「更木剣八、貴様は私が直々に相手しよう。
「ほう。剣を使うのですか。滅却師は弓矢で戦うものと思っていました」
「私は特別なのだ」
明らかに業物と分かる剣を抜くユーハバッハに対し、剣八の使う刀は頑丈なだけで普通のもの。斬魄刀ですらない。
どこまで戦えるかは剣八の技術次第だ。
「手を出すな、ハッシュヴァルト」
「御意」
剣八とユーハバッハの一騎討ち。
それが合意された瞬間、剣八は斬りかかっていた。流水の如き斬撃が光を乱反射し、対応するべくユーハバッハも切り結ぶ。
目にも留まらぬその戦いだが、それでも二人はまだ本気ではない。
所詮は肩慣らし。
「流石は更木剣八! 卍解がなくともこの戦闘能力! やはり未知数の戦闘力か!」
「そういうあなたは酷く弱い。霊圧も随分と小さいですね」
「言うではないか! ならばこの禁呪を受けてもその大言壮語を吐いていられるか?」
ユーハバッハが
「
「……その程度ですか?」
「何?」
崩玉と融合した藍染の黒棺すら容易く破った剣八だ。この程度の術で怯むはずもない。ましてダメージを喰らうなど有り得ない。被害があるとすれば、ただ頑丈なだけの刀が折れてしまうことくらいだ。
剣八の霊圧が自身の刀ごと
ユーハバッハが練り上げた最高位の術式を、更木剣八という死神はただの霊圧で圧殺した。
「おのれ……更木剣八!」
その脅威的な力を前に初めてユーハバッハが焦りのようなものを見せる。光り輝く剣を手に、剣を失った剣八へと斬りかかった。
しかし剣八は極めて冷静にその軌道を読み切り、左手で掴む。眼帯と首輪で霊圧を封じられても、更木剣八の絶大な霊力はユーハバッハを上回る。そして剣八はぎゅっと光り輝く刀身を握り締め、決して逃さないように霊圧を叩き付けた。
悍ましいほど深く重い霊圧により、ユーハバッハは足が竦んだ。
「お返しをしましょう」
剣八は言霊を紡ぐ。
「滲みだす混濁の紋章」
「貴様! それは……」
「不遜なる狂気の器。湧きあがり、否定し、痺れ、瞬き、眠りを妨げる」
「は、放せえええええええええええ!」
ユーハバッハは振りほどこうとするが、掴まれた剣はびくともしない。ならばと剣を離してその場から逃げようとするも、腕を掴まれてしまった。握り潰すほどの握力によりユーハバッハの腕が軋み、その骨に罅が走る。
その間も剣八の詠唱は止まらない。
「爬行する鉄の王女。絶えず自壊する泥の人形。結合せよ、反発せよ」
「や、止め――」
「地に満ち、己の無力を知れ」
――破道の九十、黒棺
剣八は自身をも巻き込んで黒棺を発動する。その圧倒的な霊力から繰り出される九十番台の鬼道。それはユーハバッハが発動した
当然、霊圧によって守られた剣八は平然と耐える。
黒き匣が砕け散った時、ただ全身から血を流すユーハバッハが倒れているだけであった。
凶悪な黒棺によってユーハバッハは全身の骨を砕かれ、肉は裂け、内臓が潰れている。もはや死を待つばかりである。
「申し訳、ありません」
血を吐く音の混じった声でユーハバッハは呟いた。
「ユーハ……バッハ様」
ユーハバッハは彼自身であるはずだ。
だが今の発言は他にユーハバッハがいることを示唆するようなもの。
(まさか?)
剣八は思い出す。
先程、自分自身に化けた滅却師がいたはずだ。それと近い能力を持っている者がいるとすれば、ユーハバッハの影武者がいたとしてもおかしくない。ユーハバッハが弱すぎたことにも納得がいく。
すぐにユーハバッハの側近、ハッシュヴァルトへと目を向けた。
彼はただ冷たい視線をユーハバッハへと向けるのみ。
とても皇帝へ向ける目ではない。
「はぁ……見事に騙されましたよ。ハッシュヴァルトさん」
「……Rのロイド・ロイド。やはり更木剣八を止めるには足りなかったか」
「次はあなたが相手をしてくれるのでしょう?」
剣八はそう問いかける。
すると少々悩むような表情を見せた後、腰の剣を抜いた。
「あなたも剣を使うのですね。弓ではなく」
「貴様には関係のないことだ」
「そうですね。それに剣を使ってくれた方が私も愉しめます。やちる」
「はいはーい!」
戦いを邪魔しないよう離れていたやちるが側に寄る。そして具象化を解き、斬魄刀の姿になる。普段は斬魄刀の使用を禁じられ、瀞霊廷内ではただの刀を使うように言われている。しかしそれが砕かれるようなことがあれば斬魄刀を使っても良い。
それが中央四十六室の判断である。
ただし、斬魄刀を使うことは構わないが解放してよいわけではない。
「滅却師との斬り合いというのも愉しめそうですね」
「……いいだろう」
剣八とハッシュヴァルトは互いに切先を向ける。
先程より激しく、より強烈な霊圧で、二人はぶつかり合った。
◆◆◆
「辛れなぁ! つれーつれーつれーつれー! 弱えーってのはつれーなぁオイ!」
とてもではないが檜佐木一人では止められない。
「弱えー奴はつれーよなぁ!」
「ぐっ……」
「もう死んどけ」
ドリスコールは巨大な光の槍を投げつけ、檜佐木は死を覚悟する。
だがその瞬間、
「総、隊長」
「情けないの。下がっとれ檜佐木」
「は、はい!」
山本元柳斎重國。
護廷十三隊の総隊長である彼が前線へと赴いていた。檜佐木はただ助けられたことに驚いたわけではない。総隊長ともあろう者がこのような前線に現れることにも驚いていたのだ。
しかし下がれというのも総隊長命令。
檜佐木は下がる。
その理由は簡単だ。
総隊長の炎に巻き込まれないようにするためである。
一方でドリスコールはニヤニヤと笑みを浮かべて星十字のメダルを掲げた。
「テメェが総隊長か! 俺ぁ待っていたんだぜ! テメェの副隊長の卍解でテメェを殺すためになぁ!」
卍解・
ドリスコールが発動したのは雀部から奪い取った卍解。
それによって山本元柳斎を撃破しようとした。
「こ、これが雀部副隊長の卍解……」
初めて見る檜佐木は恐れ慄く。
天相従臨によって天候を従え、雷撃を自在に操作する。それが雀部の卍解であった。回避不能な雷速の攻撃を無数に束ね、あるいは拡散して解き放つ。その自在さと攻撃力の高さは卍解の中でも上位に食い込むことだろう。
何度も隊長に推薦された副隊長の卍解だ。
並であるはずがない。
天地を結ぶ雷光が束ねられ、元柳斎へと降り注ぐ。
「ハハハハハハァ! どうだぁ! てめぇの副官の卍解はよぉ!」
興奮気味に笑うドリスコールはさらに雷撃を強める。
佇む元柳斎は無防備に雷撃を受け、動くこともできない。それを見て檜佐木は気絶してしまったのだと勘違いする。
そう、勘違いする。
「長次郎……さぞ悔しかろう……」
元柳斎はただ呟いた。
雷撃は何者をも焼き尽くし、焦がし尽くすはずだった。
「お主の怒り、儂にはよう分かる」
彼は知っていた。
雀部長次郎という男は山本元柳斎重國のために卍解を習得し、磨き上げ、そして山本元柳斎という男に消えぬ傷を刻み込んだ。額の十字傷の内の一つは雀部の卍解が付けたものだった。
「お主の磨き上げた卍解は……断じてこの程度ではない!」
怒りの一閃。
ただそれだけでドリスコールの発動した卍解・黄煌厳霊離宮が砕け散る。
元柳斎は傷一つなかった。
同時に放たれる流刃若火の炎はドリスコールを焼き尽くし、骨すら残さない。
「この戦い、儂が終わらせよう」
山本元柳斎重國は駆ける。
ユーハバッハの元へと。
このほぼ同時刻、偽ユーハバッハが撃破された。
己の無力を知れ……!
黒棺使う剣八とか誰が止めるんだよ