綺麗な剣八   作:NANSAN

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24 化け物の目覚め

 藍染は膝をついていた。

 

 

「ぐっ……更木剣八、これほど」

 

 

 剣八が放った奥義、八千流はいわば剣技である。

 それは更木剣八が憧れた果て。

 あの日見た憧れの剣を目指し、彼女が至った奥義である。卍解によって集めた霊力を速度と力へ割り振ることで放つ無数の斬撃だ。一瞬のうちに数え切れぬ本気の斬撃を放つことで、あらゆる対象を細切れにしてしまう。それが物質であるかどうかは関係ない。

 更木剣八が全力を振るった後には、空間すら切り刻まれる。

 明鏡止水鏡花水月によって喚起された幻の山本元柳斎も切り刻まれて消滅していた。更にはその奥にいた藍染にまで明確なダメージを与えたのだ。

 ただ、それで死なない藍染の化け物具合がよく分かる。

 

 

「だが私の勝ちだ。私はさらに力を増し、進化する」

 

 

 藍染はただ再生しているわけではない。

 崩玉が彼の願いを取り込み、藍染惣右介という存在を昇華させていく。更には藍染の手から斬魄刀が消失していた。

 

 

「崩玉はもはや私に斬魄刀など必要ないと判断した。私は鏡花水月と一つとなったのだ。感謝しよう。卍解を使わされただけのことはあると改めて認めよう」

 

 

 彼はゆっくりと歩み寄る。

 全身に火傷を負い、仰向けに倒れる更木剣八へと。

 だが彼女も死んだわけではない。残火の太刀は威力絶大であり、確かに大ダメージを与えた。しかしそれでも更木剣八を殺し切ることができなかった。

 死覇装もすっかりぼろぼろで、劫火を超える炎に耐え切れていない。剣八はただ、自身の保有する絶大な霊圧を以てして残火の太刀を凌ぎきってみせたのだ。普通ならば塵も残らぬその攻撃を受けても尚、彼女は生きていた。

 

 

「流石は総隊長の卍解、ですね」

 

 

 剣八は上半身を起こし、呑晒を杖のように地面に突き立てて立ちあがる。すると霊力を飲み干す呑晒の能力により彼女へと周囲の霊子が集まっていき、徐々に傷が癒え始めた。呑晒の力を回復へと割り振ったのだ。

 卍解・呑晒は更木剣八が望む斬り合いをサポートするために存在する。

 斬り合いの邪魔となる余計な能力は排除し、いつまでも戦い続けられるよう周囲の霊力を飲み干して供給してくれる。それによって剣八は急速に回復していき、ほぼ無傷へと戻った。

 一見すると互いに振り出し。

 だが藍染はこの戦いによってさらなる進化を遂げた。

 

 

「さて、更木剣八。次は二人だ」

 

 

 藍染がそう言い放つと、その両脇が揺らぐ。

 右側には蛇のような雰囲気の男、市丸ギン。

 左側には襤褸を纏った髑髏、バラガン・ルイゼンバーン。

 明鏡止水鏡花水月によって喚起された二人が剣八へと襲いかかる。まずは市丸が卍解・神殺鎗で剣八を刺し貫こうとする。その刃に毒が仕込まれていることは既に分かっているので、剣八は全て叩き落した。だが市丸だけに構っている余裕はない。

 死の息吹(レスピラ)が剣八へと迫る。隠密機動の死神でさえ逃げ切れない速度があるため、剣八でも逃げ切るのは難しい。ただ問題は、剣八がバラガンの能力を知らないことであった。

 

 

 『老い』の力が剣八の髪に触れる。

 

 

 あらゆるものを朽ち果てさせる権能にも似たその力は、絶対的な霊圧によって守られ、残火の太刀を以てしても焼き尽くすことのできなかった剣八の髪を朽ち果てさせる。それだけではない。老いの力は髪を伝って全身を朽ち果てさせようとした。

 気付いた剣八は即座に髪の房を手にして切り落とす。

 斬られた髪の房は空中に散りながら消えていった。

 

 

「これは……」

「余所見している暇はないよ」

「くっ!」

 

 

 藍染もいつの間にか背後に回り、手刀によって心臓を貫こうとする。慌てて回避するも、瞬間移動にも似た能力によって藍染は先回りしていた。

 

 

「破道の九十、黒棺」

「させません!」

 

 

 重力の奔流によってあらゆる物質を圧壊させる。

 そんな鬼道が完成する前に呑晒で薙ぎ払い、周囲の霊子を飲み干した。更にはその霊子を利用して藍染を切るが、それは片手で止められる。

 

 

「私だけに注目していいのかな?」

 

 

 神殺鎗と死の息吹(レスピラ)が迫る。

 前者は掴んで止め、後者は瞬歩によって逃れようとした。しかし死の息吹(レスピラ)は凄まじい速度で剣八を追いかけ逃さない。

 藍染はトドメとばかりに新たな幻影を具現化する。

 

 

「卍解・大紅蓮氷輪丸!」

 

「討て、皇鮫后(ティブロン)

 

「花天狂骨」

 

「双魚理」

 

「蹴散らせ、群狼(ロス・ロボス)

 

「卍解・雀蜂雷公鞭」

 

「鎖せ、黒翼大魔(ムルシエラゴ)

 

「ブチ切れろ! 憤獣(イーラ)!」

 

 

 

 氷の竜を纏った日番谷冬獅郎が。

 

 水を従えるティア・ハリベルが。

 

 二刀一対の斬魄刀を持つ京楽春水と浮竹十四郎が。

 

 二丁拳銃を持つコヨーテ・スタークが。

 

 片腕に巨大なミサイルを装着した砕蜂が。

 

 悪魔の如き姿となったウルキオラ・シファーが。

 

 零の番号を掲げる巨体、ヤミー・リヤルゴが。

 

 

 

「卍解」

 

 

 そして髪を振り乱す鬼のような女――

 

 

皆尽(みなづき)

 

 

 初代剣八、卯ノ花八千流が。

 

 

 

 霊王宮を堕とすための戦力が今、解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははははははははははははははははははははは!」

 

 

 剣八は嗤う。

 狂たように笑い続ける。

 この絶望にも似た状況を前に喚起する。

 

 

「あぁ……」

 

 

 彼女はただ美しく笑っていた。

 妖艶さすら感じられるほどに。

 更木剣八という死神はこの瞬間、最高の快楽を得ていた。

 

 

呑晒(のざらし)、本気を出しましょう?」

 

 

 そう口にした途端、剣八の霊圧が数段上昇する。いや、まだ上昇し続ける。

 藍染惣右介は化け物を起こした。

 綺麗なまま、理性によって縛られていた化け物を目覚めさせた。

 

 

 

 ―――呑晒(のざらし) 奥義 八千流(やちる)

 

 

 

 嵐のような、竜巻のような。

 ただの斬撃が天地を埋め尽くす。更木剣八という化け物は、卍解によって空間を切り裂き飲み干した。小細工など不要。剣八の全力が込められた一刀が無数にあるだけ。ただそれだけで世界は切り裂かれる。

 

 

「あぁ……」

 

 

 抗うことなど不可能。

 それが更木剣八という化け物である。

 

 

「やはり生き残りましたね。憧れた人」

 

 

 ただ一人、卯ノ花八千流を除いて。

 四番隊隊長、卯ノ花烈。しかしその正体は護廷十三隊の創設期に十一番隊隊長であった死神だ。すなわち初代剣八である。

 滴る血のような刃を手に、卯ノ花は霊圧を高める。

 古今東西、ありとあらゆる剣術はその手の中に。それこそが八千流(やちる)の意味。現在の護廷十三隊において卯ノ花を超える剣術の使い手はいない。

 剣八の奥義、八千流(やちる)は憧れた彼女になぞらえて名付けられたもの。

 その源流である卯ノ花が防げないはずがなかった。

 

 

「やっと。ああぁ、やっと」

 

 

 剣八は呑晒を構える。

 卯ノ花と相対し、化け物が望んだ果てを見据える。

 

 

「あなたを超えられる」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――思い出す。

 

 ――卯ノ花八千流との出会い。

 

 ――――忘れようもない、あの戦いを。

 

 

 

 

 

 




バラガンの老いって結構不思議ですよね。BLEACH界でも稀に出てくる理に属する能力かなって考察しました。
実質不老の存在にも老いが効いているので、時間というより状態に干渉する能力だと思います。ある意味、大虚という魂の終着点を消し去るために世界が用意した能力なんじゃないかと。

なので剣八でも無効化できないって設定にしてます。
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