綺麗な剣八   作:NANSAN

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32 理不尽

 

 マスク・ド・マスキュリンの生命力は凄まじい。

 肉体を上下で両断されてもまだ死んではいなかった。

 

 

「立ち上がってスーパースター!」

「ぬぅぅぅん! ワガハイは死なぁぁぬぅ!」

 

 

 自力で身体を繋げて再生しようとするマスキュリンに剣八は呆れ果てた。驚くなどという感情はすでに通り越してしまった。

 

 

「へっ! 情けねぇな! バーナーフィンガー1(ワン)

 

 

 バズビーは挨拶代わりに熱線を飛ばす。

 だがその先に剣八はおらず、ただ虚空を通り抜ける。その剣八だが、瞬歩によってバズビーのすぐ側に回り込んでいた。しかもバズビーが気付いた時には刃が振るわれる瞬間。

 彼は慌てて体を逸らす。

 しかし水平に薙ぎ払われた野晒(のざらし)はバズビーの額を切り裂いた。

 

 

「ぐっ……テメっ!」

「早く避けるんら!」

 

 

 ニャンゾル・ワイゾルが慌てて力を行使する。

 なんでも捻じ曲げてしまう能力によって剣八の斬撃を湾曲させ、バズビーを助けようとしたのだ。捻じ曲げる対象は勿論、剣八ではない。野晒の情報(ダーテン)はニャンゾルも読み込んでいる。故に空間そのものを湾曲させて、野晒の軌道とバズビーが重ならないようにしたのだ。

 

 

「ちっ! 思ったより速ぇな。おいシャズ! テメェがやれ!」

「うるせぇな! ほらよ!」

 

 

 シャズは軽く眼鏡に触れつつ、黒い矢をダーツのように飛ばす。しかしそれらは全て剣八の体表で弾き返され、まるで通用しない。そればかりか瞬歩で迫る剣八にも気付けず、左手で首を掴まれて持ち上げられた。

 剣八はそのまま地面へと叩き付ける。

 更に容赦なく野晒を振るい、シャズを割れた地面ごと両断してしまった。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

 何が起こったのか理解できず、ただ呻き叫ぶシャズ。

 その後すぐにバズビーの方へと目を向け、次いでにニャンゾルの位置も確認した。だがこの過程であることに気付く。

 倒れていたマスキュリンがいなくなっていたのだ。

 それもそのはず。

 彼はジェイムズの声援によって復活し、空にいたのだから。

 

 

「ぬおおおおおおおおおお! スターは負けぬぅ!」

 

 

 マスキュリンは光り輝く翼を生やし、頭部には光輪が浮かんでいた。

 滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)と呼ばれる切り札を使用したのだ。この状態となった滅却師は霊子を隷属させ、周囲全てを力とする。その力によって普通よりも遥かに強烈な術を行使することも可能なのだ。

 

 

「貴様は一つ過ちを犯した。このワガハイを怒らせたことだ!」

「流石スーパースター!」

「悪党よ! 滅びるがいい! スター・フラッシュ・スーパーノヴァ!」

「いっけえええええええ!」

 

 

 空に巨大な五芒星が描かれ、光り輝く。

 その威力や範囲が凄まじいことは容易に予想できた。バズビー、ニャンゾルも巻き込むつもりらしく、まるで躊躇いなく技を放つ。

 星型の柱が天地を結んだ。

 だがその瞬間、それは真っ二つに割れる。それどころかマスキュリンまでも切り裂いた。

 

 

「温い」

 

 

 その斬撃を放った剣八はほぼ無傷。

 多少の傷こそあれ、ほぼダメージを負っていなかった。更には膝を深く曲げて跳躍し、血を流しつつ空に浮くマスキュリンの元へと到達する。

 

 

「反応が遅い」

 

 

 野晒を振るい、マスキュリンの右腕を切断する。斬り飛ばされた腕が落下していく中、剣八はマスキュリンの左腕を掴んで地面に投げ飛ばす。天使のような姿になったが、投げつけられたらそのまま地面に向かうしかない。

 地面に激突したマスキュリンは血を吐いて呻いた。

 しかし次の瞬間、激しく怒り狂う。

 

 

「くそがっ……くそったれがあああああああああ! スターの右腕を千切りやがって! 絶対に許さんぞ悪党がああああああああああ! 正義とか悪とか関係ねぇ! ブチ殺おおおおす!」

 

 

 空から自由落下してくる剣八に対し、マスキュリンは血と共に暴言を吐いた。

 そして必死に起き上がり、落ちてくる剣八を睨みつけた。その目は血走り、怒りのあまり額の血管が切れている。

 だが、落下してくる剣八を狙っていたのは彼だけではない。

 バズビーもチャンスを窺っていた。

 

 

「はっ! いい的だぜ!」

 

 

 右手を伸ばす。

 その指は五本とも揃えられており、肘のあたりに左手を添えていた。

 

 

「テメェに手加減が不要ってのはよく分かったぜ。喰らいな。バーニング・フル・フィンガーズ!」

 

 

 破道の九十六・一刀火葬を思わせる爆炎が螺旋状に放射される。それは剣八へと殺到し、避ける暇もなく彼女を飲み込んだ。

 しかしやはり斬撃が走り、炎が裂けた。

 多少は死覇装を焦がすことに成功するものの、明確なダメージは見られない。

 

 

「ははっ……化け物かよ」

 

 

 騎士団(リッター)が四人がかりで殺そうとしてもダメージすら与えられない。特記戦力、更木剣八の底知れない戦闘力が彼らを苦しめる。

 バーニング・フル・フィンガーズによって多少は吹き飛ばされ、自由落下ではマスキュリンへと直接攻撃できなくなったことで剣八も普通に着地した。

 興奮するマスキュリンは肉体を膨張させ、怒りで全身の血管を浮き上がらせる。

 

 

「む? 総隊長?」

 

 

 剣八は振り返る。

 山本元柳斎とユーハバッハが戦っているであろう場所へ。それは元柳斎の卍解がメダライズされて奪われた瞬間であった。

 

 

(これは不味いですね)

 

 

 藍染との戦いで元柳斎の卍解を知った剣八は、これが恐ろしい事態であることを理解する。このままではあの山本元柳斎重國が戦死することも。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「奪えぬと思ったか?」

 

 

 ユーハバッハは問いかける。

 元柳斎の自信は自分の卍解が決して奪われぬという考えから来ていた。しかしそれは勘違い。

 

 

「貴様の卍解は私を除いて誰も操り切ることができないだろう。だから騎士団(リッター)には貴様の卍解を奪わぬように指示していた。尤も、貴様は私以外に卍解を使わなかったようだがな」

「ユーハバッハ……ッ!」

 

 

 流石に元柳斎も危機感を覚える。

 自分の卍解だからこそ、決して悪用してはならないことを知っていた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 剣八はその決定的瞬間を目撃して、自身の愉しみを一先ず棚上げした。何を優先するべきなのか、彼女は理解している。

 今はできるだけ長く戦って愉しむより、戦いを終わらせて残火の太刀を手に入れたユーハバッハを抑えなければならない。残火の太刀に勝てるのは護廷十三隊において剣八だけなのだから。

 

 

「卍解」

 

 

 故に剣八は解放する。

 

 

呑晒(のざらし)

 

 

 斬魄刀の形状に変化はない。

 ただ、呑晒は霊子結合を引き千切ってまで飲み干す凶悪な性能へと変化した。ただ彼女へと迫る特殊な霊圧を飲み干すにとどまらない。物理攻撃以外を完全否定する剣八に相応しい卍解である。

 そして剣八が卍解した瞬間、バズビー、シャズ、ニャンゾルが反応する。怒り狂うマスキュリンはともかくとして、三人はすぐにメダルを掲げた。

 卍解を奪うためである。

 

 

「迂闊だぜ!」

「邪魔すんじゃねぇぞオラァ! 俺が奪うんだよ!」

「陛下のため、更木剣八(じゃらきけんぱち)の弱体化は絶対(じぇったい)ら」

 

 

 掲げたメダルが剣八の呑晒の力を吸い込もうとする。

 だが無意味。

 飲み干すのは呑晒(のざらし)の特権である。一時的にでも霊的に繋がったのをいいことに、逆にメダルを分解して喰い尽くしてしまった。

 

 

「んな馬鹿な!?」

 

 

 茫然とするシャズ・ドミノに剣八は呑晒を突き立てる。

 

 

「おかしいですね。あなたも回復するのですか。それが滅却師の能力ですか?」

「が、ぁ」

「まぁいいでしょう。呑晒、飲み干しなさい」

「ぐあああああああああああああ!?」

 

 

 呑晒はシャズの霊体を強制的に分解し、飲み干した。そして全て剣八の力に変える。強く結合しているはずの魂魄を削り取り、喰い尽くす。剣八とジャズの間に圧倒的な霊圧差があるからこそ可能となることだ。

 シャズの能力は周囲の霊子を取り込むことで無限に再生すること。

 しかし魂魄ごと喰らい尽くされてしまえばもう生き返れない。

 ニャンゾルは思わず動揺し、後ずさりしてしまった。

 

 

「立ち上がってミスター!」

「ぬぅぅ! 聞こえるぞファンの声援がああああ! 死ねえええ! クソ死神があああああ!」

「次はあなたですか」

 

 

 それでも積極的に攻撃を仕掛けるのがマスキュリンである。

 しかし卍解した剣八は速度も攻撃力も防御力も桁違い。更には純粋な物理攻撃以外を飲み干す凶悪さも兼ね備えている。完聖体(フォルシュテンディッヒ)となったマスキュリンでも眼で追うことすらできない。

 いつの間にか、剣八はマスキュリンの背後にいた。

 擦れ違いざまに奥義・八千流を放っていた。

 英雄(スター)は細切れになって崩れ落ち、呑晒に飲み干される。

 

 

「ひ、ひいいいいいい!?」

 

 

 続いて標的となるのは悲鳴を上げたニャンゾル。

 全力の湾曲によって剣八から自身を見失わせようとするも、既に遅い。本能で感じ取った敵の攻撃を自動で湾曲してしまう反則のような能力を持っていようと、剣八からは逃げられない。

 要はニャンゾルの認識をはるかに上回れば良い。

 本能で見つけるよりも早く、ニャンゾルは切り刻まれた。

 

 

「畜生が!」

 

 

 ニャンゾルの死を理解した瞬間、バズビーは激しく足を踏み鳴らす。

 その技の名はヒートストンプ。

 自身を中心に広範囲へと爆炎を生み出す能力だ。だが、バーニング・フル・フィンガーズでさえ剣八をまともに傷つけられなかったにもかかわらず、ヒートストンプで打開できるはずもない。まして今の剣八は物理攻撃以外受け付けない卍解状態なのだ。更には飲み干した霊力を自身の力に変えるという、完聖体(フォルシュテンディッヒ)を思わせる能力すら備えている。

 

 

「逃がしません」

 

 

 一瞬で炎を喰い尽くした剣八は、すぐにバズビーを仕留めるべくその姿を探す。だが、炎が晴れた時、バズビーはどこにもいなかった。あの爆炎を煙幕代わりにしたのである。

 

 

(やりますね。しかし今は)

 

 

 やるべきことは残火の太刀を止めること。

 そのために、剣八は元柳斎の元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 




「卍解を奪わずにどうやって戦えばいいんだよ!」
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