東仙要には憧れた女死神がいた。そして彼女を愛していた。
だが、彼女は貴族と結婚する。
それで良いと思った。彼女が幸せになるのなら、構わないと考えていた。流魂街出身の彼女が貴族の元に嫁ぐということは滅多にない出世なのだから。
しかし彼女は切り殺された。他ならぬ、夫によって。
裁かれるべきだった。貴族といえど、罪は償われるべきだった。本当ならば東仙自身の手で殺してやりたかったが、法に任せることで折り合いをつけようとした。ところが、中央四十六室は貴族の男を軽い処罰で済ませてしまった。確かにその男は絶大な権力を持つ貴族の一員であった。後から東仙が幾度訴えようと、聞きいられないだけの権力を持っていた。
「私の目的は初めから一つ。復讐だ」
故に今こそ本当の心を告げる。
親友たる狛村左陣に、ずっと隠してきた本心を語る。
瀞霊廷への復讐のためならば、その身を虚によって侵すことも厭わない。虚が死神化して
狛村は堕落だと彼を諭す。
過ぎた力を得てまで成すのが何故復讐なのかと問い詰める。
だが復讐に燃える東仙に、その言葉は届かない。
「私にとって堕落とは、この復讐の心を安寧の中で忘れてしまうことだ」
たとえ死神としての自分と決別しても。
藍染という悪逆と道を共にしようとも。
彼の閉ざされた目に映るのは、憎悪の炎によって焼け焦げた自分自身である。
正義の道は、初めから血に染まっていた。
「清虫百式・
四枚の翅と六本の足を備えた、まるで昆虫のような見た目になった。また、この解放によって彼の閉ざされていた眼が開く。
「卍解・
狛村も卍解によって対抗しようとするが、解放した東仙はそれをも上回った。絶大な速度とパワーによって黒縄天譴明王を圧倒し、逆に破壊してしまう。卍解のダメージとリンクしている狛村は大量の血を吐きだし、膝をつかされた。
剣八との戦いを思い出す。
圧倒的な暴力によって叩き潰す狛村の卍解は、さらなる暴力によって潰されてしまう。単純に力が上の相手に対して決定打がない。
卍解を叩き潰され、もはや動けぬ狛村に
「さよならだ、狛村」
彼の眼には狛村しか映っていなかった。
狛村という男の語る言葉が一つ一つ、彼の心にさざなみを立てていたからだ。
本当は東仙も分かっていた。
何が正義で、何が悪なのか。
しかしそれを理解し、承知の上で覚悟を決めていた。今更、情に流されて改心など有り得ない。その決別のために親友を殺すつもりだった。
東仙要には何一つ、見えていなかった。帰刃した今も。
さくり
背後から頭部を貫かれる。
その犯人は東仙の副官だった男、檜佐木修兵であった。
「刈れ、
檜佐木は声を絞り出す。
斬魄刀は始解し、鎌にも似た形状へと変化した。東仙要を内側から引き裂いた。
◆◆◆
虚と融合しただけのことはあり、東仙はすぐに死ななかった。解放状態こそ維持できなくなったものの、彼はまだ生きていた。そして治療すれば生き永らえることもできた。
「狛村……私は……」
「分かっておる。もう喋るな」
「東仙、隊長……」
狛村と檜佐木は彼を介抱する。
確かに東仙要は罪人であり、殺されても文句は言えない。しかし、動けなくなった彼を殺すことはない。たとえ裁判で処刑が決まっていようともだ。
もはや東仙に戦う気はない。
だが、それを藍染は許さなかった。
突如として東仙が内側から破裂する。その理由は簡単だ。藍染の役に立たない者は死ぬのみ。ハリベルを斬ったことを考えれば当然である。
「なっ!」
しかしそれを目の前で見せられた狛村と檜佐木はそうもいかない。
激昂し、力の限り叫んだ。
「藍染! 貴様あああああああああああああ!」
射殺さんばかりの眼光で睨みつけるも、藍染は涼しい表情を崩さない。
しかしその瞬間、背後の空間が割れる。
「月牙―――」
黒い霊圧が解き放たれる。
「天衝おおおおおおお!」
藍染の死角を突いた完全な不意打ち。狙いは首の後ろ。確実に葬れるタイミングだった。
だが、それを対策しないわけがない。
一護の天鎖斬月は障壁のようなものに止められてしまう。
「首の後ろは生物にとって最大の急所だよ。そんなところに何の対策も施さず戦いに臨むとでも思ったかい?」
背後に眼を遣りながら藍染は諭す。
仕留めきれなかった。今の一撃で仕留めるべきだった。一護の後悔を藍染は手に取るように理解する。
「ならばその結界ごと斬るまで」
一護の背後から現れた剣八が野晒でもって仕掛ける。黒い月牙を凌駕する霊圧によって、結界ごと消し飛ばそうとしたのである。確かにその一撃ならば、藍染を殺せる。
そのはずだった。
しかしすぐ横から巨大な青い炎が迫る。
破道の七十三、双蓮蒼火墜だ。
そこで剣八は攻撃を止めて、一護を庇う位置に移動した。そして迫る爆炎を切り払う。
「よくやった双也。更木剣八の相手は任せたよ」
「いいだろう」
痣城双也は卍解・
パラパラと空気を叩く軽快な音が響き渡る。
出現したのは四機の軍用ヘリであった。それは問答無用で剣八へと狙いを定め、
「うっそだろ!? やべぇぞ剣八!」
「あれは一体?」
「とにかく避けろ!」
ミサイルを知る一護は剣八の手を引いてその場から離脱する。残念ながら誘導によって二人を追いかけるが、死神の瞬歩には追いつけない。やがて標的を失い、空中で爆発した。
それをみて剣八もミサイルという兵器を理解する。
「なるほど。あの筒に鬼道が込められているのですね?」
「あ、いや。まぁ、それでいいや」
「ならば斬れます。問題ありません」
「大ありだ! くそ、気が抜ける」
一撃で藍染を倒せなかった後悔など気にする暇もない。
死神が軍用ヘリを操るという衝撃的な光景を前に、一護は動揺を隠せない。しかし一方で剣八は舌なめずりをしていた。お預けとなっていた痣城との戦いだ。
「黒崎さん、あなたは藍染を。私があれを倒します」
「けど……」
「私が何者かお忘れですか?」
「っ! ああ! 任せる!」
一護が藍染の方へと向かって行くをの見送る間、近づいてくる痣城を待つ。轟音と共にやってくるヘリの隣に痣城もいた。そして痣城は一人、剣八の前まで宙を歩いてきた。
向かい合う二人の剣八。
まず口を開いたのは痣城であった。
「……更木剣八、無駄な戦いをするな。お前に勝ちはない」
「そうですか? 私はあなたこそ勝ち目がないと思いますよ」
珍しく剣八はそんな警告をする。
戦いを愉しむ彼女からすれば本来ありえないことであった。
「瀞霊廷で一度剣を交えましたね。しかし私の卍解で致命的なダメージを負っていたように見えました。それで不可解に思い、あなたの記録を調べたのです。あなたの卍解・雨露柘榴を」
「……」
「私の卍解・
「斬り合いなど、無駄なことだ」
痣城とて相性が悪いことは承知の上だ。
だが、彼は虚圏に滞在している間に対抗策も練り上げている。こうして更木剣八と戦うことは初めから分かっていたからだ。
虚圏で手に入れた力により、黒腔を開く。
その内側から幾百もの改造
痣城も強化
虚圏に行ったということは……?
知ってる人ならわかりますよね