時は少し遡る。
『うわあああああ! 助けてくれええええ!』
『死にたくない!』
『弱音を吐くな! 耐えるんだ!』
『更木隊長が敵を撃破したぞ! 俺たちも続けえええ!』
『クソ! クソ! やりやがったな!』
『だめだ。強過ぎる!』
『馬鹿を言うな』
『もう無理だ……』
浦原に持たされた通信機に次々と悲鳴が流れ込んでくる。
しかし一護の方から声を届かせることができない。キルゲ・オピーの檻が内側からの声すらも閉じ込めてしまうのだ。
尸魂界が蹂躙されている光景が過り、一護は更に霊圧を込める。
黒い月牙を放ち、それが跳ね返って自信を傷つけても止めない。
「クソ! 何で壊れねぇんだ!」
一護は叫ぶ。
ただ悲鳴を聞かされ続ける苦しみに悶え、理不尽に打ちのめされた。
「うおおおおおお!」
黒崎一護は決して弱くない。
その戦闘能力は護廷十三隊の隊長にも匹敵する。
ただその一護を以てしても破壊できないキルゲの檻が強靭過ぎるのだ。もはや概念によって封じ込めていると言って良いほどである。
『時間を稼げ!』
『また更木隊長がやった!』
『うわあああ! 先輩があああああ!』
『耐えろ! 耐えろ! そうすれば必ず――』
『黒崎一護が来てくれる!』
その信頼の言葉が一護の胸に刺さる。
だからこそ、激しく、より激しく、月牙を檻に叩きつけた。
キルゲ・オピーの檻は滅却師の霊圧で構成されている。そして檻は内側へと霊子を留める性質を有しているため、内部は一護と滅却師の霊圧に満たされていく。
やがて一護は滅却師の霊圧を取り込み、覚醒させた。
黒崎一護の母の血を。
ユーハバッハより連なる
「おおおおおおおお! 月牙天衝!」
遂に檻が砕け散る。
このまま黒腔を抜けて尸魂界へ。
そう思った瞬間、一護は黒い影のようなものに包まれた。
「クソ! 今度は何だよ! 放しやがれ!」
暴れて抜け出そうとする一護の奮闘も虚しく、そのまま影の奥へと吸い込まれていった。
◆◆◆
瀞霊廷の外れにて、珍しい光景が広がっていた。
それは護廷十三隊の隊長たちが勢揃いという特異な状況である。その理由は零番隊がこの場所に降りてくるからであった。
やがて空から何かが降ってくる。
恐ろしい勢いでやってきたそれは、地面に深く突き刺さって止まった。零番隊が瀞霊廷へと降りてくるために使う乗り物、
そこから現れたのは僅かに五人。
リーゼントが特徴的な体格の良い男
ふくよかな体型から母親のような印象を覚える女性
サングラスにベストという非常に近代的な恰好
着物姿に加えて機械仕掛けの腕が多数。性別は不明
坊主頭の威厳ある人物
「オラオラァ! 零番隊様の登場だぜ!」
そんな五人が騒がしく現れた。
出迎えた隊長たちもほとんどが唖然として彼らを眺める。
「久しいの和尚や」
「おお重國か! おんしも随分と老けたの」
「やかましい。して、何用じゃ?」
零番隊の役目は霊王の守護。
つまりよほどのことがなければ瀞霊廷まで降りてくることはない。どういった理由があって彼らがここに来たのか、元柳斎ですら知らなかった。
それに対し、和尚こと一兵衛はキョロキョロと周囲を見渡し、首を傾げた。
「黒崎一護はおらんのか?」
「こちらに向かったという連絡は受けた。じゃが来ておらん」
「なんと。それは困った」
「なんじゃ。黒崎一護に用があるのか?」
「霊王様がな、興味を示しておる。故に儂らが来た」
「何?」
霊王が興味を示す。
それはすなわち、尸魂界において特異な存在と認められたということだ。その意味を知る元柳斎は思わず目を開いた。
また一兵衛は更木剣八にも目を向けた。
「それと更木剣八よ。おんしも霊王様が呼んでおられる」
「私がですか?」
「おんしは霊王様に見初められた。故に零番隊に勧誘しに来たというわけじゃ」
「勧誘……」
剣八は目をぱちくりと瞬きして一兵衛の言葉を反芻する。
これには皆が驚き、京楽がそれを口にした。
「驚いたねぇ。まさか昇進かい?」
「更木剣八が望めば、そうなる」
「そいつは困るよ。今彼女に抜けられるとこちらも戦力が足りない。更木隊長は先の侵攻で一番の戦果を挙げたんだから」
「問題なかろう。儂らがおんしらを建て直す」
京楽の言葉などなんのその。
しかしそんな一兵衛の言葉に砕蜂が激怒した。
「ふざけるな! ここまで何もしなかったくせに今更! 貴様ら――」
しかしその瞬間、彼女は言葉を止める。
いつの間にやら麒麟寺天示郎が砕蜂の背後へと回り込み、腕を押さえて動けないようにしていた。隠密機動総司令官でもある砕蜂は速度に絶対の自信を持っている。また自身の肉体を上手く操ることにも長けており、その技術力によって残像分身を生み出すことすら可能だ。
だが、彼女は天示郎の動きを僅かでも見切ることができなかった。
「テメェ、勘違いしてんじゃねぇか? 俺たちの役目は霊王様の守護。そして瀞霊廷の守護はテメェらの仕事だ。こっちは不甲斐ないテメェらの尻拭いをしてやろうってんだよ」
「くっ……」
更に天示郎は姿を消し、卯ノ花の前に現れる。
そして強い眼光で睨みつけながらこの状況を窘めた。
「それと烈……テメェがいながらこれだけ死人がいるってのはどういうことだ? 俺が教えた回道の腕が鈍ったんじゃねぇだろうな? あぁん?」
「止めんか麒麟寺よ」
「おう。山本の爺さんも久しぶりだな。護廷十三隊も情けねぇ部隊になっちまったなぁ? あぁ? ちゃんとメシ食ってんのかァ?」
あんまりな物言いだが、誰も言い返すことができない。
不意打ちだったとはいえ、滅却師を相手にほぼ一方的にしてやられたのだ。総隊長を含め一部の隊長は卍解まで奪われている。情けないと言われても仕方がない。
新しい五番隊隊長として復帰した平子は頭を掻きながら溜息を吐く。
「なんやえらい連中が出てきたもんやなぁ」
「あっらぁ! 真子じゃない!」
「おぼぉっ!?」
いきなり後頭部を叩かれて弾き飛ばされる。
「いきなり何すんねんコラァ!」
「久しぶりだねぇ。ひよりちゃんはいないのかい?」
「久しぶりって誰やねん。俺はお前なんぞ……ん? ひよりちゃん……?」
激怒する平子は自身を叩いた犯人、曳舟をじっと見つめる。
見覚えのあるような、ないような。
いやまさかそんなはずは。
様々な考えが過り、やがて一つの答えへと至る。
「あんた……まさか桐生さんか!?」
「そうだよ。アタシを忘れちまったのかと思ったじゃないか!」
「はあああっ!? どんだけ太ってんねん!? 別人かと思たわ!」
曳舟は百年ほど前、十二番隊隊長をしていた女性だ。
当時、霊王に認められて零番隊へと昇進することになった。故に百年前に隊長だった人物は曳舟をよく知っている。特に平子は彼女と仲が良かった。
いや、曳舟だけではない。
零番隊のメンバーは誰もが尸魂界の歴史に残る人物ばかりだ。
その筆頭である一兵衛は強く手を叩き、注目を集めた。
「霊王宮に連れていくのは五人。黒崎一護、更木剣八、朽木白哉、朽木ルキア、阿散井恋次……じゃが黒崎一護はおらんようじゃな。それと更木剣八よ。おんしの答えを聞いておきたい」
「私は剣八。十一番隊の隊長です。それに……」
剣八はちらりと天示郎の方を見てから、一兵衛へと視線を戻す。
「護廷十三隊でいる方が楽しそうですから」
霊王の守護など、とても愉しめそうではない。
それが偽らざる剣八の考えであった。
一兵衛は愉快そうな笑みを浮かべてあっさりと引き下がる。
「ならば仕方ないの。しかし剣八というのはいつの時代も変わらん」
「ええ。私を超える剣八が現れない限り、私は剣八です」
「そうかそうか。じゃが、あとで儂と二枚屋と曳舟の話を聞いてもらう。そろそろ修多羅も戻ってくる頃じゃろうからの」
それとほぼ同時に修多羅千手丸が現れる。
いつの間にか姿を消し、いつの間にか致命傷を負った白哉、ルキア、恋次を連れてきていたのだ。それを見て忌々し気にマユリが言葉を漏らす。
「キサマは……」
「おお。マユリかえ? 久しいの」
千手丸は球状の檻のようなものに液体を満たし、そこに白哉たちを一人ずつ放り込んでいた。瀞霊廷の技術では治療が困難になるほどの傷を受けた三人を治療するため、三人を霊王宮へと連れていく
だが、それを認めないとばかりに卯ノ花が口を出した。
「お待ちなさい。その三人をどうするつもりですか?」
それに答えたのは千手丸ではなく天示郎だった。
「そいつらの治療は俺がやる。テメェにゃ無理だ」
「天示郎さん。私は――」
「烈」
天示郎はただ彼女の名を呼んだ。
それだけで卯ノ花は黙る。彼女の回道の実力では三人を治療できないこと。それは卯ノ花が誰よりも理解していたのだ。
卯ノ花の本質は、医者ではないのだから。
「テメェらは黒崎一護でも探しておけ」
突き放すような天示郎の言い方に砕蜂や冬獅郎といった若い隊長は苛立ちを覚える。まるで雑用でも押し付けるような態度は傲慢そのものだ。
しかし護廷十三隊を名乗っておきながら瀞霊廷を蹂躙された事実は変わらない。
だからこそ、悔しさが心の内に広がっていく。
卍解を奪われ、千人以上の隊士を殺され、何もできなかった。更に零番隊は護廷十三隊を建て直すといいつつも興味を示したのは黒崎一護と更木剣八。言葉もなく無様と言われているような気がした。
一護は尸魂界に辿り着けません。
イッタイドコニツレサラレタンダー
剣ちゃんに「ざ〜こ♡」って言われたい今日この頃
あたし、疲れてるのかしら……でも更新は止まんねぇよ