綺麗な剣八   作:NANSAN

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ヤミー「タイトルが死亡フラグ」


15 第0十刃

 黒崎一護にとってグリムジョーとの戦いは大きな糧となった。

 成長し続ける彼は、かつて手も足も出なかったウルキオラと対等に打ち合う。そして遂にウルキオラの斬撃を手で掴み、天鎖斬月を直撃させる。

 

 

「黒崎君……」

 

 

 織姫は祈りにも似た願いを込める。

 どうか、怪我をしないで欲しいと。勝って欲しいと。

 

 

「図に乗るなよ。黒崎一護」

 

 

 ウルキオラのギアが一段階上がる。更に速くなったことで卍解状態の一護すら上回る。何とか順応しようと試みるが、一度ペースを乱されると持ち直すのは難しい。

 このままでは押し切られる。

 そう思った時、想定外の事態が起こる。

 

 

「ウ~ル~キ~オ~ラ~」

 

 

 壁が破壊され、巨漢が姿を現す。

 かつて現世にも侵攻した破面(アランカル)、ヤミー・リヤルゴであった。

 

 

「面白そうなことしているじゃねぇか。俺も交ぜろよ」

「……邪魔だヤミー。暇ならそこにいる女の相手でもしていろ」

「んん~? なんだいるじゃねぇか」

 

 

 のしのしと瓦礫を崩しながらヤミーが迫る。第10十刃(ディエス・エスパーダ)であることを示す数字が肩に刻まれており、剣八は少々落胆した。

 

 

(第5があの程度だったわけですし、これは期待外れですね)

 

 

 とはいえ放置するわけにもいかない。

 斬魄刀を抜き、織姫の一歩前に出る。すぐ後ろに守護対象がいるので本気は出せないが、それがハンデとなって楽しめるかもしれない。そう思いつつ、出方を待つ。

 ヤミーは準備運動のように肩を回し、そして叩き付けるようにして殴った。

 剣八はそれを片手で止める。

 

 

「ぬるい」

 

 

 目にも留まらぬ速さで斬魄刀が振るわれる。

 ヤミーの右腕は一瞬で斬り落とされた。

 

 

「ぐあああああああ!? てめええええええ!」

 

 

 怒りを露わにしたヤミーは巨体を活かした突進をする。その質量と鋼皮(イエロ)の頑丈さから生じる威力は凄まじいものになるはずだ。背後に織姫がいる剣八は回避できない。

 尤も、回避するつもりなど微塵もなかったが。

 

 

「体躯の使い方が甘い」

「ぐあっ!?」

 

 

 瞬歩に身体の回転を加えることで威力を増した蹴りを放つ。ちょうど鳩尾に直撃したことでヤミーは吹き飛ばされ、穴を空けた壁から出てしまった。

 また今いる場所はかなりの高層である。

 空を飛ぶことができないヤミーはそのまま落下していく。

 そこに擦れ違う形で雨竜が入ってきた。彼は咄嗟に飛んできたヤミーを回避し、中に着地する。

 

 

「危ないな! 誰だあんなものを投げたのは!」

「私ですよ」

「更木剣八!? それに井上さんも!」

 

 

 そこで剣八は丁度良いとばかりに壁の大穴へと進み始める。そして雨竜と擦れ違う瞬間、彼にだけ聞こえるように告げた。

 

 

「後は任せます。あの十刃(エスパーダ)は私が始末しますので」

 

 

 返事を聞くつもりはない。もはや決定事項だからだ。一護がウルキオラと戦っている間、織姫を守ることくらいできるだろうと考えた。

 剣八はヤミーを追いかけるため、飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 地面まで落下したヤミーは、砂煙を上げて着地する。流石に受け身も取れないほど鈍重ではなかった。しかし着地と同時に怒りを露わにする。

 

 

「ちくしょおおおおおお! あの女あああああああああああ!」

 

 

 怒りを力に変える。

 それがヤミー・リヤルゴの能力だ。彼は睡眠と食事によって霊圧を溜め込み、力を増す。だがそれ以上に怒りによって力を増す破面(アランカル)だった。

 ひらり。

 そんな効果音が似合いそうな着地を魅せる剣八を睨みつける。

 彼女の隊長羽織は汚れ一つ付いていない。

 斬魄刀には欠け一つない。

 その顔からは余裕が消えていない。

 全てがヤミーを怒り狂わせるのに充分であった。

 

 

「ブチ切れろ! 憤獣(イーラ)!」

 

 

 怒りを力に。

 帰刃(レスレクシオン)によってヤミーは真の姿へと変貌する。その過程で肉体は巨大化し、肩に刻まれた数字が変化する。十からゼロへと。

 

 

「ぬああああああああ! 俺が最強だ! この俺こそが第0十刃(セロ・エスパーダ)ヤミー・リヤルゴだああああああああああああああ!」

 

 

 咆哮が虚夜宮に響き渡る。

 全貌を捉えきれないほど巨大化したヤミーは、怒りの霊圧を剣八へと向ける。

 だが、剣八は思わず笑みを浮かべてしまった。

 

 

「なんだ」

 

 

 斬魄刀を構える。

 

 

「あなた、面白いじゃありませんか」

 

 

 ヤミーの拳が隕石のように振り下ろされる。巨大ビルさえ一撃で粉砕する威力だ。しかし剣八は怯えることなく、真正面から剣を振るう。

 眼帯を付けてもなお封じ込められない強大な霊圧によって、ヤミーの拳が引き裂かれた。

 しかし傷をつけることはヤミーの怒りを引き出すということ。

 怒りを力に変える能力によって更に巨大化し、更に霊圧が強大化していく。

 

 

「うおおらあああああああああ!」

「ほら! ほらほらほらほら! もっと霊圧を上げてください! この程度ではないでしょう? あなたの力はもっと上のはず。零番の称号は飾りですか?」

「死ねええええええ!」

 

 

 その戦いは一見すると巨獣に立ち向かう人間。

 しかし実際は剣八が圧倒的優位を保ったまま戦っていた。まだ上昇し続けているヤミーの霊圧より、剣八の霊圧の方が上なのである。霊体の戦いは霊圧の強さによって決する。ヤミーはまだ、剣八に傷一つ負わせることができていない。

 

 

「さぁ、戦いを愉しみましょう!」

 

 

 ついにヤミーは大量の霊力を圧縮し始める。固有技、虚閃(セロ)だ。しかも剣八から受けた傷より血が吸い込まれ、触媒として取り込まれていく。

 それを見て剣八も一筋縄ではいかないと思ったのか、斬魄刀を両手で握って高らかと上段に構える。隙が大きい代わりにただ振り下ろすだけで最大威力を放てる攻撃の型だ。込められた霊圧は尋常ではなく、剣八とヤミーの霊圧によって周囲が震える。

 雑魚は近づくだけで蒸発させられるであろう。

 

 

 ヤミーは放つ。

 十刃(エスパーダ)にのみ許された王虚の虚閃(グラン・レイ・セロ)を。もはや一人の死神に対して放つ威力ではないそれは、回避も防御も不可能な威力と範囲を備えている。

 

 

 チリン。

 

 

 鈴が鳴る。

 

 

「よくできました」

 

 

 剣八はただ、笑みを浮かべていた。

 出来の悪い子供を褒めるように、優しく静かな口調だった。

 解放すらしていない斬魄刀が振り下ろされ、王虚の虚閃(グラン・レイ・セロ)とぶつかる。普通ならばそのまま押し潰されてしまうが、剣八が膨大な霊力を込めた斬撃は一味違った。そのまま王虚の虚閃(グラン・レイ・セロ)を打ち破り、ヤミーの体に大きな傷をつけたのである。

 仮に王虚の虚閃(グラン・レイ・セロ)によって威力が殺されていなければ、今の一撃で勝負が決していただろう。

 

 

「ですのでご褒美です。呑め――」

 

 

 再び斬魄刀を両手で持ち、掲げる。

 だが込められる霊圧は先程を遥かに上回っていた。

 

 

野晒(のざらし)

 

 

 刀が変形し、大太刀となる。

 そこで初めてヤミーは恐怖した。世界を焼き尽くす勢いで上昇する更木剣八の霊圧に畏怖した。故に怒りを忘れてしまった。

 

 

「終わりです」

「まっ――」

 

 

 再び振り下ろされる一撃。

 それは先の斬撃を大きく上回り……完全体となったヤミー・リヤルゴを縦に両断したのだった。

 

 

 

 

 

 




ヤミー「知ってた」
ノイトラ「オマエも縦に殺られたか」
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