりも遥かに高い戦闘力と霊圧を有する。
恩人である朽木ルキアを助けるために。
それだけの理由で仲間と共に瀞霊廷に乗り込んだ彼は、一つの偉業を成し遂げた。
「……う」
「目が覚めたかよ」
「なっ! てめぇ!」
仰向けに倒れていた斑目一角は目を覚まし、身体を起こそうとして力が抜ける。
「まだ動くんじゃねぇぞ。それにしてもすげぇなこの薬。もう血が止まったぜ」
「あ! てめぇ勝手に俺の薬を!」
「いいじゃねぇか」
「ちっ……」
一角は諦めたように力を抜き空を見上げた。
そして戦いを思い出す。
(そうだ。すいません隊長)
十一番隊第三席、斑目一角は敗北した。
そして敗北して尚、生きていることを恥じた。
彼に限らず、十一番隊は死にたがりしかいない。戦いに生き、戦って死ぬ。死神の中で最も死亡率の高い隊は伊達ではないのだ。だからこそ、彼は一護に負わされた胸の傷を確認する。
「やっぱりか。くそ、殺せ」
胸の傷にそって薬が塗りたくられていた。
それは彼が保有する傷薬であり、少々の傷ならすぐに出血を止めてくれる。技術開発局が作った優秀な作品の一つだ。より戦いやすくするため保有していたものだが、気絶している間に奪われて、しかも治療されてしまったらしい。
それが余計に彼のプライドを傷つける。
しかし一護は吼えるように叫んだ。
「ふざけんじゃねぇ! 助けた奴を殺すかよ!」
「はっ! 甘ぇ奴だぜ」
「それに俺はただで助けたわけじゃねぇぜ。てめぇには聞きたいことがある」
「……そういうことかよ」
一角は得心する。
普通ならば護廷十三隊の者として、意地でも情報は渡さない。しかし、敗北した彼は素直に話すつもりであった。
「朽木ルキアの居場所はどこだ?」
「助けに来たってことかよ」
「ああ、吐いてもらうぜ」
「……ここからでも見える白い建物があるだろう。罪人が連行される懺罪宮ってんだ。いるとしたらそこだろうぜ」
「分かった」
驚くべきことに一護はそれを信じた。
あまりの素直さに流石の一角も呆れを隠せない。
しかしだからこそ、忠告した。
「待てよ」
「あ? 俺は急いで……」
「忠告だ。左目に眼帯を付けた女死神。その人に会った時がてめぇの最期だ」
「眼帯?」
「ああ、忠告はしたぜ」
それだけ言って一角は目を閉じる。
一護が去っていくのを感じながら。
(隊長、あんたの特徴はしっかり伝えたぜ)
あの旅禍は更木剣八という死神を愉しませることができるだろうか。
そんな思考と共に再び眠りへと落ちていった。
更木剣八(綺麗)
身長 170㎝
体重 ??
女なのでちゃんと髪は整えている。背中にとどくほどの長さで、邪魔だがハンデになると思ってそのまま。腰に大きな鈴をつけており、それもハンデ用。正史では右目に眼帯だが、綺麗な剣八は左目に眼帯を付けている。
ちなみに胸は小さい。