綺麗な剣八   作:NANSAN

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35 破壊の神

 

 兵主部一兵衛、二枚屋王悦、曳舟桐生の三人に手招きされた剣八は、少し離れた場所で話を聞くことになった。このタイミングで零番隊に勧誘されたという事実を鑑みて、関連する話であることは間違いないだろう。

 

 

(しかし私は剣八。何を言われてもそれは変わらない)

 

 

 剣八の名は特別である。

 それは十一番隊隊長の証であると同時に、憧れた人の名でもあるのだ。あの憧れた人、卯ノ花八千流のようになりたいと願い、自らに付けた。その名を名乗るためには十一番隊隊長である必要があるため、剣八にとって零番隊への昇進はあり得ないことであった。

 三人を前にした剣八はまず何も言わず、身構える。

 しかしそんな彼女の態度を察したのか、一兵衛は気のいい笑みを浮かべた。

 

 

「そう固くなるでない。ただ儂らはおんしに気を付けて欲しいことをいうだけのこと」

「気を付ける、ですか?」

「うむ。気付いておるじゃろうが、おんしは死神ではなくなりつつある」

 

 

 それに対し剣八は首を傾げた。

 まるで意味が分からないといった様子で。

 

 

「なんじゃ? 気づいとらんかったのか?」

「私は死神ではないのですか?」

「ふむ。おんしは斬魄刀に意思が宿っていることを知っておろう。その斬魄刀は全てここにいる二枚屋王悦が造っておる」

「Hay! アイアムナンバワン斬魄刀クリエイター! 二枚屋王悦だZe! 剣八ちゃんの斬魄刀、野晒ちゃんも元はちゃんボクが造ったのSa!」

「はぁ、それで?」

「詳しい成り立ちは言えねぇが、斬魄刀・浅打は死神とはまた違った魂魄のようなもの。ちゃんボクの子供たちってわけSa」

 

 

 唐突に斬魄刀の話をされても剣八には分からない。

 彼女は流魂街でたまたま死神の死体の側にあったそれを手に取った。故に真央霊術院で正式に斬魄刀・浅打を授与されたわけではない。当然ながら先代剣八を切り殺して隊長になった経緯があるため、あまり詳しくもないのだ。

 更に言えばそれが今、何の関係があるのかも理解不能である。

 ひたすら首を傾げる彼女に対し、今度は曳舟桐生が口を開いた。

 

 

「アタシは曳舟桐生。百十年ほど前に零番隊に昇進した新米さ。零番隊に迎え入れられる条件を剣八ちゃんは知っているかい?」

「さぁ。強ければ良いというわけではないのですか?」

「条件はただ一つ。霊王様がその功績を認め、尸魂界の歴史そのものとされた死神だけが零番隊に入ることを許される。そしてアタシは義魂の技術と概念を創造した」

 

 

 剣八も義魂について表面的な知識を有する。

 主に現世で任務をする死神が利用するものであり、仮の魂のようなものだ。人造の魂ともいえるその技術は尸魂界にいる限り触れることは滅多にない。故に現世任務など経験したことがない剣八は見たこともない代物であった。

 だが、義魂とはそれだけの技術ではない。

 

 

「義魂の神髄は別の魂を取り込むことで、更に上の位階へと魂を昇華させる技術さ」

「別の、魂?」

「気付いたかい剣八ちゃん。そう、アンタは斬魄刀と融合し、死神を超越した存在になろうとしている。丁度、義魂の技術のようにね」

「なるほど。そういうことですか」

 

 

 得心がいったという様子で剣八も斬魄刀・野晒へと触れる。

 言われてみればその兆候はあった。

 魂を写し取るとも言われる斬魄刀が野晒となった時、それは幼い少女として具象化した。剣八は彼女を『やちる』と名付けた。血塗られた流魂街の外縁部でのことであり、当時の剣八はやちるを自身の斬魄刀だとは気づいていなかった。

 強大過ぎる魂を持っていた剣八は、それを斬魄刀に分け与えることで安定を得た。

 破面(アランカル)コヨーテ・スタークが自身の魂を二つに分けて破面化したように、更木剣八は自身の力を斬魄刀へと預けた。

 

 

「おんしの力は斬魄刀との共鳴で再び元に戻りつつある。やがておんしは斬魄刀と一つになり、死神よりも一つ上の存在になる。その証拠としておんしは死神でありながら滅却の力を手にしつつある」

「滅却? まさか卍解のことですか?」

「いや、おんしはただの霊圧で周囲の霊子結合を焼き尽くし、崩壊させておる。やがてはこの尸魂界を滅ぼし尽くすほどになるじゃろう。さしずめ、破壊神といったところじゃ」

「物騒ですね」

「だからこそ零番隊に勧誘した。おんしの力は死神としては大き過ぎる」

「なるほど」

 

 

 納得はできる。

 先の滅却師による第一次侵攻でも、卍解・呑晒(のざらし)で二人の滅却師(クインシー)を滅却した。虚を滅する滅却師を滅却するという意味不明な力であることは確か。一兵衛たちの話も心当たりがないわけではない。

 封を解き、霊圧を解放してしまった剣八はそれだけで世界を焼き尽くす。

 本気を出そうとするとあらゆる霊体が平伏し、貧弱な霊魂は魂を磨り潰されて滅びる。卍解に至っては破壊した対象を飲み干してしまう始末。

 破壊神という呼び名も間違いではない。

 

 

「なるほど。卍解を呑晒(のざらし)で留めて正解だったわけですね」

「半分だけの名の卍解ですらあの威力じゃ。英断じゃぞ」

「私の本当の卍解も知っていたのですか?」

「儂が霊王様より賜った名は真名呼和尚(まなこおしょう)。儂は尸魂界に存在するあらゆるものの名を知っておる。おんしの卍解もな」

 

 

 桐生と王悦を従える一兵衛は凄みを出しながら最後に忠告する。

 

 

「もしも更木剣八……おんしが三界にとって破壊神となるのなら」

「なら?」

「儂が斬る」

 

 

 ゾッとするような霊圧が辺りに漂う。

 それが先程まで人のよさそうな笑みを浮かべていた翁だとは思えないほどに。

 

 

「仕方ありませんね。世界が壊れては愉しめませんから」

 

 

 一兵衛と戦ってみたい。

 しかしそれは世界を壊してまですることではない。

 理性が打ち勝った綺麗な剣八は多少悩みつつも、世界のための判断を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 黒腔(ガルガンダ)内で影に吸い込まれた一護は、真っ白な部屋で目を覚ました。そしてすぐに自身の体を確認する。

 真っ黒なコートを思わせる死覇装、そしてベッドに立てかけられた天鎖斬月。

 卍解を維持したまま眠っていたということは分かる。

 

 

「そうだ、俺は」

 

 

 尸魂界に向かっている途中で滅却師キルゲ・オピーの能力を喰らい、閉じ込められた。そしてそれを突破したと思ったらどこかに吸い込まれてしまったのだ。

 そこからのことは覚えていない。

 気を失って、気が付いたらここにいた。

 ただそれだけだ。

 

 

「ここは……どこなんだ?」

 

 

 起き上がった一護は部屋を見回す。

 窓のないこの部屋にはベッドが一つあるだけであり、壁も床も白一色である。扉があったので近づいての部を回してみたが、鍵をかけられていた。

 そして激しくドアを叩き、呼びかける。

 

 

「おい! 開けてくれよ! 誰かいねぇのか!」

 

 

 すると鍵が開き、扉が開かれる。

 そしてその隙間から見えた顔に一護は驚いた。

 

 

「お前……石田!」

「騒がしいぞ黒崎。静かにできないのか」

「いや、何でテメェがこんな……いやそもそもここはどこなんだよ。なんで俺がこんなところにいるんだ。それに尸魂界は……」

「一気に質問するな。それに僕はただ、君が目覚めたら連れて行くように命じられていただけだ。僕についてこい」

「ついて行くってどこに。だから俺は尸魂界に……」

「いいから来るんだ黒崎!」

 

 

 珍しく声を荒立てる雨竜に驚き、一護も大人しくなる。

 一護の救援を待つ声はずっと届いていた。だが彼を閉じ込める術が邪魔で、もどかしさを覚えさせられた。一体どうなったのか、すぐにでも知りたいという気持ちが湧いてくる。しかし今は雨竜について行くしかないと判断した。

 

 

「分かった。行けばいいんだな?」

「ああ。陛下が待っている」

「陛下?」

「そうさ」

 

 

 扉を完全に開け放った雨竜は、一護の目をじっと見つめて答えた。

 

 

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)……死神たちを襲撃した勢力の皇帝陛下。そして僕たち滅却師(クインシー)の始祖、ユーハバッハ様だよ」

「なん……だと……ッ」

 

 

 思わず、天鎖斬月を握る手に力が籠った。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 雨竜に案内された一護は大人しくユーハバッハの元へと連れていかれた。

 今は大人しくしろ。

 真面目な顔でそう告げた雨竜の言葉に従ったのである。本当ならば今すぐにでも暴れて尸魂界へ行く方法を探したかったが、それは止めろと雨竜の目が語っていた。

 そして一護が案内されたのは玉座の置かれた白一色の空間。

 ユーハバッハが座し、ハッシュヴァルトが控えるその場所で雨竜は片膝をつく。

 

 

「陛下、黒崎一護をお連れしました」

 

 

 一護はその場で立ち尽くし、目を見開く。

 右手で握る天鎖斬月とユーハバッハを何度か見比べ、やがて剣を構えた。

 

 

「あんたが尸魂界を襲った奴らの親玉か?」

「そうだ、と言ったらどうする?」

「テメェ……」

 

 

 その喋り方、声……。

 一護は苛立ちを覚えながら問いかける。

 

 

「なんでそんなことをした!」

「私が世界を取り戻すため」

「どういう意味だ!」

「一護。闇に生まれし我が息子よ。私に下り、私と共に世界を取り戻せ」

「クソ! 意味が分かんねぇこと言ってんじゃねぇ!」

 

 

 何かを振り払うように、天鎖斬月で切り払う。

 ユーハバッハを見た時から感じていた。何かおかしいと魂が理解していた。そしてユーハバッハの言葉を聞いて確信のようなものを得た。

 

 

「テメェ……何者だ」

「私はユーハバッハ。滅却師(クインシー)の王。そして滅却師(クインシー)の始祖だ」

「そうじゃねぇ! テメェは、テメェは……一体……ッ」

 

 

 混乱する一護の霊圧が大きく揺れる。

 彼の動揺は激しく、自然と天鎖斬月を握る手に力が籠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、天鎖斬月の落とす影が揺らぎ、広がる。

 影からは浮き上がるようにして黒髪の青年が現れる。

 

 

「落ち着け、一護」

 

 

 そう言って一護の肩に手を置いたのは、彼の斬魄刀……天鎖斬月であった。

 

 

 

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