綺麗な剣八   作:NANSAN

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14 現世侵攻

 ノイトラの頭部を貫いたはずの剣八だが、反射的に身を引いた。

 全く手応えがなかったからである。

 

 

「くくく! 貫いたと思ったか?」

 

 

 嗜虐的に笑うノイトラが、眼帯を剥ぎ取る。

 そこには虚の穴が空いていた。

 

 

「残念だったなぁ! てめぇは俺を貫いたんじゃねぇ。ただ穴を通過しただけなんだよぉ!」

「なるほど。それは面白い。では折角なので」

 

 

 剣八は自身の眼帯にも手をかける。

 

 

「お揃いになりましょう!」

 

 

 左目の眼帯が剥ぎ取られる。

 その途端、更木剣八の封じられた霊圧が上昇した。これにはノイトラも唖然とする。

 

 

「てめ……どんな仕掛けを!」

「仕掛け? そのようなつまらないものを私がすると思いましたか?」

 

 

 剣八は剥ぎ取った眼帯を見せつける。その内側には複数の口のようなものがあり、蠢いていた。絶大な剣八の霊力を喰らい、封じ込める半生命の化け物である。

 

 

「これは私の霊力を無限に喰らい、抑え込みます。私は力を増したわけではありません。手加減を取り払っただけのことですよ」

 

 

 この事実はノイトラのプライドを深く傷つける。

 彼は自分より上に立つ女が嫌いだ。弱者が嫌いなのだ。力のない者は這いつくばり、自分の下にいればいいと思っている。

 そしてネリエルとの過去のこともあり、女に手加減されることを極度に嫌う。

 

 

「ふざっけんじゃねええええええええええええええええええええ!」

 

 

 魂が動悸する。

 怒りのあまり、彼は残る力を全て解放した。腕が左右で二本ずつ増え、合計で六本の腕となる。そのそれぞれに大鎌を持っていた。最強の鋼皮(イエロ)に防御を任せ、彼は攻撃だけに集中する。凄まじい攻撃密度こそが彼の強みだ。

 激怒によって霊圧は不安定となるが、その一方で劇的に上昇する。

 それに呼応して剣八も霊圧を高めた。

 抑える必要のない、全力だ。理性によって抑え込んでいる力を、化け物の性質を、更木剣八の秘めた心の一部を、今解放する。

 

 

「何だよこれ……あれが剣八の本気なのか……?」

「ひっ……」

「うひぃぃぃぃ! 死ぬッス! 死んじゃうッスよイチゴーーー!」

 

 

 ただ存在するだけで空間が焼き尽くされる。

 絶大な霊圧は虚圏の砂漠をすり潰し、霊子結合すら破壊していた。事象の拒絶という絶対的能力によって結界を張る織姫すら、その力には耐え切れない。戦いの余波を防ぐために張っていた三天結盾に亀裂が走った。

 一護は背筋が凍るような思いをしつつも、前に出て織姫とネルを庇う。

 

 

「死ねえええええええ! 女死神いいいいいいい!」

 

 

 ノイトラは剣八から発せられる霊圧に怯え、怯えた自分に怒りを覚えた。

 ある意味でヤケクソに斬りかかる。

 だがそれはすなわち正気を失っているということだ。それを見て、剣八は一気に冷めた。濃密な霊圧が静謐さを宿し、全て斬魄刀へと宿る。

 

 

「はぁ。その程度ですか」

 

 

 一閃。

 

 

 

 

 

 ノイトラ・ジルガは縦に両断された。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 戦いを終えた剣八は再び眼帯を装着する。重く空間を軋ませる霊圧も急激に低下した。それによって一護たちもまともに呼吸できるようになる。

 ただ、冷や汗は止まっていなかった。

 

 

「大丈夫ですか? 私の霊圧にあてられたようですが」

「あ、ああ。感謝するぜ剣八」

 

 

 織姫の能力ですっかり回復した一護が答える。

 だが剣八は一護の持つ黒い刀へと目を向けていた。卍解・天鎖斬月である。

 

 

「卍解を使いこなしつつあるようですね。どうです。暇つぶしに戦いませんか?」

「は、はぁ? ふざけんな。まだ俺の仲間が……」

「大丈夫です。卯ノ花隊長や朽木隊長、あとは涅隊長も来ていらっしゃいます。霊圧知覚でわかりませんか? もう皆、助かっていますよ」

「え? ああ」

 

 

 そこでようやく一護も理解する。

 先程までは必死に戦っていたので気付くのが遅れてしまった。だが、各地で隊長たちが戦っているのも感じ取れる。

 

 

「ってちげぇよ! 戦わねぇよ!」

「残念です。まぁ、それは良いとして、動けますか?」

「あ、ああ。取りあえず仲間と合流して……」

 

 

 一瞬の油断。

 剣八ですら気を抜いていたその瞬間、一体の破面(アランカル)が現れた。響転(ソニード)である。知覚をすり抜けるようにして現れた男、スタークは織姫を抱える。

 

 

「っ!」

「井上!」

 

 

 剣八と一護は瞬時に反応して剣を抜くも、その時にはスタークも姿を消していた。目にも留まらぬ早業であった。

 折角取り返した織姫を奪い返されてしまった。

 

 

「くそ!」

「私も行きます、黒崎さん」

「ああ、頼む剣八!」

 

 

 二人は瞬歩でその場から消える。

 虚夜宮(ラスノーチェス)を目指して。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 織姫は藍染の前へと連れてこられる。

 すなわち一護と隊長格がまだ虚圏に滞在する理由が生じた。

 

 

「要」

「はっ!」

 

 

 ただ呼びかけられただけで東仙は全てを理解する。

 詠唱破棄によって縛道の七十七、天廷空羅が発動した。虚夜宮に広がった。

 

 

『今より現世へ侵攻する』

 

 

 藍染の策略。

 それは脅威である更木剣八を虚圏に封じ込めることであった。鏡花水月を無効化する更木剣八と戦う場合、純粋な戦闘能力で上回る必要がある。つまり霊王を打ち破り、新たな世界を創造した暁に成し遂げれば良い話なのだ。

 剣八たちが通り抜けて来た黒腔(ガルガンダ)が強制的に閉じられる。

 

 

虚夜宮(ラスノーチェス)は任せたよ。ウルキオラ」

 

 

 藍染惣右介、市丸ギン、東仙要、そして痣城双也は空座町へと繋いだ黒腔へと消えていく。

 

 

「はい。藍染様」

 

 

 ウルキオラはただ一人、返答した。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 織姫は再び攫われ、虚夜宮に残された。

 ウルキオラ・シファーと共に。

 

 

「心とはなんだ?」

 

 

 仲間が来ると信じる織姫に、ウルキオラが問いかける。

 虚無を司る彼にとって、感情とは理解の外にあるものだ。

 

 

「その胸を引き裂けば見つかるのか? 頭蓋を切り開けばそこにあるのか?」

 

 

 その指先が織姫の胸に触れた。

 後少しでも力を入れたなら、彼の指は織姫を引き裂くだろう。しかし織姫は恐怖していなかった。一護が助けに来ると信じていた。

 

 

 

 

 壁が破壊される。

 

 

 

 

 鈴が鳴る。

 

 

 

 

 

「月牙……」

 

 

 

 卍解を纏った黒崎一護が、その刃に黒い霊圧を収束させる。

 織姫に一目。

 無事だ。

 

 

「天衝おおおおおお!」

 

 

 夜よりも闇よりも深い黒の霊圧がウルキオラに炸裂した。

 その間に剣八が音もなく織姫の側へと現れる。そして彼女を抱え、瞬歩で距離を取った。

 

 

「え、あ、更木さん!?」

「はい。更木剣八です。無事ですか井上さん」

「えっと、お蔭さまで?」

「それは何より」

 

 

 やがて黒い霊圧が晴れる。

 そこには刀を抜いたウルキオラが一護と鍔迫り合いをしていた。

 

 

「剣八ぃ! コイツは俺の戦いだ! 手ぇ出すんじゃねぇぞ!」

 

 

 そう叫び、一護とウルキオラは激しく打ち合い始める。

 割り込む隙など与えないとばかりに。

 

 

 

 

 




剣八「硬さに慣れる必要なんてなかった」
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