剣八とハッシュヴァルトの戦いは周囲にすら被害を生む。
霊圧のぶつかり合いによって地面が砕かれ、瓦礫までもが切り裂かれる。死んだロイド・ロイドなど原型すら残っていない。
だが、二人は未だに無傷であった。
「その剣、どこで習ったのですか?」
「貴様が知る必要はない」
「それもそう……ですね!」
ひと際強く振るわれた剣が斬撃を巻き起こし、ハッシュヴァルトを巻き込んで破壊する。土煙が消えて行くのを眺めていると、旋風が吹いてそれが流れる。
すると右腕に傷を受けたハッシュヴァルトがいた。
「……」
彼は自分の傷口をじっと見つめ、口を開く。
「私の
そう言った途端、剣八の右腕に傷が走る。
ハッシュヴァルトの能力は自分に降り降り注いだ不幸を周囲の幸運な者へと分け与えるというもの。つまり剣八がハッシュヴァルトを傷つけるほど、剣八自身にも傷が返ってくる。
「一撃で殺さない限り、ジワジワと私も弱らされるということですか」
「
「この私を倒す、ですか? やれるものなら」
そうして剣八とハッシュヴァルトが再び剣を構えた瞬間、灼熱と共に重苦しい霊圧が周囲を支配する。山本元柳斎がやってきたのだ。
これだけではない。
炎のような青白い霊圧が巻き起こり、本物のユーハバッハが現れる。
元柳斎は眉を顰めつつ問いかけた。
「貴様、どこにいた」
「藍染惣右介に会ってきた。我が軍門に下れと言ったが、奴は断った」
つまり瀞霊廷への侵攻はある意味で囮。
そして過剰に虐殺した宣戦布告も山本元柳斎重國を戦場に引きずり出すための伏線。
一番隊舎の地下に囚われている藍染へと面会するためであった。
「更木剣八、貴様の相手は後だ。今日は山本重國を始末しに来た」
「たわけ。儂を殺せると思うてか」
「山本重國、貴様は弱くなった。千年前の貴様が率いた護廷十三隊は護廷とは名ばかりの殺戮集団であった。無論、貴様は護廷のためと称してあらゆるものを焼き尽くす鬼となった。だが今の貴様は何だ?」
ユーハバッハは元柳斎の左腕に目を遣る。
藍染を誅すため、左腕を鬼道の触媒とした。だが、彼はその腕を井上織姫の力で治癒させず、そのままにしておいた。今の元柳斎は片腕なのだ。
だが、それを無言で指摘されても元柳斎は揺るがない。
「お主を殺すのには片腕で充分。卍解――」
卍解を奪われる。
それを知っていながら元柳斎は斬魄刀を解放する。
「――残火の太刀」
右手に握られる流刃若火の炎が消失し、小さく凝縮される。一振りで世界を地獄に変える元柳斎の力が、それも卍解の力が圧縮されたのだ。
故に炎は消えた。
しかし不可視の熱が振りまかれ、瀞霊廷中が干上がっていく。
ただ解放するだけで世界を滅ぼす最強の卍解である。
「ユーハバッハ。お主らは儂らの卍解を調べ上げ、それによって奪っておるのじゃろう? 底が知れなければ奪うこともできまい。更木隊長、お主も始解であろうと卍解であろうと好きにするがよい」
「そうですか。では許可も出ましたので」
剣八は解号もなく
斬魄刀は大太刀へと変形し、それが僅かに煌めいた。その瞬間、ハッシュヴァルトは目を見開き身を捻って回避する。
続く連撃にハッシュヴァルトも合わせていくが、一度後手に回ってしまったがために防ぐだけで精一杯だ。解放によってさらなる霊力を注ぎ込むようになった剣八の攻撃は激しく、一撃ごとに余波によって傷を負う。
しかし野晒の効果によってハッシュヴァルトの能力は飲み干され、剣八には届かない。
「厄介な」
「斬り合いに面倒な能力は不要です。あなたも剣士なら実力で私を捻じ伏せてみなさい」
始解した剣八はとにかく物理で捻じ伏せるしかない。
あるいは権能のような、理に匹敵する現象で干渉する他ない。
仕方なくハッシュヴァルトは
だが剣八の猛攻は途切れず、一刀一刀に重い霊圧が乗せられる。
「その盾、硬いですね。私でも両断できないとは」
ハッシュヴァルトの守りは完璧である。掠り傷こそ負っているが、致命的なダメージは一つとして受けていない。最強の剣の使い手である更木剣八を相手に、実質無傷なのだ。これは驚愕であり、称賛されるべきことである。
すなわち剣技においては剣八とハッシュヴァルトは互角。
このままでは勝負がつかない。
「ならば力づくで叩き割るまで」
剣八の放つ霊圧が一段と高まる。
二つの霊圧封じがありながら、世界を焼き尽くさんばかりに霊圧を放つ。そんな剣八を目の当たりにしてハッシュヴァルトも表情を変えた。
それはただの斬撃。
何の変哲もない、特殊な効果もない斬撃だ。
しかし込められた霊圧と威力が桁違いである。その一振りで
これが特記戦力。
それはすなわちユーハバッハを以てしても勝利を確信できないと判断した相手である。ハッシュヴァルトは未知数の戦闘力と認定された更木剣八を改めて思い知る。
すなわちユーグラム・ハッシュヴァルトでは更木剣八には勝てない。
そこまで相性が悪いというわけではないが、単純にパワーが違いすぎる。
だが、これは
「オー、オー。情けねぇなユーゴー!」
モヒカンが特徴的な男、バズビーがハッシュヴァルトを窘める。剣八には眼もくれず、ただ挑戦的にハッシュヴァルトを睨んでいた。
「フハハハハハ! ワガハイ、参上!」
チャンピオンベルトにマスクという特異な格好をした大柄滅却師、マスク・ド・マスキュリンが地面を割りつつ着地する。彼の側には小柄な滅却師が一人だけ控えており、小躍りしていた。
「あんたが陛下に
虚ろな瞳は不規則に動き回り、二枚の舌がぬらぬらと揺れる。ボサボサの長い髪のせいもあって不気味さはひとしおだ。舌足らずな口調も特徴的である。
「自己紹介だ。俺の名はシャズ・ドミノ。与えられた力は
黒ぶち眼鏡の青年にしか見えないこの男、正式な
そのせいか他者より自己肯定が強く、自尊心に溢れた表情を浮かべている。
「追加で四人、ですか。いいでしょう。やりがいもあります」
剣八は徐々に霊圧を高めていく。
本来はそれを抑えるための封として眼帯と首輪が装着されているのだが、剣八はこの二つを無理やり焼き尽くした。世界を壊すほどの霊圧によって眼帯と首輪は消し去られ、封が外れたことによって剣八の霊圧は際限なく上昇していく。
これには追加で現れた四人の
「ふむ。流石は陛下が警戒された悪党! しかぁし! スターは引くわけにはいかんのだ!」
「頑張れスーパースター!」
「うおおおおおお! ワガハイに任せよジェイムズ!」
小柄な滅却師ジェイムズの声援によって力を得たマスキュリンは一番槍を引き受ける。応援によって力が増すといういかにも正義の味方な能力が彼の売りだ。その肉体から放たれるパンチは岩をも砕き、キックは大地を破壊する。
彼は相手が女であろうと、それが
破壊的なパンチが剣八に迫った。
凄まじい勢いでマスキュリンのパンチが叩き込まれる。そこは人体の急所である鳩尾であったが、剣八は一切避けなかった。
「スターーー! 殺人パァァァンチ!」
人体を爆散させるであろう勢いの一撃。
しかし全身を破裂させ、血を流したのは殴ったはずのマスキュリンのほうであった。確かに剣八へと拳が叩き込まれているにもかかわらず、ダメージを受けたのは彼女ではない。
「ば、馬鹿なあああああ!?」
「何を驚いているのです? ただ私の霊圧があなたを遥かに上回った。だからあなた自身の攻撃力があなたに跳ね返った。それだけのことです」
「き、貴様あああああああ! 悪党があああああ!」
マスキュリンは激昂して殴打を叩き込む。何度も、何度も、何度も。
だがその度に血を流すのはマスキュリンであった。
「負けないでスーパースター!」
「うおおおおおお!
「ミスターーーーー! 死なないでーーー!」
「スターーーー! ラリアットオオオオオオオ!」
剣八の細い首を圧し折るべく放たれたその攻撃。
しかし剣八はその場から全く動いておらず、傷一つない。更木剣八の霊圧を超えることができない。
「終わりですか?」
満足したか、と言わんばかりに首を傾げる。
そして左手に霊圧を込めて振りかぶった。
「殺人パンチとはこうするのです」
「ご、お、ぉ……」
剣八の左腕がマスキュリンの腹にめり込む。
その一撃で彼は沈み、膝をついた。
「そ、そんなミスター……死なないでミスター! 立ち上がってスーパースター!」
「ぬ、ぬぅぅ! ワガハイは死なぬぅ!
「おお、まだやりますか。戦い甲斐があります。ですがもうお終い」
なお立ち上がろうとするマスキュリンに対し、剣八は一閃。
その上半身と下半身は泣き別れすることになった。