綺麗な剣八   作:NANSAN

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33 戦果

 

 ユーハバッハは奪い取った卍解によって元柳斎を追い詰めていた。流刃若火の炎は確かに強力だが、残火の太刀の熱はそれを上回る。文字通り世界を滅ぼせる卍解なのだから。

 

 

「おのれユーハバッハ」

「山本重國。貴様は千年前に私を殺せなかった。だからこそ今、私に倒される」

 

 

 地面に刃が付き立てられる。

 残火の太刀の熱によって亡者を叩き起こす禁忌級の能力が発動した。今までに斬った亡者の灰を蘇らせ、操るという能力。

 

 残火の太刀 南 火火十万億死大葬陣(かかじゅうまんおくしだいそうじん)

 

 黒く染まった骸が立ち上がり、元柳斎へと迫っていく。

 標的を塵にするまで追い続けるという屍たちに対し、元柳斎はただ炎を放つことしかできない。しかし何度焼き尽くしても復活し、再び迫る。

 まさに死者を冒涜する死神にあるまじき力。

 それがユーハバッハの手に渡ってしまったことは最悪である。

 

 

「仕方あるまい!」

 

 

 元柳斎はここで仕込みを発動させる。

 その名は炎熱地獄。

 時間をかけて流刃若火の炎を仕掛け、増幅させ、範囲内を焼き尽くすというもの。幾つもの炎の柱が立ち昇り、徐々に狭まっていく。亡者たちはそれに巻き込まれて灰となり、復活した途端に再び灰となる。

 

 

「自暴自棄になり過ぎだぞ。山本重國」

 

 

 ユーハバッハはただ剣を振るう。

 光り輝く剣に宿った残火の太刀から熱が解き放たれ、一直線上を焼き切った。それは切先に全ての熱を集めて直線上を焼き切るというもの。

 

 残火の太刀 東 旭日刃(きょくじつじん)

 

 咄嗟に身を低くして避けた元柳斎は助かったが、亡者たちは両断されてしまった。そして立ち昇る火柱も吹き飛ばされてしまう。炎熱地獄よりも遥かに強大な熱エネルギーであったからだ。

 

 

「破道の七十三、蒼蓮双火墜」

「安易だぞ。鬼道で私を倒せると思ったか!」

「そんなものは目眩ましに過ぎん。縛道の九十九・二番、卍禁」

 

 

 蒼蓮双火墜を煙幕として発動した卍禁により、ユーハバッハへと巨大な布が巻き付く。更には大量の鉄串が次々と刺さり、布を固定。最後に巨大な碑石が降り注ぎ、固定したユーハバッハを圧し潰した。

 縛道としては珍しい攻撃も可能な拘束技である。

 高等鬼道を容易く操ってみせるあたりは流石に最古の死神であった。

 だが、それでも足りない。

 

 

「だめか……」

 

 

 巨大な碑石が赤熱し、やがて吹き飛ぶ。

 中からはまるでダメージを負った様子のないユーハバッハがいた。

 

 残火の太刀 西 残日獄衣(ざんじつごくい)

 

 千五百万度もの熱を纏う攻防一体の技である。これを発動している間は太陽を纏っていると言っても過言ではない。触れればあらゆるものを蒸発させてしまう。これがある限り無敵だ。

 

 

「よくぞ粘った。だが貴様に自身の卍解は破れまい」

 

 

 ユーハバッハは剣を掲げる。

 そこに熱が集まっていき、大技を放つことが予想できた。残火の太刀が保有する熱量を一度に解き放ち、薙ぎ払われた場所を灰も残さず焼き尽くす。その対象に限界はない。天も地も、実在する全てが灰すら残らない。

 

 残火の太刀 北 天地灰尽(てんちかいじん)

 

 元柳斎は咄嗟に断空を張り、更には流刃若火の炎で相殺を試みる。無駄だと分かってはいたが、ただでやられるつもりはなかった。肉片の一部でも残っていれば必ず食らいつく。そのつもりであった。

 剣が振り下ろされる。

 熱が迫る。

 音はない。

 色もない。

 何も、見えない。

 

 

 

 

 

「呑み干せ、呑晒(のざらし)

 

 

 しかしその熱は喰い尽くされる。

 戦いの中で更に進化した剣八は残火の太刀を飲み干し、力に変えた。

 

 

「返しますよユーハバッハ」

 

 

 そして一閃。

 ユーハバッハなど三度消してお釣りがくる一撃が繰り出される。

 

 

 

 

 

 だがその瞬間、ユーハバッハの姿が消えた。

 剣八の目には影が広がって彼を飲み込んだように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)による第一次尸魂界侵攻。

 それによって護廷十三隊から千人以上の被害者を出した。滅却師が現れてわずか七分で犠牲者が千人を超えたとされている。技術開発局も襲撃を受けて壊滅状態であり、情報はかなり錯綜していた。

 だが、何よりも死神たちを畏怖させたのは隊長たちの負傷である。

 

 総隊長、山本元柳斎重國

 卍解を奪われる

 

 二番隊隊長、砕蜂

 卍解を奪われ負傷

 

 三番隊副隊長、吉良イヅル

 死亡

 

 六番隊隊長、朽木白哉

 卍解を奪われ致命傷

 

 六番隊副隊長、阿散井恋次

 致命傷

 

 七番隊隊長、狛村左陣

 卍解を奪われ負傷

 

 八番隊隊長 京楽春水

 右目を失う

 

 十番隊隊長 日番谷冬獅郎

 卍解を奪われ負傷

 

 十三番隊副隊長、朽木ルキア

 致命傷

 

 その他にも一般隊士は虐殺され、席官ですら多くが殺されていた。

 驚くべきことにまともな戦果を挙げたのが更木剣八ただ一人なのである。

 

 

 "B" 世界調和(The Balance) ユーグラム・ハッシュヴァルト

 撃退

 

 "H" 灼熱(The Heat) バズビー

 撃退

 

 "L" (The Love) ぺぺ・ワキャブラー

 殺害

 

 "Q" 異議(The Question) ベレニケ・ガブリエリ

 殺害

 

 "R" 咆哮(The Roar) ジェローム・ギズバット

 殺害

 

 "S" 英雄(The Superstar) マスク・ド・マスキュリン

 殺害

 

 "U" 無防備(The Underbelly) ナナナ・ナジャークープ

 殺害

 

 "ς" 生存能力(The Vitality) シャズ・ドミノ

 殺害

 

 "W" 紆余曲折(The Wind) ニャンゾル・ワイゾル

 殺害

 

 "Y" 貴方自身(The Yourself) Rのロイド・ロイド

 殺害

 

 "Y" 貴方自身(The Yourself) Lのロイド・ロイド

 殺害

 

 残火の太刀を奪ったユーハバッハの撃退

 

 

 九人の幹部級滅却師を殺害し、二人を撃退し、更にはユーハバッハも退けた。

 これを大戦果と言わずにして何というのか。

 殺害した敵幹部については、この他に元柳斎が"O"のドリスコールを殺した程度である。それ以外の隊長は撃退することすらできず、中には卍解を奪われ致命傷を負った者すらいた。

 

 

「流石は更木隊長だねぇ。流石のボクも情けないよ」

 

 

 滅却師が退却してすぐに開かれた隊首会で一番に口を開いたのは京楽であった。正確にはマユリから技術開発局の戦局分析が述べられた後、一番の開口である。

 

 

「フン。この中には愚かにも卍解を使い、奪われた隊長もいるようだ。それに比べたら君の嘆きなど些細なものだヨ。全く。どうして私が解析するまで待てなかったのかネ?」

 

 

 苛立ちを露わにしたマユリが隊長たちを睨みつける。

 卍解を奪われた元柳斎、砕蜂、狛村、日番谷は特に。白哉は治療中であるためこの場にはいないが、仮にこの場にいたとすれば同じように睨みつけたことだろう。

 それに対して卍解を奪われた隊長たちは面目ないのか、視線を下げて黙り込む。

 しかしそんな中、浮竹が深刻な口調で意見を述べた。

 

 

「やはり先生の卍解が奪われたことは問題だ」

「そうだねぇ。山爺のは特別ヤバいよ。対抗できるのは更木隊長だけみたいだ」

「私の場合、卍解も奪われませんから」

「いやぁ。ずるいよねぇ」

「ずるくありません。私の在り方を斬魄刀が写し取ってくれただけです」

 

 

 始解では状態異常無効。

 卍解では物理攻撃以外を無効化。

 京楽が剣八の斬魄刀をずるいと評したのは間違いではない。少なくとも、この場にいる隊長格は同じ気持ちを抱えていた。

 不意に元柳斎が口を開く。

 

 

「零番隊が降りてくることになったようじゃ」

「何だって!? どういうことだい山爺」

「どうやら、彼奴らの侵攻は瀞霊廷に留まるものではないようじゃな。王属特務が出てくるとはそういうことじゃ」

 

 

 霊王を守るとされる零番隊。

 その戦力は護廷十三隊全軍を上回るとされているが、現状で更木剣八がいるので本当かどうかは不明である。純粋な戦闘力ならば更木剣八は最強と呼ばれるに相応しい死神なのだから。ともかく、尸魂界の歴史を紡ぐ偉人ばかりで構成されたのが零番隊だ。

 王属特務と言われるだけのことはあり、霊王を守護するために存在する。

 だが、霊王を狙った藍染の乱ではまるで姿を現さなかった。

 しかし今回は霊王宮より降りてくるという。

 どれだけ異常なことなのか、分からない隊長たちではない。

 

 

「この後、零番隊を出迎える。また涅隊長は卍解を取り戻す研究を進めよ。各隊長も被害を確認し、次に備えることを忘れぬように。分かっておるな?」

 

 

 全員が頷く。

 これで隊首会は終わるかに思えた。

 だが不意にマユリが、思い出したかのように話し始める。

 

 

「そういえば……こちらに救援に向かっていた黒崎一護が黒腔(ガルガンダ)内で消息不明になったヨ。あの無礼な死神代行がいなくなったからといって私には関係ないがネ」

「何だって!? 一護君が……浦原喜助は何と言っているんだ?」

「煩いよ浮竹。私の知ったことではないネ」

 

 

 第二次侵攻が予測される中、一護の消息不明はどこか不吉であった。

 所詮は死神代行が消えただけ……とは誰も考えていなかった。

 

 

 

 

 

 




一人だけ明らかにおかしな戦果を挙げている

綺麗な剣八だから仕方ないね
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