およそ千年前。
護廷十三隊が創設され、死神が秩序によって力を振るい始めた。まだまだ護廷とは名ばかりの暴力集団でしかなかったが、それでも一つの秩序が生まれつつあった。
だからこそ、初代十一番隊隊長は酷く落胆していた。
強者と斬り合い、殺し合うことができなくなったことに。
「卯ノ花隊長、やはりこんな外れにあなたの欲を満たせる奴なんていませんよ」
当時の副官は雨の中、そのように進言した。
十一番隊は卯ノ花が自ら率いて尸魂界の治安維持にあたっていた。だが、それは治安維持とは名ばかりの殺戮でしかなかった。現に、彼女たちの前には死体の山ばかりであった。
雨が降る。
まるで世界が涙を流しているかのように。
満たされぬ卯ノ花の心のように寂しく。
「ほら隊長、またこんな死体の山を作って……」
「……これは私ではありませんよ」
「へ? なら誰が」
その時、卯ノ花は気付く。
殺した覚えのない死体で作られた山があると。流石の彼女も殺した相手くらいは分かる。だが、目の前に一段と高く積まれた死体は彼女がやったものではなかった。
死体の山の上に、動く人影が現れる。
それはぼろぼろの斬魄刀を片手に鬼のような形相をした少女であった。
「うがあああああ!」
少女は獣のように唸りながら死神の一人に襲いかかり、あっという間に切り殺す。戦闘部隊として名を馳せ始めた十一番隊の死神を瞬殺したのだ。
これには卯ノ花も剣を抜き、少女へと斬りかかる。
その手の内にある全ての剣術によって少女を斬り殺そうとした。
「があああああ! あああああ!」
少女はただ叫び、力任せに剣を振るう。
そこに剣術も何もあったものではない。だが、強かった。ありとあらゆる剣を修めた卯ノ花八千流でさえ圧倒され、恐ろしい一突きによって胸に深い傷をつけられる。
「ぐっ……」
卯ノ花は自身の弱さを呪った。
そして少女の強さに歓喜した。
だからこそ、全力で、挑み、戦いの中で死ぬつもりで剣を振るった。理性など忘れ、ただ手の内にある剣術を殺人のために振るい続けた。
――だが、少女は卯ノ花の全力をも上回っていた。
―――そして少女は理解する。
――自分は強すぎる。
――――普通に戦えばこの愉しい戦いが終わってしまう。
――もっと愉しみたい。
―――ならば相手の土俵で戦えばいい。
――霊圧ではない。
――――理性によって振るわれる剣術で。
その日、綺麗な剣八が生まれた。
◆◆◆
「あは……思い出しました」
藍染が生み出した卯ノ花と剣を交えつつ、剣八は嗤う。
もはや記憶の果てに埋もれていた本当の力を思い出し、歓喜していた。
「ええ。藍染は私が力を振るうに相応しい。
剣八にとって卯ノ花は愉しい斬り合いをしてくれる遊び相手。
だが、普通に戦えば殺してしまう。もう二度と遊べない。
故に更木剣八という化け物は、剣術によって人の遊びを理解した。化け物のステージを自ら降り、人のステージへと降り立った。
「だからあなたとの遊びは今日、終わらせます」
最後の人としての遊び。
剣術によって卯ノ花を超える。
二人の剣八は時間も忘れて剣を振るい続ける。それは現実時間にして一瞬のことだが、二人にとっては無限にも思えた。
「あなたを呑み込んで、私は――」
――
剣八の奥義と卯ノ花の剣術が火花を散らし、互いを傷つけあう。
そして千年前と同じく、剣八がそれを上回った。
「――私は今日も愉しむ。剣術の戦いも、
大太刀が卯ノ花の胸を貫いた。
かつて剣八が付けた傷を上書きするように。
◆◆◆
明鏡止水鏡花水月が生み出した護廷十三隊と
「やはり私の見立ては間違いではなかった」
藍染が山本元柳斎よりも警戒した相手。
それが更木剣八だ。
綺麗な剣八と呼ばれる彼女には、理性によって隠された本性があった。一つの魂魄が保有するには強すぎる絶大な霊圧、天性の戦闘センス、そしてこれらを抑え込む強靭な理性。彼女が本来の力を自由自在に振るうようになった今、崩玉と融合した藍染ですら油断する訳にはいかない。
「やはり君こそが私の壁に相応しい。私を次のステージへと導くのは君だ」
元は森だったその場所も、剣八の力によって今は更地となっている。いや、藍染の五龍転滅の影響もあって荒れ地へと変貌していた。
そんな場所で剣八と藍染は向かい合う。
「まだ終わりではないだろう? 卍解を使わせたのだ。私を更に上へと導く存在となれ」
「上へ導く? あなたはここで倒されるのです」
「崩玉により進化し続ける私を止めることができるか、やってみるといい」
今の藍染は超越者となった化け物だ。同じ領域に立つ者でなければその霊圧を感じ取ることができず、殺し切るには概念にも似た権能を操る必要がある。
一方で剣八は霊圧の化け物だ。生まれながらにして強靭な魂魄であった彼女は今、本来の力を取り戻している。つまり霊圧だけであらゆるものに影響を与えるほどの存在に至った。強過ぎる彼女の霊圧は世界を圧し潰して有り余る。
二人は互いに霊圧を高め、互いに読み合う。
――だがここに、もう一人の超越者が現れた。
「終わらせようぜ、藍染」
コートのような死覇装を纏う少年、黒崎一護。
彼の右手には鎖が巻き付き、少し形の変わった天鎖斬月と融合していた。
◆◆◆
戦場からかなり離れた位置にある本物の空座町では、浦原喜助と四楓院夜一が結界を張っていた。戦いの影響から守るためである。
「こりゃ予想以上ッスね」
「なんじゃ。いつになく弱気じゃの」
「あんな戦いをされたら結界も持ちませんよ。藍染はともかく、更木さんも大概化け物ッス」
空座町からでも大地が裂け、天が割れる戦いの余波が見えていた。間違ってもあの中に飛び込みたいとは思わない激しさに、流石の浦原も肝を冷やした。空座町に張った結界が壊されるのではないかという意味で。
「のぅ、喜助。一護の奴は間に合うと思うか?」
「さて。どうスかね。ただ、それまで更木さんが時間を稼いでくれたのはありがたいッス。今の藍染をボクたちで止めるのは無理ですから」
そこで一度言葉を切った浦原は天を見上げる。
「ただ、このまま戦いが続くようなら……零番隊の介入もありえます」
「いっそさっさと介入せんかと儂は思うがの」
戦いは遂に最終局面を迎える。
それに備え、浦原は結界の強化に努めた。
浦原「空座町はボクが守るッス」
空座町「ほんま頼むで」