その戦場にいるのは漏れなく超越者であった。
一人は崩玉と融合し、死神も虚も超越した藍染惣右介。卍解・明鏡止水鏡花水月も発動したままであり、今の彼が持つ最大の戦力を惜しげもなく晒している。
もう一人は黒崎一護。少し背と髪が伸び、一つ大人になったような静けさを感じる。右手と融合した天鎖斬月からは特に力を感じられない。そしてどういうわけか、一護からは霊圧を感じない。
最後の一人は化け物の力を取り戻した更木剣八。理性によって自在に力を引き出し、卍解によって常時百パーセントの力を行使する。彼女に力の配分など必要なく、ただあるがままに全力で戦う。その単純さ故に強い。
「残念だ、黒崎一護。今の君からは霊圧を感じない。どうやら君は進化に失敗したらしい」
進化、というより本来の力を取り戻した剣八を目の当たりにした直後だからだろう。藍染は一護に対して酷く落胆していた。
だが、一護はただ静かに天鎖斬月を構え、藍染へと斬りかかる。
その瞬間、藍染は強く吹き飛ばされた。
「っ!?」
「遅いぜ」
空間転移を思わせる瞬歩によって背後へと回り込み追撃。それに対し、藍染は本当の空間転移によってその場から離脱した。本来は禁術として指定されるそれをぽんぽん使うさまは、末恐ろしいものを感じる。
しかし一護は何も恐れてはいなかった。
ただ、この戦いを終わらせるために刃を振るっていた。
「ぐっ! 何という」
「それだけかよ」
「調子に……乗るな!」
激しい一護の攻撃はそのどれもが重く、今の藍染ですら防ぐので手一杯である。一護が刃を振るい、それを防ぐべく藍染が手刀を放つたびに大地が抉れ、岩が吹き飛ぶ。
不意に風が流れた。
剣八が藍染の側を通り過ぎ、その背後に立つ。すると藍染の全身に切り傷が走り、血が噴き出る。目にも留まらぬ斬撃を放ったのだ。
「お、おおおおおおおおお!」
手を抜いて様子見している余裕はない。
藍染は更に力を高める。それによって彼の背から翅が朽ちていき、代わりに白い翼のようなものが生えた。それは四対八枚であり、眼のようなものがびっしりと張り付いている。その眼のような場所に凄まじい霊力が集まり、圧縮されていく。
まるで
「剣八、大丈夫か?」
「誰にものを言っているのです?」
ただそれらは二人とも容易く撃ち落とし、更に剣八は呑晒によってそれらを飲み干してしまう。自らの力に変え、速度と力へと割り振って藍染へと斬りかかった。
しかしそれは藍染の右手で防がれ、突如として肩から生えた触手のようなもので剣八へと反撃する。その反撃を見切った剣八は、奥義・八千流によって切り刻んだ。
斬撃は藍染にまで及び、その背にある翼のような何かの幾つかが切り落とされる。
だが同時に藍染は背中から白い触手のようなものを六つ出した。それぞれ先には鋭い歯が生えた口があり、それらの口から飛竜撃賊震天雷砲が放たれた。剣八と一護を狙ったそれは完全無詠唱で放たれたにもかかわらず、一つ一つが高威力である。剣八はそれを叩き斬り、一護は回避した。
今の二人にはそんなもの効かない。
藍染は承知の上であった。
滲みだす混濁の紋章
不遜なる狂気の器
湧きあがり
否定し
痺れ
瞬き
眠りを妨げる
爬行する鉄の王女
絶えず自壊する泥の人形
結合せよ
反発せよ
地に満ち、己の無力を知れ
「――破道の九十、黒棺」
完全詠唱の黒棺。
しかも今の藍染が放つそれは通常の黒棺を遥かに上回る。空間を引き裂く強大な重力の箱へと閉じ込め、霊体を磨り潰す極悪の鬼道へと変貌していたのだ。
それを剣八と一護へ同時に叩き込んだ。
一度の詠唱によって二度発動したという風に見なす疑似重唱によって、二発の黒棺を放ったのだ。
だがそれでも藍染は満足しない。
「バラガン、やれ」
明鏡止水鏡花水月によって再び具現化したバラガン・ルイゼンバーンが
それと同時に剣八と一護は黒棺を破った。
タイミングは完璧。
黒棺を破り、咄嗟に動けぬ絶好の瞬間だ。そこに猛烈な勢いで滅びの権能が迫り来る。まさに絶体絶命に思えた。
「縛道の八十一、断空」
しかしそこで剣八が縛道を使ってみせる。
剣八と一護の前に半透明の壁が出現し、
そうしている間に剣八と一護は距離を取り、
一方で藍染は珍しく驚いていた。
「まさか君が鬼道を使うとはね」
「使えないと言ったことはありませんよ」
剣八には憧れた人がいた。
卯ノ花八千流に憧れた。
だから彼女ができることは何でも学んだ。
「破道の七十三、蒼蓮蒼火墜」
そしてお返しとばかりに蒼の爆炎を放ち、具現化したバラガンを焼き払おうとする。しかし流石にこの程度の鬼道は老いの力で消し去ってしまった。
ただ剣八もその程度で倒せると思っていない。
蒼蓮蒼火墜は煙幕代わりでしかなく、本命はやはり斬ること。
絶大な霊圧によってバラガンの
そして一護はこの隙に切り札を切る。
「もう終わりにしようぜ、藍染」
ただ一言告げ、黒い霊圧を解き放った。
「見せてやるよ。最後の月牙天衝だ」
一護は漆黒に包まれ、変貌する。
象徴的なオレンジの髪が黒一色に染まり、腰まで伸びる。また同時に口から喉にかけてが包帯のようなもので覆われた。更には藍染と同じく完全に斬月と融合する。
それは強い霊圧を発しているはずだった。
だが、藍染はそれを感じ取ることができない。
(まさか……)
藍染はその頭脳ゆえに、一つの答えへと至る。
(私が黒崎一護の霊圧を感じ取れないのは、奴が私よりも更に一段上の次元にいるからだというのか?)
不味い。
アレを喰らってはいけない。
そう思った時には遅かった。
一護がその右手に黒い霊圧を集中させる。
――最後の月牙天衝ってのは
――俺自身が月牙になることだ。
『無月』
音が消えた。
破壊的な黒い霊圧が空間を裂き、大地を裂き、天まで衝く。
最後の月牙天衝。
それは剣八でさえできなかった、今の藍染惣右介の両断を成し遂げてみせた。
その隙を逃す剣八ではない。
『呑晒 奥義 八千流』
卍解によって吸収した霊力を速度と力へ振り分け、その至高の剣技によって切り刻む。
藍染惣右介は――
――地に倒れ伏した。
綺麗な剣八「一体いつから、鬼道を使えないと錯覚していた?」