虚化した一護はウルキオラを圧倒する。虚の混ざった絶大な霊圧によってあっという間にウルキオラを追い詰め、着実に勝利へと近づいていた。
しかし一護は忘れていた。
彼は卍解に加え、虚化という切り札を切っている。
だがウルキオラはまだ
「――
彼は満月を背に、逆手に持った斬魄刀を掲げる。
そして絶望を告げた。
「鎖せ、
黒い雨が降る。
そして彼は悪魔の如き翼を得た。
「なんだよ……それ」
一護は肝が冷える。
感じたことのない重い霊圧によって動くことを忘れていた。
「集中しろ。一瞬たりともその仮面を解くな」
その瞬間、ウルキオラは一護の目の前にいた。その首筋にフルゴールを添えて。
咄嗟に判断で月牙天衝を放つも、勢いを殺しきれず仮面が破壊されてしまう。すぐに新しい仮面をつけたが、もはや一護の中で勝利のビジョンは失われていた。
だがそれは諦める理由にはならない。
絶望するには足りない。
天鎖斬月を超える速度、虚化を超える霊圧、そして月牙を超える
何をしても一護の目から炎は消えなかった。
業を煮やしたウルキオラはどこか焦りのようなものを感じる。そんなものは無いと自身に言い聞かせつつも、無駄なことをし続ける一護に苛立ちのようなものを感じていた。
故に必要以上の力を見せつける。
「この力は藍染様にもお見せしたことがない」
より悪魔に近い見た目となったウルキオラからは深い絶望を思わせる霊圧を感じ取ることができた。まるで霊圧を霊圧だと認識できないような、異質な力が感じられる。怖い、逃げたい。そんな感情を掻き立てる力であった。
しかし、一護は勝利を諦めてはいなかった。
◆◆◆
一護の戦うところを見たい。
いや、見届けなければならない。
そんな織姫の願いを叶えるため、雨竜は彼女を連れて天蓋の外へと移動した。その途中でウルキオラの異質な力を感じ取るも、今更引くわけにはいかない。
しかしようやく到着したところで、二人は絶望を眼にする。
「来たか、女」
ウルキオラの尾が一護の首を絡めとって浮かせていた。
天鎖斬月こそ離していないが、全身から力が抜けているように感じられる。一方的にやられたのだと織姫ですら理解できた。
「よく見ておけ。貴様のために戦った、愚かな男の最期を」
「やめて!」
一護の胸へと突き付けられた指の先に黒い霊圧が集まる。
「黒崎君!」
悲痛な声が夜空に消える。
放り捨てられた一護の体に慌てて双天帰盾をかけるが、上手く発動しない。
死に人が生き返らないのは事象の拒絶を以てしても同じであった。
雨竜は覚悟を決め、せめて織姫を逃がそうと銀嶺孤雀を構える。
「井上さん、僕が時間を稼ぐ。だから!」
放たれる矢は全て
そして弓を展開している右腕を消し飛ばされた。
「ぐあああっ!?」
「石田君!?」
何もできない。
一護も治療できず、戦いにも参加できない。
織姫はただ祈ることしかできなかった。
――祈りは届く。
最悪の形で。
「グオオオオオオオオオオオオッ!」
死神としての黒崎一護が殺され、内なる虚が目覚めた。
井上織姫が抱いた、その願いによって。
◆◆◆
守る。
守る。
井上を、守る。
第二解放までしたウルキオラは一瞬で敗北した。
そしてその瞬間を更木剣八は目撃した。ヤミーを倒した後、天蓋の外より感じられた異質な霊圧を目指して走ってきたのである。壁を垂直に上るという技を披露しやってきたが、一足遅かった。
「これは……?」
訳が分からない。
それがまず剣八の抱いた感想である。虚のようになってしまった一護が、身体の半分以上が消し飛ばされたウルキオラを片手に握っている。そしてウルキオラは無造作に捨てられた。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」
完全虚化した一護は吼える。
そして捨てたウルキオラをさらに切り刻もうとした。
これ以上は見ていられない。そう考えた雨竜が一護を止めに入る。もうやめろ。勝負は決した。そう説得の言葉をかけるが、一護には届かない。
ウルキオラを滅ぼすことは織姫を守る行為。
それを妨げるのならば、お前もまた敵である。
無茶苦茶なロジックによって今度は雨竜がターゲットとなる。目にも留まらぬ速さで天鎖斬月がその腹に突き立てられた。
「ぐあっ!」
追撃しようとした一護の前に剣八が割り込む。
そして手首を掴み、勢い良く投げた。一護は凄まじい勢いで離れていく。
「井上さん、石田さん。私は黒崎さんを止めてきます」
それだけ告げて、彼女も瞬歩でその場から消える。
すると気が抜けたのか、雨竜は力なく倒れた。慌てて織姫が治療を開始する。潰された右腕と腹の傷がみるみる内に治癒されていた。
しかし治癒されているのは雨竜だけではない。
身体の多くが消し飛ばされたウルキオラもまた、超速再生によって復活しようとしていた。
だが彼の超速再生は内臓を含む重要器官にまでは作用しない。
形だけの治癒であり、滅びは確定していた。
「女、俺が怖いか?」
手を差し伸ばすウルキオラは問いかける。
人知を超える力を見せつけた。異能者とはいえ、織姫とは隔絶した絶対の力だ。恐怖しないはずがない。この力に畏怖するのは当然の論理だ。
しかし、織姫は悲痛な表情を浮かべつつ、首を横に振る。
「ううん。怖くないよ」
力を見ているわけではない。
その心故に。
彼女の言葉に、ウルキオラは一つの答えを得た。
――そうか。
―――この掌の中にあるものが
―――――心か
◆◆◆
完全な虚となった一護を前にして、剣八は強さを分析する。悪魔のような仮面によって顔は隠されているものの、感じ取れる霊圧は確かに一護だ。しかし同時に違いすぎる。
「いいでしょう。私の全力をぶつけるのに値します」
まずは眼帯を外す。
それによって爆発的に霊圧が上昇し、世界が軋み始めた。
「卍解、
斬魄刀の形状そのものに変化はない。
しかし霊圧を飲み込む本来の能力が劇的に強化された。周囲の霊圧を飲み干し、全てを剣八の力とする。尽きることのない霊力が剣八に無限を与える。
戦い続けることに快楽を見出した彼女らしい卍解であった。
「来なさい黒崎一護。久しぶりに愉しみましょう」
「グオオオオオオオオオオオオ!」
一護の初手は
世界を焼き尽くすほどの霊圧が収束し、放たれる。しかし剣八はそれを切り伏せた。瞬歩によって一護の背後へと迫り、そのまま切りかかる。だが一護も負けておらず
そこからは剣劇の連続である。
打ち合うたびに空が割れるのではないかと思うほどの衝撃が走る。
(これが本来の力!)
剣八は歓喜する。
戦い方は粗削りで、一護が磨き上げた剣技はほぼ失われている。しかし圧倒的な霊圧と運動性能によって剣八へと迫ってくるのだ。余計な能力は必要ない。ただ敵を斬るための速度と力と霊圧に特化した一護に愉しみを見いだせないで何が剣八か。
(あの時の感覚は間違いではありませんでした)
初めて一護と戦った時、彼は未熟であった。
更木剣八が特注した何の変哲もない刀を砕くだけで精一杯であった。
しかし戦いの中で黒崎一護に対する可能性を見出した。この死神は強くなる。今少し我慢すれば、将来は対等に戦える存在になる。そんな確信があった。
虚と化した一護が何者であるかなど関係ない。
今はただ、敵として斬る。
「再び剣を磨きましょう。戦いの中で成長しましょう。そして新たな力を私に見せてください!」
「グオオオオオオオオオオオオ! オオオオオアアア!」
「
更木剣八を殺すには足りない。
そう理解した一護は
ならばと一護は月牙天衝を放つ。今までよりもさらに巨大な斬撃が迫るが、剣八はまたそれを切り捨てた。更には切り捨てた月牙天衝が卍解・呑晒に飲み干される。この卍解を使っている間、剣八は一切の霊力消耗を気にする必要がない。体力の消耗だけはどうしようもないが、ほぼ無尽蔵に戦い続けることができる。あらゆる鬼道や特殊能力もすべて飲み干され、残るのは純粋な剣の戦いのみ。
余計な能力はいらない。
ただ斬り合いを愉しみたい。
更木剣八の願った通り、斬魄刀は心を写し取ってみせた。
「今日も愉しかったですよ。また遊びましょう」
剣八の姿が掻き消える。
次の瞬間、彼女は一護の背後に現れた。同時に一護の全身に大量の斬撃が走り、遅れて血が噴き出る。そして仮面まで割れた。